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31 家庭訪問1

 暗黒鬼神ヴェルザークは皆が帰った暗い職員室で、ひとり考えていた。

 自分の目的は、最後の業を手に入れること。

 

 それはきっと地味という性質なのだろう。


 鬼神と呼ばれているだけあり、自分は地味に生きたことがない。まさしくその名の通り、戦うために生まれたきたような男であった。


 人間界での偽りの名にしても、その性格があらわれており、和風フォントでこう綴っている。


 鬼頭彰きとうあきら


 そんな暗黒鬼神ヴェルザークだ。

 いくら考えても地味という性質を理解できるはずもない。


 とにかくヴェルザークの目的は以下の通りである。

 自分を陥れた魔界にとってもっとも危険人物である二人の勇者の愛娘を徹底的に破壊すること。



 そのためには、ナツミを知るしかしない。

 どうやればナツミに心を開いてもらえるのだ?


 人間界の教師に扮するために、この世界のルールはあらかじめ頭にたたき込んでおいた。

 その記憶を順番に紐解いていく。


 昼食時の団らん……朝の朝礼……クラブ活動……・


 うーん、どれも一騎打ちに持ち込めそうにない。

 クリティカルを狙うなら、生徒と相対して理解し合えるまで話合うしかない。

 

 

 どうすればナツミとしっかりと話し合えるのだ!?

 


 そうだ!

 家庭訪問だ!



 でもナツミだけを家庭訪問するのも妙な話である。

 もしかしたら自分がこうやって、地味なる生命体の性質、その先にある打倒勇者への緻密な計画がばれてしまっては元も子もない。



 だから暗黒鬼神ヴェルザークは、クラス全員を家庭訪問していくことにした。



 ナツミ以外、特段興味がなかったのだが、茶を入れられ母と生徒を目の前にすると、いじめをやめるように言いかかってしまう。


 ――いじめからの脱却は、ナツミのミッションだ。

 彼女のライフラインの死守は大切なことだが、私が直接手を下してはいけない。これはナツミが強くなれるまたとないチャンスなのだから。


 そんな暗黒鬼神ヴェルザークの目の前にいるのは気弱なヒロシ。そしてその隣には如何にも教育ママオーラ全開の色眼鏡をした母親。いつも母の言うことを黙って聞いて、よい子を演じているのだろう。

 

 ――だがヒロシは苛めを良くないと思っている。一見大人しく見えるが、内に宿している感情はどうなのだろうか。もしかして熱くなりたいと思っているのかもしれない。ナツミがいじめられているとき、彼は何かを言おうとした。だけど勇気が出ずに震えていた。ヒロシは普段から努力はしているが、ここぞの時に勇気がでない。彼に必要なのは、もしかして自信なのではないのだろうか。自信とは机の上でいくら頑張って利口なまねごとをしていても身につかない。確信を得て、自ら気付くものだ。だから彼が自らの足で立ち上がりクラスを変えていくことこそ、彼の成長へとつながる。自分の殻をぶち破れ! ヒロシ。


 そう考え、剣道をするように伝えた。


 母親は、

「ヒロシちゃんは回復魔法でエリートを目指しているザマスよ。なにもそのような野蛮なことをしなくても……」

 


「お母様は、ヒロシ君のことを何も分かっていらっしゃらない。あなたの熱心な教育が通じ、ヒロシ君の回復魔法の腕前は同じ年の子に比べ秀でてはいます」


「そうざましょ? 当たり前です。で、どうして私が何も分かっていないと思われるのですか?」


「回復魔法のみ習得しても、一人では戦えないのです。常に誰かに引っ張ってもらわなくてはならないのです」


「いいじゃないですか? そもそも王宮神官になれば、戦いに出る必要のないですし、お給金だって破格ザマスよ」


 

 暗黒鬼神ヴェルザークは、ヒロシを真正面から見た。


「ヒロシ。お前はどうしたんだ? 常に誰かの機嫌をうかがいながら、安全圏にだけいるつもりなのか。それとも誰かを守るために強くなりたいのか?」


 母親はすごい剣幕で怒り出す。


「先生! いくら先生でもうちの教育方針に文句を言うのはやめてください。もしそんな野蛮なことを覚えて、ヒロシちゃんが世界中の困っている人を助けたいなんて馬鹿なことを言い出したらどう責任とるつもりですか! 腐るほどいる弱者なんて助けても1ゴールドの得にもなりませんし、高いお給金だって貰えませんわ」



 暗黒鬼神ヴェルザークは母には目もくれないで、熱心にヒロシに語り掛ける。



「ヒロシ。剣道はいいぞ。私も人間界は嫌いだが、剣道は好きで、昔こっそり伝説の剣術家に稽古をつけてもらったことがある。剣の道は、心の道にも通じる」


 暗黒鬼神ヴェルザークの発言は、いささか妙ではあったが、母は苛立ちから、ヒロシは剣道というフレーズに何か熱いものを感じてか、人間界がどーのこーのという単語をまったく気にしていなかった。


「ヒロシ。お前の入学試験で書いた作文を読んだぞ。一人でも困っている人を助けたいと心から願っているんだな」


 母は奮起して立ち上がり「それはお受験のための言葉ですよ。だってそう書いたら点数高いでしょ! お受験攻略ガイドブックにもそう書いてあるわ。真に受けないでくださいよ」



「先生……。ぼく……。剣道、やってみたい……」


「……そうか……。困っている人を一人でも多く助けたい。あれは本音なんだな?」



 ヒロシは弱々しくうなずいた。



「キャー。ヒロシちゃん! 駄目でしょうが! 先生! もう帰ってください!! 教育委員会に訴えてやるザマスわよ!」



 暗黒鬼神ヴェルザークは、それ以上何も言わず立ち去った。


 帰り際、母は「なんだかんだ言っても、やっぱり教育委員会が怖いのね」とわざと聞こえるような小さな声で毒づいた。



 暗黒鬼神ヴェルザークにとって人間界の教育委員会など、どうだっていい。

 自分のできることはすべてやった。ここからはヒロシの戦いだ。お前の敵は母親ではない。お前自身が勇気を持ち、自分の殻をぶち破れるかどうかだ。頑張れ、ヒロシ! そう心の中でつぶやいて、次の生徒の自宅へと向かっていった。



 彼は人間界へ破滅へを混沌を導く為にこの世界に生を受けた、暗黒鬼神ヴェルザーク。

 そして人間界の仮初かりそめの名は、鬼頭彰きとうあきら

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