説教が気持ちいいって、どの性感帯が反応してるの? 13
茜はあまりに体温が上がってしまったのか、椅子の上で伸びてしまった。
由香里にはスーツに着替えようとしていたと嘘をつくと、簡単に信じ、一緒に茜の着替えを手伝った。ちょこっとだけ、下着が濡れていたけど見て見ぬふりをした。
「すごかったぞ!」
「おっぱいが?」
「………?」
純粋な由香里の瞳が、不純な俺の心に突き刺さる。
「真希との試合のことだ。紅が何秒耐えられるかな~って見てたのに、まさかあんな激戦になるなんて思わなかったぞ!詳しく聞きたいことはあるけど、とりあえずお疲れ様だ!」
「うい~~」
「でも危ないことはしちゃだめだぞ。本気でやるのはいいが、これはたかが振り分け戦で、戦争じゃないんだからな。ルールに則って、やらなくちゃダメだぞ」
くそっ……碧の説教から逃げてきたというのに……
「わ、分かってる。でもだな~やっぱり遊びでも、楽しまなきゃ意味がないというか――あ~ほら、俺って弱いじゃん?だから対等に戦うのは……」
言い訳下手か。
「紅が弱いの知っているし、自分が弱いことを自覚しているのはいいと思うぞ。でもな、反則行為をして勝とうだなんて、自分が弱いことを証明しているみたいじゃないか。己を弱者と罵るのは構わないけど、心まで弱者になっちゃいけない!」
むむむ……一理ある――っていうか、由香里にそう言われると、『ああ、俺って卑怯者だったんだ……』と思ってしまう。……まあ、顔を狙って死を意識させるのは、卑怯だった気もしなくもない。
「由香里の神技って、心理操作?」
「私は違うぞ。一組にそういう奴はいるけどな」
いるんだ。怖いね~。
「ま、最後の十秒なんかすごかったけどな。あのスーツを破る攻撃は見事だったぞ、褒めてやる」
「え?あれが一番、反則行為だと思うんだが……」
「あははっ!あれはまさしく強さの証明だ!真希の肩が負傷したのは、スーツの耐久性と真剣でやらせる学園側が悪い」
確かに。学園が悪いわ。そりゃ、真剣持ったら、俺だって本気で戦っちゃうよ?
あと由香里には悪いけど、俺は肩は狙ってない。殺す気で胸を狙った。よかったバレなくて。多分、碧にはバレてるんだろうな~。嫌だな~。
「お偉いおっさんが『殺されてしまうくらいの危機感を持って戦え』なんて言い訳してたけど、スーツの耐久性に胡坐をかいて、実戦的な模擬戦闘用武器を作るのをサボっているんだ。だから、今回の紅の失敗の責任は、学園と半分半分だぞ。よかったな!」
「おお!」
由香里は説教の天才か!
まず頭ごなしに「お前が悪い」といわず、理路整然となぜ悪いのかを話す。さらに相手を認めながら、別の角度からの見解も話し、「全てお前のせいじゃない」と慰める。
「一生、俺に説教してくれ!」
「……?お、おう!紅が悪いことをしたら、叱ってやる!」
「やったー!今日から由香里は、俺の説教大臣だー!」
分からない……分からないけど、今後俺は由香里に怒られるためだけに、悪いことをし続ける気がする。俺は反抗期だが、別に不良になりたいわけじゃない。
う~~……でも由香里の説教、癖になるぞ。悪いことをするのはやめよう。少なくとも由香里の前では……じゃなきゃ俺は――俺は!後戻りができなくなる!
「う……んん………あれ、ここどこ?」
と、一連の流れが終わった頃に、茜が目を覚ました。
由香里は俺に用があった訳ではなく、更衣室に着替えに来たそうだ。そろそろ試合の時間らしい。相手は中等部で二組だった女子。油断大敵は敗北の種だと、由香里は少し早めにアップすると言って、更衣室を出てすぐに別れた。
「なんで私、スーツに着替えているの?」
「早めにアップするんだろ?」
「それは由香里でしょ!私はアップするような戦闘スタイルじゃないよ~……」
「ま、早いに越したことないだろ?」
「嫌だよ……このスーツ、体のラインが出て恥ずかしいの。だからみんな、ギリギリで着るんだよ。私なんて、胸が………」
確かに、胸に綿でも詰めてんのかってくらい膨らんで、ゆらゆらと歩くたびに震えている。通路を歩くだけで、男女関係なく茜のおっぱいに視線が吸い込まれていった。
「しょうがない。ほら、これ着な」
スマートに上着を脱いで、ふぁさーと茜の肩にかける。
「え………」
「それ着てれば、ちょっとマシだろ……」
「う、うん。ありがと」
「別に、どうってことねーよ」
「ふふっ……ねえ?」
「どうした?」
「紅のいい匂いがする。なんか、紅に抱きしめられたみたい」
「だったら――俺が抱きしめてやるよ」
「え―――」
俺は茜の腰を掴んで抱き寄せる。
茜は「きゃ……」と女の子らしい声を漏らしながら、俺の胸におっぱいを押し当てながら体の力を抜いて、俺に体を委ねた。
「ほら、顔を上げて」
「あ――」
強引に顎を上げさせて、茜と目を合わせる。
目指すは瑞々しい薄ピンクの唇。そこに俺の艶やかな唇を――と顔を近づけて……
「――――って、マッチポンプ!」
「うぐっ………!」
正気に戻った茜は、手で俺の顔を押してキスを阻止し、そのまま強引に俺の腕の中から脱出した。
「自分で辱めておいて、優しくするマッチポンプ!なんで、私はときめきかけたの!?」
いつもの頬に空気を溜める怒り方で、眉を顰めてこちらを睨む。
「ときめきかけたというか、ときめいてたぞ。満更でもない顔してたぞ」
「うっ………それは――あ!紅ちゃんの神技って心理操作でしょ!」
「ろくでもない睡眠学習」
「うぅ……とりあえず、これは巧には秘密だからね!流れだったけど、巧のことを話したの紅ちゃんが初めてだし……」
「なんか、本当に浮気みたいじゃん……」
「浮っ、浮気じゃないもん!女の子と浮気なんてできないよぉ……」
俺の上着を冬の寒空を歩くように、ギュッと抱き寄せながら、上目づかいで、俺を見る茜。
まだ頬が赤いぞ、茜さん。それは怒りなの?照れてるの?どっちなの?
「紅ちゃん、かっこいいから。なんか不純な気持ちになっちゃうよ」
告白だろ、それ。
「巧とどっちがかっこいい?」
「―――!どどど、どっちがかっこいいとか、そんなの決められない!」
決められないんだ……
「巧は異性としてかっこいいと思っていて、でも紅ちゃんは同性として憧れって感じで――え、でも紅ちゃんといるとドキドキして……それは憧れとして、いや恋愛対象?あれ、あれれ?ねえ紅ちゃん――同性同士って結婚できるんだっけ!?」
落ち着け。
いつからこんなに好感度が上がったのか分からないけど、一つ分かることは、ツキカゲ家は遺伝子レベルで、俺みたいな顔が好みだという事だ。面食いじゃな無くても、この顔面に甘く誘惑されたら、落ちる。
多分、母さんもこんな風に円加お姉さんを奇人にしたんだ。