第十四話 サンタ帽
ベージュの調度品でまとめられたラウンジの中は、明るく開放的。ガラス越しに夕闇迫る京都駅の喧騒が眼下に見える。
私と兄、それに数人のお付きの人が席に座る。たぶん兄が所属す党の方々だろう。おじさんばっかり。その中に一人、真っ赤なサンタ帽をかぶった兄と年の変わらない人がいた。完璧な集団に紛れ込んだ異分子に私はホッとする。
「雪深はいつもロイヤルミルクティーだね」
そう言って、オーダーを代わりにしてくれる。本当は季節限定のホット抹茶ゆずが気になるけど、兄の気配りにうれし気な声で返事をした。
「拓人さんに、こんなかわいらしい妹さんがいらっしゃったなんて」
取り巻きの人が私というか、兄に向かってお世辞をいう。私は、微笑みを浮かべてそのお世辞に礼をつくす。
「妹は今京都の大学に通っているので、なかなか会えないんです。こっちは心配してるのに、なかなか帰って来なくて」
かわいい妹を心配する兄へ、同情の声がかかる。
「一人暮らしされてるんですか、それは心配ですね」
その言葉に兄は黙ってほほ笑んだ。
京都に親戚がいるというのを、極力表ざたにしない。母の実家の事は弾正家では、タブーに近い。土田家から、母の出自がわかることを避けているのだ。
だれかが、パパラッチばりに「どこの大学ですか?」と聞いてきた。
お兄ちゃんは、アメリカの有名大学を卒業している。私の通う大学はギリギリ人様に言える範囲内の大学だ。
「一色さんと同じ大学ですよ」
そう兄に話を向けられたサンタ帽の人はあわてて、ストローから口を放した。
「そうなんですか、俺は法学部でした」
一色さんは、サンタ帽が似合う愛嬌のある顔をしていた。細い目はたれ、やさしい顔つきだ。
兄は母に似た華やかな容貌に親しみをプラスして、一色さんを紹介する。
「雪深こちら、京都府議会議員の一色利夫さんのご子息竜馬さん。今日はお父上のかわりに手伝いに来てくださったんだ。去年まで京都府庁にお勤めで、今はお父上の秘書をされている」
なるほど、地方議員の二世さんか。そのうちお父さまの地盤を引き継いで、出馬するのだろう。
「手伝いやなんて、ただビラを配っただけなんで、お役に立てたかどうか」
この話の流れでは、私はただニコニコ話を聞いてればいい場面だけど、どうしてもそのサンタ帽が気になる。
なんでみんな、スルーなの?
「あのう、なぜサンタ帽をかぶってるのですかあ?」
とっても控えめに明るく軽い感じで聞いたのに、なぜかみんな爆笑する。
やばい、なんか私間違えた?
一人青ざめる私に気づくわけもなく、一色さんはみんなの反応を笑って受け止める。
「ビラ配ってたら、有権者のおばさまにあんた弾正さんの陣営やのに地味やなあって言われたんです」
キッツい一言をかます京都のおばちゃん。目に浮かぶようだ。
誰だって、お兄ちゃんに比べたら地味な顔だ。あれに対抗できるのは、私の知っている中ではアルはんくらい。
この一色さんだって、ちゃんとととのった顔をしてらっしゃる。たれ目から受ける印象で、なごませキャラに見えるのだろう。
なんでも笑って許してくれそうなゆとりを感じる。だからおばさまもついつい心の声がもれたのだろう。それって政治家にとったら最強の武器だと思う。
「それで、弾正さんよりインパクトってゆうたら今の季節サンタしかないおもて、百均までダッシュして買うて来たんです」
それでサンタ帽なわけね。
お兄ちゃんも一色さんのゆるキャラにしてやられているのか、珍しく屈託なく笑う。
「でも、それかぶったから子供たちの人気者になったんですよね」
「はい、俺のビラが一番にはけました。だから今日はこの帽子はぬぎません。これ被ってたら弾正さんよりキャラが上なんで」
ドヤ顔をして、笑いをとる。
「雪深さんも俺に興味もってくれたんで、うれしいです」
そう言ってたれた目でほほ笑まれると、顔を背けるどころかこちらの顔にも笑顔が浮かぶ。こういう人を人たらしって言うのかな。
秘書の人が近づいてきて、新幹線の時間が迫っていると告げた。。たった十五分ほどだったけど、すっごく疲れた。でも、一色さんのキャラに少し救われた。
会計を秘書の人が済ませている間、兄が私を手招きする。さっと取り巻きの人が下がって私の場所を開けた。
「これ母さんから預かって来た。何か欲しいものでも買いなさい」
そういって封筒を渡した。
あー、きっと諭吉さんが大勢入ってらっしゃる。この厚みは。




