誰々
「はい?」
トラックのドアを開けると、そこには双子かと思うほど、僕にそっくりな男の子。その子に座席から引っ張り下ろされると、
「僕が兄さんの代わりに頑張るよ」
と入れ替わるように、座席に座られた。
「え、兄さん?僕に弟なんて」
と思っていると、その子はトラックを走らせて行ってしまった。
盗まれたのか本当に仕事を代わってくれたのかよく分からなくなってきて、無駄にコンビニ内をうろちょろと歩き回っていた。
「ナツ、大丈夫かい?」
「ハルさん、僕が大丈夫そうに見えますか?」
「ううん、見えない」
といつものように微笑まれて背中を撫でられる。大丈夫、と励ましの言葉を添えて。
「なんでそんなこと言えるんですか?」
そんな優しいハルさんに冷たく切り込んだ。僕は仕事をクビにさせられるかもしれないという恐怖が拭いきれていない。
「んー、あの子がフユ、だからかな?」
「フユ?フユって、あの?」
「そう、君の双子の弟くん」
設定だった子。
僕が体力や精神力が無くて頑張れないときはフユという別人になっていた。所謂、省エネモードってやつだ。その子も実体となって現れたとなると。
「アキは?アキもいるんですか?」
とてつもない不安が襲ってきた。あいつは僕の中の問題児だから。
「ん?さっき、会ってなかった?」
「ああ、金髪タトゥー男ですか」
「ふふっ、正解」
またもや納得した。だから、僕にあんなにも当たりが強かったんだ。
やけに朝から脳内が静かなのもあいつがいないせい。
「正直、もう会いたくないです」
とハルさんに笑って話しかけると
「何が会いたくないだ、馬鹿」
いつの間にか、僕の後ろで仁王立ちしていたアキに忘れ物の帽子で後頭部を叩かれた。
痛っ、物理的な痛さも加わるのかと思うと憂鬱になる。
「忘れ物を届けてやったんだ、少しは感謝しろよ」
お得意の悪人スマイルだ。ありがとう、と受け取ったけど、心の中で叩く必要は無いよなって不満げに思っていた。
「ナツをあまり虐めないで」
とハルさんがアキに注意すると
「お前がそうやって甘やかしてばっかだから、ナツがこんな弱っちい奴になったんじゃねーか」
とアキが強い口調で言い返した。
「ナツは弱くなんかないよ」
僕の方を見てハルさんが微笑む。
「何処が?泣いてばっかじゃん」
とアキがおかしいと笑う。
「ふふっ、そこが可愛いくて好き」
ハルさんが後ろから僕の肩に腕を置いて、軽く抱きしめてきた。
そんな堂々と好きと言われるのも、こんなに人と距離が近いのも、全然慣れてなくて、頬が赤く染った。
「可愛いとか、意味わかんねえ、馬鹿じゃねえの」
とアキがハルさんの腕を掴んで、無理矢理引っ張った。ハルさんが体制を崩しながら、少し躓いて離れていく。
そして、アキがハルさんをコンビニの棚に押しつけて、至近距離で胸ぐらを掴んでいる。棚から商品がこぼれ落ちる。
僕はこれが修羅場か、としか思えなくて、何をすればいいのか分からなかった。
「さっさと失せろ」
「君がいなくなれば?」
両者の間に険悪な雰囲気が漂っている。
「あの、そんな、乱暴は良くないから」
僕は二人の間に切り込みを入れるかのように、割り込んでスペースを作った。
なるべく話し合いで解決しないと。
それが僕の真っ先に思いついたことだった。
「それで」
と結論を急ぐようにアキが言う。
「どっちがナツをもらっていい?」
ハルさんは僕の肩にさりげなく手を置いて、ほぼ自分のもののようにしている気がする。
というか、もらうって何?
「兄さんは僕のものだよ、二人には任せられない」
真正面からフユが抱きついてきた。
「餓鬼は引っ込んでろ」
とアキがフユの耳を引っ張った。
「乱暴者も適任じゃないね」
ハルさんがアキに煽るように手を振る。
「ダメ人間製造機」
冷徹にフユがハルさんに向かって言う。
その言葉を聞いて、僕は舌を振るった。
「お願いだから喧嘩しないで」
三人ともまだ言い足りないと言った様子だが、案外言うことを聞いてくれた。
しかし、沈黙が気まずくなってきて、
「とりあえず、何か食べませんか?」
なんて愛想笑いをして気を使った。
コンビニのイートインスペースは僕達以外誰もいない。
ハルさんは珈琲、アキはいちごミルクパフェ、フユはポテチのりしおとコーラ、僕はレモンティーを買った。
それぞれの好みが僕の好みの分裂だった。
「それで、ナツは誰と一緒にいたい?」
珈琲を一口飲んだハルさんは、自信ありげな表情で苦味を含んで笑って聞いてきた。
「えっと……僕は今まで、みんなと一緒に生きてきたわけだから、その、選べないというか、みんな一緒じゃ駄目なのかなって」
みんなの表情を伺いながら、理想論を述べた。少しの沈黙の後、アキが奇妙に笑い始めた。
「あははっ。ハル、お前。どんまーい!」
ハルさんを指さし、正直、一番自信あったっしょ?と囃し立てている。
決まりが悪いのかハルさんは表情すら変えなかったが、珈琲のストローを噛んだ。
「結局、今まで通り、兄さんに呼ばれたら僕達は出てくるよ」
とフユがポテチを食べながら、総括をする。
アキが俺は呼ばれなくとも会ってやんよ?と、にやにやしている。恐怖だ。
けれど、僕の話はここで終わらない。
「何故、僕の精神が分裂しているのですか?」
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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