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女の押し倒し方……もっとうまくならなければ! 18

 ペラペラペラと余計なことは言わずに概要だけ話して、テイク2。


「と、まあこれが俺の秘密だ」

「ええ、よく分かったわ。あなたが魔人じゃなくて半魔だってこと。そしてそれを隠して、勇者の領域であるブラックエリアに侵入したことも」


 さっきの暴走が嘘のように、真希はすごい剣幕で俺が話したことを要約する。


「侵入って言うのは気に入らないが、概ねそんなところだ」

「それを踏まえて、もう一度聞くわ。なぜ私に正体を教えたの?なんであの時、私にその赤い眼を見せたの?」

「それはさっきも言った通りだ。正体をバラせば面白いことになる――そう思ったから、見せた。実際、そうなった」


 楽しかっただろ?俺との殺し合いは。

 高揚しただろう?俺と刃を交えるのは。

 挑発するように、俺は真希を見る。


「ええ、面白かったわ。人生で一番、胸打った試合だった」


 反発するかと思いきや、真希は素直に頷き、自然に笑みを浮かべる。彼女の笑顔は、夕暮れの光に負けず、綺麗だった。


「それでも――それでも、私は勇者の一人として、あなたの存在を看過できない。なぜ私に正体を教えたの?この質問に意図は、なぜ私が学校にこのことを告げ口しないと思わなかったの?と、いう事よ」


あーそういうことね。なら問題ないだろう。


「言ったの?誰かに」

「言ってないわ」

「どうして?」

「………」


 真希は俺を睨みながら、押し黙った。

 特別な理由なんてものはない。無理矢理、挙げるとすれば、不確定な情報は伝えられない、ってとこか。でも黙るってことは、もっと別の理由もありそうなものだけど。


「さっきも言った通り、あなたと戦うのが楽しかったから。もし私が報告すれば、再戦は叶わないと思ったから」


 真希は、拗ねる子供のように、目を逸らして言った。

 それがまあ可愛くて、思わず彼女へ飛び込みそうになる衝動を抑え――いや、抑えなくていいや!


「とう!」

「な、なに!?」


 俺は真希の腕を捕まえて、ベッドに押し倒す。彼女のお腹には乗らず、ベッドに四つん這いになって、苦しくないように配慮はした。


 すると、真希は辛そうに顔を歪ませた。その理由はすぐに分かった。


「肩が痛むのか?」

「あんなに深く刺されたら、ね。動くたびに痺れるように痛い」

「そっか……恨んでる?」


 真希は首を横に振る。金色の髪が擦れて、広がった。


「これは勲章。あなたの致命の一撃を避けた、私の勲章」

「そう。それは光栄だな。しかし――」


 押し倒したものの、なんかちょっと変な体勢だ。真希の上半身しかベッドに乗っておらず、彼女の足がブランとしていて、俺が四つん這いだから、あまり顔を近づけられない。この綺麗で汚されていない顔を近くで見たいのに。


「なあ、枕元で寝てもらっていいか?ちょっと体勢が変なんだ。これじゃあ、不格好だ」

「え、ええ。私もちょっと辛い体勢だったの。動くわね」

「サンキュ」


 真希は枕に頭を乗せて、全身をベッドに。そして俺は彼女の上で四つん這いになる。


「うん、これでオッケーだな」

「そうね――って、なんでそうなるの!」

「え?こうじゃないと、お互いの顔がちゃんと見られないだろ?」

「どうして見る必要があるの!」

「真剣な話をしてるんだ。ちゃんと目と目を合わせて話そうぜ」

「………一理あるわね」


 この女王様、ちょろいぞ。

 普通だったらここは、「それだったら、座ってでもできるでしょ!」だ。体重も全部、ベッドに預けているし、抵抗する様子もない。今日の試合のときみたいな血気迫る気配もない。同一人物か?


 まつげが長い。ちょっとつり目で、端まで長く伸びた二重。筋の通った鼻。触ったらモチっとしそうな艶のある頬に、桜色の薄い唇。人形のような無機質さがないのに、職人が丹精込めて作ったような精巧さがあった。


「お前の眼は、青いんだな」


 他のやつらは力を使うときだけしか、青くならないのに。


「私の呼び名、知ってる?」

「女王様だろ?」

「それは学園で勝手に呼ばれてるだけ。勇者部隊の間ではこう呼ばれてる――勇者よりも神力が多い女って」


 さほど驚きはなかった。

 そうだろうな、と予知していたわけではなく、俺には勇者というものがどれだけ偉大で、強い奴なのかをあまり理解していないからである。だから、真希にそう言われても、彼女の何がすごいのかが伝わってこない。


「まあ、あれだろ?神力が他より多いってことだろ」

「も、の、す、ご、く、多いの」

「はいはい。それで……あれか?神力がものすごく多いから、眼が青いんだな」

「そうよ」


 なら碧も似たような感じだな。

 俺が赤い眼を隠しているように、あいつも青い目を隠している。理由は「僕だけ青くて、姉さんが黒いんじゃ、何か疑われちゃうかもしれないから」だそうだ。そんな神経質にならなくてもいいとは思うが。


「あなたの赤い眼は、綺麗じゃないわ」

「失礼な」


 母さんから授かったものじゃないけど、これでも母さんが授けてくれた体の一部なんだぞ。


「勇者からしたら、その赤い眼は忌むべき色。立場が、あなたの眼を綺麗だと言わせない」

「じゃあ、立場がなかったら?」

「立場がないことなんてないもの。私にとって、生涯ずっと、その眼は禍々しくて倒すべき対象よ」

「そう?」

「ええ、そんな目をぱちくりさせても無駄よ」

「はあ……そっかよ」


 残念だ。碧でも照れながら「き、綺麗……だと思う」って思春期にお母さんへ手紙を渡す男の子みたいに、ちょっとぶっきらぼうになって言ってくれるのに。あの時、おもしろかったな~。私はマザコンだから手紙を素直に渡せたけど、碧はチョー照れてたからな。


「じゃあ、そろそろどきますか」


 もうちょっといちゃいちゃしたかったが、自分の眼を貶されて萎えた。


「そうね。なんで私が押し倒されているのか、意味わかんないし。もうどいてくれる?」


 でもなんか、このまま終わるのも癪だなと思った。少しだけ意趣返しをしたい。押し倒してもすぐに平生を取り戻してしまう彼女に、痛恨の一撃を食らわせたい。


 降りてきた妙案。

 俺はまだ起き上がっていない真希の前髪を上げて、おでこを出す。


「なに?」


 動揺が感じられない疑問。

 俺は何も言わないまま、そのおでこに顔を近づけて――


「ちゅ」


 キスをした。


「~~~~~~~~~~~~」


 みるみる紅潮していく顔。

 これを見られただけで、俺は満足。うぶで性に興味のある真希には大打撃。本当はもっとエッチに体をなぞって、胸なんかも触って、最後に唇にキッスをしたかったけど、この後も少し話したいことがあったので、倒れられちゃ困ると思ってやらなかった。


「きゃ――」

「きゃ?」

「きゃあああああああああ!」

「待て――今起き上がると――――!」


 やっぱり鍛えている奴は違う。

 下半身の力を使わなくても、腹筋の力だけで簡単に体を起き上がらせてしまう。その勢いも尋常じゃなく、瞬きしている間に俺の顔の前に真希の顔が――!


「ぐあっ!」

「い――っ!」


 俺がキスした真希のおでこと、俺のおでこがキスをした。


「いてえな!」

「あなたがいきなりキスするからでしょ!」

「キスして何が悪い!」

「悪いわよ!押し倒されただけでもドキドキしてたのに、キスなんてされたら――私……」


 抑えれれない――衝動を!


「とう!」

「なんでまた押し倒すのよ!」


 ともかく。

 俺たちはそれぞれのベットに座る。腰を据えて話をしようじゃないかと、俺が提案した。真希は何やら激情していたが、そんなことは気にしない、気にしな~い。


「さて、今後の話だが」

「ええ」

「俺が半魔だということは、秘密にしておいてほしい」

「分かったわ」


 むむ。やけに素直……というか、物分かりが良すぎる。

 俺との試合が楽しかったから――とは言ってたものの、俺の眼に関しては、勇者の立場が――なんて言っていたし、了承するにしても少し押し問答があってもいいような気がするが。


「いいのか?」

「いいもなにも無いわ。さっき言った通りよ。私はあなたとの勝負が楽しかった。そう感じてしまった時点で、あなたを糾弾することはできない」


 その感覚は俺にはよく分からない。

 どんなに楽しい勝負でも、そいつを追い詰める手札を持っているのなら、告げ口まではいかないが、脅すくらいのことはしてもいいとは思う。


「でも条件があるわ」


 ほら。


「なんだ?俺はまだ処女だ。痛くするなよ」

「なんでそういう話になるの!私は今、まじめに話してるのに………でも、女の子同士の行為……って、その~~……気持ちいいのかしら?」

「これが結構いいらしいですぜ、旦那。どうすか?おいらと一発――」

「だ、だめ!私も処女なの……だからだめ。お互い痛いのは、ちょっと嫌かも……あなたが処女じゃなくなってから――――って、なんの話なの!これ!」


 おもろ。

 真希は咳払いをする。


「それで条件なんだけど……」

「もしかして俺の体――」

「それはもういい!」


 咳払い。


「私の提示する条件は、もう誰にもあなたが魔人だってバレないようにすること」





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