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旅先での不思議な出来事

喫茶店で


料理は結構美味しそうだった。パスタをくるくると巻きながらぼんやりとカウンターで読書をする老人を眺めていた。恐らくはこのカフェのマスターなんだろうけど、西洋の貴族に仕えている執事のような風貌だった。何を読んでいるんだろうと目を凝らしているとカランと音がして、客が来店したようだった。老人はふと目を上げて客の姿を認めると、何やら二人で話していた。そして二人で奥へと入ってしまった。残りのバスタを食べながら、あの女の子一人で大丈夫なのかな、などと心配していると、丁度彼女が水を淹れに来てくれた。何だか手を煩わせても悪いなと思い、混んできたみたいだからと早々と食べてその場で丁度の金額で会計を済ませて喫茶店を後にした。オルゴールの曲は聴いたことのない4曲目に差し掛かっていた。         

      

不思議な夢  

 

帰り道で冷めた身体を帰ってきてすぐに風呂で温め部屋に戻ると少しのぼせ気味になってしまった。水を飲んで部屋でゆっくり過ごす。冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して、ガバガバと飲んでみる。何だか不思議な気分だ。いつもお姉さんと二人でいたから、一人の時間が珍しく感じた。ちょっと寂しい気もするけどこういうのも悪くはないな。

そのままぼんやり時計の針を眺めていると、何故かスイッチが入ったように瞑想したくなった。浴衣のまま布団の上に座り目を閉じて瞑想を開始した。第一チャクラから第七チャクラまで順に色のついた球をイメージして、時計回りに回転させた。チャクラが開かれて活性化され、5分ほど自身が温かい繭のようなオーラに包まれている状態をイメージしていると、じんわりと首筋の辺りが暖かくなってきた。そのまま30分程ぼーっとして過ごすのがいつものやり方だった。勿論お姉さんに教わったやり方だ。瞑想していると眠くなってきて布団に潜るのが大抵だったのだが、今日は何故か静かな心のまま眠気はやって来なかった。故郷から離れて心が癒やされたことによるものだろうか?だったらいいのだけど。それとも、もしかしたらこの土地の磁場だったり、静かな旅館の部屋のおかげでこうなれているのかもしれない。ともかく、今ままででの人生の中で稀に見る程静かな精神状態に入り込むことが出来た事に素直に感謝した。そして一時間程その状態のまま過ごした後で、そっと立ち上がり、冷蔵庫の水をゴクゴクと飲んだ。そして軽快に歯をブラッシングして、安らかな眠りについた。

 

夢の中で

 

その夜、不思議な長い夢を見た。僕は夢の中で白いキャンバスに絵の具を散らせていた。自分が夢の中にいる事にすぐに気がつくことが出来た。明晰夢を見たことがないわけではないが、就寝前の瞑想のせいか、今までのどの夢よりもリアルな夢だった。夢の中で僕は絵を描いていた。時には筆で絵の具を塗り、時々筆先を散らしたりするこのドリッピングという描き方は僕がまだ幼少期だった頃に取っていた手法だった。幼い頃、何も考えずに、白い紙に絵の具を撒いていたことを思い出した。何故この描き方を忘れてしまったのだろう。夢の中で僕は半分覚醒半分眠りのような状態で、まるで自分ではない何者かが描いているような状態で絵を描いていた。完成した絵を見ると完成したのは庭の絵だった。庭でキャンバスに絵を描いている自分の絵。まさに夢の中にいる今の自分を描いた絵だった。なぜか、この夢の中では僕は自身を虐げる存在から守られているという実感があった。庭は高い岩で外界から遮られており、僕の許可がなければ誰も侵入できない。加えて、誰にも見られていないという場所だった。そしてその絵を見ていると、ふと自分の技術に疑問を感じた。あれ、僕ってこんなに上手だったかな。手の平を見ると、この夢の中の自分はまだ子供のはずだが、最後に絵を描いていた頃の自分よりも上手く描けている気がした。

不思議だな、とくるりと振り返り辺りを見回してみた。僕は絵に描かれている庭にいる。どこだろう、ここは?こんな場所は少なくとも僕の記憶にはない。とすると、夢の中で僕が作り出した世界なのだろうか?大きな樹が左の方にあった。そこは絵とは違う部分だった。風で葉がざわざわと鳴る。ざらっとした樹皮にそっと手を当てて見た。いつもは特に何事も起こらないのだが、偶然なのか樹上の葉が一瞬光った気がした。 

(ん、何だ、今の?)

気になったので、後ろに下がって上の方を見上げようとしていると、左足が柔らかい何かに触れた気がして驚いて後ずさった。その正体は茶色い猫だった。その猫は前足を舐めた後、僕をじっと見つめている。そして、ぴょんと樹によじ登っていった。家猫って木登りできたっけな?と思っていると、猫は驚いたことに時々、枝で休息を取りながら、見えないくらい上の方まで登っていったようだった。姿は見えず、がさがさと葉を鳴らす音だけが聞こえる。あの猫は一体何をしているんだろう?ヒョウとかは多分捕食のために樹上にいるんだろうけど、あの猫はどうして木に登っていったんだろうな、などと思いながら上方を見上げていると首が疲れてきたので、樹によりかかって休むことにした。それから5分後くらいに黒猫はトンと軽やかに地上に着地した。何かを口元に咥えている。コトリと地面に落としたその透明な石をペロペロと舐めて綺麗にしているようだった。僕はその石に非常に興味を惹かれた。何かとても大切なものであるような気がしたのだ。茶猫が石を舐め終わって僕を見上げてきたので、近づいて手にとって見た。透明だが中に何かが混入している。黄色いような青いようにも見える丸いものだった。最初は琥珀のようなものかと思った。だから、中に入っているのは生物の化石か何かかと思ったのだがどうも違うみたいだった。何だろうなこれ?ちょっと光にかざして見たがさっぱり分からなかった。石から目を離して茶猫を見るが、彼は後ろ足で首を描いてあくびをしていた。どうやら、何も教えてくれそうにない。樹の上にこんなものがあったことといい、猫が登って取ってきたことといい、全く不思議な夢だなと思った。

 この場所は一体何なんだろうか。僕が夢で生み出したただの幻想の庭なんだろうか。僕は庭の手前の方に歩いていった。植物たちに遮られて最初は見えなかったがそこには家があった。しかし、やはり見覚えはない。でもなぜか夢の中では僕はこの家の事をよく知っているようだった。誰も住んでいないこの家を隅々まで知っていた。何となく、そこにあった白い椅子に自然にもたれて目を閉じた。静かで家の中からは人の気配を全く感じなかった。

 

目が覚めると旅館の部屋だった。いつの間にか、布団を被って眠っていたようだ。僕は今見た夢を正確に覚えていた。いつもは夢なんてすぐ忘れてしまうんだけど。そして、目覚めた感じもどこかいつもと違う気がした。なんだか意識が研ぎ澄まされているようだった。忘れない内に記録に残しておこうと、かばんからノートを取り出して、書き綴る。そして、夢の始まりから終わりまで余すところなく書き留める事が出来た。書き終えた事に満足して、そのままゆっくりとお茶を飲んでいた。スマホを見ると、まだ早朝といえる時間帯だった。布団の上に寝転がりながら、さっきの暗示的な夢は一体何だったんだろうなと考えた。全く不思議な、そしてとてもリアルな夢だった。僕はこの不思議な現象にしばし頭を悩ませていた。

 

どれくらいそうして夢を回想していただろうか。気がつけばそろそろ朝食の時間が始まりそうだった。動きたくないなとしばし悩んでいたが、やっぱり朝食は大事だし、食べに行くことにした。顔を洗って、歯を磨く。着替えが今日の分までしかなかった。どこかで洗濯の出来る場所を探す必要があるなと思いながら、食堂に行った。朝食は鮭と豆腐とワカメの味噌汁に、漬物とゆで卵に海苔という和食のニューだった。夢を見たせいでエネルギーを使ったのだろうか。いつもの1,5倍ほど食べて、満足して部屋に戻った。

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