勇者さまと駆けっこ 其の六
橋が一つ見えて来た。
風が出て来て「ラッキー、ラッキー」
追い風に乗って、楽々ちんのワンステージ、クリアー。
「ちょろいもんだ」
と後ろを向けば、アイツの足音パッコパコ。
アイツが一つ目の橋を過ぎる頃、おいらの目の中にゃ、
二個目の橋の勝利の旗が、風に吹かれてソヨソヨさー。
すると、お日さまカンカン照りで、ちょぴッチ汗かき
一休みっと。
だけど、いよいよ最後の橋に差し掛かった。
三つ目の橋が見えて来る。
今度は風が逆に吹いている。
向かい風で心地良く、暑さを逃れてゴールイン!
「楽勝、楽勝」
鼻歌混じりで汗拭いて、息を整え振り向くと、
「うわっ!」
アイツが野立てしながら、方手うちわでお茶してやがる!
「なに!? 勝利者きどって、寛いでやがんの?」
って、聞いたなら、
「道行く者に聞いてごらん。わたしは彼是、
三千遍ゴールを決めちゃってるけれども……」
だってさ。
言ってくれるよな。
そーいや、おいらは道草ばかり。
菓子の欠片が道端に落ちているのを見かけたら、栄養補給
は大事だぞっと。
空を行くからチビ助どもが群がって、「大将!よっ大将!」
……と、ついつい事の成り行き自慢げに話していたら勝負の
事などどこ吹く風で、うっちゃらかして、あせあせっ。
「パッコパッコ」の足音耳に急いで飛ばしてゴールイン。
おや!?
だったらおいらが勝ってる筈と、道行く者に訊ねたら、アイ
ツの言う事ぁ皆ホント!
腰を落としてガックン来てると、たまたま教えてくれる者がいた。
「それはあなたが相手をね、侮り、見下し、天狗になって、本気の力、
惜しんで出さずに居たからよ」っと。
空の自由……。
障害物を避けることなく、一直線。
それがおいらの特権だったわけ。
4本足のデカいやつ。
「勝負と名の付く天地に立てば、勝ってみせよう!と意気込んで、
些細な誘惑顧みず、獅子が獲物を狩る如く、全速力で勇み征く!
それが勇者の生きざまよ」っと。
目を通してくれてありがとうございます。