勇者さまと駆けっこ 其の九
「私も、あなたに似ているのです。この立派な翼を広げ
て大空を手に入れようとも、ご覧……」
鶴はそう言って一番松の頂きを指差しながら、その思い
を語り出した。
「──あの一番松の気高きことを。と言っても雲の上に霞
んで見えやしないが。私は鶴に生まれた以上は、世界一
の松の頂に住んで見せると、仲間の止める声も聴かずに
故郷を後にして来たのです……」
そして、まさしく世界一の松の木に巡り逢えた事を鶴は、
わたしに感慨深く打ち明けてきた。
「でもね、その喜びも束の間だったよ」
束の間?
生涯かけて求めたものに巡り逢えたのに、その喜びに何ら
かの障害があったように哀しい目を見せる鶴にわたしなど
がかける言葉もなかった。
「あの一番松の頂上へと急上昇しました。時には翼を休める
為に大きな枝に摑まり呼吸を整え、また天空を目指しました。
次第に空腹に見舞われて、仕方なく地上に舞い戻り、腹ご
しらえをして飛び立ちましたが、中腹部に来るとまた同じ
ことの繰り返しでした」
「……」
夢への道のりは鶴たちが思う程、平坦では無いと言う事か。
「ここに来て、出会った仲間と協力し合って同じ夢を追いま
した。仲間の存在は一筋の希望となり、励みとなった。ど
うにか雲の中へと姿が消えた仲間達でしたが、仲間の姿を
再び目にしたのは、私が空腹を満たしに舞い降りた川の辺
でした。
息絶え絶えになった仲間は私にある言葉を託して、夢半ば
で私の腕の中で逝ってしまった」