勇者さまと駆けっこ 其の五
そうと決まれば、スタートラインを決めるだけ。
おいらの街は京の都、自分の庭でよそ者にデカい面などさせないぜ。
京の都には有名な橋が幾つか架かってる。
勝負の舞台の橋の名は、三条、四条、五条の大橋。
二条の城から始まって、三つの橋を渡りゆく。
橋の通過さえ踏まえれば、移動手段は問われない。
ゴールは五条の橋の下、清く流れる鴨の川。
宴の舞妓が出迎える。
おもてなしの玄人は、愚痴をこぼさぬ強さを秘める。
強き者に憧れ心を寄せる、「いまに見よ! 誰が強者
か知るといい」
お城のお殿も見守って、駆けっこルールを再確認。
アイツは足が自慢だと、地を蹴って地道に行くと宣言を。
おいらは背中の二枚羽でお空を飛んで挑むのさ、ここで
決めた互いの走法をゴールの時まで守り抜く。
お殿が許したもうた天下御免の駆けっこだ。
「敗者は勝者の尊厳と名誉を認め、敬意を示すとともに
生涯に渡りその者に忠誠を誓うものとせよ! 始めよ!」
お殿の命が下った一番勝負。都中の民の耳にも広まった。
民は噂話が大好きだ。
「お殿の命は、帝の勅命だー!」
これはこれは、随分と大事になって来たものだ。
図体ばかりデカくて、いつもチャチャを入れては去って行く。
口先だけのアイツなど恐れるに足りぬが念には念を入れよと
言うからな。
民の噂好きと、その熱狂ぶりが都中をお祭り騒ぎに昇格し、
警備の兵は数知れず、十手持ちに刀持ち、御用の文字の提灯
たちが飛脚のように西へ東へ飛んでいく。
迂闊に子分どもを配置して、不正と言われちゃ男が廃る。
おいらにだって一匹狼の辛い時代があったんだ。
望むところだ!
真っ向勝負で勝ち越えて都の大親分の座、頂くとするか!
まったくどこの馬の骨か知らないが、夏の終わりにやって来て
打ち上げ花火の材料に自ら成ると宣告するようなものだ、ふん!
後戻りも、命乞いもおいらは認めてやらねぇぜ!
位置に着いてよーいドン!
読んで下さってありがとう。