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第1話 一体、何の冗談か

 巷で人気のアプリゲーム、シミュレーションRPG 元は何かのゲーム機対応のものだったらしいが、数年経ってなお、根強い人気を誇っていた為、アプリ対応としてリニューアルしたものらしい。


 タイトルさえ忘れたそれは恋愛要素も含んだ人気作だった。

 内容は皇国に狙われた謎の少女を主人公が助ける事から始まる。

 そこから男女問わずの多くの仲間を集めてラスボスたる皇帝を倒し、最後は平和を取り戻す物語だったと記憶している。


 ストーリーの随所に選択肢が設置されており、ストーリーの大筋は外さないものの、細かな伏線の種明かし的な隠し要素もあり、仲間との親密度を高める会話パートも存在する。

 主人公は男女の性別が選択でき、物語の重厚さ、各キャラの魅力からはじまり、豪華声優のフルボイス。


 あからさまな課金誘導や追加要素、ゲームバランス、前作からのダメな方の改変などでコケる事の多いアプリゲームの中で、このゲームは当たりと言えた。


 友人から勧められ、何気なく始めた私自身もかなりドはまりした名作だったと記憶している。

 ストーリーが完結し、サービスが終了となったときは随分と惜しんだものだ。


 そんな事を何故唐突に思いだしたかと困惑する。

 それは、何千年、それよりもずっと前の私の記憶に他ならない。


 私は創世の神より生まれた存在だった。


 世界を創ったひとつの神はその身を二つに分けた。

 男神と女神。


 そのふたつに分かたれた時に生まれたもののひとつが私だった。

 男神と女神が陸み合った結果、天と地、月と太陽が生まれ、昼と夜が生まれた。

 大地からは様々な生命が生まれ、その過程でヒトが生まれた。

 ヒトはいくつかの種に分かれ、ある種は栄え、またある種は滅びた。

 そういった営みを見守り、世界のバランスを支えるのがこの世界における私の役割だった。


 時として人に混じり、人から離れ、世界を放浪するうちにヒトは私を『狭間の巫女』と呼ぶようになった。いくつかの時代では、宗教の象徴として『神の落とし子』、『御使い』などと祀り上げられたこともある。


 この世界に生まれた当初は随分と戸惑ったものだった。

 何せ、別の世界ではあるものの、ただの人間だったものが、今この世界の創世期と呼ばれる時代、神が分かれた際に偶発的に生み出された存在として生まれ変わったのだから。


 私と同じく生まれた「きょうだい」にも聞いてみたが、このような存在は私()()()だけだった。


 人間、何が起こるかわかったものではないな、と人ならざる身でありながら、しみじみと思ったものだ。


 そうやって数千年の時を生きたのだから、前世ムカシ,人間であった事は覚えていても、その詳細などは思いだしようもなかった。

 ごくごく稀にこの世界の何かを見かけたときに何となく、そういえば、こういう物もあったなと、関連付けて朧げに思いだす程度のものだった。


 別の世界の人間でいた時間よりも、今この世界で過ごす時間の方が圧倒的に長い上、今の私は人間ではない。生まれる前の記憶など、ただの朧げな知識の引きだし程度のもので、然程重要ではない。その筈だったのだ。


(それがどうしたことか……)


 唐突にそこ(・・)だけ思いだしたのだ。


 繁栄と滅びを繰り返し、何度目かのやり直した文明も、ある程度育ってきたこの頃。

 一部では蒸気機関も発達し、移動手段も随分と楽になった。


 嘗ては人にとっての脅威であった飛竜を飼いならし、空輸や移動の手段に用いるまでになった。


 発達した文明に合わせて己の領土だけでは飽き足らず、争いもそこかしこで起こり始め、多少きな臭さも漂い始めた。


『皇国が、またひとつ、国を落としたらしい』


 そんな噂話を耳にした途端にそれは脳裏に閃いた(ねじこまれた)のだ。


 同時に嘗て、人間として生きた頃の感覚も湧き上がる。

 旨の内に去来する感情、これは懐かしさ、そして、戸惑いと歓喜……?

 あまりにも鮮明な感情を持った、嘗ての人間であった私が今の私という存在に向かって一気に押し寄せ、混ざろうとする。


(……気持ち悪い)


 今立つ場所が人通りの多い街中である事を辛うじて思いだし、眩む頭を押さえながら、人目の付かぬ路地裏に身を寄せた。


 眩暈も収まり、どうにか我に返り、改めてこの世界を認識してしまえば、突然捻じ込まれたその記憶と今の世界がぴたりと重なった。


「一体、何の冗談か」


 未だじわじわと表面に滲みだす細かな記憶と情報に、私はしばらく茫然とするのだった。


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