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このままいけば、真希は俺の着替えを手伝ってくれるようになる 23

 ブフォンとうつ伏せでベッドに飛び込んだ。


「疲れた~」

「お疲れ様」


 真希は机に向かって黙々と勉強をしながら、俺に労いの言葉を送る。


「今日も大変だったの?人気ね、紅」

「それは皮肉ですかい?ルームメイトがこんなぐちゃぐちゃにされて帰ってきてるって言うのに、冷たいんだから~」

「最近、紅のファンクラブができたって聞いたわ」

「誰に?」

「茜さんから」

「ふ~ん、そういう情報ってどこから流れるもんなんだろうな?」

「彼女がファンクラブ、ナンバー0らしいわ」

「なんで!?」


 身に覚えがない。

 お風呂に俺を尊敬の目でいる奴らが多かったのは、色んな人に俺のシャンプーを勧めていたからで、茜には一回も貸したことがないはず……。


「本人が言うには、服を脱がされて、胸を触られて、耳元で囁かれて――みたいなことを言ってたわ。紅……あなた何したの?」

「ちょっとからかっただけだってば。それでファンクラブ作るとか正気の沙汰じゃないぞ?それにあいつは巧のことが好きだろ?」

 

 茜は巧がことを好き

 真希に聞いたところ、これは一組の中で周知の事実らしい。


「最近、うまくいってないみたい。どうやら巧さんの様子がおかしいらしいわ。なんだが茜さんも話しかけられないくらい鬼気迫っているって」

「へ~」


 真希は基本的に一組ではコミュニティに属していないらしいのだが、真面目なふりをして恋愛や性的なことに興味津々なので、そういうのを盗み聞きするらしい。不埒だ。


 振り分け戦の時から、巧はおかしかったからな。いつもおかしいんだろ。


「それで最近は紅のことを気にしているみたい。私にも話を聞いてくるわ」

「調子いいやつだな。男がそういうときこそ、女が甲斐甲斐しく支えてやるもんじゃねえの?」

「紅は甲斐甲斐しくするの?」

「しない。強い女は男に媚びへつらわない」

「茜さんも強い女なのよ。強くないと一組には残れない」

「真希も例外なく?」

「例外なく。紅と殺しあう覚悟でいる女よ。弱いと思う?」

「思いませーん」


 ゴロンと仰向けになって、手を広げる。

 もうこのベッドにも慣れてしまった。俺の匂いが染みついている。俺のベッドだ。あんなに実家の高さが低いベッドが恋しかったのに。今はそんなことない。ホームシックも終わったしまった。


「ねーねー、今日は真希のベッドで寝たーい」

「一緒にってこと!?そんなのダメよ!同衾になってしまうじゃない!」

「交換って意味だ」


 真希は勘違いの恥ずかしさを消すために、咳払いをする。


「だめ。私、紅の匂いのするベッドじゃ落ち着いて寝られないもの」


 衝動のまま真希を押し倒そうと思ったが、さすがに危険なのでやめた。


「あと一週間で月初めだ」


 入学してからもう三週間が経った。

 平凡な毎日を送っていたと思う。気の向くままに、授業をさぼり、心のままに、授業をさぼり、途中教師をぼこぼこにして、一週間停学になったこともあったけど、平凡な毎日だった。


「そのまえに月終わりよ。大事な大事な月終わり」


 念を押される。

 新学期になって初めての月終わり、再び学園行事が開かれるからだ。こうして真希と普通に話していると、クラス分け試験が懐かしく感じるが、もうちっと間隔開けろよって思う。


「大丈夫よ、クラス分け試験みたいな大それた行事じゃないから。そうね……ちょっとした定期テスト、くらいに思っておけばいいわ」


 それはそれで、やる気をなくす。


「サボっちゃダメなんだよな?」

「ダメ。正直、小テストとかならサボってもいいけど、これはダメ」

「そう、なんだよな~」


 なぜか。

 それを話すには、まず学期末行事について話さないといけない。いけないのだが、俺もよく分かっていないのだ。この学園、よく分からない。


「なんだっけ?学期末行事と同じような感じなんだよな、それは」

「厳密に言うと違うわね」

「じゃあ……まず学期末行事って何すんの?」

「………最初に説明したでしょ?忘れたの?」

「もっかい、おねがい?」

「もう、仕方ないわね」


 ねだれば、何だかんだ言うことを聞いてくれるのが真希。好き。最初はきつい性格で弱い奴は容赦なく見下し、ストイックでお堅いイメージを持っていたけど、対等な位置になればこうも簡単に心を溶かすことができる。


 相変わらず下の組は堕落している……努力していない……などと力説してくるが、俺には「小テストくらいならサボってもいい」なんて言ってしまうほど甘々で、真希と二人でいる時が一番落ち着く。碧は家族だから例外として。


 この学園に来てから気づいたが、俺って結構人付き合いがうまいんだな~と感じている。真希とは剣と剣で殺し合わなければ、この部屋の中も険悪な雰囲気になっていただろうけど、お風呂場の女子トークとか、由香里とか――最近会ってないけど、怜とか。仲良くなっている人は結構いる。全部、受動的な側面もあるけど。


「じゃあよく聞いて。眠くても寝ないように」


 さてさて、では真希先生、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。


「まず学期末行事って言うのは、年に二回行われるクラスを総入れ替えする行事のこと。これには属さないけど、クラス振り分け戦のようなもの」

「名前を変えてるだけで、本質は変わらないんだな」

「まあ、一応区別が必要なのよ。そういう自分のクラスが決まる行事がこれから待っているわ。その一回目が、夏季休暇前の学期末」

「じゃあその学期末試験と、今月末の行事は全く別物ってことだな」

「……この説明は二回目よ。そんな新鮮な反応しないで」


 仕方ないじゃないか。あの時はすごく眠かったんだから。

 はぁぁぁ~~、と。あくびが出てしまった。おっと真希先生がこちらを睨んでいるぞ、怖い怖い。


「はあ……もう、次の説明にいくわよ。寝ないで聞いて」

「分かってるって。もう寝ない。眠たいけど………あーそうだ、キスしてくれたら目覚めるかも」

「キス!?んん……キスかあ……でもなあ、でもなあ」


 見て。

 最初はあんなに拒否していたのに、今は悩んでる。これを三週間でやってやったんだぜ?すげえだろ?


「どうする?女の子同士だし、ルームメイトだし、仲良しだし」

「う~~~ん………やっぱりダメ!私、初めてだもの……」

「大事な時がいい?」

「うん」

「じゃあやめとこっか」

「うん、そうする………」


 真希は、はっ!と正気に戻る。

 その反応に思わずにやけてしまう。それが気に食わなかったのか、真希は手元にあったペンをこちらに投げる。かなりの速度だ。多分、勇者の力を使って放ったな。俺はそれをパシッとキャッチして、紙飛行機を飛ばすように優しく真希に投げ返した。魔人の力を使って――


「――っと、危ないわ」


 真希も余裕の表情で、ペンを掴んだ。

 ほんのお遊びだ。


 俺は基本的に部屋にいる時は、眼が赤い。こっちの方が楽なのもあるし、この学園で唯一、自分を曝せる相手だ。ありのままでいたい。ああ、もう一度言うが、碧は例外だから。


「じゃあ説明の続きするわよ」

「ああ、頼む」

「今月末の行事はいわゆる、前哨戦といったところ。学期末行事は毎年形式が変わるんだけど、前哨戦は単なる一対一の決闘によるトーナメント。そこで勝てば、ポイントがもらえるの」

「ポイント?」

「評価点ともいうわ。振り分け戦でも、それを基準にクラス分けがされていたわ」


 ああ、なんか審判の人が言っていた気がする。「今回の試合での評価点はありません」みたいなことを。真希との試合の最中にも、籠手を使って剣を防いだときに「評価点が下がるわよ」って言っていた気がする。


「評価点は日々の授業でも蓄積されていくけど、それは微々たるもの。評価点は稼ぐなら、この前哨戦は押さえないといけないわ」

「まあ、それは何となく分かる。俺を甘やかしてくれる真希が、絶対にサボるなって言ってるわけだし――」

「甘やかしてるわけじゃないわよ!」


 すごく甘やかしてくれてるよ?昨日なんて、ご飯食べるの面倒くさいって言ったら、あーんして食べさせてくれたじゃん。すごく奇異な目で見られたんだから。

 まあ、俺も真希も人の目なんて気にしないからいいんだけど。


「それで評価点を集めてどうするんだ?」

「一定のボーダーをクリアすると、入れ替え戦に挑むことができるの」

「入れ替え戦?」

「評価点が溜まった生徒と、一つ上のクラスで評価点が一番低い人が、昇進と降格を賭けた戦いが入れ替え戦。もし下の生徒が勝てば、勝った生徒が上のクラスへ。負けた生徒が降格となるわ」


 一番上と一番下が勝敗によって入れ替わるから、入れ替え戦ね。

 ここの学園がつける名前って安直だよな。クラス振り分け戦とか、入れ替え戦とか。学期末にやる行事だから、学期末行事だろ?名前の通り過ぎる。もっとさ、白梅闘技祭、みたいなネーミングでもいいと思うんだ。


「でもさ~それだと、挑戦を受ける生徒は少し可哀そうだな。負けるリスクと勝った時のリターンが釣り合ってないだろ?」

「逆よ。悪条件のせいで、挑戦する生徒が全くでないの」

「あれか?ぬるま湯につかっていたい――みたいな?」


 俺もそうだ。できるなら根無し草のように生きていきたい。


「紅じゃないんだから……悪条件って言ったでしょ?」

「悪条件って言ったって、今のままじゃ挑戦するだけお得にしか聞こえないぞ?」

「続きがあるの。挑戦された側――上のクラスの生徒が負けた場合は下のクラスへ。じゃあ、挑戦者が負けた場合は?なにも無いわけないわ」

「その条件は?」

「評価点をすべて失う」


 真希はそれを神妙に言ったつもりかもしれないが、俺にはまだその評価点が入れ替え戦にしか使えるものだとしか認識していない。その重要性が分からない。


 それを汲んで真希は説明を続ける。


「さっき学期末試験はクラスを総入れ替えするって言ったでしょ?」


 相槌を打つ。


「その時に必要なのが評価点。最初の振り分け戦とは違って、今までの評価点とその行事で得た評価点でクラスが決まる。評価点をすべて失うことは、最底辺の六組になることがほぼ確定になってしまう」


 おい、目の前に最底辺がいるんですよ?ちょっとは言い方気を使いましょうね。


「だから評価点がボーダーに達しても入れ替え戦をしない人が多いの。次のクラス分けの時にポイントは保持しておきたいっていう考えの人が多いのよ」

「すべてを賭けて戦うのは滾るけどな」


 命を懸けるみたいで。

 相手を引きずり下ろすか、自分のすべてを失うか。疑似的な殺し合いができるってわけだ。頑張りたくはないけど、興味はわいてくる。


「やる気出た?」

「出ない。命を奪えるわけじゃない」

「なら、なおさら頑張りなさい。私となら……してもいいんだから」

「エッチだな」

「ど、どこが!?」


 顔真っ赤じゃねえか。


 真希の長い説明の整理をしよう。

 まず俺が一組になるためには、今月末に行われる前哨戦に勝って評価点を溜める。評価点をある程度溜めたら、入れ替え戦を申し込む。そしてそこで勝って、五組に昇格する。それを繰り返して、一組へ………とほほ、途方もない。


「あーそう、一つだけ近道があるんだけど――」

「どんな!」

「食いつきがいいわね……」


 それがあるのなら早く言ってくれ。危うく、諦めるところだったぞ。すべてが面倒臭くなって、「前哨戦ももういいや」って放り投げるところだった。

 あ、いや、別に諦めてもよかったかもな……うん、諦めよう。あんまり碧を待たせるのも悪いし、今にでも「お姉ちゃん、やっぱりそっちには行けないわ!」って悲劇のヒロインぶって、断りに行こう。


「やっぱいい。聞きたくない」

「本当に気まぐれね……一応話すわ。一組に入る近道は、一組の誰かに直接対決で勝って、蹴落とすことよ―――」


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