勇者部隊って名前…………ダサくね? 5
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俺――紅・ファニファトファと、弟――碧・ファニファトファは、魔人の子だ。
俺の母さん――咲・ファニファトファは魔人に強姦され、孕ませられた。母さんとその魔人とは特別な関係はなく、初対面で初戦闘の末、母さんが負けて、襲われた。一回の行為だけで、母さんは子供ができ、隣人であるググに反対されながらも、俺たちを生んだ。
咲・ファニファトファは勇者の力を持っていた。
勇者というのは、魔人や魔物――魔族から人類を守るために働く、選ばれた戦士たち。生まれた時から特別な力を与えられ、動体視力から反射神経、運動能力は常人の遥か上――そして常識では考えられない力を持つ者だ。碧の不可視の防壁のように――と言えば分かりやすいだろう。
俺たちは勇者と魔人のハーフ。どちらの種族にとっても忌むべき混血だ。
ま、そんなこと些細な話。俺としてはどっちに嫌われようと、迫害されようとどうでもいい。少なくとも母さんやググ、碧は俺をそんな目で見ることはない――それが分かっているから。
分かっているから。
母さんは俺たちを生んだ。
そういう意味で俺と碧は幸運だ。自分の境遇を考えれば、まずこの世界に誕生できたことに人一倍感謝できる。そして同じ境遇の姉弟がいること。大雑把な性格な俺でもやっぱり一人は寂しいものだ。
どうでもいい。
自分が純血だろうが、混血だろうが。そりゃ、母さんが強姦された事実はいただけないし、母さんに乱暴した魔人には感謝できないけど、こうして地に足をつけて自分らしく歩けることが幸せでならないのだ。
――――
「どうでもよくないわ!咲が強姦されたなんて、私認めない!」
車の中。ブルルンとエンジンの音共に憤る円加お姉さん。魔人のくだりは隠して、誰かに強姦されたと事情を説明したら、こうなった。
ウインカーを小気味よく鳴らしながら、激しくハンドルを切って道を行く。行先は俺たちの目的である学園――白梅学園。名前の由来はこの都市の名前が白梅だからだ。
今、俺たちは円加お姉さんが運転する車に乗っている。外見は、顔が出っ張って、前のライトは真ん丸。メタリックな黒で塗装されていて、白色の紋章が運転席の扉に描かれている。この模様は、円加お姉さんの外套の胸にも描かれていた。
持っていたらものすごくお金持ちな乗り物に、都会に来てすぐ乗れるとは思わなかった。乗り心地は列車などに比べたら桁違いにいいが、実際に乗ってみると、感謝感激!とはならなかった。
「認めないって言っても、それが事実ですから」
碧は円加お姉さんの怒りように、少々呆れ気味にそう言った。
「咲はこの世で一番強いのよ!魔人に負けるような女じゃないわ!」
「俺たちここにいることが証明だろ。母さんが普通の男と恋仲になると思うか?」
「……ぐっ!それは、そうね――で、でも正体不明の誰かに負けるなんて………」
「まあ僕たちだって、信じられませんけどね。母さんは最凶ですから」
「そうよね!学生時代だって、誰にも負けなかったんだから。勇者部隊に入って、まず所属したのが、精鋭たちが揃う黒松の第一部隊よ。そこから功績を上げて、第一部隊の班長の一人に就任して、それから最果の部隊長になったのよ。部隊長なんて学園主席でもなれるものじゃない。真の強者のみが座ることを許される椅子よ。そこにあなたたちのお母さんがいた。断言するわ、咲はどの部隊長よりも強かったわ。まず咲の学生時代の時は――――」
長々と意味の分からない単語を並べて、何を話しているんだが。
母さんの凄さを語っているようだが、勇者部隊とか部隊長とか訳の分からないことばっかり。それがどれだけ偉いことなのか、俺にはさっぱりだ。
「ねえ、姉さん」
円加お姉さんが軽快に喋る中、碧が耳打ちしてきた。
「ああ、言いたいことは分かるぞ。意味わかんなよな、お姉さんの話」
小声で答えると、碧はあからさまに溜息をついた。
「なんでさ!こっちに来る前に、説明したじゃないか」
「何を?」
「神櫻勇者部隊だよ。僕たちの行く学園はその部隊に入るのを目的としているんだ」
「へ~」
母さんの持つ勇者の力。それを持った勇者の卵たちが集まる学園が、白梅学園だ。それはもちろん知っていたけど、学園に行く意味なんて興味なし。その神櫻勇者部隊?を目指しているわけでもない。
じゃあなんで学園に通うの?
碧の付き添いだ。母さんも俺も、碧が学園に行きたいなら一人で行けば?と言っていたが、碧が「姉さんと一緒に行きたい」なんて言うんだから、そりゃもう行くしかないよな?
「へ~じゃないよ。ちゃんと勉強してよ。これじゃあ僕が笑われちゃうよ」
「じゃあ今、簡単に教えて~。私、一人じゃ、勉強できな~い」
「変な声出さないでよ!じゃあ、簡単にね」
この国には神櫻勇者部隊という国直属の治安維持機関が存在する。
神櫻というのはこの国の名称。今、俺たちのいる場所は神櫻の白梅となる。白梅には王城があるため、ここは神櫻の王都だ。
神櫻勇者部隊の仕事は街の巡回活動から、都市の防衛――そして魔王国への侵攻である。
「この世界は一度、魔王の手に落ちたんだ」
「おい、それは知っているぞ。舐めるな」
「じゃあなんで勇者部隊を知らないのさ。こういうのは普通、付属的に習うものでしょ?」
「知らん。歴史の勉強はつまらなかったんだ」
今日、何度目だろうか。碧は溜息をついた。
俺たちが生まれるもっと前、世界は一度、魔王の手に落ちた。世界全土が魔族のモノになったのだ。人は蹂躙され、嬲られ、街は壊されて行き場を失った。母さんの一件がある以上、強姦などの残虐なことも起こった事だろう。
そんな人類絶望に縁に明かりが灯る。それが勇者の誕生。
彼は神に力を授かり、魔族に奪われた土地を一つずつ取り返し、自分の国を作ったそうだ。それがここ神櫻だ。
勇者が亡くなった後も、人類は彼の力と意志を継承し、何百年もの間、魔族に抵抗し続けた。その結果、神櫻は七つの都市を持ち、人としての生活を安定させた。
全ては一人の勇者から始まった物語。彼と同じ力を持つ者に、勇者という名は受け継がれ、今でも勇者部隊として魔族と戦っている――
「――――と、いうわけ。それから勇者部隊の組織内の話なんだけれどね……って聞いている?」
「あ~もう聞いたってより、理解した。そのくらいちゃんと聞いて、その結果、どうでもよすぎて眠くなったので、続きの話はもう金輪際しなくていい」
「えー……ここからが本番だよ。さっき円加さんが言ってたことの意味が分かるのに。母さんって凄かったんだな~ってなるよ」
「母さんの凄さは身に染みて分かってる。どうせ俺はその勇者部隊には入らないんだから」
それを聞いた碧は、眉を顰めて寂しそうな表情を見せた。
「どうした?」
「僕の付き添いだってことは分かっているんだけどね、せっかくなら姉さんにもやりたいことを見つけてほしいよ」
ほら、俺の弟って本当にかわいい。同い年とは思えない。これじゃあ学園に行けばモテモテだな。
「俺は自由気まま、自分勝手に生きるんだ。目標は無いけど、感情的で刹那的に学園生活を楽しむよ。碧こそ、俺の心配なんてしないで人生を謳歌したまえ」
「はは、姉さんが自分勝手過ぎなければ、僕も安心できるんだけどね」
そして俺と碧は一緒に「にしし」といたずらな笑顔を見せあった。
「それでね!私たちが中等部二年生の時にね――」
まだ続いてたのかよ。
せめて高等部の思い出してくれ。俺たちは高等部からの入学なんだから。
気づけば車窓の風景が真っ黒になっていた。
窓から乗り出して上を見ても、果てしなく天に上る黒い壁。遠くから見ると、その高さに迫力があったが、近くから見ると迫力こそないが圧迫感があった。壁には俺たちが乗っている車に描いてある紋章が大きく描かれている。それ以外に特徴的な点はなかった。
黒い壁に向かって道沿いに車を走らせていると、関所に三人の男が立っていた。
一人はガラス張りの窓口に。二人は外に立って警備をしていた。彼らは円加お姉さんと同じ服装。この人たちも勇者部隊なのだろう。
「第三勇者部隊、部隊員の円加・ツキカゲです。巡回を終え、帰還しました」
車は窓口の前に停車し、円加お姉さんはカードを取り出して、男に見せた。
「確認しました。そちらの二人は?」
「白梅学園の新入生です。学生証はありません」
「入学の手続きの書類はありますか?」
「ある?二人とも」
円加お姉さんは、シートからひょこっと顔を出して俺たちに聞いた。
「もちろんです」
碧は足元に置いてあったスーツケースを開いて、大きめの封筒を二つ取り出す。碧の分と、俺の分だ。
碧は円加お姉さんに封筒を通して、窓口の男へ渡った。
「確認します。少々お待ちください」
男はその場で封筒を開き、一枚一枚、入念に書類を見ていった。そして――
「確認しました。ブラックエリアへの通過を許可します」
「ありがとうございます」
円加お姉さんが封筒を受け取り、「ありがとう」とそれを碧に渡した。
なんかさっきまで母さんのことを語ってた人とは思えない落ち着きようだ。窓口の男を見ている限り、これは普通なんだろうけど、あの奇人さを見せられると、この常識人さがより際立つ。
車が出発する。
ブラックエリア――それがここの名称。黒い壁に囲まれ、正体不明の暗黒地帯。厳重な警備の元、通る人間が限られるという意味でピッタリな名前だ。
壁の厚みを通り抜けるためのトンネルの先に、俺たちを待っていたのは未来の景色――ブラックエリアの外にある建物がちっぽけだと思う程、高い建物たち。三角の屋根もなく、角ばっている。太陽が反射するガラス窓、木目もなく滑らかな見た目。形や高さは違うものの、それらしい建物がいくつも並んでいる。
これがビル群――
ビルなんて田舎町にはなかったし、都会にだって大通りにいくつかある程度。それもこんなに細長く、高くない。もっと人が造った物だと分かる出来だった。俺はこんな精巧な建物見たことがなかった。
一度目、俺たちが入学手続きでこのブラックエリアに来たときは、上を見すぎて首を痛めたものだ。
大通りには、俺たちが乗っているものと同じ、黒い塗装で白くマークが描かれている車が走っている。寂れた路面電車で移動する俺たちをバカにしているように、快速で。
車道と歩道の間には深い緑の木々が植えられていて、無機質な景色に彩を添えている
歩道には円加お姉さんと同じ服を着ている人もいれば、俺たちと同じような格好をしている人、そして俺には理解できないファッショナブルな服を着ている人もいた。どの人も、外で溜息をついていたおっさん連中より、顔に生気があった。
「やっぱりすごいね!姉さん!」
「はしゃぎすぎだろ。二回目だぞ」
「まだ!二回目だよ。姉さんの感情はガムみたい」
「誰の感情が、すぐ味がしなくなる、だ。味がしないのはこの風景の方だろ?」
「それじゃあ、姉さんの感情は冬のイチョウの木だ」
「枯れてねえよ」
ビル群を抜けて、二車線の車道を走る。しかし立派な建物が続く。ここら辺はブラックエリアの外と風景とさほど変わらない。
そこかしこに看板のかかった家が点在している。お店が並んでいるのだろう。
屋根は橙色を基調に赤へグラデーションして、壁はレンガ造りで白色や黄色、青色の家もあってカラフルだ。さっきのビルなんかよりは馴染みやすい。ここにはあまり勇者部隊の連中はいないみたいだ。
「そういえば――」
円加お姉さんが話し始める。
「紅ちゃんと碧くんはどうやって入学したの?」
「どうやってって――正規の手続きを踏んで、入学しましたよ」
碧が答える。
「書類を送って、一度このブラックエリアに招かれて、入学を認められました」
「簡単だったな。難しい試験があると思ったのに、ちょっと力を見せただけで『入学して下さい』だったもんな」
「この国にある学園――勇者育成機関は、勇者の力があれば誰でも入れるのよ。今でこそ、勇者の数も増えたけど、魔族と比べたらまだまだ少ないくらいなの。だから特別な試験は設けず、力があると証明してしまえば、戦う能力がなくても入学できる。そんなの学園で習えばいいことだしね」
へ~、なんて思っていると、碧から非難の目で見られた。
もう説明済みでしたか、ごめんなさい。
「でも君たちは例外よ」
「どうしてですか?」
「――咲の子供だから」
ああ、そういうこと。
つまり俺たちが犯罪者の子供だと分かって、学園のお偉いさんがそう易々と入学させるはずがない、と言いたいのだろう。
「隠蔽したの?」
「そんなこと母さんが許すわけないだろ?そりゃもう、堂々と本名書いて、親のサインまで貰ったぜ」
「じゃあどうやって入学できたの……私だったらまず入れないわ。役所に行って、君たちを私の子供にしてから入学させるわ!」
頭おかしんじゃねえの?
「母さんの居場所を教える代わりに、僕たちの入学を認めてもらったんです」
「――――!」
円加お姉さんは息を呑んだ。
仕方のない事だ。犯罪者の居場所が勇者部隊に伝われば、彼らは捜索に尽力し、母さんを捕まえようとするだろう。円加お姉さんからすれば、学生時代からの友人の立場と、勇者部隊としての立場の板挟みで頭が痛くなってしまうかもしれない。
「ねえ――」
「なに?」
「私にも咲の住んでる場所、教えて!会いに行きたいの!」
知ってた。そんなこと考えるような普通の脳みそしてないって。母さんのことになる奇人変人だ。やっぱり頭をおかしいわ、この人。
「……心配にならないんですか?友人として」
「心配?そんなことするわけないじゃない。どこぞの勇者が徒党を組んでも、咲に敵う訳ないもの。それよりも私も捜索隊に名乗り出ようかしら。そしたら咲と会えるよね」
「ま、俺たちも母さんなら心配ないって思って、あいつらの提案に乗ったわけだし。でもさすがだな、母さんの友人を名乗るだけはある」
「好感度が急上昇ね!どうする?このまま私の家に寄って行かない?歓迎するわ!」
「いえ、学園へ向かってください」
監禁されそうで怖いわ……
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