女子トーク………たまになら悪くないんだけどなあ。 22
突然こんなことをカミングアウトして悪いんだけど、俺は女好きではなく、男なんかよりは女の方がマシ程度。時々、女にときめいているのは、その子の内面にある癖とか口調で、どれだけ可愛くても心が可愛くなくちゃ、ときめかない。逆で、顔が微妙でも心が可愛ければ可愛い。
これはフリでもなんでもなく、女の裸を見たって興奮はしないのだ。おっぱい大きいな~とか、ちっぱいだ~とかは思うけど。
だから、こうして裸の女に囲まれようとも、興奮しない――っていうか、暑苦しい!
場所はもちろん、風呂だ。
「紅さんの髪サラサラ~。私、貸してもらったシャンプー使っても、そうはならないんですよ~」
私の周りにいるのはA、B、C、Dの四人の女子生徒。
Aが私の髪を見て、そう言った。
「あとで保湿剤も貸してやる。結構潤うぞ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
するとBが、お湯を跳ね上げながら勢いよく手を挙げた。
「それ!私もいいですか?」
「ああ、いいぞ。回して使え」
俺はその時、CとDにも目配せする。お前たちもいいぞ、と。Cは目を輝かせて、Dはぺこりと礼をした。
「すいません!聞きたいんですけど、どうやってそのスタイルの良さを継続しているんですか?」
Cが聞く。
「ん?そんなこと聞かなくたって、お前らいい体してんじゃん」
「きゃあああ!」
D以外が叫ぶ。うるさい。
「でもやっぱりスタイルもいいし、綺麗ですよね」
「うん、まあな。それはあれだ、遺伝子だな」
「私も紅さんの兄弟に生まれたかった~」
やめておけ。魔人の子になるぞ?
「私は紅さんの子供になりたかったです!」
珍しくDが口を開いたかと思えば、やばいこと言い始めたよ。普通に引くぞ。
「あーいいよね。紅さん、いいお母さんになりそう。私も生まれたーい」
同意すんな、同意すんな!
もうちっと、こっちの気持ち考えてから言え。俺の顔見てみろ。どうせ目に光の宿ってねーほど虚無の顔してんぞ。
「ちょっともう!変なこと言わないの。紅さん困ってるよ」
ナイスだ、A!
「あ!昨日、紅さんの弟の碧くん、見かけましたよ!」
「え、いいな~!」
「私一度も見たことな~い。どんな顔だった?」
俺の周りにいるのは、全員二組以下の生徒たちだ。確か……Dが二組だった気がする。他は分からない。ただ六組ではないことは確かだ。
一組は完全独立で動いていて、最上階で授業を受けているため、なかなかお目にかかれないのだ。それこそ、待ち伏せでもしない限り。
「すっごく紅さんに似てて、美形って感じ。でも幼さもあって、可愛かった!」
「紅さんの男版ってこと?えー会ってみたいな~。声は、声はどんな感じ?」
「あーえっと、待って!思い出してるから!えーっとね、やっぱり優しい感じ!」
「えーもっと何かないの?」
「あとはね……ちょっと息多め?落ち着いている感じで、聞いてるだけで寝ちゃいそうになるっていうか。あれでささやかれでもしたら!」
きゃああ!とまた盛り上がる。
まあ分からんでもない。確かに碧の声を落ち着いていて、心が安らぐ。これは家族だからっているのもあるだろうけど、碧の声にもそういう力があるのかもしれない。
「それに比べて、紅さんの声を通ってますよね」
「通ってるってなんだ」
「こう、一直線に、ピューンって感じで、透き通ってるとはまた違うんですけど」
一直線に?ピューン?
うーん、ニュアンスは何となくつかめそうだけどな~いまいちだ。
「ま、褒めてんだよな?」
「はい、褒めてます」
「なら、いい」
するとAが前のめりになって、興奮しながら言う。
「その声!その声、もっかいいいですか!」
「え、どういうこと?」
「あ、私も今、思った!さっきの紅さんの声、最高だったよね!」
「お願いします!もう一回、さっきの頂いてもいいですか?」
溜め息をつく。
本当ならこんなことする必要もないけれど……ちやほやされるの、嫌いじゃないんだよな~。
「なら、いい――」
「それです!その、なんていうんですか?ちょっと落ち着いた感じで、優しい声!」
「あ!これだよ、これ!碧くんもこんな感じだった!」
「やっぱり姉弟なんだよね~」
「やっぱり私!紅さんの子供に生まれたい!子守唄、歌ってほしい!」
またDだ。またDがなんか言い始めたよ。
そういえば、母さんの子守唄は聞いたことないな。いっつもググが歌ってくれていたような気がする。それもへんてこな曲で、人間の言葉じゃなかった記憶がある……まだ俺が人間の言葉を網羅していなかった(今もしていない)からかもしれないけど。
「すいません……隣、いいですか?」
「ああ、柚香か。俺もう上がるけど、いいか?」
「はい、皆さんと話すの楽しいです」
「柚香~!こっちおいで!」
俺を中心とした輪の中に入ってきたのは、柚香・フローリー。
柚香は俺と同じ六組のクラスメイトで、最近知り合った。知り合ったきっかけは、同じ講義を受けたのではなく、たまたま風呂で俺が座った隣に柚香がいたからだ。同じ六組だと知り、とりあえず仲良くしておくか――みたいに関係を持った。
柚香は小動物的な可愛いさがあり、由香里とは違って、大人しめで弱弱しいイメージ。しかしたまに見せるはにかむ笑顔が素敵な子だ。しかし身長に似合わない大きなおっぱいを持っていて、ミスマッチ。
嫉妬はしてない!していないけど、あの胸が平らだったらな~とは思う。
柚香はAに呼ばれて、膝の上に乗る。人形みたいで可愛い。
「何のお話をしていたんですか?」
「えっとねー紅さんの弟さんの話なんだけど――」
「ああ、碧さんですか?」
「まあ知ってるよね、有名だもんね。入学してすぐに一組の座を奪い取った天才――なんだから」
碧は巷ではそう呼ばれているらしい。
あいつ自身はまたまだ追いつけない、と言っていたけど、まず一組に入ることがすごいし、一組の中でもさっそく結果を出していると聞く。
男女で寮が分かれているし、一組と六組だし、連絡を取れる手段もないので、あれ以来会ってはいないけど、こうして弟の噂が聞けるだけで満足している。
「私、碧くんに話しかけられたことあります」
そう言ったのは、柚香。俺も含めて、全員が彼女へ向く。
「え!どこで、どんな風に!」
Bが聞いた。
「あの、六組は三階で、一組が四階だからかもしれないんですけど、たまたま六組がよくいる講義室の前に碧くんがいて。私に気が付くと、『君、六組?』って」
「いいなー!それでそれで!」
「『はい』って言ったら、『姉さんがどこにいるか知らない』って聞いてきて、私、その時その人が碧くんだって知らなくて、それに碧くんも気づいたのか『ごめんなさい!』って、走っていきました」
おいおい、そんな恥ずかしいことしていたのか、弟よ!
俺のことが大大大好きなのは知っているけど、わざわざ六組の教室の前まで来て、姉さんを探しにくるとか――ちゃんとシスコンじゃねえか。何か用があったのかもしれないけど、それにしたって、こんなことしてたら勘繰られるよ?
『碧くん、シスコンなんだってー』
『えーなんか意外だね。あの落ち着いた碧くんが』
『なんか、お姉さん探して校内中走り回っているみたい』
『なんかショック~』
とかになりかねないよ!
俺だってあんまり弟の自慢しすぎには気を付けたりとか、弟とのエピソードを柔らかく表現したりだとか、しているのに。
「碧くん、紅さんのこと大好きなんですね!」
ほら、こうなった。
俺につけが回ってくるんだよ。
「ま、双子だし。ずっと一緒にいたからな。初めて離れて不安なんだろ」
「可愛いじゃないですか~」
「それで一組って、なんかギャップがあっていいよね」
「わかる~」
「私!紅さんと碧くんの子供になりたい!同じ顔で生まれたい!」
D!どうした、D!一回、湯船から出ろ!頭冷やせ!
「……?どうしたんですか、紅ちゃん。あ、もうそろそろ上がる?」
ナイス、柚香!
「お、おう。もう上がるよ。十分、体も温まったからな」
「いつも早いですよね、紅さん」
「遅い方だっつーの」
俺はBの頭をくしゃくしゃにしながら、湯船から出た。後ろからは「頭!頭、触られちゃった!」「いいな~」と声が聞こえた。
風呂に入ったのに、体がだるいとは何事か。
とりあえず、涼しい空気を求めて、俺は風呂場から出たのであった。




