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23 野球とはいったい!?1

 それから先は、フェアプレーの野球が続いた。

 もちろん意とは反してなのだが。


 ピッチャーはバッターの脳天ではなく、キャッチャーのミットを狙うしかない。そうしないとアウトは勝ち取れないのだから、渋々でもそうするしか前に進まない。そしてバッターの姫菊がクリーンヒットを打つと、それを処理してファーストに投げるしかない。


 投げはするが、スライディングしてきた姫菊に塁を奪われる。

 にっこり笑う姫菊。

 ファーストは、走者を目の前にして切り殺すことはできない。アウトにするしかないのだから、塁から足を離して走り出すまで待たなければならない。


 ゴブリンズのメンバーたちはさぞかしもどがしく思っている事だろう。

 今までは塁にでた走者は、隠し持っていたアイアンソードやクリスタルダガーで斬りかかればよかったのに、それができない。


 そうこうしているうちに、アスカがホームベースを踏んだ。

 続いてネクストバッターズサークルから、アークが立ち上がる。

 ギガスウォーリアの狙いはバッターの脳天でない。キャッチャーの構えるミットだ。そんなところに投げると打たれてしまう。だけど仕方ない。アウトを勝ち取る為にはちゃんとストライクを投げないと駄目だ。



 投げはするが、またクリーンヒットを打たれる。


 くそったれ。

 ギガスウォーリアはマウンドを蹴った。


 ゴブリンズのメンバーたちには、それぞれ野球用品店から支給された強力な秘密兵器をもっている。のこのこ走っている選手なんぞ、ロケットランチャーで粉砕できるのに。



 だが不気味な力を持つアスカを恐れてか、それができない。

 なんたってアスカはオーディンを瞬殺したのだ。

 それもひのきの棒の束なんかで。

 そもそもひのきの棒なんてゴミアイテム、いらなかったのでは?

 束にしたところでゴミはゴミだ。ただのゴミが、ゴミの塊になるだけだ。

 ゴミを固めて装備したのは、実力を隠すためのカモフラージュなのかもしれない。


 どうやったのか皆目見当もつかないが、ハッキリ言えることは――

 あの仮面の女。

 たったレベル3の状態で魔神を消滅させる腕を持つ化け物ということだけは、紛れもない事実。


 少なくともゴブリンズメンバーはそのように感じている。



 その化け物が言ったのだ。

「この試合に勝つためには、殺さずしかない」と。



 だから嫌々ながらでも、殺さずの野球をやっている。

 

 


 だけど、こんなの駄目だ。

 俺達が俺達でなくなる。

 


 

 ギガスウォーリアを始め、ゴブリンズのメンバーたちは困惑していた。



 一体、どうすればいいのだ?

 俺達はいったい何をやっているんだ……



 観客たちはもうカンカンだ。

 一眼レフのカメラを持った野球ファンたちは缶やビール瓶を投げつけてきて猛烈に抗議している。


「何をやっているんだ! 俺達は野球を見にきたんだ! だりーもん見せるな! 早く美女を脱がして酷い事をして殺せよ!」


「早く姫菊ちゃんの裸が見たいよーー!! なにやってんだよ! それでも野球選手か! 恥を知れ!」


「ちゃんと頑張れよ! お前ら、野球を舐めているのか! それでもプロか!」


「俺はこの試合、殺さずとかアホなことをのたまう姫菊京香が無残に泣きながら無茶苦茶にされて死ぬ姿だけが楽しみで徹夜までしてチケット取ったんだぞ! どうしてくれるんだ! このカス!」



 そうは言うが、奴らは強いのだ。

 特にアスカが。

 くそったれ。

 そんな苛立ちを隠しきれない様子だ。



 そもそも野球っていったい何なのだ!?



 バッターを射殺すゲームと思っている者が、この世界の大半を占めているだろう。


 俺もそう思っていた。

 学校では教師が平然と生徒にそう教えている。塾でもだ。体育の時間は、先生が野球用に死刑を言い渡された囚人を用意して実習する。泣き出す子もいるが、仕方ない。それが健全な教育なのだから。だから野球を強要しない学校を勧めるご両親も多いが、それは各々の家庭の事情だ。俺が詮索することではない。


 とにかく相手を殲滅させると勝利するゲームが野球。

 そう! 野球とはそういうものだ。

 そう習ってきたし、そう信じてきたし、誰もがそう思っている。



 なら、今、俺達がやっているゲームは何だ?



 バッターからアウトを勝ち取る為に必死に投げている、この行為はいったい……



 ギガスウォーリアは焦っていた。

 それはこの醜態をあのお方も見ているからだ。

 殺人野球推奨する最高権力者。


 ギガスウォーリアは観客席上段を見上げた。

 やはりいらっしゃる。

 

 額には血管をはち切れんばかりに大きく膨らまして、真っ赤な顔で何か叫んでいる。

 


 それでもギガスウォーリアには、フェアプレーを続けるしかなかった。その背中には今まで感じたことの無い冷たく嫌な汗がいっぱいに充満していた。

 



 もっとも荒れたのはそれから2時間後。

 試合が終わってからだった。

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