クモをつつくような話 2025 その1
2025年、1月1日。晴れ。最低-1度C。最高11度C。
午前7時。
玄関のヒメちゃんの卵囊のうち、2個は出囊していない。暖かくなってから出囊するんだろう。そうしたら、出囊済みの卵囊は保管しておこうと思う。
1月2日。晴れ。最低-1度C。最高13度C。
午後1時。
ジョロウグモの女王様は数枚の常緑広葉樹の葉の間にいた。その分厚い葉は凍結しないのだとしたら、そこにいるのが正解かもしれない。ただし、それは最低気温が氷点下になるような季節での話だろう。10月までなら陽当たりのいい場所にいた方が卵の成熟が早くなるんじゃないかと思う。結果論ではあるが、女王様も陽当たりにいい場所に網を張っていれば、とっくに産卵できていたかもしれない。
車道と歩道を分けるコンクリートの塊(正式名称は「境界ブロック」だそうだ)の上を体長4ミリほどのクモが歩いていた。よく見ると、そこには多数のしおり糸が残されている。おそらく、クモたちがよく利用するルートなんだろう。これこそまさにクモの通い路――。〔「雲の通い路」だ!〕
午後4時。
舗装路脇に生えているスミレの葉が黄色くなっていた。
1月3日。晴れ一時雨。最低1度C。最高9度C。
1月4日。晴れ時々曇り。最低-1度C。最高9度C。
午前7時。
路面の水たまりが凍っていた。
ジョロウグモの20ミリCちゃんは体を水平にして側面を太陽に向けている。この日光浴姿勢にも一定のパターンが存在しないというわけだ。やはり各自で工夫しているんじゃないか?
1月5日。晴れ時々曇り。最低-4度C。最高9度C。
午後1時。
アッパーが伸びたのか、インソールが潰れたのか、サイクリングシューズがゆるくなってしまったので、室内トレーニング用のシューズと入れ替えた。これはタイトにフィットしていい感じである。
腹を冷やさないようにサイクリング用タイツの上に穿いているジョギングパンツがすり切れて穴が開き始めている。腿の内側だから目立たないし、下にはタイツも穿いているんだから、当分の間は使い続けようと思う。
午後3時。
今日も体長4ミリくらいの羽虫が群れ飛んでいた。多くはないだろうが、クモの獲物はいるわけだ。それでも多くのクモが活動を停止しているのは、網を張ったり、獲物を仕留めたりすることで消費するエネルギーの方が獲物を食べることで得られるエネルギーより多くなってしまうということなんだろうな。体長5ミリ以下くらいのクモなら暖かい日には網を張ることもあるようだから、小型のクモならエネルギー収支がギリギリ黒字になるのかもしれない。
1月6日。晴れのち雨。最低-2度C。最高10度C。
午前7時。
ジョロウグモの20ミリCちゃんが円網の向かって右半分を回収していた。張り替えの準備をしているように見える。この時期に張り替えをする子は初めてだ。もしかして……この子は交接してないんじゃないだろうか? 交接しているなら絶食するはずだ。この子の食欲減退は、ただ単に気温の低下によって食べた物を消化するのに時間がかかるようになっただけのような気がする。
午前10時。
血圧は170と111だった。昨夜は寝付けなかったので、午前8時に寝たらこの数字だ。どうやら眠り始めてから2時間から5時間くらいまでの間は血圧が高くなっているのらしい。眠らなければ高血圧にはならないというわけだ。あくまでも作者の場合はという話だが。〔……死ぬぞ〕
1月7日。晴れ一時雨。最低4度C。最高13度C。
午後5時。
最近腕や脚の皮膚に内出血が発生しやすくなった。血管がもろくなっているんだろう。つまりこれは血管の欠陥だ!〔…………〕
原因は老化なのか、それとも新型コロナワクチンのせいなのかはわからない。ただ、3回目の接種後に数分間の発熱はあった。
※アレクサンドラ・アンリオン=コード著『コロナワクチン その不都合な真実』によると、新型コロナウィルス用も含めてmRNAワクチンは従来のワクチンほどの安全性が確認されていないらしい。この本には「研究者の意見を無視して進められた新型コロナワクチンの接種」という話も出てくる。
1月8日。晴れ。最低0度C。最高10度C。
午前8時。
ジョロウグモの20ミリCちゃんが姿を消していた。産卵だと思う。後は女王様だなあ。
午前11時。
マダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃんが住居から出ていた。体長は4ミリほど。「獲物をあげなくてもクモは育つ」というわけだ。何を食べているのかはわからないが。
午後1時。
ジョロウグモの女王様はいなくなっていた。女王様も20ミリCちゃんと同じで暖かい日が来るのを待っていたような感じがするんだが、どうなんだろう? もっとデータを集めないといかんな。
午後2時。
木造のガレージの屋根の下にジョロウグモがいた。体長は20ミリ弱で、お尻の形はソーセージとラグビーボールの中間くらい。なんとなくだが、産卵前のような気がする。
このガレージの屋根の下にはヤマシロオニグモの卵囊とクサグモの卵囊もあった。
クサグモについては、直接雨が降りかからないように産卵場所を選んだり、卵囊に枯れ葉を取り付けたりしているような気がする。表面の糸の密度がコガネグモの卵囊レベルで、いかにも雨が浸みてしまいそうなのだ。卵が濡れると生存率が低下するんじゃないだろうか? 枯れ葉などを外した卵囊にシャワーで水をかけてから冷蔵庫に入れたグループと、濡らさなかったグループで出囊率を比較してみたらどうだろうか。
午後3時。
自販機にガが1匹とまっていた。少しは暖かいんだろう。
1月9日。晴れ。最低-1度C。最高11度C。
1月10日。晴れ。最低-3度C。最高9度C。
午前11時。
台所の壁を体長4ミリほどの脚が長くて黒いクモが歩いていた。触肢に丸い膨らみがあるから雄だとは思うが、何グモなのかまではわからない。なお、台所の室温は10.4度Cだった。体液が「凍らなければどうということはない」んだろう。
1月11日。晴れ。最低-2度C。最高11度C。
1月12日。曇り一時雨。最低-1度C。最高9度C。
1月13日。晴れ時々曇り。最低1度C。最高12度C。
午後2時。
光源氏ポイントの向かい側のガードレールには体長4ミリほどのオオヒメグモが2匹いた。そのうちの1匹はガードレールの下面を歩いていたから休眠はしていないんだろう。最低気温が-1度Cくらいになっても、気温が上がれば 活動できるということなのかもしれない。
さらに枯れ葉の下にいる1匹もオオヒメグモではないかと思うのだが、確認はしていない。
午後3時。
1月8日に見つけたガレージのジョロウグモはいなくなっていた。産卵だと思う。
午後8時。
マダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃんが住居から出ていた。室温は13度Cくらい。これくらいなら活動できるということなんだろう。
そして、ガス漏れ警報器のすぐ上にも体長4ミリほどの黒っぽいクモが現れた。もしかすると、この子はマダラヒメグモの雄かもしれない。真冬に婿入りとは……ヤリたくてたまらないんだろうかなあ……。〔「交接」と言え!〕
1月14日。晴れ。最低-2度C。最高13度C。
1月15日。晴れ。最低1度C。最高13度C。
午前11時。
ジョロウグモの20ミリCちゃんが円網に帰ってきていた。お尻の大きさは変わっていないから産卵はしていないはずだ。ということは、気分を変えるために散歩をしていたとか、そういう話なんだろう。円網を張り替えることが少なくなったのも産卵前の絶食ではなく、ただ単に寒いので動きたくなかっただけというわけだ。
というわけで、この子は交接していない可能性が高くなった。「ジョロウグモは産卵しない方が長生きする」仮説を検証することにしよう。9月まで生きていれば、10月中には産卵できるだろうし。
午後1時。
スギの枝葉に取り付けられているジョロウグモの卵囊をチェックし直した。その結果は、3本の枝葉を束にして、そこに取り付けられていたのが4個、4本が2個、5本が1個、その他に手が届かないので卵囊かどうか確認できない小さな糸の塊が1個だった。
午後7時。
ガス漏れ警報器の上にいたマダラヒメグモの雄らしいクモがいなくなっていた。ただの通りすがりだったかもしれない。
1月16日。晴れ。最低-3度C。最高8度C。
1月17日。晴れ。最低-1度C。最高9度C。
午前10時。
ジョロウグモの20ミリCちゃんが円網の縦横10センチくらいの部分を張り替えていた。横糸の間隔が揃っていないし、このところ観察をサボっていたのでいつ張り替えたのかもわからないが、食欲はあるようだ。
1月18日。晴れ。最低-5度C。最高10度C。
午前7時。
玄関のヒメちゃんの卵囊の最後の2個の内部がだいぶ黒っぽくなってきている。いかに室内とはいえ、この季節の玄関は摂氏10度以下まで下がることもある。まさか出囊することはあるまいと思うのだが、作者の予想は外れることが多いのだよなあ……。晴れた日の午後なら小さな羽虫も飛んでいるから獲物はいない、とは言えないし。
1月19日。晴れ。最低-2度C。最高12度C。
午前6時。
まだ夜明け前なんだが、ジョロウグモの20ミリちゃんはお尻を下に向けた日光浴姿勢を取っていた。最低気温があまり低くない日はこの姿勢にならないだろうとは思うんだが、何度まで下がったらお尻を下げるんだろう?
そして、この姿勢を取るのにも力がいるはずだ。ということは、お尻が大きく重くなると体力の消耗も大きくなるだろう。かといって、細すぎるお尻では栄養不足によって力尽きることになってしまいかねない。交接していないジョロウグモが長生きするのに最適な太り方というのがありそうな気がする。さらに、その最適な太り方は気温によって変動するだろう。
ジョロウグモの生理的寿命を見つけるのには大量のデータを集める必要がありそうだ。論文屋さんにお勧めできる研究テーマではないな。
午前10時。
20ミリCちゃんの円網の向かって右半分がなくなっていた。左半分は残っているから回収したんだろう。張り替えるつもりなのかもしれない。
この季節でも暖かい日には小さな羽虫が飛んでいることはある。しかし、円網張り替えにかかるコストに見合うだけのメリットがあるとは思えないんだが……。もしかすると、日光浴以外はやることがないので退屈しているんだろうか?〔んなわけ……ないとは言えないかもしれない〕
午後2時。
ジョロウグモの女王様のものらしい卵囊を見つけた。女王様が潜り込んでいた常緑広葉樹の枝から約50センチ離れた隣の枝の葉の縁を裏面側へ少し曲げて、そこに取り付けてあった。かなり大きめの卵囊だから女王様のもので間違いないだろう。
作者は葉の表面側ばかり探していたので、見事に裏をかかれた格好だ。また、この葉は表面も裏面もだいたい平らになっているので、表を使うにしろ裏を使うにしろ、葉を曲げるか2枚使うかしかなかったんだろう。「ガウス曲率が負の曲面がないのなら作ってしまえばいいじゃない」というわけだ。
そして、この葉は多数の糸で枝に固定されていた。今日見つけたもう1個の卵囊は2枚の常緑広葉樹の葉で挟んであったのだが、この葉もしっかり枝に固定されていた。というわけで、ジョロウグモが広葉樹の葉に産卵する場合は、常緑であれ落葉であれ、基本的に糸で葉を枝に固定することになっているのかもしれない。いままで観察してきた固定されていない葉は固定するだけの体力が残っていなかっただけ、という可能性もあるだろう。迂闊なことを書くもんじゃないね。
午後4時。
今日は暖かかったせいか、マダラヒメグモの右前隅ちゃんとガス漏れ警報器ちゃんが住居から出ていた。
1月20日。曇り時々晴れ。最低4度C。最高12度C。
午前6時。
眼が覚めた時に異常を感じたので血圧を測ってみたら170と110だった。まあ、夜中から夜明け前にかけての時間帯に血圧が上がるのはよくあることなので気にしない。要は医者が測る時に低めの数値が出ればいいのである。
午前7時。
ジョロウグモの20ミリCちゃんがいなくなっていた。路面が濡れているからどこかで雨宿りしているのかもしれない。
1月21日。雨時々曇り。最低5度C。最高10度C。
午前7時。
20ミリCちゃんの姿はなかった。ただし、雨のせいという可能性も残っているので、結論は出さないでおく。
マダラヒメグモの右前隅ちゃんとガス漏れ警報器ちゃんが住居から出ていた。
1月22日。晴れ。最低1度C。最高13度C。
午前7時。
20ミリCちゃんの姿はなかった。円網の糸を食べてからいなくなったということは、産卵という可能性もある……かなあ……。いずれにせよ、この寒さでは戻って来るということはあるまい。
1月23日。晴れ。最低0度C。最高14度C。
午後1時。
玄関先を体長4ミリほどの黒いクモが歩いていた。暖かいのだなあ。ウインドブレーカーを1枚にして走ることにする。
1月24日。晴れのち曇り。最低1度C。最高13度C。
午前7時。
観察するようなクモもいないので、『次回予告』の下書きを書き始めた……のだが、400字×9枚という枠に収めるのが難しい。いったん下書きを書いてから枚数を調整して、それから「なろう」サイトに書き写すのだ。どうしてこんな手間がかかる形式にしてしまったんだろう……。
午後7時。
マダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃんが住居から出ていた。その体長は5ミリくらいはあるようだ。成長するのに十分な量の獲物がいるということなんだろうな。
1月25日。雨のち晴れ。最低3度C。最高10度C。
1月26日。晴れ時々曇り。最低-1度C。最高10度C。
午後6時。
『次回予告』の下書きを入力していたら右眼の視力が下がってしまった。左眼だけで入力である。まいったね。
1月27日。晴れ時々曇り。最低-2度C。最高10度C。
午前7時。
右眼はほぼ回復した。
午前11時。
ベランダのハンガーの洗濯ばさみが1個割れてしまった。これはピンチだ。〔…………〕
買い換えよう。
午後1時。
洗濯ばさみは36個中30個が簡単に割れてしまうほど劣化していた。まいったね。
1月28日。晴れ時々曇り。最低1度C。最高13度C。
午後2時。
森の中で常緑広葉樹の葉の裏に取り付けられた卵囊を見つけた。大きさや形はジョロウグモの卵囊なのだが、ほとんどまっ平らになっている葉を整形せずに使っているし、その表面はわずかに黄色っぽくて、縦方向に茶色の筋が3本と、さらに細い筋も1本付けられていた。
こんな卵囊は見たことがない。まるでジョロウグモとナガコガネグモの許されない愛の結晶である。〔んなわけあるかい!〕
まあ、「クモの卵囊である」と断言できるわけでもないんだが……。
※これはヤマシロオニグモの卵囊だったようだ。
午後3時。
渡り鳥の群れが見事なV字形の編隊を組んで上空を通過して行った。
ウィキペディアの「飛翔」のページには「大型の渡り鳥がV字型や斜め一直線に編隊を組んで飛翔しているのが見られるが、前を飛ぶ鳥の翼端渦による吹き上げによって後続する鳥のエネルギーの節約になっている、などと言われる」と書かれている。この翼端渦とは翼の端から後方へ向かう水平軸を中心に回転するような渦なので、その上昇方向の気流を利用すれば楽ができるというわけだ。
航空機でも翼端渦は発生するのだが、航空機はなにしろ重いのでV字編隊を組んでも効果がほとんどない。さらに旅客機同士だと、そこまで近づいたらニアミスだから、翼端渦は抵抗を増やす効果しかない。そういうわけで最近の旅客機の主翼の翼端にはウイングレットを立てたり、後方へ細く伸ばしたりして、この渦をできるだけ発生させないようにしているのらしい。
午後5時。
風呂上がりに軽い脳貧血になった。血圧を測ってみると91と56。ここまで血圧を下げてはいけないようだ。
1月29日。晴れ。最低0度C。最高12度C。
午後1時。
舗装路の脇にタヌキの死骸が転がっていた。冬になると車にはねられるタヌキが増えるような気がする。
1月30日。晴れ。最低-2度C。最高11度C。
疲れた。今日は休み。
1月31日。晴れ。最低-2度C。最高10度C。
2月1日。晴れのち曇り。最低-2度C。最高11度C。
2月2日。雪か雨のち曇り。最低2度C。最高7度C。
午前7時。
台所の室温は10.1度C。マダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃんが住居から出ていた。
2月3日。曇り時々晴れ。最低2度C。最高10度C。
午後4時。
近所のカラスノエンドウに緑色のアブラムシが群れていたので、何匹か捕まえて持ち帰った。
それをマダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に落とし込むと、ガス漏れ警報器ちゃんはまず、不規則網に引っかかっていたアブラムシに糸を巻きつけ、それから床まで落ちていたアブラムシを吊り上げて糸を巻きつけた。
問題はその後で、ガス漏れ警報器ちゃんは床に落ちていた方のアブラムシを住居に持ち帰ったのだった。これは、床に落ちている獲物の方が好きなのか、あるいは最後に仕留めた獲物から食べることにしているのかもしれない。
複数の獲物がかかった場合に、どの獲物から食べるかはクモの種によって決まっている可能性があるなあ。
2月4日。晴れのち曇り。最低0度C。最高10度C。
午前4時。
ガス漏れ警報器ちゃんの不規則網にかかっていたアブラムシも消えていた。よく食べるなあ。冬だというのに。
午前10時。
床に落ちていた3匹目のアブラムシも消えていた。それでいて食べかすは落ちていない。小型の獲物ならダンゴムシのように食べかすが出ることはないということなのかもしれない。つまり、玄関のヒメちゃんには獲物を与えすぎていたというわけだ。食べかすを落とされないのなら積極的に獲物をあげてもいいかなあ。
2月5日。晴れ。最低-4度C。最高9度C。
2月6日。晴れ。最低-3度C。最高9度C。
2月7日。晴れ。最低-2度C。最高9度C。
2月8日。晴れ。最低-2度C。最高9度C。
午後10時。
土屋健著『生命の大進化 40億年史 新生代編』(2023年発行)を読み終えた。このシリーズは、初期のコンパクトデジカメで撮影したようなザラザラした画質の、どこにもピントが合っていないようなイラストがどうにも気持ち悪いので手を出したくなかったのだが、土屋氏の本は読めば何かしら得るものがあるのでやっかいだ。
今回も「……キリン類の祖先は中新世に登場したとされ、この段階では確かに首は長くなかった」「その後、キリン類における進化は〝キリンへと続く系譜〟と〝オカピにつながる系譜〟に袂を分かつことになる」という記述を見つけてしまった。
さらにその先には「そして、オカピへの系譜で鮮新世に登場した「シバテリウム(Sivatherium)の段階で、首が長くなり始めていたという。オカピの系譜では、「長くなりかけていた首が短くなる」という進化があった可能性が指摘されているのだ」と書かれている。要するに、首が長くなる方向へ進化していく途上でふと疑問を感じてしまって、もう一度首を短くしたのがオカピなのかもしれないというわけだ。
生物の世界では生き延びることができればそれが正解になる。したがって、複数の正解があり得るのだ。アカシアの生えた草原ではキリンが正解、森の中ではオカピが正解だったのだろう。正解は一つだけとは限らないのが生物なのである。
「数学とは違うのだよ。数学とは!」
2月9日。晴れ。最低-1度C。最高9度C。
2月10日。晴れ。最低-3度C。最高9度C。
2月11日。晴れ。最低-2度C。最高9度C。
2月12日。晴れ時々曇り。最低-4度C。最高10度C。
午後1時。
緑色のアブラムシを20匹捕まえたので、ガス漏れ警報器ちゃんと右前隅ちゃんの不規則網に落とし込んだのだが、2匹ともまったく反応してくれなかった。室温をチェックすると9.1度Cだ。というわけで、マダラヒメグモの活動限界は10度C辺りにあるのかもしれない。もちろん、これは論文を書けるような高精度の実験ではないよ。空腹度というファクターも無視しているのだし。
2月13日。晴れ時々曇り。最低2度C。最高10度C。
午前8時。
台所の室温は10.9度C。マダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃんと右前隅ちゃんが住居から出ていた。
2月14日。晴れ。最低-3度C。最高13度C。
2月15日。晴れ時々曇り。最低-2度C。最高13度C。
午前10時。
室温10.9度C。マダラヒメグモの右前隅ちゃんは全身を見せているのだが、ガス漏れ警報器ちゃんは住居にこもったままである。空腹度の差だろうと思うんだが、クモは何を考えているのかわからん。
午後2時。
ウメが咲き始めていた。短時間でもいいから、もう少し走るべきなんだろうなあ。
午後4時。
マダラヒメグモの左前隅ちゃんが住居から出ていた。920匹出囊したとして、生存を確認できているのが3匹である。多数の卵を産む生物の生存率はこの程度なんだろう。
2月16日。曇り時々晴れ。最低3度C。最高15度C。
午前11時。
歩道の脇で体長70ミリほどのネズミが死んでいた。合掌。
午後1時。
室温12.7度C。マダラヒメグモの右前隅ちゃんと左前隅ちゃんに体長2.5ミリほどのアブラムシをあげると、2匹とも駆け寄って牙を打ち込んでくれた。暖かいのは良いことだ。
ガス漏れ警報器ちゃんにあげようとしたアブラムシは床まで落ちてしまったのだが、約20分後に確認すると糸を巻きつけているところだった。
2月17日。晴れ時々曇り。最低4度C。最高14度C。
午後5時。
最近、疲れると左右の眼で見た像が上下にずれて見えるようになってしまった。眼の問題なのか、それとも頭が悪いのかわからないが、パソコン作業は無理がある。しょうがないので片眼で入力である。年は取りたくないねえ……。
2月18日。晴れ。最低-3度C。最高8度C。
2月19日。晴れ。最低-4度C。最高7度C。
午前5時。
台所の室温は9.4度C。マダラヒメグモ3匹は住居にこもっている。ただし、室温が低いせいなのか、それともアブラムシを食べたばかりだからなのかはわからない。
作者はマダラヒメグモたちが住居から出ているのを見ると「獲物を食べたい」と言われているように感じてしまう。それではいけないということはわかっているのだけどねえ……。
2月20日。晴れ。最低-4度C。最高8度C。
2月21日。晴れ。最低-4度C。最高9度C。
2月22日。晴れ。最低-3度C。最高8度C。
2月23日。晴れ時々曇り。最低-4度C。最高9度C。
2月24日。晴れ。最低-3度C。最高9度C。
2月25日。晴れ時々曇り。最低-4度C。最高13度C。
2月26日。曇りのち晴れ。最低1度C。最高16度C。
室温10.0度C。うちのマダラヒメグモ3匹は全員住居にこもっている。室温が活動限界まで下がっていなくても空腹でなければ出てこないのかもしれない。
午前11時。
室温10.9度C。ガス漏れ警報器ちゃんだけが住居から出ていた。そうか、空腹かあ……。
午後1時。
オレンジ色の蝶が2匹デートしていた。
長さ50ミリほどの大きなガの繭を見つけた。多分スズメガの仲間の繭だろう。
長さ15ミリほどのミノガの繭も2個あった。内部のサナギの大きさまではわからないが、繭の大きさで3種類はいるようだ。
※ウィキペディアの「ミノムシ」のページには「ミノガ科には日本列島では20以上の種が属している」という記述があった。まいったね。
2月27日。晴れ。最低0度C。最高15度C。
2月28日。晴れ時々曇り。最低1度C。最高16度C。
午前10時。
室温10.5度C。ガス漏れ警報器ちゃんが住居から出ていたのでアブラムシをあげようと思ったら、カラスノエンドウが生えていた草地が刈り払われてしまっていた。まったくもう……クモに生きる権利はないのか!〔ないだろ〕
午後5時。
ガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に光源氏ポイントで捕まえてきた体長12ミリほどの細身のハエ(多分)の翅を鋏で半分に切ってから落とし込んだ。ガス漏れ警報器ちゃんは糸を数回投げつけてから牙を打ち込んだ様子だった。
マダラヒメグモたちには獲物をあげずにいることはできない。食べかすを落とされるようならお箸で取り除くことにしよう。
3月1日。晴れのち曇り。最低1度C。最高20度C。
3月2日。晴れのち曇り。最低3度C。最高19度C。
午前11時。
室温14.4度C。ガス漏れ警報器の下にハエの食べかす(多分)が捨ててあった。
午後5時。
玄関の右前隅ちゃんと左前隅ちゃんが住居から出ていた。
3月3日。雪か雨のち晴れ。最低3度C。最高3度C。
3月4日。曇りのち雨。最低-2度C。最高7度C。
3月5日。雨のち曇り。最低4度C。最高13度C。
3月6日。曇り時々晴れ。最低6度C。最高14度C。
午後5時。
四時間半で100キロ走ったら軽い脳貧血が出た。すかさず血圧を測ると90と57だ。やだやだ。年は取りたくない。
3月7日。晴れ時々曇り。最低1度C。最高11度C。
3月8日。曇り時々雪。最低-3度C。最高7度C。
3月9日。晴れ一時雪。最低0度C。最高11度C。
午後8時。
室温12.5度C。箸を使ってガス漏れ警報器ちゃんの不規則網の中からハエの食べかすを取りだした。もちろん、使い終わったら洗っておく。
右前隅ちゃんは住居から頭胸部だけを出していた。
3月10日。晴れ時々曇り。最低-1度C。最高13度C。
午前11時。
サザンカの花の中に潜り込んでいるハチ(多分)を見た。春が来たのかもしれない。
午後1時。
光源氏ポイントでゴミグモを2匹見つけた。1匹は体長4ミリほどで円網にゴミの代わりらしい隠れ帯を付けていた。もう1匹は3ミリほどで、ちゃんとゴミ付きの円網にしていた。
午後3時。
水田脇の用水路の中でカメが2匹泳いでいた。
3月11日。曇り時々雨。最低五度C。最高16度C。
3月12日。雨時々曇り。最低7度C。最高15度C。
午前7時。
室温13.5度C。マダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃんと右前隅ちゃんが住居から出ていた。ダンゴムシくらいは活動しているかねえ……。
午後7時。
ガス漏れ警報器ちゃんに落ち葉の下にいた体長15ミリほどのワラジムシをあげた。ダンゴムシよりは食べかすを箸でつまみやすいだろうという判断だ。
ガス漏れ警報器ちゃんは獲物に駆け寄って牙を打ち込んだらしかった。もしかしたら、脚が長い獲物に対しては糸を巻きつけ、脚が短い場合は直接牙を打ち込むのかもしれない。あるいは、翅があるかどうかとか、暴れ方で使い分けているという可能性もあるかなあ。
3月13日。曇り一時雨。最低9度C。最高21度C。
午前11時。
光源氏ポイントにいるゴミグモの幼体は4匹になっていた。
逆にガードレールの北側にいるオオヒメグモは1匹だけになっていた。その他にゴミグモが2匹。さらにガードレールの下にはゴミグモの幼体が3匹。この季節には陽当たりのいい場所にいるのが正解なんだろうな。
午後6時。
今日は100キロ走ってしまったので骨盤の背中側が痛い。毎日走るなら60キロ以下にしておくべきなんだが、たまにはロングライドもしたいのだよなあ……。
3月14日。晴れ。最低4度C。最高18度C。
午後1時。
光源氏ポイントの電柱には体調10ミリほどのハエトリグモの仲間が取り付いていた。
その近くの木の幹には体長3ミリから4ミリくらいのテントウムシの仲間が3匹とまっていた。鞘翅の模様は黒地に赤い斑が2個。この大きさだとナミテントウの子どもたち――。〔んなわけあるかい!〕
もとい、おそらくヒメアカホシテントウだろう。
午後2時。
サングラスのレンズが割れてしまった。今日はここまで。
昔はサイクリング用のサングラスなどなかったんだが、眼に埃が入りにくいという状態に慣れてしまうとサングラスなしで走るのはつらいのだ。
3月15日。晴れのち雨。最低2度C。最高11度C。
3月16日。雨時々曇り。最低7度C。最高11度C。
3月17日。晴れ一時雨。最低6度C。最高15度C。
午前11時。
室温14.0度C。右前隅ちゃんだけが住居から出ている。
3月18日。晴れのち雨。最低2度C。最高11度C。
午後7時。
サイクリングシューズの滑り止めが剥がれ始めていたので接着剤で補修した。これは本来、ペダルとソールを密着させてパワーロスを減らすためのものなので、歩く度に少しずつ剥がれていくのだ。
3月19日。雨のち晴れ。最低3度C。最高8度C。
3月20日。晴れ時々曇り。最低-1度C。最高11度C。
3月21日。晴れ。最低0度C。最高17度C。
午後6時。
痛みはないのだが、左膝と比べると右膝にわずかな違和感があるので今日は1日休みにした。
暇なので「ジョロウグモ 隠れ帯 画像」で検索してみたら、マツの葉に取り付けられたジョロウグモの卵囊の画像が出てきた。まいったね。他の針葉樹も積極的にチェックする必要があるかもしれない。
3月22日。晴れ。最低4度C。最高23度C。
午前11時。
マダラヒメグモの右前隅ちゃんの不規則網に弱らせた(捕まえる時に弱らせてしまった)体長5ミリほどのアリを落とし込んだ。右前隅ちゃんは左右の第四脚を交互に使って糸を投げかけ始めたのだが、これが長い。ほとんど身動きしないアリに対して10分以上もの間、断続的に糸を投げかけている。
「……食欲ないんだけど、せっかくの獲物だしぃ……」ということらしい。余計なことをしてしまったかもしれない。
それでもしばらくしてから確認すると、ちゃんと住居までアリを運んでいた。食べなければ投げかけた糸が無駄になってしまうからだろう。
午後1時。
光源氏ポイントでジョロウグモの卵囊に取り付いている体長3ミリほどの黒っぽいクモを見つけた。薄い茶褐色の卵囊らしいものもある。クモの糸の主成分はタンパク質なんだろうから、他のクモが残した糸を食べるという生き方も合理的なんだろう。卵囊なら網の主に襲われるということもないわけだし。
体長2.5ミリほどのくすんだピンク色の子グモが十数匹群れているのも観察した。多分、順にバルーニングしていくつもりだろう。
毎年早めに咲くサクラが見頃になっていた。ハチも数匹蜜を吸いに訪れている。
草地からはツチイナゴらしいバッタが数匹飛び出すし、クビキリギスも1匹見つけた。
※気になったので調べてみたら、クビキリギスもツチイナゴと同じで成虫で越冬できるのらしい。
午後2時。
ガードレールの北側にいたオオヒメグモたちは全員いなくなっていた。代わってアシナガグモの仲間の幼体らしいクモが2匹と、全身赤色でお尻に一対の黒い斑がある体長2ミリほどの正体不明のクモが1匹いた。
数枚の木の葉で包まれていたらしいクサグモの卵囊も1個見つけた。
3月23日。晴れ。最低7度C。最高22度C。
午後1時。
あちこちのホトケノザが満開になっていた。
外側が白くて内側だけが黄色いシロバナタンポポも13輪咲いていた。この花は何年か前に気が付いてから継続観察しているのだが、生息域が半径10メートルくらいから広がる様子がない。セイヨウタンポポや在来種の方が繁殖力が強いのかもしれない。あるいは、すでに他の草が生えている場所には入り込めないのか、だな。
去年と同じ場所に生えているマメ科らしい草には今年も黒いアブラムシが群れていた。とは言っても、まだ十数匹のようだ。
午後5時。
うちのマダラヒメグモ3匹は全員住居から出ていた。それほど暖かかったということなんだろう。
なお、最近疲れると右眼の視力だけが低下するようになったので、サングラスのレンズをクリアーから可視光線透過率60パーセントというグレーレンズに替えている。今のところ、かなり疲れた時でも視力は低下しないようだ。もうクリアーレンズを使える年齢ではないということなんだろうなあ……。
3月24日。曇りのち雨。最低5度C。最高16度C。
午前11時。
ジャンパーのジッパーが壊れてしまった。スライダーの上部と下部を繋ぐ部分が割れているから寿命だと言えるだろう。使おうと思えばジッパーの代わりに安全ピンで留めることもできなくはないのだが、少々貧乏くさいので、こんなこともあろうかと用意しておいた予備のジャンパーを使うことにする。
3月25日。晴れ一時雨。最低6度C。最高23度C。
午後1時。
光源氏ポイント近くの森の中でコシロカネグモの幼体らしい体長2ミリほどのクモを3匹見つけた。少なくとも1匹は雄なんじゃないかと思う。
午後3時。
マメ科の草に取り付いている黒いアブラムシは8つの株に分散していた。たった2日で2倍から3倍に増えたような気がする。
その近くにはテントウムシの幼虫も3匹いた。偶然かもしれないが、獲物が増えてから寄ってきたわけだ。
午後4時。
室温16.2度C。うちのマダラヒメグモ3匹は全員住居から出ていた。
腹筋が痛い。100キロ走ってしまったから、そのせいだな。やれやれ……。
3月26日。晴れ時々曇り。最低10度C。最高24度C。
午前11時。
スーパーの駐車場でサザンカの枝葉に張り渡された数本のクモの糸を見つけた。さらにそこから1.5メートルくらい先のツツジまで糸が1本残されている。おそらく、何者かがバルーニングでここまでやってきたのだろう。元気に育って欲しいものだな。
3月27日。晴れ一時雨。最低6度C。最高21度C。
午後1時。
光源氏ポイントの奥にもシロバナタンポポが咲いていた。株は少なくとも17個ある。一株でも根付くことができたら、そこから生息範囲を広げていくということなんだろうか?
草地にはツクシも出始めている。
午後2時。
木造ガレージの屋根の下にはオニグモのものらしい直径35センチくらいの円網が2個、その外側にも1個あった。今年は暖かい日が続いたので、クモたちの春の目覚めも早くなっているようだ。
その近くにあった細長い逆三角形に潰れている円網では、上の方から体長12ミリほどのオニグモが降りてきた。越冬を終えたばかりなので、体重が減ってしまった分、積極的に捕食する必要があるんだろう。
「えっとぉ、あたしぃ、お腹空いて目が覚めちゃったのぉ」とか?〔かわいい台詞をあててもオニグモはオニグモだぞ〕
この季節には夜間に飛ぶ昆虫も少ないだろうしな。
常緑広葉樹の枝や葉では頭胸部と脚が赤でお尻が黒い体長5ミリほどのクサグモの幼体たちがシート網を張っていた。
午後3時。
白いチョウを追いかけている黄色いチョウを観察した。今年に入ってから2回目だ。チョウにも色盲の雄がいるんだろうか?
午後5時。
うちのマダラヒメグモ3匹は全員住居から出ていた。特に右前隅ちゃんは不規則網の中を動きまわっている。多分、不規則網の補修を始めたんだろう。
左前隅ちゃんは相変わらず食欲がなさそうだ。こうまで消極的ということは雄なのかもしれない。
3月28日。雨時々晴れ。最低15度C。最高25度C。
午前11時。
スーパーの周辺をチェックしていたら、駐車場の東南の角辺りで体長7ミリほどのオニグモを見つけた。昼間だというのに直径30センチくらいの円網で待機している。もちろん撮影しようと思ってカメラを近づけていったのだが、それに気付いたらしい7ミリちゃんはツツジの葉の下に入り込んでしまった。
なんのまだまだ。近くで捕まえた同じくらいの体長の甲虫を円網に投げ込んであげる。さすがに獲物が重すぎて円網を突き抜けてしまうのだが、何回めかにうまく円網にかかると、7ミリちゃんが飛びだしてきた。ビンゴ!
しかし、ホームポジションに戻った7ミリちゃんは見当違いの方向を向いている。獲物が身動きしないと、どこにかかっているのかわからないのらしい。
そこで、獲物を軽くツンツンしてあげる。獲物の位置、というか、ホームポジションからの方向さえわかれば駆け寄って捕帯を巻きつけてもらえるのだ。
午後6時。
クモとは関係ない話なのだが、ニューズウィーク日本版のサイトに『なぜ「猛毒の魚」を大量に…アメリカ先住民がトゲのある魚を使い倒した「謎の答え」が明らかに?』という記事が掲載されていた。もちろん、「?」が付いているくらいだから「明らか」にはなっていない。
「米フロリダに暮らしていた古代アメリカ先住民は、猛毒の魚を謎の目的に使用していたようだ」として、先住民族が貝殻を積み上げて造った人工島で「ハリセンボンの仲間やバーフィッシュといった魚の遺物が大量に含まれた特異な堆積物を発見した」のだそうだ(バーフィッシュもハリセンボン科イシガキフグ属の総称らしい)。
問題はその先で「これらの魚は鋭いとげのある体を膨らませて身を守るのが特徴で、人間にとって致死的な有毒化合物が含まれている」と書かれているのだ。「とげを入れ墨の道具、矢や槍の先端に使用したほか毒性を利用して医療や武器に用いた可能性もある」というのが結論らしい。
バーフィッシュについてはどうなのかわからないが、椎名誠著『わしらは怪しい雑魚釣り隊』には捕まえたハリセンボンをアバサー汁にして食べたと書かれている。ウィキペディアの「ハリセンボン」のページにも「大型のものは棘を皮ごと取り除き、鍋料理、味噌汁、唐揚げ、刺身など食用にするが、可食部分が非常に少なく一般的ではない」「フグの仲間ながら毒は持っていないとされているものの、未解明の点も多い」「……沖縄県の漁師への聞き取り調査などでは卵巣は有毒として廃棄される例も報告されている」などと書かれているから少なくとも日本では食べられているのだろう。なお、フグ毒のテトロドトキシンは「……もともと細菌が生産したものが、餌となるヒトデ類、貝類を通して生物濃縮され体内に蓄積されたものと考えられている」のだそうだ。
個人的には、フグの毒は高速で泳ぐことが不得意なフグの仲間の捕食者対策だと思う。したがって、ハリセンボンのように棘があるのなら毒は必要ないはずだ。モンゴロイドである先住民は無毒であることを知っている上に捕まえやすいから積極的に食べていたのだろうと思う。遺跡を発掘するような研究者ならフグの仲間はすべて有毒だと思い込んでいてもおかしくはない……と思ったのだが、アメリカ大陸の近海にはハリセンボンの棘が通用しない捕食者がいたので、有毒な餌を積極的に食べてテトロドトキシンまで身につけたという可能性もないとは言えないかもしれない。
これを検証するためには、実際にアメリカの近海で捕れたハリセンボンなどを食べてみればいいと思う。誰かやってみない?〔自分でやれよ〕
残念ながら作者のパスポートはとっくに期限切れなのだ。
※こういう正しくない可能性がある論文も議論のネタを提供するという点で発表する意味がある。本来、論文に書かれている結論はただの仮説でしかないのだ。その仮説に対して検証が続けられ、「もうこれ以上は疑いようがありません」となった時、それは「理論」と呼ばれるものになる。それが「科学」であると作者は思う。そのいい例が特殊相対性理論で、今のところ成功しているのが「紫外線を反射する隠れ帯は昆虫を誘引する」論文だな。
困ったことに、クモ学、特にクモの生態学の分野では発表された仮説に対する検証がまったく行われないことが多い(研究者が少なすぎるせいもあるだろうが)。これでは正しくない仮説まで理論になってしまう。つまり、クモの生態学はいまだに「科学」と言えるレベルに達していないのである。
論文に書かれている仮説は嘘でもデタラメでも理論になってしまうというのは楽でいいのだろうが、真剣にクモという生物を理解したいと考えているアマチュアにとっては迷惑な話である。
3月29日。雨のち曇り。最低6度C。最高8度C。
午後6時。
室温12.6度C。昨日と比べるとかなり寒いのだが、ガス漏れ警報器ちゃんが住居から出ていた。
3月30日。曇り一時雨。最低4度C。最高13度C。
3月31日。曇り時々晴れ。最低3度C。最高8度C。
4月1日。雨。最低4度C。最高9度C。
4月2日。雨のち曇り。最低9度C。最高11度C。
4月3日。雨時々曇り。最低度7C。最高9度C。
4月4日。晴れ時々曇り。最低5度C。最高15度C。
午前11時。
オニグモの7ミリちゃんがいた場所から5メートルくらいの所でオニグモの円網を見つけた。別の子だと思いたいが、引っ越しできない距離でもない。当面は観察を続けるようだな。
午後1時。
あちこちのコブシ(多分)が見頃になっていた。平安時代には和歌にこの花を添えて目当ての女性に贈ったのだそうだ。これが「男ならコブシで語れ」ということわざの由来らしい。〔嘘つくな!〕
レンギョウも咲いていたが、モクレンは散り始めている。
木造ガレージの近くには脱皮したばかりらしいゴミグモがいた。横糸が1本もない円網には脱皮殻もある。これもゴミリボンの材料にするんだろう。
ホトケノザの群落の中を徘徊性らしいクモが2匹歩きまわっていた。卵囊をお尻の後端に付けていたからコモリグモの仲間だと思う。動きが速いので撮影し損なった。残念。
ああっと、雨だ。帰ろう。
午後11時。
オニグモの7ミリちゃんと体長4ミリほどの子が円網を張り終えていた……のだが、2匹とも住居へ戻ってしまった。今の気温は多分5度Cくらいのはずだから、獲物がかかるはずもない。明日の夜まで張りっぱなしにして、昼間のうちにかかる獲物に期待しているんだろう。
その場合、夜明け前に張り替えた方がいいのは当然なのだが、気温が下がる前に張り替えてしまおうと考えたんじゃないかと思う。ということは、この2匹は気温はまだ下がると予想したということになってしまうわけだが……「クモのような下等生物が未来予測の能力を持っているはずがない」という人は本能のプログラムだと思っていればいいだろう。作者はSF者なので、あり得る範囲内で最も面白い可能性を採用してしまうけどね。
なお、4ミリちゃんの円網は「張り直さない無こしき網」だった。
枯れ葉の下にいた体長10ミリほどのワラジムシを捕まえた。これはマダラヒメグモの右前隅ちゃんにあげよう。
4月5日。晴れ一時雨。最低2度C。最高15度C。
午前10時。
オニグモの7ミリちゃんと4ミリちゃんの円網は張りっぱなしになっていた。
午後5時。
マダラヒメグモの右前隅ちゃんはワラジムシを食べ終えたらしかった。
午後8時。
オニグモの7ミリちゃんと4ミリちゃんが張り替えていない円網で待機していた。
7ミリちゃんの円網には体長10ミリほどのワラジムシを投げ込んであげる。粘球が劣化しているのでワラジムシが落下してしまうのだが、何回かやり直しているうちに円網にかかったので捕食してもらえた。
4ミリちゃんの円網には体長5ミリほどの甲虫を投げ込んだのだが、4ミリちゃんは獲物に近寄るだけで、またホームポジションに戻ってしまう。獲物が暴れるので「危険だ」と判断しているのらしい。そのうちに甲虫は円網から外れてしまった。そこで同じくらいのワラジムシを投げ込んだのだが、これは円網を突き抜けてしまう。張り替えてからでないと無理なようだ。
午後11時。
オニグモの4ミリちゃんが円網を張り替えてていたので体長10ミリほどのワラジムシを投げ込んだのだが、やはり突き抜けてしまう。オニグモの円網は横糸の間隔が広い。つまり、大きな翅を持つ飛行性昆虫を捕らえるための網である上に、幼体の糸は細いのでしょうがない。うまく引っかかるまでやり直した。なお、この子はお尻の頭胸部側に白い班があるのでオニグモで間違いないだろう。
7ミリちゃんにはその白い班がないのだが、多分オニグモだと思う。
すべてのオニグモがこの白い班を持っているということなら何らかの機能がある可能性が出てくるのだが、あったりなかったり、お尻の背面の頭胸部側に1個だけだったり、お尻の側面に数個ずつだったりと、一定のパターンが見られない。もしかすると「あんなの飾りです!」という程度のものなのかもしれない。
その近くに円網を張っていた体長15ミリほどの子の白い班がない子にもワラジムシをあげておく。せめてアリがいてくれれば、脚が長い分、円網にかかりやすいんだけどなあ……。
体長3ミリほどのオニグモ体型の幼体も現れた。この子の円網も横糸の間隔が広いからオニグモ属かヒメオニグモ属のクモだろう。
体長8ミリほどのズグロオニグモ(ズグロオニグモ属)も円網を張っていた。
4月6日。曇り一時雨。最低9度C。最高19度C。
午前11時。
とうとうマダラヒメグモの左前隅ちゃんも住居から出てきた。獲物をあげる必要があるかもしれない。
なお、今はガス漏れ警報器ちゃんだけが住居にこもっている。
午後3時。
インターネットに接続してみたら、画面の隅に「サルのギャングが子犬を盗んでいるー何が起こったかみてください!」「AND MORE」というキャプション付きの動画が表示された。これが実にバカバカしくて笑えるのである。何しろこの「サル」は2本の前肢で子犬を抱えて、3本の後肢で歩いているのだ! 尻尾の後端も壊死したように垂れ下がっているから、サルが哺乳類であることを知らないAIがねつ造した動画なんだろう。そのサイトに掲載されているいかにも写真のような画像も、よくよく見るとAI特有の癖が見える。やれやれ……。ウェブ上の情報は信用してはいけない時代が始まっているようだ。
ああっと、念のために言っておくと、作者はAIの使い方なんか知らないし、そうまでして嘘をつくだけの理由もないから『クモをつつくような話』に書いてあることは信じてもらっていいよ。明らかに冗談だとわかること以外は、だが。
午後5時。
マダラヒメグモの左前隅ちゃんの不規則網に落ち葉の下にいた体長5ミリほどの甲虫を落とし込んだ。しかし、左前隅ちゃんは住居から出てきたものの、獲物に近寄ろうとしない。3ミリほどの体長なのだから、もっと積極的に捕食してもいいだろうに……。もしかして、この子は雄なんだろうか?
午後6時。
左前隅ちゃんはいかにもやる気がない様子でのたくらのたくらと獲物に糸を投げかけている。どうしようもないくらい食欲がないのらしい。
4月7日。晴れ一時雨。最低10度C。最高17度C。
午前10時。
スーパーの東側では体長1.5ミリほどの子グモが7匹、直径20センチくらいの円網を張っていた。何グモかまではわからないが、大きさが揃っているから卵囊内で越冬した子たちだと思う。
午後2時。
ヤマザクラも含めてあちこちのサクラが見頃になっていた。
体長7ミリほどのハエを捕まえた。後でオニグモの15ミリちゃんにあげよう。
ふと気が付くと、西の空が黒い雲に覆われていた。その下では雨も降っているようだ。帰ろう。
午後9時。
オニグモの15ミリちゃんは円網を張り替えていなかったので、ハエはすでに張り替えていた7ミリちゃんにあげた。
4ミリちゃんも張り替えていたのだが、ガードパイプのポールを挟んで隣に体長3ミリほどのオニグモも円網を張っていた。カップル成立という可能性もあるかもしれない。
4月8日。晴れ。最低3度C。最高20度C。
午前9時。
オニグモの15ミリちゃんは上半分だけになっていた円網を回収して住居へ戻ったらしかった。3ミリちゃんやズグロオニグモたちも円網を回収していたが、7ミリちゃんと4ミリちゃんは張りっぱなしだ。こういう行動の違いがなぜ生じるのかわからない。夜行性に移行するつもりなんだろうか?
マダラヒメグモの左前隅ちゃんのお尻はほとんど球形になっていた。それでも住居から出ているんだが……。
午前10時。
あちこちでアリの群れが巣の入り口の補修を始めたようだ。
午後11時。
オニグモの15ミリちゃんは足場糸を張っているところだった。寝付けないようだったらアリをあげよう。
7ミリちゃんと4ミリちゃんと3ミリちゃんは円網を完成させていたので、それぞれ体長7ミリほどのアリ、体長5ミリほどの鞘翅が硬い甲虫、同じくらいの鞘翅が柔らかいゴキブリ体型の甲虫をあげたのだが、そこで気が付いた。3ミリちゃんが体長5ミリほどの細長い体型になっている。頭胸部の先端も黒い。なんてこった! こいつはズグロオニグモじゃないか。
改めてよく見ると、4ミリちゃんの円網の外でウロウロしているのが3ミリちゃんらしい。
この季節、ズグロオニグモはオニグモよりも早い時間帯に円網を張る。先に円網を張られてしまうと「退きなさいよ!」とは言えなくなってしまうのらしい。そういう意味では24時間営業も正解だと言えるだろう。
4月9日。晴れ。最低5度C。最高20度C。
午前1時。
オニグモの15ミリちゃんが横糸を張り終えていたので、体長7ミリほどのアリをあげた。15ミリちゃんは直接牙を打ち込み、円網から引き抜いてから捕帯を巻きつけていた。ほとんど身動きしないほど衰弱した獲物だったせいだろう。
午後3時。
道路脇の空き地にオオアラセイトウ(ムラサキハナナ)が咲いていた。この控えめな紫色の花は個人的に好きなのだが、菜の花のようにそこら中に咲いてはいない。残念。
午後8時。
オニグモの15ミリちゃんが円網を張り替えていた。昨日の獲物をもぐもぐしている様子だったのだが、冷蔵庫に入れておいた体長7ミリほどのハエをあげてしまう。
7ミリちゃんは足場糸を張リ始めたところだった。これでは手の出しようがない。
4ミリちゃんは張り替えていない円網で待機していたので、体長7ミリほどのアリをあげた。
問題は3ミリちゃんで、ガードパイプの切り口辺りでじっとしている。昨日の乗っ取り事件を気にしているのかもしれない。
乗っ取り犯のズグロオニグモはその近くで獲物をもぐもぐしていたので、近くのツツジの上に移動してもらう。ここはオニグモのカップルの方を優遇するべきだという判断である。
4月10日。曇り。最低7度C。最高20度C。
午前1時。
オニグモの7ミリちゃんが横糸を張り終えていたので、体長5ミリほどのアリをあげた。
3ミリちゃんは「動かざること山のごとし」を続けている。かなりのショックだったのだろう。それでも引っ越しはしたくないのらしい。
残ってしまったアリは持ち帰ってガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に落とし込んだ。獲物がほとんど身動きしないので捕食するかどうか迷っている様子だが、アリは不規則網に引っかかっているので、その気になれば食べてもらえるだろう。
午前10時。
15ミリちゃんの円網は指2本分くらいの部分だけが残されていた。24時間では食べきれないほどの獲物がかかったからなあ。
4ミリちゃんは円網を張り替えたらしかったのだが、3ミリちゃんは円網を張らなかったようだ。かなりのシマウマだったんだろう。〔トラウマだ!〕
それでも引っ越しをする様子はなかったから、異性と出会う機会はそれほど重要なのだろう。ただし、重要なのは3ミリちゃんにとってのみ、という可能性もある。
午後8時。
オニグモの15ミリちゃんが横糸を張っているところだった。この子の円網張り替え時間は日没側へ移動し続けている。このままだと来週中には日没前に張り替えることになってしまいそうだ。〔んなわけ……ないとは言えないかもしれない〕
15ミリちゃんには体長7ミリほどのアリをあげておく。
7ミリちゃんの近くには体長3ミリほどのオニグモ体型のクモが円網を張っていた(以後「3ミリBちゃん」と呼称する)。賑やかな季節になったものだ。
元祖3ミリちゃんが円網を張っていた場所には体長5ミリほどのアシナガグモの仲間と体長2ミリほどのオニグモ体型のクモがいた。こういうことになるから、とっとと円網を張れと言っているのに……。〔オニグモ語でなければ通じないだろ〕
4ミリちゃんは張り替えていない円網で待機している。
4月11日。雨時々曇り。最低12度C。最高20度C。
午前1時。
雨は降っていないが路面は濡れている。
オニグモの4ミリちゃんが円網を張り替えていたので、体長5ミリほどのゴキブリ体型の甲虫をあげた。
3ミリちゃんはガードポールの切り口辺りにたたずんでいる。
午前10時。
オニグモの15ミリちゃんが円網を回収していた。もしかすると「夜間にも獲物がかかる季節になった」と誤解して、夜行性に移行するつもりなのかもしれない。まあ、それもまた面白いのだが。
午後3時。
『日高敏隆 ネコの時間』を読んでいたら「動物の予知能力」の章に「秋、カマキリが高い所に卵を産むと、その冬は雪が深い、とか」という話が出てきた。カマキリは「……秋、来たるべき冬の雪の深さを予知して、それに応じた高さの所に卵を産むというのである」のだそうだ。面白そうなので「カマキリ 卵囊 雪」で検索してみると、土木学会論文集の酒井興喜夫・湯沢昭著『地理的特性を考慮した最大積雪深予測の実際―カマキリの卵ノウ高さによる方法―』という論文が見つかった。
これは10ページもある立派な論文で、グラフや表を見ると確かにカマキリの卵囊の高さと最大積雪深さには関係があるように見える……のだが、何回か読み返しているうちにおかしな点がいくつかあるのに気が付いた。
第一に、この言い伝えは、ただ単に雪の下に隠れている卵囊は見えなかったというだけのことではないのか? 作者には「蛇に睨まれた蛙」ほどの論理的整合性が感じられない。
第二に、この「カマキリ」は何カマキリなのかがわからない。これでは追試もできない。まあ、土木屋さんに昆虫の知識を求めてはいけないのかもしれないが。
第三に、「カマキリの卵ノウ高さに関する観測データ」の項には「冬には枯れてしまうような草や低木に生み付けられた卵ノウは冬季間雪に埋もれてしまうことが多いため、調査の対象とはならない」と書かれているのだが、産卵の時点では雪に埋もれていないのだから、このデータを切り捨ててはいけないのではないかという気がする。
ちなみに『カマキリの卵の位置で分かる雪との関係の秘密』というサイトには「……カマキリの卵の位置とその年の降雪量にはなんらの関係性もないという学説もあります。実際の研究からも、カマキリの卵を雪に埋もれた状態で孵化をさせたところ、実に98%の赤ちゃんカマキリが孵化したという研究結果もあり……」などと書かれている。卵囊は卵や幼体を保護するためのものなのだから雪に埋もれた程度のことで孵化率が下がったりはしないだろうし、雪が融けてから出囊するのでなければ獲物もいないだろう。つまり、この2人は自分たちにとって都合のいいデータだけを採用しているわけだ。
第四に、この論文では卵囊の高さと積雪の深さの関係式に対して3段階の補正を行っている。補正を加える度にグラフ上の点の分布が直線に近づいていくのだが、これは最大積雪深さの予測値の妥当性を上げるための「改ざん」にあたるのではないか?「年度が新しいほど重相関係数が上昇しているが、これは前年度の結果を参考に卵ノウ高さの計測方法やその修正方法を改良した結果である」としているし。まあ、この程度は論文の説得力を上げるテクニックのうちなのかもしれないが……。
この論文は表やグラフや数式が並んでいて、いかにも論文らしい論文なのだが、中身は夏休みの小学生レベルであるような気がする。この程度の「ただ論文形式で書かれているというだけの文書」は、より説得力のある論文が発表されることで忘れられていくことになるだろう。土木学会でも科学的な考え方が通用するならば、だが。
午後5時。
スーパーの南側で体長2.5ミリほどの羽虫が6匹かかっている直径20センチくらいの円網を見つけた。主はいなかったからオニグモの幼体の円網だと思う。
午後11時。
オニグモの15ミリちゃんは足場糸を張っているところだった。
問題は3ミリちゃんで、今日も体長2ミリほどのオニグモの幼体に円網を張られてしまっていた。こうまで積極性がないということは、急いで成長する必要がない雄なのかもしれない。
4月12日。晴れ時々曇り。最低8度C。最高17度C。
午前8時。
スーパーの南側で体長3ミリほどのマルゴミグモを見つけた。網はもちろん水平キレ網だ。
スーパーの西側にも体長3ミリほどのゴミグモが3匹いた。
4月13日。曇りのち雨。最低9度C。最高12度C。
午前3時。
オニグモの15ミリちゃんはガらしい獲物を食べていた。
7ミリちゃんと4ミリちゃんも円網を張り替えていた。
3ミリちゃんだけは今日もガードパイプの下でじっとしている。脱皮するんだろうか?
午前11時。
半分しか残っていない15ミリちゃんの円網にはサクラの花びらが一枚かかっていた。
7ミリちゃんの円網には体長3ミリほどの羽虫が1匹。
午後1時。
吉田伸夫著『この世界を科学で眺めたら』を読み終えた。数学や理論物理学はちょっと手に負えないのだが、この本に関しては2つの点で得るものがあった。
まず「最先端科学は間違いばかり」の項では「素粒子論や宇宙論では、後に誤りだと判明する「最新学説」が実に多い。と言うか、単純に初出の論文数で比較するならば、むしろ誤っている学説の方が多いくらいだ。新しい論文を読んで知識をアップデートしたつもりでいると、恥をかきかねない」のだそうだ。論文に書かれているのはあくまでも仮説でしかないのだから鵜呑みにしてはいけないのだな。
さらにその先には、注意しなければならないケースとして「同じ考えを持った人ばかりが仲良しグループのように集まっていると、学説の検討が充分批判的にならず、おかしな方向に研究が進んでしまうこともある。ときには、後に誤りとわかる主張が十年以上にわたり画期的な学説として喧伝され、論文やレビューのみならず、一般向けの書物まで出版されたりする」と続く。
「そうした例は、素粒子論の分野で目に付く」中略。「特に有名なのが、1960年代の靴ひも(ブーツストラップ)理論と、80~90年代の超ひも(スーパーストリング)理論だろう」と書かれている。
なんとまあ、「紫外線を反射する隠れ帯は昆虫を誘引する」論文のようなデタラメはクモ学世界だけではなかったのだなあ。
もっとも、超ひも理論などは「……使われる数学があまりに難しく、習熟した専門家にしか理解できない」らしいのに対して、隠れ帯の誘引効果説は作者のような素人が簡単な実験をしただけで嘘だとわかるような幼稚なペテンだが。
この本の最後の方では現代科学の問題点も指摘されている。
「最近の科学者たちは、自分の研究している分野にしか興味を抱かないようだ。その原因は、業績評価の仕組みにあるのかもしれない。就職や地位を左右する業績評価が「執筆した論文が他の研究者からどれくらい引用されるか」という被引用数を基準として行われるため、どうしても仲間内で引用し合える範囲の研究ばかりやるようになる」のだそうだ。
ということは、仲間ではない研究者にも賄賂を贈ることによって数百、数千の引用数を稼げば、だれでも簡単に超一流の論文屋さんになれてしまうわけだ。〔やるなよ。不正行為だぞ〕
念のために補足すると、サイエンスやネイチャーのようなトップクラスの論文誌に掲載されると評価が一気に上がるのらしい。ということは、編集者たちに賄賂を贈って――。〔やめんかい!〕
いずれにせよ、作者のような貧乏人が書いた論文が評価されることはないというわけだな。どうせ評価されないのなら、論理的・科学的に正しい論文をどんどん発表してやるのも面白いかもしれないなあ。
4月14日。雨のち晴れ。最低13度C。最高22度C。
午前10時。
スーパーの南側にルリチュウレンジがいた。ハチの仲間だが、幼虫はイモムシ型でツツジの葉を食べて育つので害虫扱いされているらしい。
午後10時。
オニグモの15ミリちゃんの姿はなかった。何かするつもりなのかもしれない。
7ミリちゃんと4ミリちゃんは張り替えていない円網で待機している。空腹ではないようだ。
3ミリちゃんは今夜もガードパイプの下。
4月15日。晴れ時々雨。最低12度C。最高21度C。
午前4時。
オニグモの15ミリちゃんは25センチ×12センチくらいの細長い円網(?)を張っていた。体長も17ミリほどになっているから脱皮したんだろう。
7ミリちゃんと4ミリちゃんも円網を張り替えていたので、それぞれ体長7ミリほどと4ミリほどのアリをあげておく。
珍しくガス漏れ警報器ちゃんが住居から出ていたので、体長12ミリほどのワラジムシをあげた……のだが、少し弱らせすぎたのでガス漏れ警報器ちゃんは住居に戻ってしまった。まあ、気が向いたら食べてもらえるだろう。
午後8時。
オニグモの15ミリちゃんはサザンカの葉の下にたたずんでいた。さほど空腹ではないわけだ。
7ミリちゃんと4ミリちゃんは新しい円網を張り始めたところだった。
ああっと、雨が降ってきた。帰ろう。
うちを出た時には降っていなかったので油断してしまった。ちなみに「あなたは油断したのですか?」を英訳すると「Did you dan?」になる。〔英語じゃねえ!〕
午後10時。
ガス漏れ警報器ちゃんがアリとワラジムシの食べかすを捨てていたので、箸で取り除いた。しかし、アリやワラジムシを上から落とすと、ほとんどの場合、不規則網に引っかかるのに、マダラヒメグモが捨てた食べかすは確実に床まで落ちるのだよなあ。おそらく、獲物がかかる場所と食べかすを捨てる場所は明確に区別されているんだろう。
4月16日。晴れ。最低6度C。最高20度C。
午後2時。
今日も風が強いので桜吹雪の中をサイクリングである。
リンゴの花も咲き始めていた。花びらの白とつぼみのピンクの対比が美しい。
午後4時。
後輪のタイヤの一部が膨らんでいた。ゴム層の下のナイロンコードが切れ始めているということだ。交換しよう。
午後5時。
玄関にいるマダラヒメグモ2匹が住居から出ていた。「お帰りなさいませ。ご主人様」と言われているような感じだ。後でダンゴムシをあげよう。
午後6時。
どうもおかしいと思って血圧を測ってみたら90と56まで下がっていた。この状態で浴槽に浸かると脳貧血になる可能性が高い。シャワーを浴びるだけにする。
午後8時。
小さめのダンゴムシを1匹ずつ、玄関のマダラヒメグモ2匹にあげた。さすがに球形になったダンゴムシには手が出せない様子だが、団子がほどければ、その隙間から牙を打ち込めるだろう。
4月17日。晴れ。最低5度C。最高23度C。
午後7時。
『クモはなぜ糸をつくるのか?』を読み終えた。この本の表紙には訳者と監修者の名前しかない……と思ったら、著者のレスリー・ブルネッタとキャサリン・L・クレイグの名前は下の方に小さく書き込まれていた。なんと、著者よりも訳者や監修者を大事にしているのだ! 本文でもクモが捕食しているものを「餌」と表記しているから監修者の好みが反映されているんだろう(原文ではおそらく「prey」(獲物)が使われていたと思う。外国人研究者は「bait」(餌)と「prey」(獲物)をきちんと使い分けていることが多いのである)。
ここまでやったら「改ざん」になってしまうような気もするのだが、まあ、それはよしとしよう。
目次の次には「監修のことば」があって、監修者が「隠れ帯の誘引効果」について、直接クレイグにインタビューしている。
「……私は「なぜあんな魅力的な仮説を思いついたのですか?」と聞いたところ、“Just watching”という単純明快な返事が返ってきた」のだそうだ。
やれやれ……。見ているのなら「隠れ帯には誘引効果などない」ことがわかってもいいだろうに……。監修者も含めてクモの論文屋さんというものは、自分が見たいものは実在していなくても見えるし、見たくないものは眼の前にあっても見えないのだろうな。もっとも作者は汚れなき眼を持っているという保障もないわけだが。
※日本におけるクモの生態学の世界では、クモが捕食しているものを「餌」と表記することが多い。日本人研究者は毎日、まったく抵抗することのない草や動物の死骸などを食べている。そのために「クモが食べているものも餌である」と思い込んでいるのだろう。
それに対して海外の研究者は、クモが捕食している昆虫やアフリカのサバンナで生きているライオンが捕食しているヌーなどの捕食されまいとして逃げたり、時には反撃したりする動物は「獲物である」と認識しているんだろう。もちろん、これは作者が知っている範囲内では、という話だが。
4月18日。晴れ時々曇り。最低8度C。最高24度C。
午前4時。
オニグモの15ミリちゃんはサザンカの枝葉の前に直径20センチくらいの円網を張っていた。食欲はなさそうだが、体長5ミリほどのアリをあげておく。〔迷惑だな〕
7ミリちゃんも円網を張り替えていたので、体長7ミリほどのアリをあげる。
4ミリちゃんは縦糸を張り始めたところだった。おそらく、夜まで張りっぱなしにするはずだ。
問題児の3ミリちゃんは今日もガードパイプの側面にたたずんでいる。しかも3ミリちゃんの円網があった場所では体長2.5ミリほどのオニグモの幼体(多分)が縦糸を張り始めている。その他にもっと小さいクモ2匹が近くにいる。つまり、半径20センチの範囲内に5匹のクモがいるという状態である。この場所には何か特別な魅力があるようだ。
午前10時。
オニグモの2.5ミリちゃんだけは円網を回収したらしかった。この程度の体長なら夜行性に移行できる気温になったということなのかもしれない。
午後1時。
光源氏ポイントの歩道の隅を緑色のアブラムシが1匹歩いていた。近くなら歩いて分散することもあるのかもしれない。ついでに言ってしまうと、群れがある程度大きくなると引っ越しを考える子が現れるんじゃないかとも思う。
体長1ミリほどのオレンジ色の子グモを27匹見つけた。もちろん、何グモの幼体なのかはわからない。
午後2時。
森の中に1匹だけ残っているコシロカネグモの体長は3ミリほどになっていた。
脱皮したばかりらしいゴミグモもいた。当然、横糸は張っていない。
サングラスにマルカメムシがとまってしまったので、停車して吹き飛ばした。こんな小型のカメムシでも危険を感じると臭腺から臭い分泌液を飛散させる能力を持っているらしいので油断は禁物なのだ。
午後3時。
オオシマザクラやヤマザクラが見頃になっていた。
オドリコソウポイントではオドリコソウはもちろん、タツナミソウらしい薄紫色の花も咲いていた。ちなみに、どちらもシソ科の花だ。
光源氏ポイントに戻ってみると、オレンジ色の子グモが2匹だけ残っていた。網か、あるいは糸を張ってその糸に乗っているようだ。
作者は、ジョロウグモの幼体には母親が生きていた環境を受け継ぐことを許された少数のエリートと、存在するかどうかも定かではない新天地を目指して一か八かの旅に出るその他大勢の鉄砲玉がいるという仮説を提唱しているのだが、この2匹の子グモもエリートなのかもしれない。
午後5時。
今日も玄関のマダラヒメグモ2匹が「お帰りなさいませ」をしてくれた。作者は好きなように生きられる一人暮らしが好きなのだが、家族がいる生活というのも良いかもしれない。
午後8時。
オニグモの3ミリちゃんが脱皮していた。住居から出ても円網を張らずにウロウロしていたのは脱皮の準備だったのだなあ。
ゴミグモの幼体は横糸を張らない、コガネグモの幼体は隠れ帯をX字形にする、そしてオニグモの幼体は円網そのものを張らない。これらはすべて「獲物を食べたくない」という意思表示だと思う。ただ、今のところ、ジョロウグモだけはいきなり脱いでしまう――。〔「脱皮」と言え!〕
もとい、脱皮してしまうように見える。もしかすると、作者が気付いていないというだけで、ジョロウグモも意思表示をしているのかもしれない。まあ、クモの神様がその気になれば見せていただけるはずだ。その時まで観察を続けよう。
15ミリちゃんと4ミリちゃんは張り替えていない円網で待機していた。
4月19日。晴れ時々曇り。最低12度C。最高25度C。
午前2時。
オニグモの15ミリちゃんは前日よりも一回り小さめの円網を張っていた。とはいえ、横糸の間隔は狭くなっているので、糸の使用量はたいして変わらないかもしれない。
オニグモは本来、開けた場所に見えにくい円網を張る。これは、そこを飛び抜けようとする飛行性昆虫をインターセプトするための網だろう。今の15ミリちゃんのように腹面側に枝葉がある場所に円網を張ったのでは、基本的にそこで翅を休めようと思っている獲物しかかからないはずだ。ということは、サザンカの枝葉の前の円網というのは、獲物がかかりすぎるので少し減らそうという網なのだろう。それなら獲物を与えないようにすれば、また開けた場所に円網を張るようになるかもしれない。しばらくの間はサボることにしよう。
7ミリちゃんは円網を回収していた。
4ミリちゃんは張り替えていない。
3ミリちゃんが円網を張るのは明日以降になりそうだ。変温動物の場合、気温が下がるのは時間が流れる速度が低下するのと同じことになるのだろう。
午前4時。
眠れない。肩の腹面側と腹筋と骨盤の背面側と腿の腹面側が痛い。〔漢字が多いな〕
今日は1日休むことにする。
午後5時。
災害時用の備蓄食料をチェックしたら水もカロリーメイトも賞味期限が2020年だった。買い換えよう。
午後8時。
オニグモの15ミリちゃんがサザンカの横で縦糸を張っているところだった。ちゃんと間違いに気が付くところが偉い。冷蔵庫に体長9ミリほどの甲虫が入っているから後であげよう。
午後10時。
流し台の下端に体長1ミリほどの子グモがいた。マダラヒメグモのヒメちゃんの子かもしれない。
午後10時。
オニグモの15ミリちゃんが直径40センチくらいの円網を張っていた。甲虫をあげておく。
マダラヒメグモの右前隅ちゃんの不規則網に体長12ミリほどのダンゴムシを落とし込んだのだが、不規則網を突き抜けてコンクリート面まで落ちてしまった。まあ、歩きまわってくれれば、粘球糸に触れて吊り上げられるだろう。
ちなみに、右前隅ちゃんのお尻は黒っぽいのに対して、左前隅ちゃんのお尻は赤っぽいのだが、これは個体差だと思う。別種ということはあるまい。
血圧を測ってみたら176と103だった。自己最高をマークしたかもしれない。
4月20日。曇りのち雨。最低15度C。最高25度C。
午前11時。
オニグモの15ミリちゃんが張りっぱなしにしていった円網には体長2ミリほどの羽虫が6匹かかっていた。暖かいのだなあ。
7ミリちゃんは円網を回収したらしかった。数本の糸しか残っていない。
その近くには体長4ミリほどのオニグモの幼体が円網を張っていた(以後「4ミリBちゃん」と呼称する)。きれいな円網だから、夜中以降に張ったんだろう。体長7ミリほどのアリをあげておく。
4ミリちゃんは円網を張りっぱなし。
3ミリちゃんも円網を張った様子がない。
午後1時。
光源氏ポイント近くの森の中ではアマナが咲き始めていた。民家の垣根ではゴンゴドウダンツツジも咲いている。〔「ゴンゴ」は付かない〕
光源氏ポイントで鳥の巣を見つけた。ボウル形で外径9センチ、内径6センチくらいだからスズメくらいのサイズの鳥のものだろう。ただし、スズメは人家を利用して営巣するらしいので除外される。
森の中には木の股部分に不規則網を張っている体長1ミリほどのクモがいるのだが、どうも成長している様子がない。何グモなのかもわからないからどうでもいいことなんだが。
アヤメも咲いていた。ちなみにアヤメの花期は5月頃で、カキツバタは5月から6月、ノハナショウブが6月から7月だそうだ。作者は「いずれがアヤメかカキツバタ、いざ尋常にショウブショウブ」という憶え方をしている。またアヤメは乾いた環境を好み、カキツバタとノハナショウブは湿地に生えるという違いもある。
車道と歩道を分ける境界ブロックの南側にはテントウムシのサナギが2個付いていた。
午後5時。
ガス漏れ警報器ちゃんに体長15ミリほどのダンゴムシをあげたのだが、かなりの大物なので近寄るだけで仕留めようとしない。それでも、5分くらい後にダンゴムシが身動きを始めると糸を投げかけるガス漏れ警報器ちゃんだった。
午後10時。
オニグモの15ミリちゃんは古い円網のホームポジションにいた。
7ミリちゃんは姿を見せていない。
4ミリちゃんも4ミリBちゃんも古い円網で待機している。
4月21日。晴れ一時雨。最低1 1度C。最高21度C。
午前2時。
オニグモの15ミリちゃんだけは円網を張り替えたらしかった。その右半分には鱗粉らしいもので汚れていたが、15ミリちゃんは獲物を食べてはいない。逃げられたんだろう。
「そんなこともあるさ、オニグモだもの」
午前9時。
オニグモの15ミリちゃんを初めとして、スーパーの東南の角の半径3メートルの範囲内にいるすべてのオニグモたちが円網を回収していた。もしかすると、一斉に夜行性に移行するのかもしれない。もしもそういうことであるならば、この子たちは同じ移行スイッチを使っているということになる。おそらくは積算温量を使っているのだろう。あるいは「そろそろ夜行性に移行しようよ」「そうだね」「そうしよう。そうしよう」と話し合いで決めているか、だな。〔んなわけ……ないとは言いきれないが、体長の数百倍離れた所にいる個体同士が会話する方法が必要になるぞ〕
…………。
ガス漏れ警報器ちゃんがダンゴムシを捨てていたので、回収して2つに割ってみると、外骨格の中は空っぽだった。最大でも9時間で完食である。ただし、もともと可食部分が少ないだけとか、大型の獲物だと食べ方が雑になるなどの可能性も否定できない。
午後1時。
あちこちの森の縁ではヤマフジらしい薄紫の花が咲き始めていた。
木製ガレージの周辺には張りっぱなしのオニグモの円網が3枚あった。ここはまだ夜行性に移行する時期にはなっていないのらしい。
ガレージのコンクリート面には体長2ミリから3ミリほどの緑色のアブラムシが33匹ウロウロしていた。その他にマダラヒメグモかオオヒメグモの不規則網にも1匹かかっている。
午後3時。
光源氏ポイントにはハエトリグモが3匹いた。
ゴミグモの幼体も数が増えた。体長8ミリから10ミリほどの子たちも越冬を終えたようだ。
その中に白い隠れ帯を付けている体長5ミリほどの子がいたので、同じくらいのアリを円網に投げ込んであげたのだが、近寄って脚先でチョンチョンするだけで捕帯を巻きつける様子もない。アリが暴れ続けているので「危険だ」と判断しているのらしい。もう少し弱らせてからあげるべきだったなあ。まあ、アリが暴れ疲れておとなしくなれば食べてもらえるだろう。
堤防の上の舗装路にはアオダイショウらしいヘビがいた。黒いアスファルトは陽が当たると温度が上がりやすいので体温を上げるのに便利なのだろう。ただ、車道でこれをやると、車に轢かれることになるんだが……。
堤防の内側には雄のキジ1羽と雌2羽のカップル……とは言えないな……トリプルがいた。〔「トリオ」じゃないか?〕
午後8時。
オニグモの15ミリちゃんはサザンカの枝葉の中にいた。7ミリちゃんと4ミちゃんと3ミリちゃんは糸の下にぶら下がっている。この4匹についてはあまり食欲がないと見ていいだろう。
円網を張っていたのは体長4ミリほどの幼体2匹だけだった。おそらく、越冬を終えた子たちだろう。それぞれ「4ミリCちゃん」と「4ミリDちゃん」と呼称するが、めんどくさいようなら存在を無視するかもしれない。この2匹にはそれぞれ体長5ミリほどのアリをあげておく。
午後11時。
オニグモの15ミリちゃんはサザンカの枝葉の中。7ミリちゃん、4ミリちゃん、3ミリちゃん、4ミリBちゃんは糸の下にぶら下がっている。この子たちが円網を張るのは明日の日没後になるだろう。24時間張りっぱなしのシフトから完全な夜行性に移行するのは大変なのだ。
4月22日。晴れのち曇り。最低7度C。最高22度C。
午前7時。
スーパーの東南の角にいるオニグモたちは全員円網を回収していた。4ミリCちゃんも4ミリDちゃんも夜行性に移行するべき時期であることを理解していたということになるかもしれない。
午後8時。
スーパーの東南の角で円網を張っていたのは4ミリCちゃんと4ミリDちゃんだけだった。他の子たちは……食べさせすぎだということなんだろうなあ。
体長12ミリほどのハエを捕まえた。手を洗わなくちゃ。
午後11時。
オニグモの3ミリちゃんが円網を張っていた。脱皮を挟んで12日間絶食していたことになる。体長5ミリほどのアリをあげておく。
4月23日。雨時々曇り。最低14度C。最高16度C。
午後5時。
雨は小降り。赤紫のツツジが咲き始めた。
スーパーの東南の角ではオニグモの3ミリCちゃんだけが水滴でいっぱいの円網で待機していた。空腹なんだろうが、雨がやむまでは何もできない。
午後9時。
オニグモの3ミリちゃんが円網を張っていた。体長7ミリほどのアリをあげておく。
4ミリ以上の子たちはまだ円網を張っていない。
スーパーの東側では2ミリ、南側では2.5ミリほどのオニグモの幼体が円網を張っていた。
4月24日。曇り時々晴れ。最低15度C。最高20度C。
午前10時。
空き地ではブタナが咲き始めていた。花はタンポポそのものなのに「ブタナ」ではかわいそうである。「セイタカタンポポ」くらいにしておいて欲しかったな。
スーパーの東南の角では体長2ミリから4ミリほどのオニグモの幼体4匹が円網で待機していた。ああもう!「オニグモは一斉に夜行性に移行する」仮説が成り立たなくなってしまったじゃないかあ。なんでこういうことをやるかね、あんたらは。〔仮説を立てなきゃいいだろ〕
4月25日。曇り。最低13度C。最高20度C。
午前11時。
スーパーの東南の角に2匹、東側にも2匹のオニグモの幼体が円網で待機していた。体長は2ミリから5ミリほどだ。
どうなっているんだ、これは? もしかして、3月に越冬を終えるグループと4月まで遅らせるグループが存在しているのか? そうであれば命を繋いでいける確率が上がるような気もする。ただし、その場合はだらだらと連続的に目覚めていった方がいいはずだが、そうなると制御が複雑に鳴ってデメリットが上まわることになるのかもしれない。
これは同じ母親の子グモたちを越冬させて、いつ越冬を終えるかを観察すれば検証できるだろう。もちろん、作者はやらないが。
なお、越冬明けのオニグモの幼体は24時間営業をするという仮説は否定できないと思う。今のところは、だが。
オニグモの3ミリちゃんは円網を張りっぱなしにしたまま住居に戻ったらしかった。円網で待機するほど空腹ではないということなんだろう。
4月26日。晴れ一時雨。最低11度C。最高17度C。
4月27日。晴れのち曇り。最低7度C。最高25度C。
午前11時。
なんとなく覗いてみたら、ガス漏れ警報器ちゃんが卵囊を2個造っていた。産卵祝いをあげなくては。
午前11時。
ガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に体長7ミリほどのアリを少し弱らせてから落とし込んだ。ガス漏れ警報器ちゃんは糸を投げかけている。
オオヒメグモやマダラヒメグモの場合、獲物を吊り上げようという時には粘球糸を「投げつける」というか、近寄って「取り付ける」のだが、獲物の抵抗を封じようという時には「投げかける」のような気がする。まあ、それはいいとして、「つ」と「か」の一字違いというのは紛らわしい。できれば間違えにくい用語にして欲しいものだな。
右前隅ちゃんと左前隅ちゃんにもお裾分けのアリをあげておく。
午後1時。
ガス漏れ警報器ちゃんと右前隅ちゃんはアリに口を付けていたのだが、左前隅ちゃんは獲物を仕留め損なったらしかった。空腹ではないので「逃げられてもいい」と判断したんだろう。
午後6時。
ガス漏れ警報器ちゃんの姿が見えない……と思ったら、アリの食べかすが捨ててあった。おそらく、ガス漏れ警報器の中に戻ったんだろう。細め体型の獲物だが、体長で2倍近いアリを数時間で完食である。とんでもない消化能力だ。
ああっと、そこに入り込まれると故障の原因になるかもしれないなあ。まあ、その時は交換すればいいと思うが。
午後7時。
スーパーの東南の角では体長3ミリほどのオニグモの幼体2匹だけがきれいな円網で待機していた。それぞれ体長5ミリほどのアリをあげる。
片方の子は必殺円網切りで円網を獲物に被せてから捕帯を巻きつけていた。
ここには体長20ミリほどのオナガグモの幼体もいた。オナガグモはクモを食べるクモなので、クモ口密度が高ければ、それだけ暮らしやすいわけだ。作者としてはいて欲しくないクモなのだが。
午後11時。
玄関の左前隅ちゃんはアリを食べていない。不規則網の大きさも右前隅ちゃんの3分の1くらいだ。この食欲の無さまで個体変異で説明していいんだろうか?
4月28日。曇りのち雨。最低12度C。最高20度C。
午前2時。
マダラヒメグモのヒメちゃんが残していった2個の卵囊から子グモたちが出てくる様子がない。もしかすると、マダラヒメグモは卵囊内で越冬する能力を持っていないのかもしれない。5月末まで待っても出囊しないようなら回収して保管しよう。
午前11時。
スーパーの東南の角で、上下が7センチくらいに潰れてしまった円網で待機しているオニグモの幼体を見つけた。7ミリちゃんがいた場所から1.5メートルくらいの場所だし、体長も同じくらいだから引っ越しをしたのかもしれない。同じくらいの体長のアリをあげた……のだが、知らん顔をしている。引っ越しをしたのだし、昼間から待機しているのだから食欲がないとは思えない。潰れた円網では獲物が起こした振動が伝わりにくいんだろう。と思っていたら、ちゃんと獲物に近寄って捕帯を巻きつけ始めた。
春先は何かとおかしな行動をするクモが多いので面白い。論文屋さんは一定のパターンを観察した方が論文を書きやすいのだろうけどね。
4月29日。晴れ一時雨。最低12度C。最高22度C。
午前11時。
雨は夜中過ぎにやんだらしい。
スーパーの東南の角ではオニグモの4ミリBちゃん(多分)が獲物をもぐもぐしていた。まったくもう……。オニグモは夏場以外は「夜行性である」とは言い切れないからやっかいだ。
4ミリちゃんと3ミリちゃんは仲良く円網を残していた。
午後1時。
シオカラトンボの雄が1匹飛んでいた。この時期、まだ雌はいないだろうに。
光源氏ポイントの奥の森の中では体長2ミリほどのオレンジ色のクモが円網を張っていた。
午後6時。
マダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に体長10ミリほどのダンゴムシを落とし込んだ。すると、左右の第四脚を交互に使って糸を巻きつけるんだ、これが。うーん……脚の長さには関係なく、上から落ちてきた獲物に対しては糸を巻きつけるんだろうかなあ……。もちろん、粘球糸によって吊り上げられた獲物には粘球糸を取り付けて、さらに上へ吊り上げるんだろうけど。
午後11時。
スーパーの東南の角で円網を張っているオニグモは1匹もいなかった。
玄関の右前隅ちゃんの不規則網に体長10ミリほどのワラジムシを落とし込んだ。ダンゴムシだと不規則網に引っかからないことが多いのだ。コンクリート面まで落ちてしまうと食べてもらえないのである。
不規則網に引っかかった獲物に対して、右前隅ちゃんは左右の第四脚の間に引き出した糸をお尻ごと振り出すようにして糸を投げつけている。これは粘球糸かもしれない。ああもう! パターンが見えないじゃないかあ。
ええと……ワラジムシはダンゴムシより積極的にもがくから、動きを抑制する効果がより高い粘球糸を使っている……のかなあ……。
ガス漏れ警報器ちゃんはダンゴムシに口を付けている。
4月30日。晴れ。最低7度C。最高22度C。
午前3時。
気温9度C。寒い。
体長10ミリほどに成長したオニグモの4ミリちゃんが円網で待機していた。
隣の3ミリちゃんも住居から出てはいるが、円網を張る様子はない。
午前10時。
残されていた4ミリちゃんの円網に、そこらで捕まえたハエを取り付けておく。食べるも良し、食べぬも良し。
3ミリちゃんは今日も円網を張らなかったようだ。まあ、まだ4月だし、急いでオトナになる必要もないんだろう。
午後1時。
水田の脇のポンプ小屋の屋根の下でオニグモの卵囊を2個見つけた。
作者が今まで見てきたオニグモの卵囊はすべて人工物に取り付けられていたんだが、人間が建物を造る前はいったいどんな場所で産卵していたんだろう? まさか、人間が住居を造るようになってから生まれた種だなんてことはあるまいが。
光源氏ポイントの近くでは1匹のゴミグモが脱皮していた。しかし、風が強いのでうまく撮影できない。5回シャッターを切ったのだが、そのうち4カットは被写体ブレしていた。ああっと、マダラヒメグモの左前隅ちゃんも脱皮の準備を始めているという可能性もあるかもしれないなあ。
カーブの外側に立てられている矢印看板の裏には体長4ミリほどのコガネグモの幼体が円網を張っていた。隠れ帯が下側に2本付けられているから、越冬明けにいくらか獲物を食べられた子だろう。
午後3時。
別の場所でもコガネグモの幼体を2匹見つけた。体長は5ミリほどと3.5ミリほどで隠れ帯はなし。
午後11時。
オニグモの3ミリちゃんが横糸を4本張ったところで休憩していた。日付が替わるまでに完成するかもしれない。
隣の4ミリちゃんはボロボロになった円網にたたずんでいる。
15ミリちゃんの姿は見えない。脱皮するのか、引っ越してしまったのかだろう。
5月1日。晴れのち曇り。最低12度C。最高21度C。
午前1時。
オニグモの3ミリちゃんが円網を完成させていたので体長7ミリほどのゴキブリの子虫を投げ込んだ……のだが、ゴキブリのツルツルの外骨格は粘球の効きが悪いし、横糸の間隔も広いので円網にかからない。しょうがない。体長12ミリほどのアリをあげておく。
隣の4ミリちゃんは縦糸を張り始めたところだった。明日の夜中まで張りっぱなしにして無人営業……もとい、無クモ営業をするつもりらしい。
午前11時。
4ミリちゃんの円網に体長7ミリほどのアリを少し弱らせてから投げ込んだ……途端に4ミリちゃんが住居から飛びだして、ホームポジション経由でアリに駆け寄り、捕帯を巻きつけ始めた。店番をしていたわけだ。
この時期、夜間の気温はかなり低下する。その中を飛べる昆虫は多くはないだろう。昼間に狩りをした方が効率がいいわけだ。しかし、本来夜行性のオニグモにとって、それは大きなリスクを伴う。となると、円網を張りっぱなしにして、より安全な住居内で店番しているのがベストな妥協点になり得るわけである。この場合、獲物にたどり着くまでの時間が少し長くなるので逃げられることも多くなるはずだが、その程度は容認できるのだろう。
さてさて、作者は「すべての動物は生存に必要なだけの知性を持っている」という考え方をしている。例えば昆虫の脳が小さいのは、第一に食い物はあるか、第二に交尾する相手はいるか、第三に危険はないか程度の判断ができればいいからだろう。今いる場所が気に入らないのなら他の場所へ飛んでいけばいいわけだし。
それに対してクモには翅がないし、呼吸能力も昆虫ほど高くはない。そうなると、今いる場所の環境に合わせて生き方を修正した方が合理的であることが多くなるわけだ。例えば緊急に円網の面積を広げる必要がある時には網を半円形にしたり、片手鍋のように突起が付いた円網にすることもある。この辺りは直立二足歩行を始めてしまったために逃げ足が遅くなり、捕食されないためには頭を使うしかなかっただろうヒトとよく似ている。
ああ、そうか。作者がクモに惹かれるのは、その生き方がヒトに似ているからだったのだな。ただ……地球環境を破壊し尽くすほどの知性を獲得してしまったのは間違いだと思うが。
マダラヒメグモの左前隅ちゃんはドアを開けてもまったく反応しない。やはり脱皮するんだろう。身動き出来ないほどの体調不良でないなら、だが。
5月2日。雨のち曇り。最低15度C。最高18度C。
午前1時。
オニグモの3ミリちゃんが円網を張り替えていたので、そこらで捕まえた体長5ミリほどの甲虫をあげた。
隣の4ミリちゃんは古い円網にたたずんでいる。
15ミリちゃんはサザンカの枝葉の中。
体長5ミリほどになっているマダラヒメグモの右前隅ちゃんの不規則網には体長10ミリほどのダンゴムシを落とし込んだ。
そこで気が付いた。不規則網の奥に体長4ミリほどのマダラヒメグモがいる! これはお婿さんに違いない……と思ったのだが、『日本のクモ』を開いてみると、マダラヒメグモの雄はもっと細めの体型らしい。ということは、引っ越しの途中で立ち寄っただけの雌なんだろうか? しかし、右前隅ちゃんも追い出すような素振りを見せていない。うーん……マダラヒメグモは排他的な性格ではないということなんだろうかなあ……。ああっと、『日本のクモ』に載っているのは雌を訪ねて三千里の旅をするうちに痩せ細ってしまった雄という可能性もあるかもしれない。
午前3時。
今さらだが、うちのマダラヒメグモ3匹は全員、腹面を上にして、水平からややお尻を下げた姿勢で待機している。しかし、これは合理的ではない。マダラヒメグモは吊り上げ式の狩りを基本としている。それなら頭胸部を下に向けていた方が対応しやすいはずだ。そうしないということは、もっと優先するべき要素があるのかもしれない。今のところ、それが何なのかはわからないが。
午後7時。
マダラヒメグモの新顔ちゃんの姿が見えない。……と思ったら、左前隅ちゃんの不規則網の端に侵入していた。
クモ学では「円網は基本的に使い捨てだが、不規則網は円網よりも多くの糸を必要とするので補修しながら使い続ける」というのが定説になっている。それほどコストがかかっている不規則網へ侵入するというのは許されることではないのだろう。
午後10時。
マダラヒメグモの新顔ちゃんはコンクリート面の壁際にいた。どうも左前隅ちゃんにも追い出されたのらしい。
5月3日。晴れ一時雨。最低14度C。最高22度C。
午前2時。
マダラヒメグモの新顔ちゃんは左前隅ちゃんの不規則網を通り抜けて、もう1匹のマダラヒメグモがいた場所に落ち着いていた。
午前11時。
オニグモの4ミリちゃんがいるところから3メートルくらいの場所で、体長5ミリほどのオニグモが円網で待機していた。新顔なのか、4ミリBちゃんからDちゃんまでの1匹が引っ越したのかはわからない。
午後1時。
ヤマフジが見頃を迎えていた。
ジョロウグモの女王様――語呂が悪いなあ――の卵囊の中に何者かが潜り込んでいたので、枯れ枝を使って掘り出してみたらマルカメムシだった。マルカメムシは主にマメ科植物の汁を吸うらしいので、おそらく住居として利用していたんだろう。悪いことをしてしまった。
4月30日に脱皮していたゴミグモは円網に楕円形の隠れ帯を付けていた。ゴミがまだ用意できていないんだろう。
道路標識の裏にマダラヒメグモがいた……と思ったらオオヒメグモだった。詳しく調査したわけではないが、街中ではマダラヒメグモが優勢で、郊外ではオオヒメグモが多いような気がする。
午後2時。
道路脇で甲羅の長さが120ミリほどのカメがひっくり返っていたので起こしてあげたのだが、甲羅が割れていて、そこにアリの群れが入り込んでいた。頭部をツンツンしても反応がないから死んでいるようだ。車に轢かれたんだろう。合掌。
午後3時。
光源氏ポイント近くの森の中にいるコシロカネグモは体長7ミリほどになって、何かを食べている様子だった。
田植えに備えて水を入れられた水田にカモのカップルがいた。カモにしろ、サギにしろ、撮影するためにロードバイクを停めると離れていってしまうのでやっかいだ。
午後4時。
送電線の鉄塔で営巣しているカラスのカップルを見つけた。
午後6時。
マダラヒメグモの新顔ちゃんは、また左前隅ちゃんの不規則網に入り込んでいる。とにかく自分で網を張る気はないのらしい。
「それでもマダラヒメグモですか、軟弱者!」
もしかすると、この子は雄なのかもしれない。雄にしてはお尻が丸すぎるような気もするんだが……。
午後10時。
マダラヒメグモの左前隅ちゃんの不規則網に体長5ミリほどのガを投げ込んでみた。これは言うまでもなく軽い獲物である。当然、左前隅ちゃんは左右の第四脚を交互に使って糸を投げかけている。
データはまだ少ないのだが、マダラヒメグモは獲物の重さによって「糸を投げかける」と「糸を投げつける」を使い分けているようだ。左右の第四脚を交互に使う「投げかけ」の場合は獲物との間合いが近い状態を維持する必要があるのに対して、同時に振り出す「投げつけ」の場合は、投げつける瞬間には間合いを詰める必要があるものの、糸を引き出す段階では離れていられる。その分、安全度は高くなるはずだ。
5月4日。晴れ。最低13度C。最高19度C。
午後11時。
マダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃんが3個目の卵囊の最終仕上げをしていた。おめでとう。後で何かあげよう。
玄関の新顔ちゃんは左前隅ちゃんの不規則網に入り込んだままだ。この子にも何かあげてみようかねえ……。
5月5日。晴れのち曇り。最低8度C。最高21度C。
午前1時。
マダラヒメグモの新顔ちゃんの近くに体長7ミリほどのダンゴムシを落とし込んでみたのだが、まったく反応しない。ダンゴムシは駆け寄ってきた左前隅ちゃんが仕留めてしまった。
というわけで、新顔ちゃんはオトナの雄なんじゃないかと思う。ただし、触肢の膨らみ(移精器官)は確認していない。体長5ミリ足らずのクモの触肢なんか見えやしないのだ。
検索しても何もヒットしなかったのだが、マダラヒメグモの雄は徘徊しながら複数の雌と交接ができるのだと仮定すれば新顔ちゃんの行動を説明しやすいと思う。つまり、オトナの雄である新顔ちゃんはまず右前隅ちゃんと交接し、今は左前隅ちゃんがオトナになるのを待っているというわけである。この仮説を検証するのには新顔ちゃんを殺して、その触肢をルーペで観察すればいいわけだが、それは作者がやるべきことではあるまい。
午前11時。
体長15ミリほどのワラジムシをガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に落とし込んだ……のだが、ガス漏れ警報器ちゃんは住居に逃げ込んでしまった。かなり大型の獲物なので「危険だ」という判断をされてしまったのらしい。
スーパーの南側には枯れ草色のクビキリギスがいた。日光浴をしているようだ。節足動物にとってはまだまだ低めの気温なのかもしれない。
午後1時。
光源氏ポイントの草地には体長10ミリ弱ほどのコガネグモの幼体がいた。お尻の背面はすでに黄色と黒の横縞模様になっている。隠れ帯は待機位置にもやもや型と下側に2本。体長5ミリほどのアリをあげておく。
同じようなもやもや型の隠れ帯を付けている体長10ミリほどのゴミグモもいた。越冬明けの子だろう。
気が付いたらコンパクトカメラのレンズキャップがない。探しても見つからない。やれやれ……。予備のレンズキャップを使うようだな。
午後4時。
ガス漏れ警報器ちゃんの不規則網にガガンボを落とし込んだ。ガス漏れ警報器ちゃんは住居から素早く飛びだして、いったんはガガンボの脚先に糸を投げかけたりしたものの、すぐに獲物の頭部近くにたどり着いていた。安全に仕留められると判断するとここまで積極的になるのだなあ。
ついでに言ってしまえば、どうしてそこが脚でも翅でもないことがわかるんだろう?
午後6時。
スーパーの東側の植え込みでは、体長7ミリほどのヤエンオニグモらしいくすんだオレンジ色のクモが横糸を張っているところだった。おそらく、去年現れたヤエちゃんの子だろう。とりあえず今年の「ヤエちゃん」と呼ぶことにする。
円網に体長5ミリほどのアリを投げ込むと、ヤエちゃんは円網の端まで逃げたのだが、「安全だ」と判断するとアリに近寄って捕帯を巻きつけ始めた。
5月6日。雨時々曇り。最低14度C。最高15度C。
午前6時。
ヤエンオニグモの幼体のヤエちゃんは円網を回収して住居へ戻ったらしかった。
スーパーの東南の角では、体長3ミリほどのオニグモの幼体らしいクモが縦糸を張っているところだった。オニグモの「夜行性」というのはその程度のものなのである。
5月7日。曇りのち晴れ。最低13度C。最高22度C。
午後10時。
ヤエンオニグモのヤエちゃんが円網で待機していた。円網がだいぶ汚れているから、もっと早い時間帯に張り替えたんだろう。体長5ミリほどの甲虫を投げ込むと、ヤエちゃんは少し捕帯を投げかけた後、獲物の下で円網を切り開いてそこに入り込み、バーベキューロールで捕帯を巻きつけていた。
オニグモの4ミリちゃんは住居から出たところでウロウロしている。引っ越しを考えているような感じだ。3ミリちゃんも姿を見せないから、3ミリちゃんがいなくなったので落ち着かないのかもしれない。
5月8日。晴れ時々曇り。最低11度C。最高20度C。
午前11時。
ヤエちゃんの円網が残されていた。穴が2つ開いているから、回収直前のタイミングで獲物がかかってしまったので回収しなかった、あるいはできなかったんじゃないかと思う。
「そんなこともあるさ、ヤエンオニグモだもの」
午後6時。
ヤエちゃんは横糸を張っているところだった。しかし、古い円網の残骸らしい紐状になった糸が2本残っているのに、それを回収せずに横糸を張ろうとしているようだ。「円網を回収するのは夜明け前」と決めているのかもしれない。意外に頑固なクモらしい。あるいは回収するのを忘れた……いやいや、その場合は古い円網の上に横糸を張っていくはずだなあ。
午後7時。
ヤエちゃんの円網には左上と右上の枠糸部分とこしき部分から斜め下に向かって紐状になった古い円網の残骸が残されていた。
新海栄一著『日本のクモ』の「ヤエンオニグモ」の項には「網にはオニグモ属には珍しくかくれ帯を付ける」と書かれている。しかし「ヤエンオニグモ」で検索して、ヒットした画像群を順にチェックしても隠れ帯特有のパターンらしいものが見当たらない。これらの画像の隠れ帯も古い円網の残骸だろう。
おそらく「隠れ帯」の明確な定義もまだないのだろうが、ヤエンオニグモのそれは、少なくとも横糸を張り終えてから付けたものではないという点でナガコガネグモやコガネグモの隠れ帯と同じものではないと思う(「ここに円網があります」とアピールするという機能は共通かもしれないが)。多分、論文屋さんは古い円網を回収したかどうかまでの観察はしないんだろう。
ヤエちゃんの円網には体長5ミリほどのアリを投げ込んでおく。
オニグモの15ミリちゃんと4ミリちゃんは住居の入り口辺りにたたずんでいる。円網を張るのはもう少し先になるかもしれない。
5月9日。曇りのち雨。最低10度C。最高21度C。
午前4時。
ヤエちゃんは円網を回収して住居へ戻るところだった。
オニグモの4ミリちゃんは円網を張り替えてから住居へ戻ったらしかった。やれやれ……またハズレだ。
午前10時。
民家の庭先で紫色のオダマキが咲いていた。おそらく栽培種だと思う。
午後4時。
マダラヒメグモの右前隅ちゃんと左前隅ちゃんの不規則網に、それぞれ体長10ミリほどのダンゴムシを投げ込んだ。2匹とも粘球糸によって吊り上げられた獲物をさらに吊り上げて、それから糸を投げかけている。やはり「投げつけ」にするか「投げかけ」にするかの判断基準は、獲物がどれだけ暴れるかにあるような気がする。
新顔ちゃんは左前隅ちゃんの住居から25センチくらいの場所にいる。もちろん、ダンゴムシにはまったく反応していない。
午後8時。
ヤエちゃんは姿を見せていない。絶食を始めたのかもしれない。あるいは雨が近いのを感じ取ったか、だな。
オニグモの4ミリちゃんは張り替えていない円網で待機していた。こっちは絶食の終わりが近いようだ。
台所に体長7ミリほどのアリがいたので、少し弱らせてからガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に落とし込んだ。
もうすぐ雨が降り出すらしい。
5月10日。雨のち曇り。最低15度C。最高21度C。
午後2時。
雨はやんだが曇っている。そのせいか、玄関先にダンゴムシが3匹いた。ということは、ダンゴムシは湿度が高い環境を好むのかもしれない。そうだとしたら、オオヒメグモやマダラヒメグモも夜間に狩りをするのが合理的であるわけだが、どうなんだろうかなあ……。
スーパーの東南の角付近では体長2ミリから5ミリほどのオニグモの幼体が数匹、張り替えた円網で待機していた。この子たちの場合は明るくないからだろう。
体長3ミリほどのマルゴミグモの水平円網には体長5ミリほどのアリを落とし込んだのだが、近寄るだけで仕留めようとしない。そのうちにアリは円網から外れて落ちてしまった。「大きすぎて危険だ」と判断したんだろう。また、水平円網は垂直円網に比べて大型の獲物を保持する性能という面では劣っているのも、安全に仕留められる小型の獲物を選別する機能に優れていると言えるかもしれない。
午後8時。
オニグモの15ミリちゃんがきれいな円網で待機していたので、冷蔵庫に入れておいた体長18ミリほどのガを円網に投げ込んだ……のだが、円網の端まで避難されてしまった。どうも、投げ込む時に力を入れすぎたのらしい。「こんな大っきいの無理!」というわけだ。
苦労して捕まえたガに逃げられては困るのでガをツンツンすると、さらに怖がって係留糸の上をサザンカに向かって歩き出ししまう。これはまずい。すべてがマーフィーの法則の記述通りに進行しているではないか。
そこで15ミリちゃんの前に指を置いて通せんぼする。さらに向きを変えた15ミリちゃんのお尻をツンツンして円網の方へ戻らせる。これでうまくいく……と思ったら大間違い! 15ミリちゃんは円網を通り過ぎて、反対側のサザンカの葉の上に落ち着いてしまったのだった。もはやこれまで。是非もなし。
「人間五〇年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり……」
敦盛を謡いながらスーパーでティッシュペーパーを買い、それから戻ってみると、15ミリちゃんはガを咥えていた。クモの神様のお導きに従えば何もかもうまくいくのである。〔…………〕
同じく冷蔵庫に入れておいたガガンボは完全に力尽きていたので、体長3ミリほどのオニグモの幼体の円網に投げ込んだ。この子もいったんは近寄ったものの、またホームポジションまで戻ってしまった。この場合は「体長の7倍です!」という大物が円網に飛び込んできたのだから警戒するのは当たり前だ。まあ、安全だとわかれば食べてもらえるだろう。
午後11時。
ガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に体長7ミリほどのダンゴムシを落とし込んだ。ガス漏れ警報器ちゃんは獲物に近寄ってきたから、いずれは食べてもらえるだろう。
5月11日。晴れ一時雨。最低14度C。最高24度C。
午前11時。
ジャガイモの花が咲き始めていた。シランの花も見頃になっている。
マダラヒメグモの左前隅ちゃんの不規則網ではダンゴムシが3匹吊り上げられていた。ダンゴムシやワラジムシが活動的になるのは夜になってからのようだ。
午後1時。
光源氏ポイント近くの森の中で脱皮中のクモを見つけた。体長は15ミリほど。頭胸部はごく薄い茶色でお尻はやや濃いめの茶色。脚は乳白色。徘徊性のクモのような体型だが、何グモなのかまではわからない。イエユウレイグモのように本来の体色になるまで数日かかるという可能性もあるし。
カーブの外側の矢印看板の裏ではジョロウグモの子グモたち(多分)がまどいを形成していた。他のまどいは見当たらなかったから、光源氏ポイント周辺では今年最初のジョロウグモのまどいのようだ。つまり、この子たちは「ファーストチルドレン」である。〔そんなこと言うなよ〕
このまどいは大きな集団が2つとその周囲にばらばらと数匹の子グモたちがいて、少し離れたところにも4匹が密集している。そして、20センチくらい離れたところにはオオヒメグモがいる。体長8ミリほどのオオヒメグモにとって1ミリほどの子グモは食べやすいサイズのはずだ。ちょっとまずいかもしれない。
光源氏ポイントにはゴミグモの雄成体が2匹いた。木造ガレージの近くにも1匹。今年も夏が来るのだなあ。
ペダルに引っかけたら、脛の皮膚が縦5センチ、横3センチくらいの範囲で剥がれてしまった。最近は擦り傷にならずに剥がれてしまうことが多いのである。これもおそらく老化なのだろう。剥がれた皮膚を引っ張って傷口に被せて走り続ける。シャワーを浴びる時には大判の絆創膏を貼るようだな。
午後10時。
オニグモの15ミリちゃんが円網を張っていたので、体長8ミリほどのハエをあげておく。
マダラヒメグモの右前隅ちゃんの不規則網にもダンゴムシを転がし込んだのだが、何事もなかったように歩いて出てきてしまった。どうも粘球糸を張り替えていないようだ。しょうがない。もう一度捕まえて、不規則網の上から落とし込む。うまく網に引っかかれば食べてもらえるのだ。コンクリート面まで落ちてしまうと、そのまま忘れられてしまうけどね。
5月12日。雨のち曇り。最低15度C。最高17度C。
午前4時。
ガス漏れ警報器ちゃんの3個の卵囊のうち、向かって左側の1個の内部がかなり黒っぽくなっている。これが最初の卵囊なんだろう。他の2個も内部の色が濃いめになりつつある。
午前11時。
マダラヒメグモの左前隅ちゃんはダンゴムシ3匹を食べ終えたらしかった。そこで問題になるのはダンゴムシの食べかすを1個ずつ捨てずに、3匹を食べ終えてからまとめて捨てたようだという点だ。
おそらくだが、マダラヒメグモが食べかすを捨てる時には、その獲物を吊り上げていた糸を切るのではないかと思う。この時、複数の獲物がかかっていると、食べ終えた獲物だけを捨てるつもりで糸を切ったら、まだ食べ終えていない第二、第三の獲物まで落としてしまうということもあり得るだろう。したがって、複数の食べかすをまとめて捨てる個体は1個ずつ捨てる個体よりも有利になる可能性があるわけだ。それはわずかな差かもしれないが、数万年、数十万年もの間、わずかな差を積み重ねていけば、淘汰が成立しても不思議はないだろう。
なお、マダラヒメグモは吊り上げられるか、不規則網にかかるかした獲物以外は捕食しないようだ。これも淘汰の要因になっただろう(不規則網から出て捕食するようになったら「徘徊性のクモ」になってしまうし)。
まあ、これはあくまでも、過去においてそういう進化が起こったとしての仮説ではあるが。
午後6時。
ガス漏れ警報器ちゃんの卵囊が4個になっていた。
5月13日。晴れ時々曇り。最低12度C。最高23度C。
午前1時。
オニグモの15ミリちゃんが円網を張り替えていたので、体長7ミリほどのハエを投げ込んだ。で、15ミリちゃんは今日も円網の外へ逃げてしまった。食欲がないのに獲物を投げ込まれるのは迷惑なんだろう。とは言っても、冷蔵庫に入れたハエの生存期間はせいぜい2日でしかないのだ。まあ、ハエを捕まえなければいい、という話ではあるのだが。
午前6時。
スーパーの東側で体長7ミリほどのヤエンオニグモの幼体が獲物をもぐもぐしていた。今年のヤエちゃんにしては体長が変化していないような気もするのだが、とりあえず「ヤエちゃん」ということにしておこう。
そこから1.5メートルくらいのところにも体長4ミリほどのヤエンオニグモの幼体が獲物をもぐもぐしていた。この子はヤエちゃんの妹だろう。〔んなわけあるかい!〕
まあ、雄かもしれないのだが、「ヤエちゃんB」と呼んでおくことにしよう。雄だったら「ヤエ君」かな。
オニグモの15ミリちゃんは円網を残したまま住居へ戻ったらしかった。
午前10時。
ガス漏れ警報器ちゃんが住居から出ていた。これはわかりやすい。
しかし、食欲があるからといって獲物をあげ続けると、今年もクモ屋敷になってしまいそうなんだが……。
午後1時。
光源氏ポイント近くの矢印看板の裏のジョロウグモのまどいは1個になっていた。その周囲には多数の脱皮殻が残されている。
街灯にもジョロウグモの子グモ(多分)が22匹いた。セカンドチルドレンである。〔…………〕
ちなみに綾波レイはクローンだから複数形の「チルドレン」でいいとして、一人しかいないアスカやシンジは単数形の「チャイルド」を使うべきだったんじゃないだろうか?〔劇中に出てこないだけで、アスカやシンジも複数存在しているという設定だったんだろ〕
なるほど。
22匹のうち12匹は密集していて、他の子たちは街灯の周りに引き回された糸の中にばらばらにたたずんでいた。
午後2時。
木造ガレージの近くには体長7ミリほどのコシロカネグモ(多分)がいた。
午後9時。
ガス漏れ警報器ちゃんに体長15ミリほどのダンゴムシをあげた。
午後10時。
玄関の右前隅ちゃんにもダンゴムシをあげた。どうもこの子は吊り上げ式の狩りに積極的ではないようなので、右前隅ちゃんから5センチくらいの位置に体を伸ばしたダンゴムシを落とし込む。食べてもらえる確率はその方が高いのである。
5月14日。晴れ時々曇り。最低12度C。最高24度C。
午前10時。
スーパーの東側に横糸を張っていない体長4ミリほどのゴミグモがいた。脱皮の準備だと思う。
午前11時。
玄関先で体長20ミリほどのアリを拾ってしまった。かなり弱っているようだが、触角だけは動かしている。見なかったことにするわけにもいかないので、ダンゴムシを食べ終えていた右前隅ちゃんの不規則網に落とし込んだ。右前隅ちゃんは住居から出てこないが、気が向いたら食べてくれればそれでいい。
近所の舗装路脇ではヒルガオが咲いていた。
「ヒルーの街にガオー♪」〔今時の子は知らないぞ、『鉄人28号』なんか〕
午後1時。
光源氏ポイントでジョロウグモの3番目のまどいを見つけた。サードチルドレンである。ただ、このまどいは地面から40センチくらいのところにあった。これほど低い位置にあるまどいを観察したのは初めてかもしれない。
ここには体長12ミリほどのゴミグモも2匹いた。1匹は雄にマークされているようだ。
タデ科のスイバかギシギシには体長10ミリほどの細め体型のカメムシが20匹くらい群れていた。そのうちの4ペアは交尾していたようだ。
午後3時。
堤防の内側の草地にはキジの雄が2羽いた。
田植えが済んだ水田にもカモのカップルやサギ(コサギ?)が入り込んでいる。
午後4時。
玄関の右前隅ちゃんはアリに食いついていた。
午後10時。
オニグモの15ミリちゃんが円網を張っていたので、そこらで捕まえた体長5ミリほどのガを投げ込んだ。15ミリちゃんが獲物に向かってスタートするのが少し遅かったのは、あまり空腹ではなかったということなんだろう。
午後11時。
大変だ! マダラヒメグモの新顔ちゃんが頭胸部を右前隅ちゃんの方へ向けている。これはもしかすると、右前隅ちゃんもまだオトナになっていなかったということなのかもしれない。
おそらく新顔ちゃん(「新顔君」と呼ぶべきかもしれない)は左前隅ちゃんの方が先にオトナになりそうだと判断していたものの、ここまで来て右前隅ちゃんの方が先になりそうなのに気が付いたのだろう。
作者も右前隅ちゃんにいくら獲物をあげても産卵する様子がないのでおかしいなと思ってはいたのだが、これは『そして誰もいなくなった』クラスの見事なトリックだなあ。〔ただ単に間抜けなだけだろ〕
5月15日。曇り時々晴れ。最低14度C。最高22度C。
午前2時。
マダラヒメグモの新顔君は左前隅ちゃんの方に向き直っていた。「前門の嫁さん、後門のお妾さん」という状態である。しかも、この2匹と交接した後はまた、雌を訪ねて三千里の旅に出られるわけだ。うらやましい。〔寿命が尽きるまで原則的に絶食なんだぞ〕
午前4時。
そーっと覗いて見てみたら、ガス漏れ警報器ちゃんの卵囊が4個になっていた。いつ産卵したんだろう?
午後8時。
ヤエンオニグモのヤエちゃんは真新しい円網で待機していた。
オニグモの15ミリちゃんは古い円網を回収しているところだ。
4ミリちゃんと3ミリちゃんは姿を見せていない。4ミリちゃんについてはウロウロしていたことがあるし、しおり糸も1本残されていたから引っ越しをしたんだろうと思う。
5月16日。曇り時々晴れ。最低16度C。最高25度C。
午前4時。
体長15ミリほどのダンゴムシをガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に落とし込んだ。ガス漏れ警報器ちゃんは住居から出てきてダンゴムシに糸を投げかけている。ダンゴムシは球形の防御姿勢を取っているが、ガス漏れ警報器ちゃんはダンゴムシが防御姿勢をゆるめるのを待って牙を打ち込むだろう。
なお、ジョロウグモはこの「待つ」ということができないらしくて、一度だけダンゴムシを円網に投げ込んだ時には球形になったダンゴムシに何回か牙を打ち込もうとした後、円網から外して捨ててしまった。食べられるものであることはわかるようだが、牙が滑ってしまって背甲を貫けないのらしい。〔ジョロウグモの円網にダンゴムシがかかることなどあり得ないだろ〕
午前5時。
曇っているせいか、ヤエンオニグモのヤエちゃんが円網で待機していた。そのお尻の腹面には白っぽい斑が2個ある。これはおそらく、夜間に飛ぶ昆虫に対して「私はここにいます」というメッセージになっているはずだ。円網越しであっても、コガネムシのような大型昆虫の体当たりを食らいたくはないんだろう。
オニグモの15ミリちゃんは円網を残して住居へ戻ったらしかった。
午前10時。
右前隅ちゃんはアリを食べ終えていた。お尻がまん丸になっている。
ガス漏れ警報器ちゃんはダンゴムシに口を付けている。
午後1時。
光源氏ポイントで5番目と6番目のジョロウグモのまどいを見つけた。
女王様の卵囊は中身がスカスカになっているような気がする。肉食昆虫に食われたのかもしれない。6月になったら内部を確認してみよう。そもそも1月に産卵ということは、交接できていなくて無精卵を産んだという可能性もあるだろう。
謎の卵囊が取り付けられていた常緑広葉樹の葉が見当たらない……と思ったら、枝ごと切り落として捨ててあった。まったく、人間どもときたら……。クモには生きる権利すらないのか!〔ないに決まってるだろうが〕
これは珍しいものなので、6月になるまで待ってから透明な容器に入れて保管しておこうと思う。
午後7時。
ガス漏れ警報器ちゃんはダンゴムシを食べ終えていた。やはり見た目の割に可食部分は少ないようだ。
5月17日。雨時々曇り。最低17度C。最高22度C。
午前6時。
マダラヒメグモの新顔君が体長2ミリほどの獲物に糸を投げかけていた。網の主である左前隅ちゃんが捕食しようとしないのをいいことに手を出したのらしい。
ということは、以前ジョロウグモで観察したように、主が次の獲物を仕留めている間にホームポジションに固定してあった食べかけの獲物を盗むということもあるかもしれない。……小型の獲物を2匹用意すれば検証実験ができるかなあ……。
午後10時。
マダラヒメグモの右前隅ちゃんの不規則網に体長10ミリほどのダンゴムシを落とし込んだのだが、ダンゴ無視されてしまった。〔…………〕
この子はお尻がもう少し小さくなるまで獲物を上げなくてもいいかもしれない。
ダンゴムシは回収して左前隅ちゃんの不規則網に落とし込んだ。
5月18日。曇り一時雨。最低20度C。最高27度C。
午前5時。
玄関に体長7ミリほどのワラジムシが現れたので、ガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に落とし込んだ……のだが、ワラジムシはダンゴムシよりも暴れるせいか、ガス漏れ警報器ちゃんは住居に戻ってしまった。しょうがない。もう一度捕まえてリリースしておく。
5月19日。雨のち曇り。最低15度C。最高17度C。
午前4時。
ガス漏れ警報器ちゃんの卵囊が5個になっていた。お尻がまるで別グモのように小さくなっている。
午後2時。
路面は乾き始めているのだが、寒い。
浴槽の中で体長5ミリほどのガが飛べなくなっていたので、救出してガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に落とし込んだ。〔……救われてない〕
マダラヒメグモもこういう危険度の低い獲物なら積極的に捕食するのである。
午後11時。
このところマダラヒメグモの右前隅ちゃんと左前隅ちゃんが住居から出て来ない。脱皮前の絶食に入っているのかもしれない。
5月20日。晴れ時々曇り。最低14度C。最高31度C。
午前11時。
スーパーの東側で円網に卵囊を2個付けているマルゴミグモを見つけた。小型のクモだと見落としも多いのである。
オトナになったばかりらしいゴミグモの雄も1匹いた。
午後3時。
多分ジョロウグモだと思うが、子グモたちの引っ越しを観察した。地上30センチくらいの草の葉の陰から1.3メートルくらいの二股になった枝を経由して、高さ1.6メートルくらいの木の葉の下まで糸を伝って移動していた。なお、草の葉の陰にも20匹から30匹くらいの子グモが残っている。
午後4時。
直径40センチほどのオニグモのものらしい張りっぱなしの円網には小さな羽虫が65匹かかっていた。夜間に十分な量の獲物を捕食できなかった場合には、夕方まで張りっぱなしにするのが正解になるようだ。
午後5時。
ガス漏れ警報器の下に赤黒い子グモたちが現れていた。数えにくいんだが、20匹はいるようだ。ガス漏れ警報器ちゃんの最初の卵囊の内部も空になっている。
なお、『クモ生理生態事典2029(編集中)編集/池田博明』というサイトのマダラヒメグモの項には「出囊まで29~44日〔畑守、いと20〕」という記述があるのだが、いつ出囊するかは温量指数(暖かさの指数)で決まると作者は思う。したがってこの数字は、少なくとも作者にとっては意味がない。論文を発表することそのものを目的としている論文屋さんなら別かもしれないが。
午後9時。
ガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に体長10ミリほどのダンゴムシを落とし込んだ。これくらいの獲物ならすぐに飛びついてくるようだ。
ヒメちゃんの卵囊はすべて回収した。残りの2個から出囊する見込みはないという判断だ。マダラヒメグモは卵囊で越冬する能力がないのか、あるいは、精子のストックが920個分しかなかったということなのかもしれない。
5月21日。晴れのち曇り。最低16度C。最高28度C。
午前4時。
4ミリちゃんらしいオニグモの幼体が円網で待機していたので、体長7ミリほどのアリをあげた。
15ミリちゃんは円網を張っていない。脱皮するんだろう。
スーパーの東側では体長3ミリほどのオニグモ体型のクモが横糸を張っているところだった。この程度の体長のクモ向きの獲物は体長2ミリから3ミリくらいの羽虫だろう。そんな小さな羽虫はこの季節の夜間には飛べないのかもしれない。日光浴で体温を上げて飛び始めた羽虫を狙うのなら、この時間帯に円網を張り替えるのが正解になるわけだ。
なお、作者が読んだすべての解説書では「オニグモは夜行性」とされていた。「オニグモの幼体はオニグモではない」ということなんだろう。10月頃に越冬前の食い溜めをしているオニグモもだ。
「論文は嘘80パーセント」と言われるくらいだから、信じる方が悪い、読まなければいい、という話ではあるのだが、論文屋さんは無責任な解説書まで書いてしまうのである。困ったもんだ。
とはいうものの、作者が観察したと思っているものも思い込みや見間違いである可能性を否定できない。読者の皆さんも『クモをつつくような話』に書かれていることに疑問を感じたならば、自分で観察するなり実験するなりして検証して欲しい。それが「科学」というものなのだから。
午前8時。
いつもと違う場所でロードバイクを停めてみたら、コガネグモ幼体を2匹とヤエンオニグモの幼体を6匹見つけてしまった。同じ事ばかりしていては見ることができないものもあるのだなあ。
午前9時。
草の葉の陰に残っていた小さなまどいの子グモたちはいなくなっていた。脱皮殻しか残っていない。そして地上から1.7メートルくらいの場所へ移動した多数派の子グモたちはまばらなまどいを形成している。
昨日バラけたまどいを形成していた子グモたちはというと、周辺に脱皮殻を残して密集したまどいを形成していた。ということは、バラけたまどいは脱皮の準備なのかもしれない。密集したまどいを人間に例えるなら満員電車の中のようなものだろう。その中で着替えをするのは無理があるから、一時的にバラけたまどいにしてその周辺部で脱皮し、脱皮が済んだらまた密集するというわけだ。
で、脱皮した子グモたちは獲物を食べることができるようになるので、脱皮が遅れる子グモたちは捕食されないように距離を取るのだろう。これこそ本当の「逃げまどい」。〔…………〕
ただし、なぜ一部の子だけが先に脱皮するのかがわからない。……エリートなのか? たった1日でも先に脱皮した方が有利になるんだろうか?
午後4時。
女王様の子グモたちもまどいを形成していた。ただ30匹くらいしかいないように見える。産卵が遅くなったせいか、あるいは多数派グループはすでに分散してしまったのかも……いやいや、それなら気が付くはずだと思うんだが……。
森の中のスギの枝葉に取り付けられている6個の卵囊の周辺にはまどいが見当たらない。陽当たりが悪い分、温量指数が基準値に達するのに時間がかかるんだろう。
午後7時。
ガス漏れ警報器の下にいる子グモたちは11匹になっていた。昔、萩尾望都先生の『11匹いる』という作品があって――。〔『11人いる』だ!〕
いないはずの11人目がいる宇宙船内を舞台に、若者たちが協力してサバイバルをするというストーリーだった。あれはいい作品だと思ったなあ。
ユニットバスのトイレットペーパーホルダーの近くにも体長1.5ミリほどの子グモがいた。水平方向に約40センチ、垂直方向に約65センチ移動したことになる。多分、斜めの経路をたどっただろうとは思うが。
5月22日。雨時々曇り。最低20度C。最高22度C。
午前1時。
ガス漏れ警報器の下にいる子グモは5匹になっていた。
ざっと見たところでは、床から10センチ以内の高さにいる子が5匹。15センチくらいの高さに1匹、トイレットペーパーホルダーの高さに1匹ということになる。アイガーの北壁ちゃんは次の卵囊の中にいるのかもしれない。〔予想すると外れるぞ〕
どの卵囊もヒメちゃんの卵囊より小さいから、子グモたちの数も少ないようだ。
午前11時。
スーパーの南側で体長7ミリほどのコガネグモの幼体を見つけた。お尻の背面はすでに黄色と黒の横帯模様になっている。
で、この子の隠れ帯が面白いのだ。片手鍋型とでも言おうか、ナガコガネグモの幼体のように、ジグザグ状の幅広の糸の束を円網の中央部に円盤状に取り付け、そこから左下方向へ隠れ帯が1本突き出しているのである。コガネグモ科のクモなんだから、あり得る形ではあるのだが、初めて見たぞ、こんなのは。
午後5時。
床から約80センチの流し台の縁に子グモがいた。その近くの約70センチの位置にも1匹。「マダラヒメグモの一部と煙は高い所ヘ上る」であるなあ。〔そんなことわざはない!〕
午後7時。
ガス漏れ警報器の下にいた子グモたちは全員旅立ったようだ。
5月23日。晴れ一時雨。最低15度C。最高19度C。
午前1時。
床から20センチ以上の高さにいるマダラヒメグモの子グモは1匹もいなくなっていた。
体長1.5ミリほどの子は高さ10センチくらいの不規則網を張ろうとしているようだ。同じくらいの体長で、すでに不規則網を完成させているらしい子もいる。不規則網を張るのは、出囊後に一度脱皮してからなのかもしれない。
午後1時。
光源氏ポイントの奥の森の中で体長10ミリほどのコシロカネグモ(多分)が体長20ミリほどのガガンボを仕留めていた。
その近くのスギの枝葉にはジョロウグモの大きなまどいが2個、小さなまどいが1個あった(いずれも密集型)。やはり、陽当たりのいい場所の方が早めに出囊するようだ。
と思ったら大間違い! 光源氏ポイントの落葉広葉樹の枝葉の中にも密集型の大きなまどいが2個あったのだ。うーん……葉が茂った分、陽当たりが悪くなったんだろうかねえ……。
ここには体長2ミリから2.5ミリほどのジョロウグモの幼体も数匹いた。全員単独で円網を張っている。まあ、まどいを形成したまま円網を張るわけにもいかないんだろうが。
女王様の子グモたちのまどいは2個になっていた。前回はまだ出囊の途中だったのか、あるいは見落としていたのかもしれない。面白いことに、数枚の重なった葉の上と下でまどいを形成していて、上のまどいは脱皮を始めているようだ。距離を取る代わりに障害物の陰に入ったということなのかもしれない。
午後3時。
殻の直径が20ミリほどのカタツムリを見つけた。こんな大きなカタツムリは最近では珍しい。
午後8時。
スーパーの東南の角にいる体長8ミリほどのオニグモ(多分4ミリちゃん)に体長20ミリほどのガをあげた。4ミリちゃんは何か食べているところだったらしいのだが、積極的に飛びついて牙を打ち込んでくれた。
ガス漏れ警報器ちゃんの不規則網には体長10ミリほどのダンゴムシを落とし込んだ。ダンゴムシは球形になってしまったが、その防御態勢を解いたら牙を打ち込まれて終わりだろう。
5月24日。曇りのち雨。最低14度C。最高19度C。
午前2時。
ガス漏れ警報器ちゃんはダンゴムシを仕留めたらしいのだが、食べていない。あまり空腹ではなかったのかもしれない。まあ、そのうちに食べてくれるだろう。
玄関の右前隅ちゃんの不規則網の端の辺りに体長2.5ミリほどのマダラヒメグモの子グモらしいクモがいた。出囊後に2回脱皮するとこれくらいになるのかもしれない。
なお、他のクモの網に居候するのには、その糸を食べられるというメリットがあるだろう。クモの糸はタンパク質の塊だし、網の主に襲われたら網の外まで逃げればいいだろうし。まあ、獲物を米飯に味噌汁とおかず3品に例えるならクモの糸はカロリーメイトというところだろうが、体長2.5ミリの子グモが確実に生きていくためには有効な選択肢であるのかもしれない。ある程度成長したら独立すればいいのだし。
※作者はカロリーメイトのボソボソした食感が苦手だ。栄養バランスよりも食べやすさを優先したい。
午前9時。
ガス漏れ警報器ちゃんの卵囊が6個になっていた。食事中に産気づいてしまったのらしい。今はダンゴムシに食いついている。
午前10時。
スーパーの南側にいるコガネグモの幼体の隠れ帯は、中央部に角の丸まった台形のもやもや型(少し小さくなってはいるようだ)と、向かって右下方向にジグザグ直線型になっていた。さらに中央部の隠れ帯とジグザグ直線の間に隙間がある。つまり、ハンドルの取れた片手鍋型である。これでは火傷してしまう。〔そういう問題か?〕
少なくともこの子にとっては、中央部の隠れ帯はジグザグ型でももやもや型でもいい、斜めの隠れ帯も左下でも右下でもいいということらしい(面積とか長さの変化は獲物である昆虫の視覚に対する影響が大きいだろうと思うが)。
キアゲハが風上に頭部を向けて横滑りするように飛んでいた。風速は3メートルから5メートルらしいので、人間にとってはさほど強い風ではないのだが、この子は低木の陰に入ったところでやっと前進できるようになったようだ。つまりキアゲハの飛行能力はその程度であるのらしい。翅が大きいだけに空気による摩擦抵抗も大きいのだろう。
午後8時。
春の夜に散歩すると、木からぶら下がっているイモムシをよく見かける。そこで「ぶら下がった幼虫」で検索してみると、「捕食者から逃げるため」と「移動のため」という説明が多かった。しかし、ぶら下がったイモムシたちが捕食者に追われているようには見えなかったし、移動する様子もない。ただぶら下がっているだけなのである。
そこでさらに検索を進めていくと『芋虫がアリの攻撃を避ける連続曲芸技を発見』という論文が見つかった。この論文によると、アリは糸でぶらさがった状態のコナガの幼虫を攻撃できないのらしい。
というわけで、イモムシがぶら下がっているのは捕食者対策であるようだ。ただし、夜間に限っては「攻撃されたから逃げる」のではなく、「攻撃を予防する」ためにぶら下がっているのではないかと思う。アリは夜間でも活動するから、あらかじめ攻撃されない状態にして休息するということなんだろう。
午後9時。
マダラヒメグモの右前隅ちゃんが住居から少し出ていた。脱皮はまだなのかもしれない。
5月25日。雨時々曇り。最低15度C。最高25度C。
午前10時。
スーパーの東側では体長2ミリから4ミリほどのオニグモの幼体7匹と体長7ミリほどのヤエンオニグモが円網で待機していた。おそらく、この子たちにとっては曇っているのは夜が明けていないのと同じなんだろう。そのうちのオニグモの幼体2匹は獲物を捕獲していた。
ツツジの花のピンク色のボケをバックにしてオニグモ幼体の写真を撮る機会などそうそうあるものではないので撮影を始めたのだが、こんな小さなクモはわずかな風でも揺れるのである。小雨も降ってきたので、構図はともかく、クモにそれなりにピントが合っているカットが何枚か撮れたところで諦めた。
午前11時。
ノートパソコンを載せているテーブルの脚付近に体長4ミリほどのマダラヒメグモの幼体らしいクモがいるのに気が付いた。いつからそこにいたのかわからない。
壁際にはもう1匹、体長2ミリほどの子がいて、その近くには小さな羽虫の食べかすが4個捨ててある。今年もクモ屋敷になる季節がやってきたようだ。
5月26日。曇り時々晴れ。。最低15度C。最高23度C。
午後1時。
光源氏ポイントの奥でジョロウグモの10匹くらいのまどいと標準的な大きさのまどいを1個ずつ見つけた。数メートルは離れているから分裂したまどいではないと思う。
女王様の子グモたちのまどい(多分)は1個になっていた。2個が合体したくらいの大きさだが、断言はしかねる。
街灯のセンサーの横にも小さなまどいが2個あった。周囲には脱皮殻もある。
5月27日。晴れのち曇り。最低14度C。最高20度C。
午前11時。
歩道でうずくまっているクマバチを見つけた。そこにいたのでは踏みつぶされてしまいかねない。とりあえず撮影して、プラスチックのカードに乗せて道端へ移動させようと思ったのだが、脚先が滑ってしまうらしくて乗ってくれない。そうこうしているうちに元気になったらしくて飛び去った。なによりである。
早ければ今夜にでも、黒いパンツを穿いたムッチリ体型の美女が訪ねてきて「私はあの時助けていただいたクマバチです」と――。〔刺されてしまえ!〕
スーパーの東南の角にはオニグモの4ミリちゃんの円網が残されていた。穴は開いていないから獲物はかからなかったんだろう。ということは、今夜は早めに張り替えるかもしれない。
スーパーの南側にいたコガネグモの幼体の姿は見当たらなかった。ゴミグモはともかく、円網を張るクモは円網を食べてしまえばどこへでも行けるのである。
午後6時。
オニグモの4ミリちゃんとそこから1.2メートルくらいのところにいる3ミリちゃん(多分)が横糸を張り始めていた。ここは2匹がいたガードポールから4メートルくらいの場所だから、どちらかが先に引っ越して、置いて行かれた方が追いかけたという形なんじゃないかと思う。
5月28日。曇りのち晴れ。最低15度C。最高20度C。
午前5時。
左前隅ちゃんが少し住居から出ていたので、体長7ミリほどのダンゴムシを不規則網に落とし込んでみた。ダンゴムシはコンクリート面まで落ちてしまったのだが、左前隅ちゃんが近寄った途端に見事に吊り上げられてしまった。左前隅ちゃんが住居にこもっていたのは、ただ単に空腹ではなかったというだけのことらしい。またまた大間違いだ。
そして、右前隅ちゃんもオトナになるのにはまだまだ時間がかかるということになるかもしれない。やれやれ……。
午前11時。
スーパーの東側にいるオニグモの幼体たちの多くは住居へ戻っていた。日陰になっている場所にいる子だけが円網で待機している。ということは、この子たちは直射日光が苦手だということになるかもしれない。体温が上がりすぎるんだろうか?
東南の角にはオニグモの4ミリちゃんと3ミリちゃんの円網が残されていた。
強力ライトの取り付け部にあるオニグモの卵囊の隣に長径で3分の1くらいの卵囊らしいものがあった。見た目はオニグモのそれのような綿菓子型だが、白いし、オニグモの卵囊にしては小さすぎる。今のところ、何グモの卵囊なのかわからない。
午後1時。
光源氏ポイントでは体長2ミリほどのジョロウグモの幼体が数匹、円網を張っていた。。
その奥のスギの葉にはジョロウグモの大きなまどいが1個あった。
街灯の惑いは小さめの1個だけになっていて、その周囲には多数の脱皮殻があった。なお、この脱皮用の不規則網の糸も逆光で撮影すれば、ごくわずかに虹色が現れる。これすなわち午後1時の虹である。〔…………〕
午後5時。
マダラヒメグモの右前隅ちゃんが住居から出ていた。左前隅ちゃんも不規則網の補修をしているようだ。ダンゴムシを捕まえてこようかねえ……。
午後9時。
スーパーの東側では体長7ミリほどのヤエンオニグモの幼体がガを仕留めていた。
体長5ミリほどになっていたオニグモの3ミリちゃんには体長8ミリほどのハエ、体長8ミリほどになっていた4ミリちゃんには体長10ミリほどのガをあげた。
午後11時。
ガス漏れ警報器の下に子グモが6匹いるようだ。2個目の卵囊からの出囊が始まっているのかもしれない。
5月29日。曇り一時雨。最低13度C。最高21度C。
午前6時。
ヤエンオニグモの7ミリちゃんは第四脚(多分)2本をV字形に広げた姿勢を取っていた。ストレッチかな?〔んなわけあるかい!〕
オニグモの4ミリちゃんと3ミリちゃんは円網を残して住居へ戻ったらしかった。
ガス漏れ警報器ちゃんも住居へ戻っていたのだが、体長10ミリほどのダンゴムシを不規則網に落とし込むと飛びだしてきた。さすがに獲物がどこにいるのかわからない様子だったが、ダンゴムシが身動きすれば仕留めてもらえるだろう。
午前10時。
ふと思いついたので、右前隅ちゃんの不規則網の端に居候している体長2ミリほどのマダラヒメグモ(多分)の近くに体長5ミリほどのアリを弱らせてから落とし込んでみた。この子はアリがコンクリート面まで落ちた時にはまったく反応しなかったのだが、不規則網に引っかかった時には近寄ってきた。これくらいの体長のマダラヒメグモは主に不規則網にかかる小型の飛行性昆虫を捕食しているんじゃないか? 巨大なダンゴムシなどを吊り上げたところで仕留めきれないだろう。
午後1時。
田植えが終わった水田にはコサギにチュウサギ、そしてゴイサギ、カモなどがいた。堤防の内側の草地にもキジのカップルと雄が1羽。
光源氏ポイントにいるゴミグモの1匹はゴミリボンの中に卵囊を1個吊していた。光源氏ポイントの奥のスギの木にはジョロウグモの大きなまどいが3個、小さなまどいが2個、大小2つに分離しているまどいガ1個あった。
草地にはヘビトンボの仲間らしい昆虫もいた。この子もカマキリと同じようにツンツンしても逃げようとしない。「逃げちゃダメだ」タイプの昆虫らしい。ああっと、脱皮したばかりで動けなかったという可能性もあるかなあ。
街灯のまどいは小さく密集していた。全員が脱皮を終えたということだろう。
午後5時。
明日は雨らしいので無理を承知で99キロ走ったら、予想通り右眼の視力だけが低下した。まいったね。
右前隅ちゃんが住居から出ていたので、体長10ミリほどのダンゴムシを不規則網に落とし込んだ。これがほとんどデッドボールというくらいに右前隅ちゃんの近くに落ちてしまったのだが、右前隅ちゃんはまったく反応しなかった。マダラヒメグモは何を考えているのかわからん。〔あなたは人間よ。人間なのよ!〕
午後7時。
大変だ! 左前隅ちゃんが散乱、もとい、産卵していた。〔錯乱しとるな〕
それでは新顔君がそこにいるのは何のためなんだ? もう交接する必要はないだろうに。
午後8時。
新顔君は右前隅ちゃんの方を向いている。もしかして、交接していないのは右前隅ちゃんの方だったのか? そして、新顔君は今頃それに気が付いた? そうだとしたら、かなり間抜けなんじゃないか? それとも2匹が近すぎてフェロモンが漂ってくる方向がわからなくなっていたんだろうかなあ……。
午後9時。
スーパーの東南の角付近では体長4ミリほどのヤエンオニグモが横糸を張っているところだった。
マダラヒメグモの左前隅ちゃんには体長10ミリほどのダンゴムシをあげた。産卵祝いである。
5月30日。雨時々曇り、最低14度C。最高15度C。
午前3時。
マダラヒメグモの2ミリちゃんがダンゴムシに口を付けていた。そうか。ちゃんと食べられるのか……というか、まだ食うのかい! そして、右前隅ちゃんはなぜ食べなかったんだ?
午前9時。
『日経サイエンス』202507号の特集は「どうなる暗黒物質」だった。暗黒物質の探索が始められてから数十年、いまだに重い暗黒物質であるWIMPも軽いアクシオンも検出できていないのらしい。暗黒物質がどれほどの質量を持っているのかすら絞り込めていないので、「当面は様々な比較的小規模な実験によって幅広い質量範囲を探索し、最初の手がかりを得る必要がある」というのが、現在の研究者たちの共通認識であるのらしい。
クモの観察者としては、こういう共通のテーマに対して実験し、論文を発表し、議論するという科学的なシステムがとてもうらやましい。これがクモ学、特にクモの生態学だと、論文が発表されても、追試をして「この論文は間違っている」という論文が書かれることがほとんどないのだ。つい最近、「卵囊を守るジョロウグモの母親」などという商売人がでっち上げた嘘に対して、3ヶ月間の観察によって「疑わしい」という論文が発表された時には「おお、これはすごい!」と驚いたくらいだ(ただし、この論文は昆虫の学会誌で発表されたらしい)。
どうしてクモの生態学では科学的なシステムが成立しないかというと、クモという生物は人気がないというのが一番の要因だろう。人気がないから研究者が増えない。研究者が少なければ協力関係もライバル関係も成立し難い。議論もできない。結局、仲良しこよしの論文屋村ができあがってしまうのだ。
仲良しこよしの論文屋村では、誰かが発表した論文の内容が嘘でもデタラメでも、それを指摘することは悪いことになってしまう。しかも、そういう嘘やデタラメを検証もせずに解説書などを書いてしまう無責任な論文屋さんもいるわけだ。
これではどうしようもない。クモの生態学が科学になるまでに何百年、何千年かかるかわからない。もしかしたら、その前に人類が滅亡することになるかもしれない。まあ、科学にならなくても、むしろ科学にならない方が論文や解説書は書きやすいのかもしれないのだが……。
なお、今のところ作者は、クモの生態に関する論文は「嘘80パーセント」と思うことにしている。すべての論文に対して追試を行うわけにもいかないのでね。
午前11時。
ガス漏れ警報器ちゃんが緑色の小型昆虫らしいものを咥えていた。
そしてガス漏れ警報器の下には子グモが10匹くらいいる。3番目の卵囊からの出囊が始まったらしい。今回については産卵から出囊までの日数がわかるが、それは室温によって変動するはずだから何の意味もない。24時間一定温度に保って「何度で何日間」というデータなら価値があるだろうけど。
午後10時。
玄関先に体長10ミリほどのワラジムシがいたので、マダラヒメグモの新顔君の近くに落とし込んでみた。ワラジムシはコンクリート面まで落ちてしまったのだが、新顔君がそれを追いかけて行った……と思った時にはもうワラジムシは吊り上げられていた。マダラヒメグモの雄は不規則網を張る能力は失っているかもしれないが、獲物を捕食することはできるようだ。雌と1度交接したくらいでは「いいクモ生だったなあ……」という気分にはなれないのだろう。
住居にこもっている右前隅ちゃんのの不規則網にも体長10ミリほどのダンゴムシを落とし込んであげた。
右前隅ちゃんは駆け寄って来なかったのだが、10分くらい経ってから確認すると糸を投げかけているところだった。
5月31日。雨時々曇り。最低14度C。最高15度C。
午前4時。
ヤエンオニグモのヤエちゃんがいた場所の近くに糸が1本あったので確認してみたらヤエちゃんがいた。円網は張っていないが、そろそろ活動を再開するつもりなんじゃないかと思う。
マダラヒメグモの左前隅ちゃんの不規則網には体長10ミリほどのダンゴムシを落とし込んだ。左前隅ちゃんは不規則網に引っかかったダンゴムシに近寄って糸を投げかけている。
それに対して、右前隅ちゃんは仕留めたダンゴムシをそのままにして住居に戻っている。ここで食欲をなくすのはどういうことなんだろう?
午前11時。
工場の白い壁に黒、というか、ごく濃い紫色のカタツムリがとまっていた。陸棲の巻き貝は種類が多いので種名まではわからない。
クモをつつくような話 2025 その2に続く