05 因果応報の先に
明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
肩を震わせたルルティアがぽつりと呟いた。
「私は…」
「おいルル?」
シドの声を振り切りルルティアは走り出した。
「ルル!」
言い過ぎた、かもしれない。
駆け出す間際に見えたルルティアの顔は今にも泣きそうだった。
「追いかけた方がいいんじゃないか?」
「あんたは追わないのかよ!?」
「いや、お前が行った方がいい」
今わたしの顔なんて見たくないだろうから。
走って行ったシドの後をゆっくり歩いて追いかける。
大丈夫、ルルティアもシドも気配を感じ取れる。
二人は此処からまだそんなに離れていない。
「あの、どこから来たんですか?」
小さく袖を引かれ振り返るとルルティアと同年代だろう少女が、熱っぽい瞳で見上げている。
反対の手が引かれると数人が同じように見上げていた。
気が付けばあちこちから人が集まってきている。
女ばっかり。
それも大量に。
「ルルとどういう関係なんですか?」
「名前なんていうの?」
「好きなもの教えて!」
「旅人なんですか?」
「今度二人で会いたいな」
「ちょっとカレナ!あんた何抜け駆けしてんの!?」
あまつさえ喧嘩まで始まる始末。
「悪いが手を放してくれ」
「もう少しくらいいいでしょ?」
上目遣いの視線は、獲物を逃すまいとする狩人のものだった。
可愛らしい笑顔に隠され、男にはわからないだろうがわたしにはわかる。
思わず及び腰になるのも仕方ないほど、それは鋭かった。
モテる男の贅沢な苦しみが少しわかった気がする。
これはちょっとした恐怖だ。
予定より多少遅れたが、そろそろ二人に追いつくはずだ。
二人の姿が見えた。
だが様子がおかしい。
…理由はすぐにわかった。
「あああああぁぁああ!!!!」
「シド!シド!!」
おぞましいほどの叫びだった。
駆けつけた先の惨状に思わず息を呑む。
シドは苦悶の表情を浮かべ頭を掻きむしっていた。
ルルティアは泣きながら叫んでいる。
「何があった?」
「わ、わかりません!!」
「あああぁぁ、っ…」
膝を付き倒れるシドが、例の症状と重なる。
その体から黒いもやが滲み出た。
っ、そういうことか!
「ルルティア!離れろ!」
「きゃっ!」
従属の魔法のおかげか、ルルティアが即座に倒れたシドから離れた。
だが、遅かった。
黒いもやがルルティアに移動してしまった。
「ああ…あ、あ」
ルルティアが頭を抱えうずくまった。
しかし、さっきのシドとは様子が違う。
ルルティアはゆらりと立ち上がり、わたしを見据えた。
「あ…、は…」
「…?」
「あなたは…?」
「!?」
しゃべった!?
「それは…僕の体、です。あなたは誰、ですか?」
やっぱりこの体の本来の持ち主か…。
わたしが召喚された日から始まった異変。
黒いもやは体を求めてさ迷い、被害者たちは倒れる。
彼らの共通点は魔法を扱う素養があること。
つまり彼らにはもやを受け入れることのできる器を持っているんだろう。
ルルティアの様子が他の被害者とは違うのは彼女が正規の魔法使いだからか。
「返してくれませんか?」
「返してやりたいんだが…返せないんだ」
「?」
わたしの体が此処にない以上この体から出られない。
どうやれば返せるのかもわからない。
「もう少しの間貸してくれないか?絶対に返すから」
「困りましたね…」
「首都まで行けば絶対に返す」
「いえ、体を貸すのは構わないんですが、これ以上元の体から離れていると私は消えてしまうみたいなんです」
「え?」
思わず聞き返すと、ルルティアの中の彼は遠い目をして何かを考えていた。
「徐々に生きる力がなくなってきてるんです。困りました」
「そんな悠長なことを言ってる場合じゃないと思うが?」
「そうですね…。…ああ!なんだ簡単なことじゃないですか!あなたの体に乗り移ればいいんですよ!元から僕の体ですし!」
「え?ちょ、待って!」
笑顔のルルティアの体からもやが滲み出て集まり始める。やがて完全に黒い球体になると同時にルルティアが地面に倒れた。
ちょっとはわたしの話を聞いてほしい。
球体はすごい速さで飛んで来ると、わたしの胸の中に飛び込んだ。
胸が苦しい。
吐き気がして口元を押さえた。
「…くっ」
『大丈夫ですか?』
視界が歪む。
意識が飛びそうだが、どうにか体を支える。
「ああ、なんとか…。…え?」
どこから声がした?
此処にいるのは気絶したシドとルルティアだけだ。
「今のは…?」
『心話です。伝えたいと思うだけで伝わりますよ』
『…わかった。なんか妙な感じだな』
脳裏に響いた声に、同じ声に出さずに応えた。
適応能力の高さに我ながら驚くよ。
『僕のことは、ギルと呼んでください』
『わたしはアキラ』
『しばらくの間よろしくお願いしますね』
『ああ』
『この二人や倒れた人はどうなる?』
『僕の魂を受けきれず一時的に器と魂のバランスが崩れただけですから、時間が経てば目覚るでしょう』
『そうか』
それはよかった。
だが、これはどうする?
地面に転がる少女と青年。
少女はともかく大の男を運ばなければいけないのか。
人を呼んでも面倒なことになりそうだ。
事情を説明しろと言われるのは困る。
『ちゃんと鍛えてますからこの二人くらい運べると思いますよ?』
『体は鍛えられていてもわたしは慣れてないんだ…』
憂鬱だ。
このまま放って帰ろうか。




