表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/31

列車には乗り遅れた 1

他の作品が完結していないのに、書きたくなったので書きます。

 私にとって、それは鮮烈で屈辱的で快楽的。初めて知った男の味は――味というには、私は経験不足だけど――苦くて甘美だった。例えば……ハッカ飴みたいな味(私、あれ苦手なの。二度と舐めたくない)。


 あの一回で私は男というものに興味をなくした。唯一興味を持った男は、私が闇に葬ったから。彼が私に残したモノは、下半身の切なさと舌に纏わりつく鉄の味――そして体に残った強烈な子種。

 不本意ながら、それは私に二つの宝を授けてくれた。隣人に「やめておけ。お前もお腹の子も幸せにならんぞ」と言われたけど、私は迷わず生んだ。隠された家族願望のようなものがあったのかもしれない。


 一人は赤い眼をした、(べに)。彼の血を多く継いで、私の髪色――黒髪がよく目立つ女の子。

 一人は青い眼をした、(あおい)。私の血を多く継いで、彼の髪色――白髪がよく目立つ男の子。


 ずっと戦場にいた私の人生は、子供が生まれてから一変した。

 世界が色づいた――なんて私らしくもないことを言ってみる。


 ううん。私らしく、ひねくれて言おう。

 この子たちのいなかった世界は、こんなに色もなく、クソだったんだって気が付いたんだ。この二人が生まれるまで、そのことに気づかなかったなんて反吐が出る………なんてね。


 私は世界の色を知っていた。でも知らないふりをして、目隠しをしていた。二人が、私の目隠しを取ってくれたんだ。うん……この表現が一番いい。


 子育ては難しかった。

 人に気を使う事を知らなかった私が、人の事を気にし続けるなんて思ってもみなかった。でもそれが楽しかった。難しくて、楽しかったんだ。だって二人の笑い声が聞こえる。泣き声が聞こえる。寝息が聞こえる。

 私にはそれが、小鳥のさえずりよりも尊いものだと感じた。あーでも……私、小鳥のさえずりを聞く前に、石投げてたっけ……。


 子供の成長は早いものだ。

 いつの間にか歩けるようになって、いつの間にか走れるようになって、いつの間にか戦えるようになった。

 私は子供の遊びに疎かったから、自分なりに二人とじゃれ合った。

 二人は――特に紅なんかは、ボコボコにしても向かってくるんだもんな~ホント、可愛い。碧も碧で、私にボコボコにされた後、私の隣人と一緒に訓練してた。健気~。


 そして今日――


「姉さーん!!早く仕度してよー!」

「はいよ~……HEY!YO!みゅじぃ~っく!カモ~ン!あさひがのぼ~り~よるがくる~……俺の視界は~まだまっくらさ~」

「姉さん!二度寝しようとしてるでしょ!」


 上の階でボスンッとベッドに飛び込む音がした。碧の言う通り、紅はこのまま二度寝を決め込もうとしているらしい。

 碧は紅の二度寝を阻止しようと階段を上る。この勝負、私は碧に賭けよう。個人的な感情としては是非、紅に勝ってほしいところだけど。


「全く……紅はお前に似て悪い子じゃな。碧は相変わらずいい子じゃ~」


 私の隣で誇らしげに腕を組むのは、子供サイズ、長い角を生やし、サラサラの青い髪を床まで伸ばし、可愛らしい顔つきをしている女龍神――ググ。私の隣人だ。


 私が魔族に強姦されて、フィニッシュされた後に現れた、命の恩人。

 精子を出される前に助けに来いという話だが、二人が生まれてきてくれたので、結果オーライ。犯され終わって、殺されかけた時に助けてくれたので、一応、大事な恩人だ。


「悪い子だから可愛いのよ」

「そんなこと言ってるから、紅が甘えるのじゃ」

「紅が真剣な時は、碧以上にいい子よ」

「それは(さき)基準じゃろう?紅が真剣になるのは、お主と殺し合いをしてる時だけじゃよ。物騒なことをする時点で悪い子じゃ」

「平和主義者の龍神め」


 私が紅を贔屓したくなるのは、ググが完全に碧贔屓だからという側面もある。もちろん、碧にも十分な愛情を注いでいるが、紅には特別な愛情(殺意)を注いでいるのは間違いない。

 あともう一つの理由は――


「姉さん、早く!」

「うぃ~うぃうぃ~分かってるから……うぅぅ、引っ張らないでおくれ~」

「じゃあ一人で歩いてよ!」


 こういう時の紅の勝率が、著しく低いから。負けてる方を応援したくなるのは、人間の心理ね。紅の敗因が、弟への愛情というのも応援したくなる理由の一つ。


「紅!今日はお前たちにとって大事な日じゃろう?さっさと顔を洗って、髪も梳かして――って、できてるの~……」

「見てよ、ググ。姉さん、スーツケースも準備済みなんだ。用意してるくせに、二度寝しようとするんだから」

「やっちゃいけないことって、やりたくなるじゃん。破壊したくなるじゃん」

「やっちゃいけないことは、やっちゃいけないんだ。やりたくなっても、やらない。僕たちも十五歳だよ?」

「十五で大人を気取るない!こんな子供が千歳超えてるんだぞ!」

「我は子供じゃないぞ!!」

「十五歳でも社会に出れば大人だよ。僕たちはこれから大人の仲間入りをするんだ」


 そう。今日、私の宝物たちは社会に飛び立つ――


 紅と碧は無事に十五歳を迎えた。そして十六歳になる年に、学園へ行くことになった。


 今まで、ググが二人の勉強を見ていたが、その彼女がそろそろ学習機関へ行かせた方がいいと進言した。

 私は二人と離れるのが嫌でその提案を拒否し、紅も「母さんと離れたくない!」と嬉しいことを言って拒否した。しかし碧が予想以上に乗り気で、目を輝かせる我が子の可愛さに負けた。紅も弟の可愛さに負けた。


「はははっ!勘違いするな、弟よ。俺たちがなるのは学生であって大人じゃない」

「学生のうちに大人としての意識を――」

「教師みたいなことを言うなよ、碧。あんなの方便に過ぎない。世間からしたら、お前の心が大人でも――学生は全員、子供とみなされるのだ!!」

「姉さんが世間の何を知っているのさ………」

「知らない!知りたくもない!いいか、碧……世間はいつだって少年少女の敵なんだ!」

「だから姉さんが世間の何を知っているのさ……」

「知らない!知りたくも――」

「もうそのくだりはいいじゃろ!!準備ができたら、もう出発じゃ。そろそろ行かないと、列車が出るぞ」

「そ、そうだ!行くよ、姉さん」

「おいおい、楽しみなのはわかるけど、そう急いでいると肝心なモノを見失うぞ」


 家族のやり取りを暖かな目で見ていた私へ、紅が振り向く。それに碧も「あ」と短く声を出しながら、私へ体を向けた。


「母さん、行ってくるね。姉さんのことなら任せてね」

「碧にこの暴れ馬の手綱を握られるかしら~?」

「握られるかしら~?」


 紅が私に便乗する。


「暴れ馬と言われたことを否定しないのか、紅。間違ってはいないのじゃが……」


 碧は私と紅を見て苦笑した。

 その表情にはやっぱり、不安が見え隠れしている。自分が行きたいと言った学園。新天地に行くことに加え、姉である紅を半ば強制的に連れ出す形になったこの状況――期待の分、不安もあるのかもしれない。


 十五歳にして、もう私の背丈と同じくらいになった碧を、私は抱きしめる。


「大丈夫。紅はちゃんと碧を愛しているわ。不安なことがあれば、姉さんが助けてくれる」

「姉さんのことが一番、不安なんだけどね」

「あはは、紅ならなんだかんだ、大丈夫よ」

「ふっ……そうだね」


 碧から体を離す。

 とても名残惜しい。このままずっと一緒にいたい。片時も離れたくない。でも自分の子供が成長する姿なんて、親からしたら鼻血が出るほど見たいに決まっている。成長の過程が見られないのが残念だけど、待ち遠しく子供を想うことは寂しくもあり、楽しみでもある。


「どうぞ?母さん」


 紅は手を広げて、私に抱きしめられるのを待っている。


「はいはい、ヤキモチ焼くな」

「それくらい愛してるってことだぞ」

「伝わってるわ」


 私は紅を抱き寄せる。

 この子は期待も不安もないのだろう。子供ができた今の私ではなく、過去の私のように、紅は刹那的に何も考えずに生きている。だからこそ強い。世話のかかる姉だけど、姉らしい強さを持っているから、碧はいつまで経っても姉離れできないのだ。


「楽しんで」

「それだけ?」

「だって……紅は何言ってもすぐ忘れるでしょ?」

「母さんの言葉なら、忘れない」

「そう?じゃあ一つだけ……碧のこと、守ってあげて」

「もちろん。何をしてでも――」


 体を離そうとすると、紅はさらにギュッと強く抱きしめた。この子はいつまで経っても母親離れができないのだ。

 ポンポンと紅の頭を叩いて、髪の流れに沿って背中を撫でる。腰に手を伸ばして、頭と同じようにポンポンと叩く。すると、紅の体から力が抜けて、私から一歩下がった。

 紅は赤い目をごしごしと拭いていて、私に黒い眼を見せた。

 

「よっしゃ!じゃあ行きますか!」

「うん、行こう」


 二人はそれぞれのスーツケースを持ち、玄関へと向かう。

 私とググは二人を見送るために後に続くと、隣で鼻水をすする音が聞こえた。そこには口を固くすぼめて、眉間に皺を寄せる龍神が一人。

 本人は我慢しているつもりなのだろうけど、もう涙は頬を伝っていた。


 全く……学園に行くことを勧めたのは、あんたじゃない。


「んじゃ、母さん、ググ――行ってくるぞ……ってググ?」

「まさかググが泣くとは思わなかった……」

「うるさい!我だって寂しいものは寂しいのじゃ……ほら!我ともハグしてから、行ってきますを言え!」


 さっきの紅と同じように両腕を広げている、泣きべそをかいて鼻水たらたらなググの姿に、私三人は思わず笑ってしまう。


「笑うな!早くハグしろ!列車が行ってしまうのじゃ!」


 私は紅と碧と目を合わせて、「やってやれ」とサインする。二人は互いに顔を向け合って、私の意図を確認する。そしてニヤリといたずらな笑顔を見せて、ググへ標準を合わせた。そして――


「行ってきま~す!!」

「行ってきまーす!!」


 と、二人はググへ飛びついた。子供サイズのググに、だ。


「ぎゃああああああああ!!」


 紅と碧の出立の汽笛は、彼女の叫び声だった。





読んでいただきありがとうございます。

下のいいねや☆の評価をよろしくお願いします。続きが気になる方はブックマークもぜひ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ