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ホテルに泊まる

ホテルに首尾良くチェックインを済ませて、少しの間部屋でゆっくりした。なんだかんだでベンチで座りながら寝たので、体が疲れていたらしい。結局、その日はそのままベッドに入りこんで、眠ってしまった。


翌朝、テーブルでほうじ茶を飲みながら、スマホで空き家バンクの情報を探ってみる。そのホームページによると、目的地の空き家はそんなに沢山ある訳じゃなくて、2つか3つほど登録があるだけだった。写真を見てそれから書かれている情報を読んだ。ふうむ。その中の一つだけ住めそうかもしれないという物件があった。広くて、花壇とかがあって、書庫に出来そうな広い部屋があって、立地も悪くない。ここにしようかなと思った。


お腹が空いてきてまだ朝食を摂っていない事に気づいた。確か来る時にパン屋を見かけたので、そこで安いパンでも買おうと思った。

お姉さんから託されたお金はまだ余裕があったけど、出来れば節約するに越したことはない。信号を渡った交差点にあるそのパン屋は、小さいながらもなかなかいい感じの店構えで、美味しそうなパンが色々と置いてあった。入ってみると袋に2つ入ったくるみパンが100円だったので安いと思って買ってみることにした。ホテルに帰って早速食べてみると、焼き立てらしくとても柔らかくて、くるみが良いアクセントになっていて美味しかった。


ベッドにゴロゴロと寝転がりながら、さっきの空き家について考えていた。どの道、明日現地に行くことになるんだし、あの家で決めてしまおうかな。気に入らなかったらまたホテルにでも泊まって探し直したら良いし。僕は内覧希望のメールを送ることにした。

昼を少し過ぎた辺り、やることがなくて手持ち無沙汰だったので、そういや、お姉さんから返信来たかなと、スマホを見ると、案の定メールが入っていた。

「急に出て行っちゃったから、びっくりしたけど、私も今の和には旅をするのが正解だと視えるよ。落ち着いたら、招待してよ。和の新しいお家にさ」

いつも通りの陽気なお姉さんだった。僕は温かな気持ちになった。


さて、やることもなくて、暇だし、先ほどスマホで調べてみたところ、近くに図書館があるらしいので、何か借りてこよう。さっきの女の子に触発されて、絵の勉強をしたくなった。美術書でも借りてくるか。


図書館は空いていた。平日だからか、この図書館はあま人気がないのか、ともかく、椅子に座れるくらい人気が無かった。取りあえず、図書館で一時間くらい色んな本を読んでいた。図書館はいい。無料で大量の本を読める。家の近所の図書館よりは小さいながら、空いているので、また来てもいいかなと思った。それからも何時間か読んで、後はホテルで読もうと、何冊か借りて帰った。

尾形光琳の人生について書かれた本と後何冊か美術書を借りてきた。動物の絵が興味深かった。そういえば、しばらく美術館に行っていないな。落ち着いたらまた絵を見に行ってみようかな。    

そのまま何冊か借りてきた本を読んでいると、気づけば、夕方くらいの時間だった。お腹が空いてきた。僕はグシャグシャと髪を整えて、ぼーっとした頭のまま夕食を取りにレストランへ行くことにした。疲れていたが、さすがに夕飯を取らないとお腹が空いて眠れないと思ったので無理をして食堂へと向かった。ホテルのレストランはそれ程大きくはなくて、何も言わずに席に座っているとすぐに料理は運ばれてきた。宿泊客自体少ないのだろう、丁度よい時間なのに客はほとんど見当たらなかった。だが、安めの宿の割に料理は結構立派だった。和食料理で色んなおかずが少しずつ美しく盛られていた。窓の外の見知らぬ街並みを眺めながら食事をしていると、故郷にいるお姉さんは今どうしてるだろうと気になった。


「ホテルに泊まったよ。今夕飯食べてる。お姉さんも食事を摂らないと駄目だよ?」


とメールしておいた。あの人はあまり食事に興味がなくて、放っておくと食べなかったりするから。ぼんやりとした頭のまま、後どのくらいこんな毎日が続くのかなと考えていた。持ってきたお金はまだ充分にあるが、それでも限りはある。スマホを見ると、いつの間にか返信がきていた。


「私の視たところ、和の言う通り国立公園のところが居場所としては合っているみたいだよ。色々体験するといいよ。こっちでは出来なかったことをね。さ、私も夕飯にしようっと」


地元で出来なかった体験か。確かに旅に出てから珍しい体験をしている。あの公園で一泊したこと、絵を思い出したこと、ホテルに泊まったこと。一人で遠く離れた場所にいること。故郷には僕を助けてくれたお姉さんがいるけど、やっぱり思い出したくもないものが染みついてる場所でもあって、やっぱり物理的距離が心にとっても大事なんだなと気づいた。お姉さんの言う通りだったよ。

 

僕がこれから行こうとしているところは大きな公園が近くにある。自然に還ることで、幼少の頃を思い出し、本当の自分を取り戻そうという計画だった。後は純粋に豊かな自然に興味があったから。向こうへ行ってから自然の中で僕に何かできる事はないものか考えてみた。・・・園芸とかだろうか。それとも植物の絵を描くことだろうか。まあ大体そんなところだろう。そんな事を考えながら、本を元に戻して風呂に入ることにした。シャワーを浴びて、湯船に浸かっているとまた自然に頭が今後の事を考え出す。いっそのことどこか小さな山で家を買って、山暮らしというのもいいかもしれないな。出来るだけ都会から離れて、絵を描きながら、自然の中で生きてゆく。考えてみると、生きていけそうな場所はいくらでもあった。

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