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ググの講釈は世界一つまらない。 28

 魔力偽装――

 魔力とは魔人の力の略。ググがそう呼んでいたので、それが一般的な呼び方なのだろう。

 これは魔人の力を勇者の力をとして使う、ググに教わった技だ。それを聞いたとき、俺はこの大きな魔力を勇者の力に変換する技があるのかと思ったが、そうではなかった。


 思い出す。


「まず紅にはその赤い眼をどうにかしないと話にならん」

「赤い眼?これは生まれつきなんだからしょうがないだろ?」

「赤い眼は魔人の象徴じゃ。それを見られたら最後、碧の学園生活は終了じゃ」

「はいはい、それは分かったって」


 碧のことを出されると弱い。それを分かってググも言っているんだろが、くどい。そんなに言われると、碧の学園生活までぶち壊したくなる。


「で、何をすれば目を赤くしないで済むの?」

「その赤い眼は魔人の力によるもの。今は魔人の力が前面に出ているから、眼が赤くなっとるんじゃ」

「じゃあ魔人の力を弱めればいいのか………?そんなのできないぞ」

「ああ、無理じゃ。力とは運動神経みたいなもの。人間個人に与えられた個性じゃ。それをどう使うかは己次第。同じ人間が、速く走るのと遅く走るの――同じ人間なのじゃから、運動神経は変わらん。運動神経をどう生かすかが変わっただけじゃ。もちろん、努力し鍛えることもできるし、怠けて衰えさせることも可能じゃ」

「俺に怠けろって言いたの?そんなことするくらいだったら、学園なんて行かねえ」


 力を使って遊ぶのが楽しいのに……それを禁止されたら爆発する。あれ?学園じゃ、魔人の力禁止なんだっけ………終わりだ。


「そんな嫌そうな顔をするな。お前にストレスなく学園に行ってもらうための技を教えるのじゃ。ちゃんと説明を聞け」

「へいへ~い。それで、怠ける以外で魔力を抑える方法は?」

「勇者の力で隠せばいい」

「は?何言ってんの?」


 俺の勇者の力は碧の力に比べてたら微々たるものだ。それこそ俺の大きな魔人の力を抑えることなんてできやしない。できっこない。


「いや、抑えるのではなく。隠すのじゃ。今の紅の状態は魔人の力が前面に出ている状態だと言ったじゃろう?なら勇者の力を使って、それを包み隠してしまえばいい」


 いやいや、矛盾がある。

 さっきググは力は運動神経みたいなものだと言っていた。運動神経は形を変形することはできない。そもそも運動神経を隠すってなんだよ。


「それはモノの例えじゃ。全部が全部そうであるわけではない。運動神経と違って、我らにはその力が見えるんじゃぞ。その分、形を変形したり、操ったりすることもできる!」


 さすがに暴論すぎると思うが。


「それが魔人の力を勇者の力に生かす方法と関係あんのか?なければ、まずそっちを教えてくれよ」


 それを教えてもらうために、ググについてきたのに~……


「焦るな、焦るな。まあさっきも言った通り、赤い眼をどうにかするのが前提条件なのじゃが………先に原理だけが言っておこう―――――」


 回想終わり。


 紗耶香は勇者の力を最大限に活用し、スピード重視で俺に攻撃を仕掛ける。俺はそれに一歩で遅れて対応――二刀の短剣をクロスして、彼女の剣を受け止める。この使い方が一番防御に向いている。


「紅様……期待外れって思わせないでくださいね」

「勝手に期待して、勝手に失望しないでくれ。まあ………今から期待以上のやつ、見せてやるよ」

「そうにゃって、私を惚れ殺すつもりでちゅね!?」

「動物が二匹いたな………」


 お喋りはここまで。

 足腰に力を入れて、バネを溜める。それを使って、一気に剣を弾き返す――!しかしそんなことで、勇者の学園の生徒が動揺するわけがなく、俺が短剣を振るよりも早く、紗耶香の攻撃が来た。


「おっと――」


 それを後ろに跳んで躱す。

 紗耶香はかなりスピードに意識を置いている。真希のような瞬間的な速さではないが、流れるような体さばきが特徴的だ。剣をはじかれても、すぐに攻撃に移れる速さとしなやかさを持っている。


「惜しいな」


 これであと少し神力があれば――そんなことを思ってしまう。

 後ろへ飛んでいる最中、体勢を戻してすぐにこちらへ走る紗耶香を見る。俺が着地する頃にはもう紗耶香は俺に追いついて剣をふるっているだろう。


 息を吐く。

 魔力を神力に利用する原理。それは――


「原理だけ言っておこう。神力で魔力を包み込んだはいいが、魔力を使おうとすれば、すぐに神力の膜は破れてなくなる。それだと魔力を神力で隠せない」

「うん、想像できる」

「なら、魔力を使っても神力の膜を破れなくすればいい」

「…………理屈は分かるが、どうやって?」

「必要なのは二つ。まず勇者の力を鍛えること。運動神経のように劇的な進化はしないが、ある程度は能力がアップする。そしてそれを全て、魔力を隠すための膜に使え。より柔軟に、より強固に」

「今更勇者の力を鍛えるなんて嫌だけど、まあいいよ。続けて」

「二つ目は魔力を使いたいとき、自分の神力の膜に合わせること。つまりいつものように全力全開で魔力を使うのではなく、膜が千切れない程度に抑えることじゃ。体が壊れないように、ゆっくり~ゆ~っくり走るんじゃ。そうすれば―――」

「そうすれば?」

「魔人の力を、皆に勇者の力と錯覚させたまま戦うことができるのじゃ!」


 ………集中する。


 いつものように魔人の力を燃やす。でも薪はくべない。枯葉だけを燃やして、今にも消えそうな炎を細々と燃やす。息を吹きかける。フーフーと炎が消えないように、吹きかける。徐々に、徐々に燃えていく。慎重に枯葉を足していく―――ストップ。


 大丈夫。

 一見、小さな火に見えても。魔人の力とは炎なんだ。

 目の前の女学生ひとり倒すだけなら、事足りる。


「――――!」


 正面にいる紗耶香は走りながら、俺を見て小さく口を開いた。


 勇者の実力の指標である神力。他人のそれは勇者であれば一目でわかる。それは潜在能力であり、感情が高ぶったら大きくなるとか、気合でどうにかなるものではなく、その人の運動神経みたいなもので、ただそれが可視化されただけの話。


 俺の魔人の力は勇者の力によって包まれている。勇者は俺の神力の膜は視認できるが、魔人の力は視認できない。これは、空気は見えないけど、風船は見える原理と同じ。その風船がいきなり膨れ上がったのだ。


 さて見てごらん?

 今まで可視化されていた運動神経が――蓄積変化はしても瞬間変化はしないという常識が崩れる瞬間を―――


 紗耶香の周りで風が舞う。同時に彼女は足を止めた。


「戦闘終了!勝者――紅・ファニファトファ!」


 紗耶香と背中合わせ。

 そして彼女の首元には、スーツ越しに俺の剣先が当たっていた。


 すでに風船は縮んでいる。しかしその現象をこのコートを見ている全ての勇者が見たことだろう。観客は騒然とし、歓声は上がらなかった。


「お疲れ、紗耶香」


 剣をしまって、俺は紗耶香に向き返る。

 彼女はまだ俺に背中を向けていて、さほど走ったわけでもないのに肩を揺らして呼吸していた。その呼吸音を聞くと、どうも息を吸うのが目的ではなく、息を吐くのが目的のような――――


「紅様!」


 紗耶香は勢いよく、こちらへ振り返った。


「な、なんだ?」


 冷静でしなやかに攻撃の手を進めていた紗耶香が嘘のように、その表情は頬を赤らめ、口角を溶かし、目をうっとりさせて、まるで恋をしているようだった。


「私、紅様と結婚したいです」


 恋じゃなくて愛かもしれない。


「いきなりどうした?結婚はしないぞ?」

「じゃ、じゃあ!愛人は、どうでしょうか?」

「い、いや………大丈夫だ。遠慮しておく」

「それは私のことがいらないのでしょうか?それとも愛人自体がいらないのでしょうか?」

「いや、うん……どっちもいらない」

「そんな!」


 紗耶香はその場で膝から崩れ落ち、しくしくと手で顔を覆って泣き始める。本当に泣いているのかは不明。


「そんな……私の初恋が………」


 いや、まあ、うん………ごめんね?


「試合は終わりました!あなたたち、すぐにコートから立ち去りなさい!」


 審判の人が俺を見て怒った。俺のせいじゃねえだろ。


「はあ……仕方がない」


 俺は紗耶香をお姫様抱っこして、持ち上げる。そうでもしないと、ここから動かない気がした。


「べ、紅様……」


 涙を浮かべながら、うるうる――というより、とろとろした目でこちらを見る。


「わ、私がお姫様ということでいいんでしょうか?」

「あーもう……そうだな。更衣室に帰るまでは、俺のお姫様だ」


 そして紗耶香が意識を失った。


 その時、「紅様を返せ!」「ずるい!」「特別扱いしないで!」など、俺のファンクラブによるブーイングが会場で巻き起こった。

 それならまず歓声を上げろよ。





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