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嘔吐愚痴  作者: 小判鮫
本編
5/6

ファンデルワールス力

僕は和気藹々とした空間が嫌い、その空間に馴染めなくて、興ざめさせてしまうから。

だから、悲しみや絶望に溺れている時間が好き。

傷口に塩を塗って、抉って、また塩を塗る。それがアキの役割。

その傷が見えないように包帯を巻いてくれるのが、ハルさんの役割。

フユは、僕の仮面となってくれている。表向きの笑顔は彼のものだ。

そのように生きてきた。離れられない存在だ。けれど、離れてしまった。


「僕は離れていても兄さんの位置もアキもハルもわかるよ」


「俺もハルが何馬鹿なこと考えてるかまでわかるぜ」


「私はナツが私を呼んでくれる声が聞こえるからね」


安心していい、僕らはまだ一心同体。


「で、これからどうすんだ?この世界を創造している奴でも探しに行くか?」


「それよりも、植物状態の身体をどうにかして動かさないと。死ねないじゃん」


「そもそも、この世界での死は脳死に繋がるのかな?」


ハルさんが死を語ると何故か寒気がする。その場が凍りつくように。


「そしたら、まあ、植物状態ではなくなりますね」


「んー?試してみるかあ?」


殺すのは俺だと言わんばかりに、アキがニヤニヤしている。


「アキは自殺できなさそうだけど?」


ハルさんが四人が死なないと脳死にはならないということを仄めかした。


「ハル、お前から殺してやんよ」


「ふふっ、殺せるならね」


アキとハルさんがバチバチに睨み合う。


「ダメ、殺さないで」


「なんだよ、ナツ」


「僕の精神が傾く」


「ハルとアキが同時に死ななきゃ」


「フユ、お前なあ」


「だって、対極でしょ?」


正論には反論しずらい。正論だと思う場合は特に。


「……こんな奴と一緒に死ねだなんて。あーあ、死んでも嫌だわ」


「私はアキと一緒が良いな。一緒ならきっと怖くないから」


「おえ」


何だかんだ、喧嘩するほど仲がいいってこと。


「けれど、あと八年は生きようね。ナツ」


「ハルさん、まだその縛り続けますか?」


「私はナツに生きて欲しいんだよ」


「そんなこと言っといて、本当はナツの苦しむ姿が好きだからだろ?」


「アキ、変なこと言わないで」


「事実だが?」


「もう埒が明かない、とりあえずこの世界の創造主をぶっ叩こうよ」


フユがこの世界をゲームみたいに楽しんでいる。


「叩いて、どうするの?」


ハルさんは意味の無い争いは嫌いなタイプ。


「んなの決まってんじゃん。この世界を俺達の理想郷とする、だろ?」


「さすが、アキ。現実に苦しめられた僕達はそろそろ理想を生きてもいいよね?」


僕は彼らの主人格。最終判断は僕が担うことになる。


「ハルさん、どう思いますか?」


「私は、ナツと一緒にいることが幸せだから、理想郷なんて想像つかないな」


と困った風に笑った。


「あーあ、夢がねえな。つまんね」


「兄さん、一緒に理想郷を作ろうよ」


「僕は……死んだように寝たいかな。ちょっと、疲れた」


きっと、アキとフユにとってこの僕の答えは期待外れなものだったに違いない。

けれど、理想を追えば追うほど現実に苦しめられるのは既成事実のトラウマ。


「じゃあ、兄さんは休んでて。二人で頑張るから」


フユはあまりにも合理主義者で冷たい印象がする。


「ありがと、ごめんね」


「さすが、ナツ。行動力も無い屑はそのまま腐って死んじまえ」


と言うアキの方がまだ親しみやすい。


「うん、そうさせてもらう」


手を振って見送った。何処へ向かうのかも分からないまま。

玄関ドアが音を立てて閉まる。


「ナツ?」


「ううっ、ううう」


何故か鼻の辺りがジーンとしてきて、涙が出てきた。胸が苦しい。つらい、痛いって吐きたい。

玄関で座り込んで、突然泣き出した僕をハルさんは相変わらず慰めてくれた。


「寂しいです、空っぽなのが」


ベッドに寝っ転がりながら天井を見つめる。ハルさんは今日の新聞でも読んでいるのだろう。


「私がいるのに、ナツは酷いことを言うんだね」


「いや、そういうことじゃなくて」


「ふふっ、分かっているよ。私もあの声が聞こえないのは寂しいから」


「でも、最初はハルさんだけでしたよね?」


「うん、ナツが泣いてばかりいるからほっとけなくて現れたのが始まり」


「ハルさんがいてくれて、ひとりじゃないって分かって、僕はとても救われた記憶があります」


「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるね」


「それから、フユが疲れた僕の代わりになってくれて」


「気づいたら、アキが脳内で暴言吐くようになってて」


「一気に騒がしくなりましたよね?」


「そうそう、賑やかで楽しかったよ」


「僕はひどく疲れました」


「それは、私も」


「ふふっ、好きなんですけどね」


「でも、こうやって、また二人の時間を楽しむことができて嬉しいよ」


「僕もです、落ち着いてゆっくり話せるのなんて滅多に無かったですもん」


「ナツ、今までよく頑張ったね」


「え?」


「いつか言ってあげたかったんだ、落ち着いた時に。ずっと近くで見てきたから」


「ああ、うう、ありがとうございます」


「でも、まだ君を見ていたいよ。君と喜怒哀楽を共有していたい」


「ふふっ、変わった人ですね」


「私、君が思っている以上に君のこと大好きなんだよ」


「それは、知ってます」


「ふふっ、そうかい。だから、これからも一緒に生きていきたいな」


「はい、了解です」

読んでくださりありがとうございます。

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