感動の初対面
いつもと変わらない日常を生きている僕。のすぐ隣りには、キラキラしているイケメンがニコニコしてこっち見てくるから恐怖で既に死にそう。
手が震えて、顔が強ばり、汗が落ちる。
「なんでなんでこっち見てくんの?」
と考えながら、早歩きでキライケ(キラキラしているイケメン)を撒こうとしていると、
「私のこと、避ける気なの?」
と後方から余裕を持って話しかけられた。だから、これは僕に話しかけているのではない。と脳内で緊急事態の文字の横に注釈を付けておいた。
「ナツ、君に話しかけてるんだよ?」
名前を言われた衝撃で「うわっ」と感嘆詞をそのまんま教科書通りかってくらいに言ってしまい、後方へ振り返りファイティングポーズ。
しかし、威厳は放てず、震えは止まらない。
「まだ分からないのかい?私だよ私」
そんなオレオレ、間違えた。お母さん助けて詐欺みたいに言われても分からないものは分からない。
「知りません、存じ上げません、申し訳ございません」
目を逸らして、なるべく早く逃げようと心に誓ったそのとき、
「ハル、って言えば分かるかな?」
そうやって、ちょっと考えた姿と名前にピンときた。
「…本当に、ハルさん、なんですか?」
「さすが、君は疑い深いね」
なんて僕に優しく微笑みかける。
涙がこぼれた。夢でも幻覚でも何でも良い。
僕が愛してやまないハルさんだ。
ずっとこうやって抱きしめたかった。
「ああ、会いたかったです」
僕の妄想が、現実になったんだ。
僕は幾度となくこの人に救われた。
僕が情緒不安定で酷い言葉を吐いても、僕を嫌わないでいてくれる、優しく励ましてくれる、唯一無二の存在。
感謝してもし足りない。
ハルさんはいきなり抱きついてきた僕に少し目を丸くしたが、
「私も」
と優しく僕を抱きしめ返してくれた。
「ああ、現実ですか?これ」
抱きしめるのも抱きしめられるのも慣れてなくて、すぐにぎこちなく離れて、僕は涙で濡れた目を指で擦った。
ハルさんはそうだよ、と柔らかく言って、僕の頭を触れられるよと言いたげに撫でた。
「じゃあ、やっぱりこれから僕はバイトなんですね」
と明るく自虐的に笑ってみた。
バイト着に身を包んで、バイト先までの道のりを歩いているくせして、未だにバイトがある現実を受け止められていない。社会不適合者。
「ん?私が代わろうか?」
ハルさんは僕のバイトを嫌がる心を察して心配して、そう言ってくれているが、僕がこれ以上、堕落してしまったらさらに見るに堪えないため、断った。そしたら、偉いねと褒めて甘やかしてくれるから僕の神様だと思う。
僕のバイトは宅配業者の配達員。インターホンを押すのが毎度苦痛なのに何でこの仕事をしているんだろうといつも疑問に思っている。しかし、辞められずにズルズルと続けてしまっている状態だ。
「お届け物です」
優しい人でありますようにと願いながら、玄関が開くのを待つ。全て置き配ならば助かるのに。なんて思ってると、出てきたのは金髪タトゥーの如何にもやんちゃそうな怖そうな人だ。一瞬、固まってしまった。
やっぱり、車がごつかったからそうだと思ったんだよ。と嫌な方向で合点がいく。
サイン貰って即帰る、と呪文のように何回も脳内でグルグルと回していると、
「お前、ナツか?」
と眉間に皺を寄せて、目を細めて顔を睨まれた。僕は目を泳よがせまくって、
「ひ、ひ、人違いじゃ、ないですかね」
と震えながら下を向いて、顔を隠した。
「えー、俺にはナツに見えるんだけど?」
にたりと笑うその人に荷物を渡して、ありがとうございましたあ、と言って逃げようとするとひょい、と帽子を撮られた。
「あっ」
僕が慌てて振り返ると
「やっぱ、ナツじゃーん」
と眩しい笑顔を見せられた。が、誰だ?と脳内はやはり混乱していた。
「あははっ、お久しぶりでーす」
乾いた笑いと引きつった笑顔で嘘をつく。早く終われ早く終われ。
「この仕事、いつまで続けるん?」
「ああ、そろそろ辞めたいとは思ってるんですけどね」
と言葉を濁しながら笑顔で答える。
「さっさと辞めればいいじゃん」
その言葉のように軽々しく辞めれるなら辞めてるよ。なんて心では冷笑してる。
「中々、辞められなくて」
「可哀想に、会社側が」
と嘲笑ってきた。声は聞こえてきたが、僕は意味が分からなかった。理解まで時間がかかった。
「え?」
つい首を傾げてしまった。
「だって、こんなゴミ雇ってても金の無駄にしかならないじゃん」
って僕を馬鹿にして馬鹿みたいに笑ってる。
「ああ、そうです、よね。えへへ、すいません」
自分でも笑い方が気持ち悪いのが分かる。
この場で泣き出してしまいそうだ。
全くの放心状態。泣いてしまう前に、それじゃあ、って言って逃げた。
トラックに乗って少し走らせてから、悔しくて少し泣いて、それでも、仕事しなきゃって思っても、コンビニの駐車場から中々動けなかった。
動け動け、と痣だらけの太ももを殴る。痛いだけで全然前に進めない。
「なんでだよ」
と頭を抱えると、誰かがトラックのドアをノックした。
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