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俺のおっぱいに比べれば、由香里もFカップ……言いすぎだな。 8

 クラス振り分け戦が行われているのは、学園の敷地内にある第一訓練ドーム。

 訓練ドームは第一から第三まであり、高等部、中等部、初等部で使い分けされている。聞くところによれば、高等部専用の第一訓練ドームが一番大きいらしい。外から見る限り、そこまで差異はないと思うが。


 とりあえず俺は、第一ドームへと向かい、受付をしているであろう女の人に話しかける。


「受付のお姉さん!」

「は、はい!なんでしょうか?」


 ドームの中はざわざわと盛り上がっているのに、たった一人長机を出して、パイプ椅子に座っているお姉さん。

 髪型は茶髪のポニーテール。下の方で縛っているので、一見ショートカットに見える。たれ目でおとなしい顔つき。黒縁の眼鏡をかけて、服装は勇者部隊の制服だ。

 むむ……ひかえめだが、胸がある。


 なに?お前がないだけだろって?殺すぞ。


「お姉さん一人?大変だね」

「ええ、そうですね……ここは高等部一年生しか入れないように確認する受付ですから。中に入れば、勝敗管理や対戦相手の確認ができますよ」

「へ~暇じゃないの?仕事がないなら、中に入って観戦すればいいのに。盛り上がっているじゃん」


 言うと、お姉さんはそっぽを向く。


「あなたみたいな遅刻者がいるから、動けないんですよ!」

「おお~手厳しい」

「全く……ほら、学生証を見せてください。欠席者を除けば、あなたが最後ですよ、紅・ファニファトファさん」

「ちゃんと管理されているようで、何より。ほい、学生証」

「確認……はする必要はないですね。本当に咲さんにそっくり。生き写しのようです」


 受付のお姉さんは俺を見ながら、穏やかに笑う。

 母さんのことを知っている勇者部隊。なら母さんが犯罪者だってことも知っているはず。そして俺が咲・ファニファトファの娘だってことも分かってもなお、敵対視せず友好的な笑顔を見せた。


「母さんは生きてるぞ。生き写しじゃない」

「そのようですね……本当によかったです」

「はは~ん、あんたも母さんにやられた口だな?」


 するとお姉さんは俯いて、頬を赤らめる。


「わ、私は咲さんのことを後ろから見ていただけです……一度だって話したことはありません」

「そうなの?」

「そうです。でも咲さんの背中はかっこよくて、皆の憧れでした。でも――はあぁ……私は今も学園の受付当番です。こんなはずじゃなかったのにな~」

「ま、がんばれ」

「ねえ、紅さん?」

「はい」

「一度だけでいいから、キスしてくれませんか?」

「は?」


 お姉さんはバンゥと机を叩きながら、俺へ前のめりになって立ち上がった。


「キス!してくれませんか!」

「なんで……」

「わ、私!咲さんに恋してたんです!みんなは憧れていたけど、私はちゃんと恋してたんです!私だけです、あんなに咲さんに恋愛感情を向けていたのは!だから――だから!私は咲さんにキスされる権利があると思うんです!」


 円加お姉さんが奇人変人の類かと思ったが、別の説が出てきた。多分これ、母さんが原因だ。母さんに魅力がありすぎて、心を壊されたんだ。しょうがなく夫とキスした、なんていう奴が出るくらい。

 そんで母さんが犯罪者になって、逃亡して、勇者部隊からいなくなった結果、母さん成分が足りなくなったゾンビたちが、突然現れた天使である俺に助けを求めている訳だ。


 仕方がない。母さんのしわ寄せは俺が受けよう。


「キスはダメ。まだお姉さんの名前も知らないし」

「恵理・トリガ!教えたよ!」

「教えたからって、キスできると思うなよ!」

「お願い、お願い!ちょっとだけでいいの、ちょっとだけ唇を――頬でいい!ほっぺにちゅーして!」


 情けないことを大声で……上司に聞かれても知らないぞ。

 最初は母さんを語る時も慎ましやかで、名残惜しく、想いを馳せていたはずなのに、いつの間にか私利私欲の権化みたくなってしまった。もし俺が時間通りに、ここにきたらどうなっていたんだ?人目を気にせず懇願したのだろうか。


「お願い、お願い!キスしてくれたら、何でもする!私からキスしてもいい!」

「なんでそうなる」


 首の裏をかく。

 まあ俺も鬼ではない。大人がこれだけ無様に頭を下げているのだ。応えないなんて淑女じゃない。こういう時に、包み込んでやるのがいい女というのもだ。


「もう、しょうがないな~」

「え!本当に!」


 眼鏡の机に落としながら、勢いよく顔を上げる恵理お姉さん。眼鏡かけない方が可愛いじゃん。

 俺は自分の唇を舌で濡らし、ンパッと唾液を全体に馴染ませる。潤った唇に人差し指と中指を押し当てて、その指で恵理お姉さんの唇にチョンと触れた。


「ああ……ああああ!」


 おまけに、恵理お姉さんの唇に触れた二本の指を、俺の唇にくっつけた。


「あああああああ―――ああ!」


 そして恵理お姉さんは、徐々に顔を紅潮させて、鼻血を噴出して、後ろへ倒れた。

 罪な女だ――私と母さん。


 ドームの中――ホールに入ると、制服を着た生徒でごった返していた。

 恵理お姉さんの言う通り、ここは対戦相手の確認や勝敗報告をする受付のようだ。


「えーっと、俺はどこに行けばいいんだ?」


 受付の前にはいくつもの列ができている。しかし受付の種類は多くないと思う。

俺が行きたいのは、試合の予定を教えてくれる受付だ。看板でも立てて、案内してくれてもいいのに。気遣いは風呂場以下だな。


「こういう時は聞けばいい」


 俺は適当な列に並び、目の前の女の子に話しかける。


「なあ、ちょっと聞いていいか?」

「ん?なんだ?」


 緑髪のショート。不揃いに切られた髪の毛はボサボサ。二重のぱっちりとした、明るい顔立ちをしている。制服のワイシャツを着ていて、おっぱいは控えめ。控えめだと分かるというのが重要だ。スリムな体形をしていて、軽そう。身長は私の胸くらいで、女の子って感じ。


「おお、すごい綺麗」


 女の子は振り返り、俺を見てそう言った。


「あはっ、そうだろう?あんたも可愛いぞ、猫みたいだ」

「ホントに!ウチ、動物に例えられるのが一番うれしいんだ!」

「動物が好きなのか?」

「すき~」


 彼女は満面の笑みを私に見せた。歯を見せて、目を細める笑顔。やばい、可愛い。俺も今度、真似しようかな……似合わないかな……。


「で、何が聞きたいんだ?」

「ああ、俺がいつ試合すればいいか知りたいんだ。どこに並べばいい?」

「なら、ここで合っているけど――もう三試合目のフェーズだぞ?今更聞くことなのか?」

「ええ……もうそんなに経ってんのかよ」


 俺が起きたの、朝じゃなくて昼だったんじゃねえか。


「もしかして寝坊か?」

「ああ、昼まで寝てた。そんでお風呂入ってたから、もっと遅れた。髪の匂い嗅ぐ?」

「嗅ぐ」


 俺は女の子が匂いを嗅ぎやすいように、長い髪を彼女の顔に近づける。スンスン、スンスン、と猫というよりは犬のように俺の髪に鼻を近づけた。


「いいにお~い」

「そうだろ~」


 最後にス~~~~ンと長く吸った後に、女の子は俺の髪の毛から離れた。


「ウチは髪の匂いとか気にしないタイプだから羨ましいや」

「一回サラサラを経験すると維持したくなるぞ。やってみるか?」

「いや、いいや。ウチはシャンプーの匂いより、自然の匂いが好きなんだ。サラサラも惜しいけどな」

「サラサラになりたくなったらいつもで言ってくれ。自前のシャンプーと保湿剤を貸してやる」

「えへへ……嬉しいぞ」


 おお!ありがとうって言われるより、正直な気持ちを伝えられた方がときめく!

 俺は適当に「さんきゅー」って言うだけだからな、恥ずかしがらずに「嬉しい」とか「最高!」とかを伝えてもいいかもしれない。


「ウチ、由香里・サイリーウ。よろしくだぜ」

「俺は紅・ファニファトファ。よろしく」

「うん、紅!ウチも由香里でいいからな」

「おっけ、由香里」


 長い列だったが、思いの外、早く進むことができた。受付の捌く速度が異常だ。

 前にいた由香里も学生証を出しただけで、次の試合の時間と対戦相手が書かれた紙を、二十秒かそこらで渡されて、列から外れた。最後に「待ってるぞ」と由香里が言ったので、「おう」と返した。


「学生証を」

「はい」

「紅・ファニファトファ。一試合目、二試合目、共に不戦敗。次の試合が最終戦になります。よろしいですか?」

「よろしい」


 すると受付のお姉さんは細かく名前が並んでいる票を指でなぞりながら、小さな紙に俺の名前を書き、その下に必要事項を連ねた。


「では、この紙を持って更衣室へ入場してください。試合時間が間もなくなので急いでください」

「は~い」


 俺は渡された紙と自分の学生証を持って、受付から離れる。

 列と列の狭い間を横歩きで掻い潜る。たまに俺の美しさで、皆の視線を奪ってしまったり、そこらの男に俺の平面なおっぱいが当たり赤面させたりと、話のネタが増えるような出来事があったが、無事に広場へ出られた。


「紅~」

「すげーな……こんなにいんのかよ」


 確か今日は一年だけなんだっけか……?

 それでこの人数の多さだ。別に何も害はないのだが、辟易としてきた。


「あはは、今は第二試合と第三試合の間だから、手続きする奴が多いんだ。まあ、ここが狭いっているのもあるんだけどな。メインアリーナに来れば、人が少なく感じるぞ」

「この人数………六クラスで足りるのか?」

「結構、丁度いいぞ」

「へ~」

「よし!じゃあ更衣室まで案内する!付いてこい!」

「お、サンキュー。嬉しいぜ」

「にしし~」


 俺は由香里に連れられて、ホール内を歩く。

 学園行事とは名ばかりの祭りなのだろうか、ホール内に出店がある。種類は様々で、目の前で肉を焼いてくれるライブキッチン、焼き立てのピザが食える店、何味か分からないオシャレな飲み物を売る店もあれば、ジェラートを売っている店もある。

 制服を着た学園の生徒は歩きながら、椅子に座りながら、仲良く祭りを楽しんでいた。


 もうすぐ最終戦が行われる。


読んでいただきありがとうございます。

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