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嘔吐愚痴  作者: 小判鮫
本編
6/6

負債四面楚歌

僕が久しぶりに夢を見ている間に、ハルさんは何処かで買い物をしてきたようだ。


「何買ったんですか?」


「んー、オムライスを作ろうと思って」


卵やケチャップ、鶏肉がキッチンの上に置いてある。


「僕の大好物ですね」


「だからだよ」


と微笑まれると心がキュッとしてくる。


「お金はどうしたんですか?」


「財布にカード?が入ってて、それで」


「それってクレカじゃないですよね?」


「クレカ?」


「クレジットカードのことですよ」


「ごめんね、そういうのはよく分からなくて。でも、買い物はこのカードというものを使えばいいと親切な人が教えてくれたんだ」


ハルさんは現代のものに弱い人だ。スマホもネットも使えない。こんな板一枚で買い物ができると知って、さぞかし驚いただろう。


「だが少し、盗人の気分がするね」


なんて言っている。本当は違うだろうに。


「この本は、どうしたんですか?」


机の上に置いてあるルールブックと書かれた本。


「そうそう、説明書までくれたんだ。優しいと思わないかい?」


「へえ」


クレカがどんなものかも教えていたら、僕も優しいと言えたかもしれない。

本を開いてみると、そこにはクレジットカードの使い方ではなく、この世界のルールが書かれていた。


ようこそ、POT PLANETへ


「ぽっと、ぷらねっと?」


英語表記を頭を捻って発音してみたが間抜けた感じになってしまう。


さあ、第二の人生を歩み出そう。

なんてキャッチコピーが胡散臭い。

ざっくり読むと、この世界は三層構造になっている。

第一層、現実世界。好きな職業について、理想の暮らしを実現できる場所。学問の扉を開くことも可能。

第二層、ファンタジー世界。誰もが夢見た勇者になれる場所。モンスター達が蔓延っている。

第三層、近未来世界。現実世界よりも便利なものが多く存在している。その分、費用が嵩むのがデメリット。

プレイヤーは現実世界よりスタート。

衣と住は初期装備でプレイヤーの好みや生活が反映される。僕の場合、上下スウェットが家に置いてあった。

所持品はスマホ、財布、クレジットカード。

クレカには予め五千円が入っている。

ここで若干の安堵を見せる僕。

物の値段は、植物状態の僕がいる現実世界(以後、超現実世界と示す)と同値。

超現実世界には存在しない物は、その価値に合わせて開発者の裁量で決まる。

課金システムとしては、超現実世界のお金を十倍にして、この世界で使える。

超現実世界:この世界=1:10

クレカの残高不足の場合、超現実世界から自動的に課金システムを利用して引き落としになる。

だが、この世界から超現実世界への送金は不可。

毎月末締め、翌月25日払い。

(よっしゃ、まだ支払日までは一ヶ月以上ある。)


お金のシステムは大体理解できた。

あとは、この世界のシステム。


プレイヤーは食事睡眠は原則不要。排泄は特になし。ただし、ファンタジー世界では食事睡眠によりHPを回復できる。

お金は仕事をするか、モンスター討伐で得られる。

違反行為は、刑法に準ずる。

罰則として、違反行為をしたプレイヤーには強制退場、サービス終了、被害者への罰金が課せられる。

プレイヤーに内蔵されているチップにより監視体制は抜群であらゆる犯罪も見逃さないで、瞬時に検挙すると言う。


この世界で超現実世界とは繋がれないが、この世界での死は超現実世界での死へと繋がる。


その文が一際重く目立ち、印象に深く刻まれた。


「待って、アキとフユが」


という突然の不安に飲み込まれる。


「もしもし、今どこ?」


「もしもし、兄さん?何かね、モンスターがたくさんいる」


超抽象的な答えだが、ファンタジー世界にいることは伝わってくる。


「ああ、最悪。分かった、安全に気をつけて戻ってきて。絶対に死なないでね、絶対に」


ファンタジー世界なんて死んでなんぼの世界じゃないか。


「はーい」


と気の抜けた返事がさらに僕の心配を煽る。


「そういえばね、アキの新車がもう使い物にならなくなりそう。モンスター轢きまくってるからボコボコになっててさ」


「へえ、そんなのありなんだ。って新車?」


「あれ?兄さんも見てるでしょ?」


「それはそうなんだけど、そのお金は、一体全体どうしたのかな?」


「何か、カードで払ったみたい」


「いくら?」


受話器の向こうで「いくら?」とアキに値段を聞いているフユの声が聞こえる。


「六百万だって」


「うわ、そこそこ良いの買いやがって。僕の葬儀代が……」


どうしようもならないもどかしい気持ちから無駄にリビングを歩いてしまう。


「あと、剣とか銃とかの諸々の装備も買ってて」


「ああもう、話は後で聞くから早急に戻ってきて」


と伝えて電話を切った。


「相当、イラついているね」


ハルさんにその一部始終を見られていて、笑われてしまった。


「僕の葬儀代や医療費をこんなことで使っちゃったら、折角の最初で最後の親孝行ができないじゃないですか」


「お金をまた貯めれば良いんじゃないかな?」


「そんな悠長なこと言ってられないですよ」


一刻も早く、死にたいのだから。


「それに、親孝行はお金じゃないと私は思うけど」


「やめてください、そんな綺麗事は」

読んでくださりありがとうございます。

ブクマ、評価、してもらえたら嬉しいです。

作者のモチベに繋がります。


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