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戦国武将がはんなり京都に転生とか、聞いてませんけど?  作者: 澄田こころ(伊勢村朱音)
第三章 すまう

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第十九話 その話長くなりますか?

 思わず、外へ出て、声をひそめて言った。


「場所を教えてないのに、なんでわかったの?」


 冬空の下だというのに、まぶしそうに私を見る。色素の薄い瞳には、冬の日差しでもまぶしいのだろうか。


「東京出張の帰り、名古屋駅のホームを雪深が歩いてる姿が新幹線の中から見えたんだ。土田さんに聞いたら、弾正家の本宅が愛知だっていうから、ここだろうと思って。興信所をやとって探らせた」


 現代の忍びを駆使するとはさすが兄上。


「若い女性が、毎日一時すぎに二階北側の窓から清州城をながめるって報告をうけた。それと、今日、庭師が入ることも。雪深はどうしたい? ここに留まるか、京都に帰るか」


 そんな追いつめられた顔して聞かないで。答えは最初から決まっている。大好きな人たちがいる京都へ帰りたい。私のいる場所はここじゃない。


「もちろん、京都に帰りたい」


 だから、ここから早く出ないと。脱出後は京都までタクシーを使うつもりだった。アルが迎えに来てくれたならタクシーを探す手間がはぶけた。

 ロープを柵に括り付けて、後は降りるだけ、それなのにアルの話はまだ続く。


「前世を思い出してから、今この生は償いのためにあるんだと思ってた。過去の残虐な行為の代償に、雪深を幸せにすればいいと。でも、そんなの言い訳だった。ただ僕は火事でなくした家族を求めてたんだ」


 なくしてしまったものを追い求めるのは、普通のことだよ。

 というか、その話長くなりますか? 

 話し声に気づかれたら全部パーになっちゃうんですけど。ちょっとアル、声大きいよ。


「雪深には迷惑な話だよね。前世で殺された相手から家族になりたいなんて言われたら。それに、全然勘十郎への償いになってない――」


 アルの長くなりそうな話を早く終わらせたくて、私は食い気味に言う。


「償いなんてしなくていいんだよ。兄上の罪をアルが償う必要ない。今の生はアルのもの。それに、戦乱の世で犯した罪をこの平和な世の中で償うなんて、それこそ兄上に失礼だと思わない? 織田信長を否定する事になる。そんなの、勘十郎も望んでない」


 彼らはあの時代を必死で生きていた。人を殺した、土地も奪った。でもそれは、あの時代のことわりの中で行われたこと。今の世の理を振りかざし、彼らを断罪するのは、現代人のおごりだ。


「でも、あの時の記憶を思い出したんなら、僕のこと怖くないの?」


 しょんぼりするアルを見下ろしながら、いったん脱出の焦りを横におく。こみあげてくる愛しさに従い、口を開いた。


「電話であやまったでしょ。ひどいことしたって」


「えっあれって、悪いことした犬はもう無理ごめんなさい、って意味じゃなかったの」


 忠犬ハチ公か……兄上は、本当にわかってないなあ。人の心というものを。だから最後の最後で家臣にそむかれたんだよ。


「じゃあ、私がもう嫌っていったら諦めるわけ?」


 私は彼を見下ろしながら意地悪な事を言う。ちょっと気分いいな。いつもと立場が逆になってる感じで。


「拒まれるのはしょうがない。でも、許されるのなら、君の傍にいたい」


「私、前に言ったよね。罪と認めた瞬間から許されてるんじゃないかなあって」


 そう、河原に座っていっしょにパンを食べた時。なんの感情も浮かべず比叡山を眺めた彼に言った言葉。

 無表情だったけど、許されたいという感情を必死に隠しているように感じたから。


「じゃあ、許してくれるの?」


 そんな五歳児なみに、ピュアな顔されたら、こっちも素直な心で恥ずかしいこと言うしかないじゃない。


「許すも何も、私アルのこと大好きだもん」


 彼は信じられないというように、両手で口をおおって、目を見開く。さすがスペイン人リアクションでかいな。アルは信長であって、信長じゃないんだよ。


 彼は口をおさえていた両手を、大きく広げて言った。


「じゃあ、今すぐそこから飛び降りて」


 いきなりそうきますか。展開早いな。のぞんだことだけど、でもそれ無茶ぶりだから。


「飛び降りるとか無理だって。ロープで降りるから」


 私が綿密に計画した脱出方法に、端正な顔をゆがめていぶかしむ。


「雪深、自分の体重支えられるわけ?」


 えっ、そんなに力いるのこれ? 腕立て伏せならなんとか五回ぐらい……。

 せっせとリリアンで、編んだのに。自分でもナイスアイデアだと思ったんだよ。


 努力の結晶リリアンロープと両手を広げ待っているアルを見比べ、意を決しロープを離した。


 わかりましたよ、言うこと聞けばいいんでしょう。飛び降りますよ。超こわいけど。

 幸い今日は逃げやすいように、デニムパンツをはいていた。


 私はブーたれながら、バックを投げ落としバルコニーの柵を乗り越えた。恐怖をいったん飲み込むため、冬空をあおいだ。


 頬に感じる風の冷たさ、灰青色の景色の向こうに、赤い欄干の清州城。赤と青の風景。

 これってあの時に似てる。あの朱鷺色の空を飛びたかった時と。違うのは私を受け止めてくれる人がいること。


「大丈夫、僕のこと信じて」


 そう言う彼の元へ、柵を持つ手を放し、飛びおりた。体が一瞬ふわりと浮かんだ。すごい本当に飛べた。鳥みたい。


 そう思ったのもつかの間、体は重力に従いぐんぐん落下。日常で体感したことのない、体の感覚にお尻のあたりがむずむずする。


 落ちるって気持ち悪いのかと初めて知った瞬間、彼の腕の中に無事着地した。

 お姫様だっこで受け止められ、ヒロイン感満載。


 ここは、ヒーローの首にすがり怖かったと訴えるべきなのか。いやいや、ヒロインに酔いしれている場合ではない。早くここを出ないと……。


「雪深! そこで何をしているの」


 母の怒鳴り声が、劇的でロマンチックな脱出劇をぶち壊した……。

 やっぱり、アルの話長すぎなんだよ。京都に帰ってゆっくり聞けばよかった。


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