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俺が女の子にときめくとは思わなんだ

昔に書いたストックがあったので、久しぶりの投稿です。これがこの章の最終話です。

 月末行事は五組、四組、三組――と順調に進む。


 俺たちだけが確執を抱えていた――なんてことはなく、それぞれの試合――特に準決勝、決勝戦で見ごたえのあるぶつかり合いが見ることができた。俺は最初のクラス振り分け戦で試合が終わり、早々に帰った後、長風呂していたため、他の試合を見ていない。


 一組になると決めたからには、他の奴らがどれほどの実力なのか、今の自分と比べていかほどのものなのかを見ないといけなかった。しかし熱い試合はその義務感を払拭した。


「へ~なかなかいいものだな、観戦するのも」

「紅は全然、神技を見たことないのよね?」

「ああ、母さんと碧のしか。碧は母さんの真似っこだしな、実質一つだ」

「じゃあ、目新しいのは当然ね。私はそんなに感心できないわ」

「ふ~ん、そんなもんか」


 俺と真希はアリーナの一番上――全体を見渡せる場所で試合観戦をしていた。今は二組の試合の終盤、もうそろそろ一組の試合が始まるころだ。真希はすでに更衣室でスーツに着替えた後だった。防具は後で付けるようだ。


「行かなくていいのか?」

「大丈夫。一組の試合はコート三面を使った一対一。時間無制限の試合なの。私は第二試合。第一試合が終わった後でも間に合うわ」

「特別扱いなんだな」

「強いんだもの。仕方がないでしょ?」

「………なんか怒ってね?」


 さっきから語気がきつい。いつもよりも距離感が遠いし、こっちに顔も向けなければ、目も合わせない。

 真希はギュッと両手を握って、口の筋肉をこわばらせて言う。


「紅の決勝戦――あれって私のことを言ったんでしょ?私、紅の前で何度も六組の悪口とか嫌味を言ったもの。紅はサボっているからいいかなって思っていたけれど、本当は怒っていたのね」


 そう聞こえたのか。

 確かに俺は六組を非難する奴を非難した。それには真希も含まれる。「弱い奴と関わりたくない」とか「下の組は腐った連中が多い」など、それはもう何度も聞かされた。愚痴仲間が突然それを批判してきたのだから、それは戸惑うし、拗ねても仕方がない。


「俺の演説はお気に召さなかったか?」

「お気に召したわ。だから拗ねてるのよ!」


 顔をそむける真希。可愛いな~もう。


「あ、あんなの俺の所感であって、実際の実態は分からない。真希の言う通り、弱さに甘んじている奴も腐っている奴もいるんだろう。もしかしたら過去に努力しただけで、今は努力していないのかもしれないな」


 たった二時間ちょっとで分かるはずもないただ俺の空想を、事実のように語っただけなのだ。


「……分かんないのに、あんなに熱弁したの?それは六組が馬鹿にされて可哀そうだったから?」

「いや、全く。誰が馬鹿にされるとか、どうでもいい。俺は、俺を馬鹿にされてもどうでもいいんだ。どうでもよくないのは………碧…もまあいっか。母さんも……馬鹿にされも仕方がないって思えるかな」

「――私は?」


 その質問に俺は笑った。


「あっはっは!」


 真希の肩を叩いて笑った。


「な、なによ……」

「あっはっは!なんだそれ……!普通、家族なのに?とか、愛してるんでしょう?とかを聞くところだろ!あっはっは!それを、私は?って!」

「いいじゃない……別に」


 真希が体を背ける前に、肩を抱いて体を寄せる。そして彼女の耳に口を近づけて言う。


「安心しろ。お前は俺が初めて殺す女だ。そんな奴を貶し、侮蔑し、馬鹿にする奴は、絶対に許さない。そんな奴、殺してやるよ」

「―――――!」


 真希は反射的に、自分の肩を抱く俺の手を強引に離した。あれ?嫌がられたかな?なんて思ったら、彼女は怒って紅潮し顔を、俺の顔に近づけて――


 むぎゅ。

 むぎゅとした。

 俺の頬を両手で、唇が飛び出るくらいに強く。


「ぬ……ぬに?」


 真希は俺を睨む。その青い瞳で俺を睨む――涙を盛り上がらせて。


「ダメ。殺すのは私だけ。私も殺すのはあなただけ」


 俺の頬を離さないまま、真希は手の力を抜く。


「許さないから。他の人を殺したら。そんなことするなら、怒りのままに私を殺して。その時、私もあなたを殺す」

「どうやって?」

「……相打ちで、手を打つわ」


 吹き出す。重すぎる殺意と不器用で不慣れな言葉。これで笑わないやつはいないだろう。


「どうする?このままキスする?」


 顔は近い。真希の手は俺の頬に。俺はもう彼女の唇を奪ったんだ。奪い返されたって、文句は言えない。

 むぎゅ。

 むぎゅと頬がひしゃげて、唇が飛び出す。小魚のように、口を動かしてみた。


「気持ち悪いわ」

「ほら~キシュしゅる?」

「しないわ――よっ!」


 頬を両手で軽くたたかれて、彼女の手は俺の顔から離れた。


「よかったの~?結構いい雰囲気だったよ~?」

「見られるから、イヤ」

「見られなかったいいの~?」


 すると、きょろきょろと真希は周りを気にし始める。ここは人通りはいいけど、目立たない。みんなが試合に夢中になっている中の、死角だ。下から振り向かれたら、すぐわかるけど。

 そして誰もいないことを確認した真希は、俺の耳元に顔を近づけ――


「――――いいよ」


 と囁いた。

 俺は真希の顔を見れなかった。多分、赤面していい顔をしているんだろうけど……この時の俺は、自分でも顔が火照っているって分かっちゃうくらい、ときめいていたから。


 三十秒後。


「ま、まああれだ。今回のあれはちょっとした冗談だ」

「冗談?今の会話の中に冗談にしちゃいけないことが、たくさんあったけれど?」


 そんな怖い顔しないで。


「最初のあれだ。決勝戦で言ったことはほとんど冗談。俺は基本的に勇者っていうものを馬鹿にしてるっていうか、哀れんでるから。六組の決勝戦という小舞台で、色んな奴の心を乱してやりたいって思ったのさ。馬鹿にしている奴も、馬鹿にされている奴も、どっちも。あの言葉に含まれた俺の意思なんてそんなもんだよ。第一、俺が弱い奴の気持ちなんて分かると思うか?」

「ふふっ……確かに。紅は強いものね」

「どれだけここで馬鹿にされようとも、俺は強い。まあ今の弱い演技をする時間はとても不満があるけれども、な!」


 真希の肩に、肩を当ててじゃれあう。


「弱い演技なんかしちゃだめよ。強い演技をしなくちゃ。そうじゃないと一組には入れないわ――よ!」


 真希の肩が当たり、体が揺れる。


「あー本当に、どうしてこんなことになっちまったのかね~。俺はただの付き添いで、碧を遠くから見てるだけの落ちこぼれになるつもりだったのに」

「……?今でも紅は落ちこぼれじゃない」

「真面目な顔で言わないでくれます……自分で言うのと、人に言われるのって、傷つき方が違うんですよ?」

「あら?俺が馬鹿にされても、どうでもいいんじゃなかったけ?」

「その人がどうでもいいって言っても、言っていいことと悪いことがあるんですー!高等部に進学したのに、まだそんなことが分かっていないのですか~女王様」

「女王を世間知らずの意味合いで使うのはやめなさい。どちらかといえば、王女様でしょ?」

「じゃあ、王女様?」

「何かしら?」


 いやいや、世間知らずの意味としての皮肉だぞ。何かしらってなんだよ……これじゃあ自分で世間知らずって言っているようなものだぞ。


「いやいや、何かしらじゃなくてな……もうちょっとツッコミ鍛えようか……?」


 やれやれ、俺の言葉を先取りしてしまう碧いくらいに育てないとダメかな……。


「いいか?さっきのは、最低でも『だから私は女王でも王女でもありません』だ。その次に『だから私は世間知らずじゃ―――』

「あれ?知らなかったの?私、この国の王女よ?」


 え?


 は?


「えーっと、冗談?」

「冗談じゃなくて、私はトウミッド王家の三女。まあ一応、王女ね。この国じゃトウミッドといったら王族の名なんだけど、知らなかったの?」

「………うん、知らなかった」

「ふふっ……本当に世間知らずね。まるで王女様みたいよ?」

「……ああ、そうだな。俺の方が王女様、だな?」


 ――――って、ええええええええええええええええ!


 じゃあ俺、王女様を殺そうとしてたってこと?


 ――――てか、ええええええええええええええええ!


 じゃあ俺、王女様と殺し合う約束してるってことですか!?


『これより一年一組の試合が始まります。これより一年一組の試合が始まります。第一試合は、巧・アガシャと碧・ファニファトファが出場します。第一試合は、巧・アガシャと碧・ファニファトファが出場します。これより―――』


 俺の頭の中が事態の収拾を行うために高速回転し、しかしその高速回転によって、脳がショートしそうという悪循環に囚われている中、無慈悲にも弟の試合のアナウンスが流れる。


「ほら、行きましょう?紅の弟の試合でしょ?見なくていいの?」


 真希は立ち上がって、俺に手を差し伸べる。


「あーはいはい、行きますよ~」


 俺は真希の手を取りながら立ち上がって、もう何かを考えることをやめた。考えることをやめたら、一つ言いたいことが頭に浮かんだので、言葉に出した。


「王女ってわりに、気品がないよな、真希って」

「―――――あるでしょうが!」

「ほら、そゆとこ」


 俺は真希を追い越して、繋いだ手を引っ張る。

 彼女は王女らしくもない、上品でなく、気品もない笑顔――目を細めて、歯を見せて笑い、俺の隣へ追いついた。




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