第五話(4) 一緒に行く?
あんな大きな石、投げられるんだ……
俺がそんな感想を胸の内に浮かべている間に、ベルナーは地面からバットを拾って大きく振りかぶる。
「どっせぇぇぇええええいっ!」
自由落下してきたマスターゴーレムの頭を、そのままバットで打ち抜いた。
とてつもない衝撃なのだろう、ベルナーの足元がへこみ、彼の脚が震える。さらには辺りの地面に亀裂が入り陥没するが、それでもベルナーは体勢を崩すことなく、バットに力を込め続ける。
「どおりゃあああっ!」
咆哮とともに、バットを振り抜いた。
ブオンという勢いとともにバットは振られ、それに負けないくらいの勢いでマスターゴーレムの頭が空の彼方へと飛んでいく。
その途中、障壁にぶつかったものの勢いなんて減ることなく、障壁をぶち割り遥か彼方へ飛んで行った。
マスターゴーレムの頭がぶち抜いたとこから、障壁の亀裂がどんどんと大きくなる。やがて障壁全体にそれが波及すると、パリン、と小さな音を立てて障壁が瓦解した。
「わぁ……」
それがまるでキラキラとゆっくりと降り注ぐ光の雨のようで、思わず目をみはる。
「んー……どうしたんだぜ?」
「あ、モモ。見て見て」
「うーん?」
同じタイミングでモモが目を覚ましたので、俺はモモを抱きかかえたまま上を向かせた。
「おー、綺麗な光景だぜ……して、これはなんだぜ?」
「障壁を割ったんだよ。あのキラキラしたやつは全部、障壁だった欠片」
「へー…………え?」
ぐるりとモモの顔が勢いよくこちらに向く。
「障壁、なくなったんだぜ?」
「うん、そうだよ。ほら!」
俺はモモを抱えたまま、先ほどまで障壁が邪魔していた場所を通る。
障壁があったころはモモだけが通れなかったが、障壁が消えた今はモモだって簡単に通り抜けられる。
「おぉ……」
感嘆の声がモモの口から漏れる。
遠くでベルナーがサムズアップしてこちらを見ていたので、俺もサムズアップして返しておいた。
「これでモモも、自由だね」
「う、嬉しいぜ! 嬉しいぜ!!!!」
耳がピンと上を向き、尻尾がぶんぶんと凄まじい勢いで振られる。
モモを腕から下ろすと、飛び回り、走り回り、何度も何度も障壁があった場所を行ったり来たりする。
「本当だぜ! もうここ、通れるんだぜ!! あの花も見に行けるし、この良い匂いも追えるんだぜ!」
「なんだか、ああしてるの見ると、嬉しくなるなぁ」
いつの間にか隣に来ていたベルナーが、そんなモモを見ながら感慨に耽る。
俺はこくりと頷いて応えて、その様子をじっと見つめていた。
「さて、と。そろそろ行かねえと日が暮れるな」
「おう、本当にありがとうなんだぜ!」
モモが初めての“外”を踏みしめて楽しんでいるうちに、いつの間にか空が茜色になってきていた。
たしか地図で見た限りではこの近くに村があったから、今日中にそこまで行って宿をとりたい。野宿はなるべくやりたくないからね。
「これで本当にさよならだね」
「じゃ、楽しくセカンドワンコライフを楽しめよ!」
俺たちは荷物を背負い、旅支度を整える。といっても、ほとんどはベルナーのアイテムバッグに入れてるから、俺は武器を片付けたくらいんなんだけど。
「そうか……ここでお別れなのかだぜ……」
「ま、冒険してりゃいつかまた会えるじゃねえか?」
耳をぺしょりと垂らして、尻尾も地面につきそうなモモに対して、ベルナーは沈んだ様子などなくけろっとしている。
冒険者として歴が長いベルナーにとっては、こういう出会いと別れはよくあることなんだろう。
「うーん……」
「カイン、どうした?」
俺は顎に手をやりながら、モモをちらりと見やる。
黒々とした瞳でこちらを縋るように見つめてくるモモと目が合った。
「モモさ……一緒に行く?」
途端に耳がピンと跳ね上がり、尻尾がぶんぶんと振られる。
「い、いいんだぜ!?」
「おいおい、お前別に冒険者になくて、帝国で店を開くつもりなんだろ? 一緒にいちゃ可哀想じゃねえか」
「でも、帝国までは一緒に行けるじゃん。その先はわからないけど、せっかくここで仲良くなったんだし、外を見たいモモと帝国に行きたい俺、利害は一致してると思うけど」
眉間に皺を寄せるベルナーを見ながら、俺は肩を竦める。
「だがなぁ……」
「行く! 行くんだぜ!」
「モモもこう言ってるし」
「まぁ、モモが言ってんなら、いいか」
けろりと表情を変え、笑みを浮かべるベルナーに、「ありがと」と返す。
俺はモモを抱きかかえて、その小さな頭を軽く撫でた。
「じゃ、これからよろしくね、モモ」
「おうなんだぜ!」
別にベルナーと二人旅もいいけど、人が増えたほうが話に花が咲くし、違う視点はたくさんあったほうがいい。
……それにほら、旧文明の遺物といつ会えるかわからないから、今のうちに触れておきたいし……
「なんか、失礼なこと考えてるんだぜ?」
「い、いや……そんなことはないよ?」
図星をつかれて、とっさに首を横に振る。
胡乱げな目つきから逃れつつも、俺はモモを抱きかかえたまま、ゆっくりとダンジョンを後にした。
いや、たしかに普段生活している上では絶対に触るどころか見ることすら叶わない旧文明の遺物に触れていたいという下心はある。
だけど割合的には、モモも一緒の三人旅が良いというほうが多いから!
「やっぱり、失礼なこと考えてるんだぜ?」
「モモ、人間ってのは往々にして、腹黒い生き物なんだ」
「二人とも、やめてよ!」
ははは、と静かな森に笑い声が響く。
そうして俺たちは、波乱だったダンジョンを無事に乗り越え、帝国へ一歩近づいたのであった。
……ついで、俺の考えにも少し変化があったのだった。




