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戦国武将がはんなり京都に転生とか、聞いてませんけど?  作者: 澄田こころ(伊勢村朱音)
第二章 あじわう

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第十一話 毛糸玉

「どういうことですか?」


「私の母は養女なんです。おばあちゃんが出産した子は死産で、同じ病院に産んだ赤ちゃんを育てられない人がいたそうです」


「みなさん知ってるんですか?」


「もちろん。土田家の人はみんな。弾正家では、タブーだけど」


 私は中学二年まで知らなかった。それまで、母と京都には心理的な距離があるとなんとなくわかっていた。


 でもそんなことは私には関係なく、京都が大すきだった。

 中二の時、京都で暮らしたいと泣きついたら、母がこわばった顔をして怒鳴った。


「あなたは、血がつながる私よりも、血のつながらない人たちを頼りにするの!」


 そう言われて、初めて母の秘密を知った。


「私、アルさんといたらとても楽しいです。手芸や雑貨の話で盛り上がれるし、一緒にいると安心できる。でもそれは兄妹みたいな感情。だから、兄と妹じゃだめですか?」


 この辺りには、夕方になるとお豆腐屋さんが自転車の後ろに箱をつんで、お豆腐を売りに来る。その何とも間延びしたラッパの音が聞こえてきた。


「雪深さんは、兄と妹の方がいいってことですか」


「はい」


 瞳の奥を伺うような視線に、背筋がぞわぞわする。思わず目をそらせた。沈黙が胸に重くのしかかる。彼が大きく息をはいたと同時に、私はやっと息を吸う事ができた。


「じゃあ、僕を一人にしないでください。ここにいる間は極力一緒にいてください」


 何そのヒロイン発言……。斜め上からの回答に唖然とする。


「それはちょっと……」


 この空間に二人きり……。ないわ。


「なぜです。同じ時間を共有することで家族になれる。僕と雪深さんはこれから家族をはじめるのです。空白を埋めていかないと」


 いくら兄と妹でも、二十一と二十七のいい年した大人がいつもいっしょって。

 どんなけブラコンだ。いやシスコンか。


 そう思うけれど、妥協点を言い出した身としてはこれくらいのわがままを聞かないと。


「お仕事の邪魔にならないのなら……」


「よかった」

 とびきりの笑顔で言われては、もう後戻りできない。


「一緒にいればなんとかなる」

 ぼそぼそとつぶやかれた彼の独り言が、耳に流れ込んできた。


 なんとかって、なんなんだ!


             *


「ほら、たるませないで。ぴんと張らないと、からまっちゃう」


「ごめんなさい。でも、雪深さん僕にも仕事があるんで……」


「じゃあ、いいです。市香ちゃんにしてもらいます」


 そう言って、さっさと席をたとうとする私をあわてて、彼がひきとめる。


「まって、僕がしますから」


 紅茶染めをしたたばの毛糸は、干して乾かしたのち毛糸玉にしなければならない。この毛糸玉にする作業は、一人ではできないのだ。


 まず束に二本の腕を通し、ぴんとのばす。向かい合ったもう一人が糸端を巻き取り、玉にしていく。


 束を腕に通している人は、じっとしているだけでは役にたたない。毛糸玉をつくる人のタイミングに合わせ、糸が絡まないよう腕をまわす。


 市香ちゃんに書いてもらった、編み図をたよりに細編みを一目一目、力を入れて編んでいくと、三段編んだだけ手が痛くなってきた。


 極太の毛糸なのでたくさん毛糸玉にしてもすぐになくなってしまう。

 おじいちゃんに手伝ってもらった毛糸玉はもうすべて編んだ。なので今彼に手伝ってもらっているのだ。


「おじいちゃんが、こないだアルさんにもらった玉子焼きおいしかったって」


 こぶしぐらいの大きさに成長した毛糸玉に、糸を巻き付けながら言った。


「トルティージャのことですか? よかった気にいってもらって」


 腕にかかった束の毛糸が私の手の動きに合わせ、クルクルと、まわる。

 この間、トルティージャ(スペイン風オムレツ)をいただいた。ふわふわで厚みがあり、中にジャガイモがたっぷり入っていたので、どっしりとした食べ応え。


 おじいちゃんはこれにお醤油をたらして食べていた。たぶんスペイン料理だと気づいてないだろう。


「それで、今日いっしょに鍋しないかって」


「えっいいんですか? 寒くなってきたし鍋食べたかった」


「お仕事終わったら、来てください。私用意しとくので」


 彼の腕の毛糸の束はもう残り少ない。机の上に置かれた籠の中には、毛糸玉が四つ。これだけあれば、しばらく持つかな。


「じゃあ、いっしょにしましょう。仕事もあとちょっとで終わりそうだから。それまでここにいてください」


 えっ、まだいっしょにいろと?


「アルさーん、ちょっとええですか」


 市香ちゃんはふすまを開け、私を見る。


「ゆきちゃん、またいんの?」


 私だって好きこのんでここにいるんじゃありません。


「施主さんに頼まれたステンドグラス入荷しましたよ」


 彼のお客さんが新築のリビングのドアの上部分にアンティークのステンドグラスを入れたいというので、市香ちゃんが探していたのだ。


「ありがとうございます。明日現場に搬入します」


「ちょっと聞こえたんやけど、今日鍋すんの? うちも参加していい。今日パパ夜勤やし」


 いいよというと、市香ちゃんはニンマリ笑い、具材は何かと聞いてきた。


ぶりもらったし、ぶりしゃぶ」


「ほな、ぶりのあとかしわも入れよ。野菜はあるやろ。豆腐は?」


「さっきここ通ったお豆腐屋さんから買ったよ」


「完璧。光流迎えに行って、家からかしわとってくるわ」


 市香ちゃんの家はここから歩いて数分のマンション。

 トントン拍子に話はすすみ、鍋パーティーは参加者五名となった。


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