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35 家庭訪問5

 武器屋だらけのごちゃごちゃした喧騒溢れるアイゼンハードの武器屋ストリートにも、飲み屋街は存在する。ヴェルザークは中年女性から聞いた店をしらみつぶしに探していく。



 魔界にも夜の店は存在する。

 ヴェルザークの部下は荒くれ者が多い。

 魔物といえど、そういった夜の店を好む者は少なくない。

 ヴェルザークは鬼神といえど、部下のフラストレーションの発散にくらい付き合うことはある。ときおり魔界の夜の店に入りはするが、正直言うとあまり好きではない。

 

 軽く一杯だけ付き合い、テーブルにそっと部下たちの飲み代を置いて「あとは好きにしろ。明日もあるのだから飲み過ぎるなよな」と告げて帰る。

 

 

 自らの意思でこういった繁華街を走るのは、彼の人生で初めてだったのかもしれない。

 それでも一心不乱に探していく。


 遊び人風の男や挑発的に露出している服を着た女に「おい、フェアリーベルはどこだ?」と尋ねていく。


 呼び込みの若い女は、


「兄さん。そんな店よりうちにおいでよ」

「私はフェアリーベルを探しているのだ」


「あそこ、ぼったくりだよ」

「金なんてどうだっていい。知っているのなら教えろ」


「そんなことより、うちにおいでよ。特別サービスするから」

「もしかして知らぬか? なら悪いが用はない。お前の仕事の邪魔をする気はない。じゃあな」


「え、待って。知っているよ。あそこ、酷い店だよ」

「どう酷いのだ?」


「ぼったくりだし、超ブラックなんだよ」

「そうなのか? 知っている情報があったら教えてくれ」


「うちに来てくれるのなら、教えてあげてもいいよ。お兄さんカッコいいから、すっごいサービスしてあげるよ」


 暗黒鬼神ヴェルザークは、これでいて律儀な男である。約束をした以上、必ず守る。命の次に大切にしている自らの魔剣、ブラッディーファルコニアにもそう誓っている。他人との約束は絶対だ。約束すら守れぬ者は、最低の外道。人間の学園長に言った言葉も、期限付きではあるがそれでも相当な覚悟と意思を込めて使ったのだ。

 



 果たしてこのような約束をして良いのだろうか。



 ガチで悩んだ。

 ナツミが心配ではあるが、こういった店は好きではないのだ。

 それに現在無一文。

 嫌いな店に行くために、金を稼がないといけない。

 講師の報酬は、一か月後。

 それだと遅いから、彼女に悪いだろう。

 じゃぁ日雇いのバイトしかない。

 皿洗いとか靴磨き……

 鬼神であるこの私が、皿洗いや靴磨きをしなくてはならないというのか……


 

 いや、その考えは小さすぎる。

 この女は何か知っているのだ。



 だったら私がちょっと我慢して、靴磨きとか頑張って、稼いだ金で彼女の店とやらに行けばいいだけだ。

 ただそれだけだ。

 それくらいの意思なくして、何が教師だ!



 暗黒鬼神ヴェルザークは、小さな声で苦しそうに言葉を吐いた。


「……こ、今度行く……」

「やったああ!! あのね……」


 

 彼女が発する次の言葉を聞いた途端、暗黒鬼神ヴェルザークの表情は急変した。



 ナツミが働いているという店、フェアリーベル。

 そこはブラックというレベルを遥かに凌駕している。

 とてもまともな精神をもって仕事ができる環境ではない。

 言い換えれば、この世の地獄。



 ……ナツミ……

 お前、そこまでして……



「教えたんだから、絶対に今度来てね!」

「……あぁ……」



 暗黒鬼神ヴェルザークは人混みをかき分けながら、ネオン街の外れへ向かって走って行った。

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