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32 家庭訪問2

 暗黒鬼神ヴェルザークこと鬼頭彰は、時間を見つけてはクラス中の生徒に接触していった。

 もちろんそれは本命であるナツミへの接触のためである。

 9つ目のカルマと仮定した地味の本質を突き止める為、ナツミとはガッツリ話したいと思っていた。


 だが学園内で、妙なことが噂されるようになった。

 

 鬼頭彰が何やら怪しげな改革を起こしているのではないのかと。

 ヒロシの母親をはじめとするPTAや理事役員、教育協会はひそかにマークを始め出した。


 この学園はエリート回復魔導士を育成することで有名な由緒正しき伝統を重んじている。高い学費を取り、すばらしい人材を世に輩出することがもっとうだ。


 学園長は手を後ろに組み、窓へ向いて言う。


「清き正しい白魔導士は、貧しき者を助けていてはいけない。貧乏人は大した金すら持っていないのに、ちょっと怪我をしただけですぐに泣きついてくる。そんな奴を相手にしていたら立派な病院経営が成り立たない。大金の払える強者のみを救え。それがエリートの道だ」



 PTAの父兄たちは手を叩いて賞賛していた。

 この学園を卒業すると、金持ちになれる。

 だから多くの親たちは、この学園長に多額の賄賂を贈っていた。



 ほんの数日前。

 この学園長のもとに、教師に扮した暗黒鬼神ヴェルザークが面接に来た。

 学園長は腐っても上級白魔導士。

 暗黒鬼神ヴェルザークの全身から発している暗黒オーラを感じ取ることができた。


 こいつは悪党。

 だったら仲間だ。


 そう思って即採用して、一番問題生徒の多い3年C組を担当させたというのに。3年C組は言う事の聞かない不良も多数在籍し、ほとんどの教師は精神的にやられてしまう、そんな問題児の掃きだめのようなクラスだ。

 

 根暗で何を考えているの分からないヒロシ。

 自分さえよければいいと考えているアキ。

 そしてアキをチヤホヤする取り巻きに、ガラの悪い不良共。

 それでも親は高い学費を払ってくれるし、ぶっちゃけ白魔導士として病院を経営するなら悪党の方が儲かる。つまり学級崩壊は、これから立派な回復魔導士になる者にとってすばらしい教育環境なのだ。教師は心を無にして、ひたすら黒板にチョークを走らせればいい。そうすれば、根暗な者は黙々と勉強するし、バカはついていけず勝手に退校する。退校した者がどうなろうが、学園の責任ではない。

 


 だから学園長は、3年C組に特別問題など感じてはいなかった。



 それなのに、鬼頭は何やらおかしげなことをしている。学生ひとりひとりの自宅に訪問して、勇気やら愛やら信念やらを説いて回っている。


 白魔導士に勇気、愛、信念など不要。

 白魔導士に必要なのは、欲望のみ。


 次の日の放課後、学園長は怒り露わな表情で、鬼頭こと暗黒鬼神ヴェルザークを学園長室に呼び出した。もちろん説教をするつもりで、だ。



 暗黒鬼神ヴェルザークは、この日、二軒の自宅を訪問する予定だった。

 それはいじめっ子のアキ。

 そしてナツミ。



「学園長。すいません。私はこの後もまだ仕事があります。用件があるのでしたら、手短にお願いしたいのですが」


 その言葉にタコ頭の学園長は、イラっと来たのだろう。


 それでもコホンと軽くせき払いをして、気持ちを落ち着かせると、


「鬼頭君。確かに君は優秀だ。だが、最近、君の良い噂を聞かないのだよ」



 暗黒鬼神ヴェルザークは思った。

 それは当たり前だ。

 だって自分は暗黒鬼神だ。

 良い事をするつもりなど、さらさらないのだ。

 人類を破滅させることが、我が最終目的。

 そのために現在進行形で動いているだけなのだから。


 そんな気持ちで学園長を見つめた。


 暗黒鬼神ヴェルザークの視線の先には、ピカピカ剥げた頭部がある。


 この人は、そんな頭になるまでこの人なりに一生懸命最前線で考え抜いてきたのだろう。

 暗黒鬼神ヴェルザークは真剣な顔で言葉を発した。


「学園長」


「なんだ?」


「私はあなたの苦労が分かります。どのような思いでやってきたのかを考えると、頭が下がる思いです」


 

 学園長は金の為に必死に頑張ってきた。

 だから「お前に何が分かる!」と怒鳴った。



「私も世界こそ違いますが最前線で戦ってきました。だから、あなたの気持ちはよくわかります」



「何をぬかす。青二才が」


 学園長の方が遥かに年下ではある。だがそのような細かい事を言及するヴェルザークではなかった。ただ一言、彼の為に言葉を発した。



「学園長、あなたは本当に生徒の顔が見えていますか?」

「は? それはどういう意味だ? 見えておるわ! その先にある未来だって見ている!」


 学園長からすれば生徒が悪い心を覚えれば、金儲けが上手になる。悪こそ、まさしく勝ち組の人生。

 だから血走った目でこう叫んだ。


「この若造! 生徒にすばらしい人生を歩ませる為にわしは日夜、奮闘しているのだ!」


 


 暗黒鬼神ヴェルザークは思った。

 この人は本気なのだ、と。

 

 自分は自我の欲求の為だけに、この学園にやってきた。

 でもこの人。

 種族こそ違えど、教育にかける情熱は同じだ。自分だって魔界の若者達に同じ気持ちで接してきた。だから学園長の思いは痛いほど良く分かる。


 いずれ自分は地味とは何かを掴んだらここから去るつもりだ。その後は敵としてあいまみえることになるだろう。育成機関を叩き潰すのは、戦いの鉄則。

 これ程までに真剣な教育者を潰すことは心苦しい。


 だがそれが戦争……

 でも、それまでなら……


 だから丁寧に頭をさげ、最後にこう告げた。


「微力ながら、私はあなたを指示します」

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