キスしすぎて、真希のおでこにニキビができてほしい。 24
勿体ぶるから、どんな条件かと思えば……
「バカにしてんのか?お前が言ったんだろ、一組と戦う機会なんかほぼ無いって。なら入れ替え戦で戦う以外に方法はないだろ」
「だからこその学期末試験よ。これは学年全員参加。一組だけ特別な行事に参加する――なんてことはないわ。そこで紅が一組の誰かを倒せば、すぐに目標達成よ」
おお!それは楽でいい!なんてあると思ってんのか、この女王様は。
入れ替え戦で地道にやるのは疲れるだろうが、確実な方法だと思う。それでも一組の奴との一騎打ちは確定。それなら行事で潰せばいい。入れ替え戦なんてしなくても、一組へ。
しかしこれらには一つ、大きな問題点がある。
「俺が一組に勝てるかどうか……まず六組から上に行けるかどうかが問題なのだ」
「………?楽勝よね?だって私に勝ったんだもの」
さすがの俺も真希の頭の悪さに唖然とした。
真希は「半魔ってバレちゃいけない」という条件の抜け穴で、「バレちゃいけないけど、力は使っていい」なんて思っているんだろう。しかし俺には碧との約束もあるし、勇者の力が極端に少ない俺が、一組よりも強いってなれば勘繰られる。バレちゃいけないは、怪しまれちゃいけないと同義だ。
「怪しまれちゃいけないっていう観点なら、私といい勝負をした紅が、いきなり弱くなる方が怪しいと思うわよ」
「そういうのは、たまたまって言葉で済まされるんだ。力のない奴が強い方が絶対に怪しい。真希と俺の試合を見たやつだって、俺を怪しんでいる奴は一定数いると思うぞ」
「そうかしら………」
「なあ、真希―――」
どうしたって、一組に入るビジョンが見えない。
俺はこの学園の中では、非才で凡夫で落ちこぼれだ。正直、五組の下の奴に勝てるかどうかも分からない。六組が俺の最適性なのかもしれない。そう、俺には無理なのだ。高望みだった。俺は一組にはなれない――
「諦めよう!」
俺は元気溌剌にそう言った。ガッツポーズしながら。
真希に碧よ。
お前たちが言ったんだぞ。魔人の力を使うな。半魔だとバレるな。そんな条件下で一組になんかに入れるかい!いやね、期待を持たせたのは、すまないと思っているけれどね、これは無理だ~無理無理。終了~そしてお帰り、俺の最高の学園生活!
「悪いな、俺には無理そうだ……」
「語調が躍っているわよ、紅」
「べ、別に~~諦める理由が見つかって、嬉しいわけじゃないんだからね!」
「……嬉しそうね、紅」
うう……真希の視線が痛いよぉ。
だってしょうがないでしょ!俺自身は一組とか六組とか興味ないんだ。一組目指すって決めちゃったのも、碧が元気なさそうだったからだし。あんなの軽はずみな発言、本気にしないでよね!ばか!
「まあ、紅の諦める宣言は冗談として――」
冗談にされちゃったよ。
「魔人の力を使わずに、一組にかなくちゃいけない……難題ね」
「そうだろ?俺には解決の糸口は見つからない」
「力を使えば、一組なんて余裕よね?」
「余裕だ」
真希と再戦しても、勝てるだろう。
あの十秒間、熱い戦いではあったが、俺がもう少し残酷になれれば、真希の頭を吹っ飛ばすこともできた。
「………勇者には、魔人の力――魔力を見ることはできないわ。紅は力を使ったところで、私たちには感知できない」
「でも力を解放すれば、すぐに眼が赤くなる。真希が知ってる通り、俺の自然体がこの赤い眼だ。赤い眼になるというより、赤い眼に戻ってしまう――の方が正しい。そしてそれを見られたら一巻の終わり。魔人とバレて終了だ」
黒い眼にするためには、膨大な魔人の力を勇者の力の膜で覆わないといけない。それでも神経を使うんだ。勇者の力を使っても、膜がやぶれて、眼が赤くなりそうになる。半魔とバレないためには、戦わないのが一番なのだ。
「私の時みたいに目を瞑れば……」
「たった十秒間の戦いならそれでいいかもしれない。でも目を瞑って、長く戦うのは無理だ。さすがに――」
さすがに相手を殺してしまう。
目を瞑れば、相手が見えない分、集中できてしまう。そうなれば、俺は多分、癖で相手を殺しに行くだろう。母さんはそれを避けられるけど、ほかのやつらがどうか分からない。相手を見ずに殺す――かっこいいが、俺は見ながら殺したい。
「さすがに悪趣味よ……」
「そう思う?でも真希だって殺し合いがしたいって言ってるのに~~」
「私は言葉の綾!紅はいずれ私が殺す。でも私は殺しが好きなんじゃなくて、紅と戦うのが好きなの!」
「俺も!スキーーーー!!」
俺はついに衝動を抑えきれなくなり、ベッドから飛び降り、椅子に座る真希へダーーイブ!
「よいしょっと!」
ポスンと真希に受け止められました。さすが勇者よりも勇者の力を持つ女だ。飛びつこうとする俺を受け止めるなんてお手のもの。
「ちょっと待って~尻の位置変える」
「お尻って言って!」
「ケツって言ってないだけマシだと思え」
体勢を整えて、俺は横向きで真希の膝の上に乗り、後ろの机に寄り掛かった。
「ビジュアル的に、紅が下の方が格好つくんじゃない?」
「いいの、いいの。もう慣れたもんでしょ、この体勢も」
「そうだけど……」
俺と真希はほとんど毎日、恋人のように過ごしている。
同衾はまだしていないが、こうやって膝に乗ったり、押し倒したり、ハグしたり。まあ全部俺が堪え性もなく、真希に飛び込んでいるせいなのだが、毎日されればなれる。真希も少し照れながら、受け入れるようになってきた。
「やっぱり、真希の髪、綺麗だよな~」
俺は真希の金色の髪を撫でるように触る。
「な、なによ。いきなり……」
「いきなりじゃないだろ?毎日言っている」
「毎日、いきなり言うから………」
「やっぱ金色なのがいいんだろうな。こうなんだろうな……束になれば金色なんだけど、一本一本を白っぽい。こうやって綺麗な金色になっているってことは、それだけ髪が整えられているってことだ」
俺は髪の一本一本をなぞるように――音楽を奏でるように、手を離す。
「もう……髪の毛の時だけ、真面目なんだから」
「こうあれだな、一回グチャグチャ~ってしたくなるよな」
「やめてよね、これでも気使ってるんだから」
お風呂場女子トークを聞けば、女の子同士で寮に住めば、こんなこと日常茶飯事らしい。過激な奴らはキスから何から何までやっているらしい。やっちゃおうかな?照れながら怒って、夢中になっていく真希を見たい。
俺はニヤリと口角を上げる。
そしてあの日のように、彼女の前髪を上げて、おでこにキスした。
「―――――ちょっ!」
俺は勇者の力全開で体を押されて、飛ばされる。クルクルと三回転くらいして、無事着地した。
「もう!いきなり何するの!約束したでしょ!くっついてもいいから、キスと同衾はダメだって!」
「約束は破るためにある!」
あ、今度はちゃんと言えた。誰にも遮られなかった。
「今度から、飛び込んできても支えてあげないから!」
「本当に~?そんなこと言って、抱き着かれるのも、キスされるもの嬉しいくせに~」
「嬉しくないわ!」
もう!素直じゃないんだから!
顔だってほら、真っ赤じゃないか。それは怒っている赤じゃなくて、照れている赤だって知っているぞ。なんだって俺は赤の申し子だ。赤のことなら何でも見通せる。この赤い眼で!
ベッドに戻る。
だらんと堕落して、ごろごろと転がる。ピタッと止まる。頭の下には枕。足元には掛け布団がある。
「ね~布団掛けて~」
俺はもう、眠い。
「まだ私、怒ってるんだけど。それに話も終わってない」
「寝れば怒りに消えてるし、話は明日すればいい~」
溜め息が聞こえた。キィという椅子がきしむ音共に、こちらに近づいてくる足音。
にやついて真希を見れば、肩をすくめる彼女。そして前かがみになって、胸の谷間を見せながら、俺に布団をかけてくれる。その時、ふと見えた彼女の顔は悲しそうだった。
「じゃあ、おやすみなさい」
「うい。また明日」
そして今日が終わる。




