5 地味な女タクティクス陰険編1
カノン・アース。
おおらかな母なる大地の暗示を持つ人格。
奴の目がやや大きいせいなのだろうか、どことなく他のカノンより童顔に見える。
私は静かに問うた。
「お前は何を見た?」
「ここで言っていいの? 私、声、大きいから、他の子にも聞こえちゃうかも?」
私は拳を固めた。
「うふふ、いいのしら? あなたが一歩動くよりも早く、私のタクティクスが発動するから」
「お前のタクティクスだと? どうせ地味な技なんだろ?」
「そうよ。私のタクティクスは地味。
地味こそ最強のタクティクス。
例えばクラスメートで一番目立たない女の子をイメージしてもらったら分かるかもしれないかもね」
クラスで目立たない女子だと?
意識したことがないからイメージできない……
「大抵どの学校にも一人か二人はいるでしょ? 牛乳瓶の底のような厚底眼鏡がトレードマークの無口な女の子が」
いるかもしれない。
だが、彼女たちにそんな大それた力があるというのか?
「ふふふ、一見、地味な子は周りを物凄く観察しているの。
クラス全員の血液型はもちろん、カッコいいクラスメートの携帯番号、住所、彼女の有無、お菓子を持っている女子生徒の人数、先生が授業中何回せきやあくびをしたか、クラスの子が授業中トレイに行きたいと手を上げて何分何秒で帰ってきたか、すべてチェックしている」
そうなのか!?
なぜ!?
「簡単よ。
弱みを握るるためよ」
なぜ!?
「派手な奴らは、常に地味な子をバカにしている。
自分より劣っていると思っているからね。
だから地味な子は、そいつらを許さない。
こうやって地味に我慢しながら、きっちり情報収集を済ませ、気に入らない奴の弱みを握ることが地味な子の本性。そして我がタクティクスの真髄」
……恐るべきタクティクスだ。
「ふふふ、だからあなたがいったい何者で、裏でこそこそ何をしているのかチェックすることなんて、クラスメートの女子が授業中手をあげて本当はトイレの中で何をしているのかを調べるのよりも容易」
クッ、地味な女子はそんなにすごいのか……
「安心して。別にあなたが友達になってくれたらばらさないから。でも、もしちょっとでも変な真似をしたら、あなたは残り全員を敵にまわしちゃうから。あなたの正体を書いた手紙を脳のどこかに隠している。私が死ぬと、その手紙はハディスに届くようになっているから」
「……何が望みだ?」
「うふふ、物分かりがいいわね」
アースは唇にひとさし指をあてて、「うーんと」と首を傾げた。
「ケーキが食べたいなー。今、体の操縦権はあなたにあるんでしょ? 誰かに頼んでもらってきて」
何を考えているんだ。だが逆らったら、地味で陰険なこの女は何を仕出かすか分かったもんじゃない。
私は脳髄に手をあて、兵士に命令してケーキを用意させた。
兵士が部屋から出たのを見計らって、手でケーキを触り皿ごと体内に転送した。
「あはっ、おいしそ!」
私からケーキの皿を奪うと、一口だけ口につけ、足元にべちゃと落とした。
「あ、落ちちゃった。勿体ない。おい、拾え」
……
腰を落とし、アースの足元に落ちているケーキに手を伸ばした。
アースは私の後頭部に足を乗せてきた。
「おい、疲れた。椅子になれ。馬のように四つん這いになりな。何、その目、バラされたいの? お友達だったら我慢して当然なんだからね」
私はアースをギッと睨むと四つん這いになった。
アースは「あひゃひゃ」と乗ってきて、調子に乗っている。
カノン・アース。
おおらかな母なる大地の暗示を持つ女。




