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戦国武将がはんなり京都に転生とか、聞いてませんけど?  作者: 澄田こころ(伊勢村朱音)
第三章 すまう

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第十五話 雅子ちゃん

 翌日、東京の家に泊まった一色さんと今度は愛知の本宅へ移動した。本宅には祖父の死後、祖母が一人で暮らしていた。その祖母が会いたがっていると母が言うので。

 新幹線の中押し黙る私に一色さんは口を開く。


「京都の大学には通いたいでしょう。ほな、愛知の本宅から通ったらええんですよ」


「あの突然婚約とかちょっと意味がわからないんですが……」


「突然ちゃいます。前から拓人さんに妹さんの話は聞いてたんです。実際お会いしてかわいい人やと思いました」


 ここにも美的感覚のおかしな人が。


「あの外国人がただの友人やて聞いてほっとした。あの人とはなんでもないんでしょう?」


 念押しするように聞かれては、今さら違いますなんて言えなかった。


               *


「ゆきみちゃん、ならべたわ。早うはじめよう」


 きれいに並べられたカルタの前で、雅子ちゃんは空色の着物に赤い蝶が飛ぶ着物のたもとをおさえ、読み札を私へ渡す。


 カルタをとるのは雅子ちゃんだけ。私は読み札を読み始めた。雅子ちゃんはしわだらけの手を伸ばし「はい」とかれた声を出しカルタをとった。


 この本宅には雅子おばあちゃまが住んでいる。おばあちゃまに会ったのは、祖父のお葬式以来十年ぶりのことだった。


 数回しか会ったことのない祖母。特に思い出はないが、近寄りがたく張り詰めた空気が漂う姿は子供心に恐怖を感じていた。そのとても怖かった人は、今七つの女の子の心になっている。


 数年前から認知症の症状があらわれ、今完全に心が子供にもどり、お手伝いさんたちにかこまれ暮らしている。


 そんな状態に祖母がなっているなど、知らなかった。母は何も言わなかった。私も祖母のことを聞きもしなかった。

 その無関心に対する罪悪感をうめるように、雅子ちゃんと今こうして遊んでいる。


「雅子ちゃん、さあお昼寝の時間ですわ」


 この家で一番古いお手伝いさんの多江さんが声をかける。

 一時から三時まで、毎日お昼寝をする。その前には必ず仏間へいき、朝昼晩三回お仏壇に手を合わせる。


 私もいっしょにとこわれ、仏間に足を入れようとしたらその足がとまった。怖くて入ることができなかったのだ。なぜ入れないのか、考えるのはやめた。


「ゆきみちゃん、起きたらあれしようね」


 連れられて行く祖母が振り返って私に言い、わかったよと返事をすると、うれしそうに笑う。その無防備な笑顔は、老人であることをしばし忘れるほどかわいらしかった。


 お昼寝の時間が私の唯一の日中の自由時間。二階の自室に向かう。この家について、祖母のペースメーカーに影響が出るといわれスマホを取り上げられた。もちろん母からの指示だ。


 お手伝いさんたちは命令にしたがっているだけ。私がいう通りにしなければ、彼女たちがこまる。


 窓をあけ外の空気を思い切り吸い込む。冷えた空気が肺に入り込みよどんだ頭がクリアになっていく。最近の日課。遠くに赤い欄干が目立つお城をしばしながめた。


 階段はお手伝いさんがいる台所の横にあるので、だまって外に出る事は不可能。夜は、住み込みの多江さんが玄関わきの部屋で寝起きしている。セキュリティーは二十四時間この家をみはっている。侵入者と家の中を。


 夜は、冬休みあけの試験に向けての勉強。日中は編み物をしていた。年末に買ったあの朱鷺色の糸でお花のモチーフを編んでいた。つなげてショールにでもしようと思って。


 それを見た雅子ちゃんが自分もしたいと言い出した。本来ならかぎ針はできただろうが、手先が鈍っているので、教えてもできない。


 しくしく泣く雅子ちゃんにお手伝いさんの一人が、家からリリアンを持ってきてくれた。むかし子供さんが使ってたそうだ。


 リリアンとは、むかし大流行りした手芸用品で、頂部についた金属製の爪に糸をひっかけて、紐を編んでいくのだ。


 これなら雅子ちゃんにもできた。長く編んでリボンにするのだと張り切っている。白い髪をそれで結びたいと。


 リリアンは一般的なものと、太い毛糸を使うY字リリアンという低年齢向けのものがあった。雅子ちゃんは普通のリリアンを使い、Y字リリアンは私が使う事にした。

 太い毛糸を買いに出たいというと、雅子ちゃんが老人の表情になり言った。


「雪深は、すぐに迷子になるで。この家から出たら、だめだわ」


「私迷子になったことあるの?」


 ここで迷子になった記憶なんてない。この家に来た記憶もあまりない。


「外は怖いがね」


 けっきょく毛糸はお手伝いさんに頼んで買ってきてもらった。雅子ちゃんのお守りをしながら、何も考えないでひたすら手を動かしていた。

 窓を閉めると、下から私を呼ぶ声がした。母が東京から来たのだろう。


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