第一章 一話 『物語』
「シャルは大きくなったら何になりたいの?」
母親としてはとても若いイザベル・フォン・ホーエンツは3歳になったばかりの息子シャルルに優しく聞いた。
「ぼくはね、大きくなったらお父様みたいな賢者さまになるんだよ!」
息子シャルル・フォン・ホーエンツは目を輝かせて応える。
シャルルといえば普段は何をすることもなくただ無表情で窓の外を眺めてる、そんな大人しい子供であった。
いや、暗い子供だった。
そんな彼が唯一興味を示すもの、それは絵本の中で描かれている自身の父親の物語だった。
「そうかそうか!そうだな、きっと私の加護はシャルに受け継がれる。」
「そうですね、楽しみですね。」
シャルルの父オットー・フォン・ホーエンツは期待を込めて息子に話す。
母もまた期待を込めて深く頷く。
父はその身に賢者の加護を授かっている。
それはそう物語の英雄だけが持つ特別な力だった。
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加護とは一般的なものから数は少ないが上位のもの、世界で唯一の固有なものまである。
一般的な加護といえば火の加護、水の加護、剣の加護、魔の加護などだ。
大勢の人々がこの一般的な加護を授かり生活や仕事に活用している。
上位の加護ともなれば将来を約束され、固有の加護に至っては貴族や王族になれる、それほどの「力」だ。
そしてそんな加護は稀に親から子へ受け継がれるような特殊なものも存在した
シャルルが生まれたホーエンツ家はローレンス帝国の二大貴族――西のローレンス辺境伯家だ。
二大貴族には古くから受け継がれる固有の加護を授かっており、ホーエンツ家が授かっていた加護は賢者の加護だ。
「お父様、僕の加護はいつわかるの?」
賢者の加護が受け継がれるのを期待しているのは両親だけではない。
当人もまた強く望んでいた。
「5歳までには授かるが、それがわかるのは6歳の誕生日教会で適正調査をしてもらう時だ」
その言葉を聞きシャルルはまた普段のように無表情になり窓の外を眺める。
そう、加護の事以外は一切興味がないかのように。