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プロローグ(2) 馬鹿にはわからぬ、このスキル

「見つけたぞ、貴様ぁっ!!!!」

「……は?」


 振り向くと視界に入ったのは、王都の端にしてはたいそう華美な服装。そして後ろには騎士の甲冑を身にまとった男たちが数人。

 中央にいる男はサラサラとした金髪に汚れの一切ない貴族服。しかし吊り上がった眉に眉間刻まれた深い皺。わなわなと震える肩から察するに怒っているのだろう。

 そんな怒られることしたっけな……

 そう思っていると、その怒り顔の見覚えが出てきた。


「あ、この間の第三王子ですか」

「貴様、私のことを忘れていたというのか!!! 不敬なやつめ!!!!」


 うるさいな。こいつ。

 俺はキャンキャン喚く第三王子を横目に店じまいを進めていった。

 この第三王子はつい一か月前、俺の店に来てはたいそうやかましく注文してきた人物だ。

 やれ「私の武器を世界一強い硬さにしてほしい」だ、やれ「見た目は麗しくなくてはいけない」だ。

 しかし、俺の店はそういった鍛冶から行う店ではない。

 その時はっきりとお断りして追い返したのだが、翌日に改めてやってきたのだ。


『この私の華麗なる武器に、恩恵を与える権利をやろう』

『はぁ……』


 お金をもらえれば仕事はするのだが、こともあろうにこいつ『第三王子たる私の武器に恩恵を与えるのだぞ、タダどころか布施をもらってもいいくらいだ』とか言いやがった。


『こちらも商売ですから、無料では行いません。どうぞお引き取りを』

『こ、この不敬な野郎が!!!!!!』


 そして引き取ってもらったものの、連日現れては営業妨害をするものだから、仕方なく調整スキルをかけてあげた気がする。

 もちろん、王城に請求書を送っておいたから、作業費はしっかりともらった。

 見た目だけ華美なへっぽこ剣を壊さない程度、かつ、使用者の技量にあうように調整を施して、満足して帰っていったはずなのだが……


「貴様! 手を止めて聞け!!!!」

「いったいなんなんですか……」


 きっと満足いかなかったのだろう。

 何せ武器をどれほど強くしたところで、術者の技量が間に合ってなきゃ、この調整スキルは実感しにくいのだから。

 第三王子は唾を飛ばしながら叫ぶ。


「貴様のせいで、私はダンジョンで痛い目にあったのだぞ!!」

「はぁ」

「三回振るっただけで剣は折れるわ、ぬかるみに足をとられて動けなくなるわ、そのうちにシーフキャットに金だのなんだのをすべて盗られるわ」

「最初の一つ以外は俺関係ないじゃないですか」

「ええい、うるさいうるさい!!!!!!!」


 反抗期の幼児か?

 まるで駄々を捏ねるようにイヤイヤと喚く第三王子を前に、俺は止めた手を再び動かす。こいつらにまともに対応していたら、時間がいくらあっても足りない。


「いいですか、そもそもあの剣は耐久性がほぼゼロだという話はしましたよね」

「あ、あぁ……」

「だから無理やり使うなとも言いましたし、そもそもこの剣以外のスペアの剣を持っていけとも再三忠告したはずです」

「ぐぬぬ……」

「大体、いま遠目から見ただけでも散々な使い方をしたんでしょう。シーフキャットということは南にあるダンジョンでしょうから、そこでアイアンタートルの外殻に無理くり剣をぶつけたんじゃないんですか。そりゃ三回も当てりゃ壊れますよ、この剣じゃなくてもね」

「…………」


 俺がため息交じりに話すと、第三王子の勇姿はすぐにかき消えていき、ついには一言も話さなくなった。

 おそらく図星なのだろう。

 よく見ると目じりにキラキラと雫が見える。

 ……え、泣いてんの?

 さすがに自分の分が悪くなるなり泣き始めるってのは、ちょっとこちらに罪悪感を抱かせるからやめていただきたいな。

 そんなことを思っていると、すんと鼻水を啜った第三王子は、何かの紙を後ろにいた騎士からもらうとこちらに見せつけてきた。


「これは貴様の店の営業停止令状だ!!!!」


 ……さすがにそこまで行くと話が変わってくる。

 少なからずこの店には思い入れがあるし、この店の常連客さんはたくさんいる。急に営業停止になってしまうと迷惑がかかってしまう。


「その理由は?」

「そんなもん決まっているだろう、お前が罪を働いたからだ!!!」


 罪?

 思い当たる節がなくて首を傾げると、第三王子はにやりと口角をあげた。


「お前のやっていることは、詐欺だ!!!!!!」

「…………はぁ?」

「調整とか言って何もしていないくせに金をふんだくっている、どう考えても詐欺に決まっている!!」


 ……俺は頭を抱えてしまった。

 この調整スキルは、武器こそ強くはなれど、その実感は使用者によるところが多い。

 可能なかぎりどれだけ剣を強くしても、使用者が無茶な使い方をすれば壊れるし、調整の恩恵を無駄にするのだ。


(こういうど素人だとなおさら、ね……)


 俺はうんざりしながら右のこめかみに手を当てて、第三王子の持つ令状とやらを見つめた。

 たしかにそれは本物のようで、羊皮紙に『営業停止令状』と書かれ、下には王族のサインまで書かれている。

 ぐっちゃぐちゃなサインで風格も何もないが、書いてある名前から察するにこれを書いたのは第三王子――つまり目の前にいる人物だ。


「なるほど、ご自身で令状を発行された、と」

「ふはは、これが王族たる特権だからな!」

「ずいぶんとお忙しいお仕事をされているのですね」

「まぁな、これでも王族の一員というわけだ」


 皮肉はどうやら通じないようだ。

 俺はこめかみから手を離し、ため息をついた。

 ここ王都では商いをするのに王家の了承が必要になる。

 王都の品位を保つためとか、王族の権威を象徴するためだとか言っていたが、別に興味がなかったのでそのあたりは覚えていない。

 ただ王族の名前のもとに営業停止令状を出されてしまうと、営業ができなくなってしまう、というのはわかる。アホに権力を持たせるとこうなる、というのは理解できなかったのか、この制度を作ったやつめ。

 しかもあの野郎、令状に「王都での営業を無期限停止する」とか書きやがった。

 つまり俺が商いをするためには、王都以外の街へ移動して再び一からやり直さないといけない、というわけだ。


「まだこれだけでは終わらんぞ!」

「なんなんですか……ったく……」


 頭痛がどんどんひどくなっていくようだ。


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