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プロローグ(3) 馬鹿にはわからぬ、このスキル

「貴様には罪状を発行した」


 そういえばさっき罪とか言ってたもんな。

 ただもしかして、こっちの言い分とか一切聞かないでいろいろ進める気なのか?


「見よ! 貴様はこの王国から追放だ!」

「……うわぁ」


 第三王子が手にしたのは、先ほどとはまた違った羊皮紙。罪状と書かれたそこにはたしかに『王国追放』と書かれている。

 このアホ、もしかして罪状と判決の区別がついていないのか。


「……その罪状の根拠は?」

「先ほども言っただろう! 貴様が調整などと言って私から金をふんだくり、私を貶めたからだ!」


 おい誰だよ、こんなアホに権力を持たせたやつ!

 ほとほとに呆れてため息をつくと、おれが悲しんでショックを受けているとでも思ったのか、第三王子は意地悪そうな表情でニタリと微笑んだ。


「しかし条件がある」

「条件?」

「今ここで土下座で謝罪をし、私の配下として無償で働くというのなら、この令状と罪状は破棄してやってもいい」


 第三王子は、ふふん、と言わんばかりに、その筋肉のかけらもついていない胸を目いっぱい反る。


「どうだ! 一時の恥と今後の無償労働さえ受け入れさえすれば、この王都にいることは許してや――」

「いえ、結構です。ではすぐに王国を出ますんで」

「…………へ?」


 俺は愉悦に浸る第三王子を遮り、とっととお店の中に戻った。

 外でアホが数秒アホ面を晒したのちにギャンギャン喚いていたようだが、それを無視して国を出る準備を始める。

 ついでに第三王子とその後ろにいた護衛の人たちが入ってこられないように、市販の侵入者撃退用の罠をスキルで強化しておいた。

 いまあいつらが入ったら、敷地に入ろうとした時点で体が麻痺するくらいの電撃を受けることだろう。


『んぎゃぁあぁああああああっ!!』


 遠くから聞こえる断末魔を聞くに、もしかしたらもう受けているかもしれない。

 でも、まぁそれは無視でいいや。

 さて王国脱出準備へと戻る。

 荷物はさほどないので、既存客へのフォローアップだけだ。さすがに連絡もなく突然いなくなってしまうと、俺の店主としての信頼が落ちてしまう。

 ひとまず俺は書斎に戻り、無くしてはいけない書類をすべてバッグにぶち込む。


「えーと……とりあえずこれも持ってくか」


 バッグの中に空間魔法を使用して内容量を大きくした、アイテムバッグ。

 こいつも調整スキルで魔法をバッグの繋がりを強化させておいたので、そんじょそこらで買ったバッグとは思えない内容量になっている。

 少なくとも、子供の小遣い程度で超高級高性能バッグを買えた感じだ。

 ついでに親友に作ってもらった魔道具である『伝書鳩』に魔力を込める。

 木彫りの鳩のような形をしたそれは、今は隣国に拠点を構える鍛冶見習いのときの親友に作ってもらった魔道具だ。魔力を込めてメッセージを入れると、特定の相手にメッセージが届くようになっている。

 魔力を使えば使うほど、送るメッセージの量や送る人数を増やすことができるのだが、そもそもこちらからの一方的な連絡にしか使えないので、普段はアイテムの引き取り忘れの連絡だったり、緊急事態だったりにしかつかうことはない。

 まぁ、今はそれなりの緊急事態なわけだけども。


「こほん、あーあー」


 俺は伝書鳩を両手で持ち、咳払いをする。

 そしてぎゅっと魔力を込めると、メッセージの送る人数をこれまで来客した全員……数千人に設定する。

 普通なら数千人にメッセージを送ろうものなら一瞬で魔力切れを起こして倒れてしまうが、調整スキルで極限まで燃費をよくしたので、こんな芸当もできるというわけだ。


『いつもカインの調整屋を懇意にしていただき、ありがとうございます。このたび第三王子の素敵なお誘いで王国にいられなくなってしまったので、店を閉めることになりました。先行きは未定ですが、ひとまず隣の帝国のほうに移動しますので、御用の際は帝国までお越しください。今まで王都のお店をご愛顧いただきありがとうございました』


 まぁ、こんなもんでいいだろう。

 録った音声を伝書鳩に通すと、伝書鳩がパタパタと羽ばたく。少しの間羽ばたき、動きが止まれば送信完了だ。


「カインちゃん! 帝国に行くって、本当なの!?」

 送信完了するやいなや、店の入り口のほうから大きな声が聞こえた。

 先ほど杖を直した魔術師、リリーだ。

 さっきからずっと裏庭のほうから凄まじい音が聞こえていたが、途中から聞こえなくなっていたからもう帰ったものだと思っていた。

 それに、たしか以前に結界を設定して、敵意を向けていない客には危害を与えないようにしたから、どこぞの誰かさんみたいに電撃を浴びていないのだろう。

 俺が店のほうに戻ると、リリーは目尻に涙を浮かべながらこちらを見つめていた。

 その後ろには――やはりと言っていいのだろうか――入り口で倒れる第三王子が見える。ぷすぷすと焦げていて煙が出ていた。


「カインちゃん、本当に帝国に行っちゃうの!?」

「ええ。そこで倒れてる人に、王国追放処分を言い渡されてしまいまして」

「まぁ!」


 リリーはたいそう驚いたような表情をすると、一瞬眉根を寄せて、ゲシゲシと第三王子に蹴りを入れていた。

 大丈夫かそれ、不敬罪もんだろ。

「思い入れがあるお店なのでちょっと寂しいですが、これを機に環境を変えてやってみようと思います」


「カインちゃん……! すぐに手助けできないのがほんとに惜しいんだけど、助けが必要だったらいつでも呼んでね!!!!」


 目尻に溜まった涙を拭って微笑むリリー。

 しかし相変わらず足でゲシゲシ第三王子を蹴っている。そろそろ辞めたれ。



 そうして俺は、リリーの暴挙をなんとか宥めつつ店にあった重要物をアイテムバッグに収納し終える。

 とんとん拍子に誰かが持ち込んだ武器なんかの処遇も決まり、帝国へ向かう準備も整った。

 帝国までは歩きで20日程度かかる長旅になる。

 しかも道中はあまり治安がよくなく、オークやゴブリンといった魔物だけでなく野盗も出るらしいから、街道のギルドで傭兵を雇わないといけない。

 この商いのおかげで貯蓄はそれなりにあるから、帝国までは全然間に合いそうで助かった。

 そうしてすべての準備を終えた俺は、荷物を持って店から出る。

 いまだ地面に転がり意識を飛ばす第三王子たちを尻目に、掲げていた看板を見上げる。


『調整屋、カインの店』


 さほど長くないとはいえ、成人した16歳から7年ほどこの店を営業していたから、寂しさが募る。

 しかもその理由が、この地面に寝転がってるアホ王子のせい。


「…………やっても、バチは当たらないよな」


 俺は先ほどリリーがやっていたように、ゲシゲシと第三王子のケツに蹴りを数回入れておいた。


「ゴフッ」とか「き、貴様っ、ガハッ」とか聞こえたけど、たぶん幻聴だろう。

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