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22 ひのきのバッドの性能3

 ギガスウォーリアの投撃は始まっている。

 異空間に繋がる悪魔の魔球を、渾身の力を込めて投げつけている。




 ギガスウォーリアは思い出していた――

 この球を購入した後の経緯を……

 いざという時の為とはいえ、この球はあまりにも値が張り過ぎている。

 ギガスウォーリアはかつてダークムーンに席があった。だが訳あって、ゴブリンズに移籍している。それ以降、年棒は大きく下がっていた。


 それでも購入を決意したのだ。



 だから占ってもらっていた。

 的中率99.571%のスタイリッシュ老婆の館で。


 このボールはいざという時のための秘密兵器なのだ。

 史上最強でなくてはならない。


 水晶玉にしわくちゃな手をかざす薄気味悪いスタイリッシュ老婆に、


「先生。おれの判断は間違っていなかったでしょうか?」


「行動の是非は、結果を当人がどのように受け取るか否か。如何に使うか、誰に使うか、どのように使うか、それをどうお前さんがとらえるか、それに尽きる」


 しゃれこうべが棚の上に点在する薄気味悪い暗い部屋。

 しばらくの沈黙が続いた。


 ギガスウォーリアは聞き方を変えた。


「先生。このボールを使用すればどのようになるのか占えますか?」


 老婆はニヤリと笑う。


「ククク、わしが話すのは真実のみよ……」


 そして水晶玉が輝き出す。



 ――こ、これは!?

 一瞬にして、相手チームを皆殺しにし、

 更に相手チームのベンチ席が焦土へと変わっていた。

 


 俺の判断は間違っていなかったのだ!!



 そんなことがあった。



 場面はマウンドに戻る。

 球はどんどんとアスカに近づく。

 ギガスウォーリアは、的中率99.571%の占い師の告げた言葉より、この後どうなるのか知っている。


 

 ギガスウォーリアの鋭い目は、あの日見た惨状を物語っているかのようだ。


 ――それを見た時、ゾッとしたぜ。


 一方、オーディンとは、北欧神話に登場する戦争と死の神。

 戦闘能力だけでなく知能もべらぼうに高い。

 更にだ。

 この球は時速300キロ以上のスピードも乗っている!

 その勢いもオーディンの最初のターンの攻撃に加算される。

 バッターなんてイチコロさ。もちろんキャッチャーやアンパイヤも巻き添えを食らうだろうし、観客も一部吹き飛ぶが、俺の知った事じゃねぇ。

 

 勝てばいいのさ。

 

 俺が球を投げてバッターに届く――

 そんな、通常ならアッという間のこの瞬間に、これだけの回想ができるのは、俺の天才的な思考回路もさることながら、それだけこの球に賭けた思いが強い証拠だ。

 格闘漫画でいうところの――後3分後に惑星前後が木っ端みじんに破壊されすべてが終わるとカウントダウンが始まってから約4週に渡り話を引っ張るあの現象と同じ原理だ。

 さぁ、いよいよ終わりだ!

 死ねぃ! アスカ!



 鋭い回転を続ける球から黒煙が噴き出る。

 いよいよアイテムボールが開かれようとしているのだ。



 そして。



 なにやら黒い影が見えたと思えた。

 同時にアスカがバットを振りぬいた。



 何かが出てきた。

 ギガスウォーリアの目だけではない。

 ゴブリンズやユニカルの野球戦士達の目にもそれは目視できた。

 一般客の目には分かったどうか分からない。

 だが連射機能を持つ、一眼レフを構える野球マニア達のカメラもその瞬間をとらえた。


 時速300キロの勢いを帯びた巨大な何かに、横連結したバットが先端からぶつかり、吹き飛んでいるのだ。


 

 バットが何かを捉え、そして粉砕している。

 分かるのはそれだけ。



 先制攻撃を決めたのはアスカか!?



 ギガスウォーリアは余裕の表情を崩さない。

 だってあのような貧弱な棒っきれなどで、魔神を葬れる訳がないのだから。

 しかも相手はレベル3だ。

 どうひっくり返っても無駄だ。




 ――さぁ、やれ! オーディーン!!







 だが……





 いくら待っても奴は姿を見せないのだ。


「お、おい、オーディン?? オーディンさん??」



 ギガスウォーリアは目を丸くした。

 どうして?

 あの野郎、不良品を売りやがったのか。

 いや、この商品は有名野球メーカーから特別購入した超一級ブランド品だ。保証書もちゃんとついているし、スタイリッシュ占い師の確約もあった。



 なら、どうして出てこないのだ?



 ま、まさか!?



 仮面の女は静かに口を開く。


「言ったはずだ。このひのきのバットに打ち返せぬものなどない、と」



 ギガスウォーリアはその言葉を信じるしかなかった。

 何故ならギガスウォーリアは相手の能力を測定できるコンタクトをはめている。

 そのコンタクト越しに見えるのは、急上昇しているアスカのレベル。

 

 レベル、10、20、30、40……

 いったいどこまで増え続けるのだ!?

 それはまさしく経験値ブーストがかかった状態だ。

 たったレベル3で魔神クラスを葬ったのだから、それは当然の現象ではあるのだが。



 アスカはゆっくりとファーストに向かって走り出した。


 ファーストを守護するのはベビーアーマータイプの巨躯。大斧を装備しているが、アスカの持つ異様な力に微動だにすら出来ずにいる。

 アスカが顔を向け、視線が合った瞬間、思わず仰け反ってしまう。


 ファーストの役目は一塁の死守だ。

 一塁にやってくる走者を葬ることが、彼の仕事。それを放棄することは許されない。だけど本能が彼にこう言うのだ。


 戦っても絶対に勝てない、と。


 それでもギガスウォーリアは「お、おい! 逃げるな! なんとかしろ!」と叫ぶ。



 その言葉で仮面の女が笑ったように思えた。


 ファーストの戦意は更に消失していく。斧の先がぶるぶる震え出しているのだ。

 なんとかしろと言われても、オーディンを瞬殺する相手にどう戦えというのだ!?



 アスカは小さく助言する。



「私を倒す方法がひとつある。それは――」



 その言葉にギガスウォーリアやファーストだけでない。

 内野手だけではなく外野手も集中する。



 それは、なんだ――

 


「簡単だ。旧式の野球をすればいい」



 旧式の野球!?

 

 面喰いはしたが、すぐに意を読み取る。


 球を送球してアウトを勝ち取るという、あのレジェンドベースボールのことか!?

 かつて行われてきたという殺さずの野球。


 アスカを破るには殺さずの野球をするしかないのか!?


 ギガスウォーリアは苦虫を噛むような顔はしたものの、四散して地面に散らばっているアイテムボールをかき集めて仲間がベンチから持ってきてくれたガムテープでグルグル巻きにして、固定できたと同時に急いで3塁に送球した。



「セーフ」


 ゆっくり走っていたせいもあり、アスカは3塁で足止めを食らうことになった。




 ユニカル陣のリーダー。

 姫菊京香はベンチから立ち上がり、小さくつぶやいた。


「殺さずの野球をあれほど批判し侮辱してきたアスカさんを倒すには……、殺さずしかない……」


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