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17 スポーツ用品店

 まもなく試合は再開される。

 ここ新マッダ球場コロシアムは熱気にあふれかえっていた。


 ビールは飛ぶように売れている。

 ウサギの亞人販売員(美人)は、球場内を走り回っている。


「ビールをくれ!」

「はい、ただいま」


 購入したビールを片手に、一眼レフの魔道カメラを肩からかけた野球マニアたちが、お互いの戦利品を自慢しあっている。


 

 そんなマニアの手にあるのは頑張って貯めに貯め込んだ野球戦士達のアルバム。

 そう言えば聞こえがいいが、美少女野球戦士の無残な姿を激写しているだけである。

 野球スーツが四散して、肌をさらしてそれでも健気に頑張っている姿をよだれを垂らして見ている。


「なに、それ! ほぼ裸じゃん! なのに、一生懸命バットを握って」

「いいだろ。カエデちゃんはこの後、デッドボールで死んじゃうんだよ」

「何。すごいプレミア物じゃねぇか。頼む、売ってくれ」

「いやだね」


 そのような――まさに熱血騎士のアークが聞いたら胸糞が悪くなり憤るような会話がそこらじゅうで飛び交っている。


 そしてこの後、姫菊と新たに参戦してきた仮面の少女が無残に崩れゆく姿を、醜悪な顔をして「ケヘ、ケヘ」と笑いながらヨダレまで垂らして楽しみに待っている。



 そんな観客達が持つ魔道カメラとは――

 みなさんもご存知の通りと思うが、

 カメラという道具は通常は念写スキルを持った職業エスパーでしか扱えない特殊かつ高機能アイテムなのだが、新野球連盟に加担しているスポーツ用品店の化学班は、サイキックパワーの無い者でも簡単に取れるよう、カメラ内のシムカードにサイキックパワーを移植することに成功したのだ。

 

 これにより誰でも金さえ出せば、写真が撮れるようになったのだ。


 その特許を持つ野球用品店のオーナーにして新野球連盟ナンバーツーの男が、コロシアムの最後列で総帥の機嫌を取っている丸顔の男である。



 彼の名は、ゴンザーク。

 アイゼンハード武器屋ストリート5番街で、伊藤と張り合った伝説の悪徳商人ゴンザのまぁまぁ近い親戚である。

 

 年齢は不詳。

 だが、この球団を卑劣な殺人集団へと引き上げた影の功労者ともいわれている。



 球場内の熱気に紛れて、ひとり呟く。



「ククク。何が正義だ。何が殺さずだ。あまりにもくだらねぇ。

 そいうやいたな。バカの一つ覚えのように悪こそすべてとほざいていた親戚が。

 あの野郎が負けたのはただひとつの理由。

 あいつは悪にこだわり過ぎた。

 俺はふたつの才能を兼ね備えている。

 俺は悪と正義、両方の力を持っている。

 正義の皮をかぶった大悪党。それがこのゴンザーク様よ」



 隣に座っている総帥は、酒を飲みながらゴンザークに「何か言ったか?」と首を傾げる。



「いえ、総帥様。

 それよりか、あの仮面の女。

 どう思いますか?」


「なんか生意気だから殺しちゃえばいいんじゃない?」


「それでいいのでしょうか? 殺さずには賛同していない様子でした。スカウトしてみませんか?」


「な!? 観客達を煽っているのだぞ? そんなのスカウトしてどうする?」



 ゴンザークは思った。


 ククク。

 だからこの男はいつまで経っても世界を支配できないのだ。

 観客がうだうだいえば、殺してしまえばいい。

 何故ならこれは生死を賭けた殺人野球。

 ちょっとしたはずみでコロシアムが爆破されることなど往々に存在する。

 野球とはすなわち強烈な劇薬。

 一度味わったが最後。また見たくなる。見たくて見たくてたまらなくなる。そう、ギャンブルにはまったジャンキーの如く。

 我々はこの腐ったジャンキー共に、適当な餌をばらまけば良いだけ。

 さすれば飢えたジャンキー共は、いじきたねぇアリのように野球に金を落とす。

 そうすることにより、人は野球なしでは生きられなくなる。

 野球。それはまさしく世界征服を成し遂げるための、聖なるつるぎだ。

 この聖なるつるぎをもってすれば、容易に天下をも取れる。

 その暁には、この小物の総帥も爆破してくれようぞ。

 ククク。アハハハ。


 さてと。


「総帥。あの仮面の少女はスター性がございます」


「は? 観客は単に敵視しているだけではないのか?」


「そう、観客達は一瞬で、彼女のことを覚えたでしょう? それがスター性というものです。ファンでもアンチでも良いのです。炎上さえすれば、大衆は興味を持ち観戦に訪れるのです」


「なるほど。だがなぁ。あいつ、野球ができるのか?」


 ゴンザークは、苦笑いをした。あまりにも総帥がトンチンカンなことを言っていると感じたからだろう。

 

 ――なんて愚かな。

 野球などできなくともよいではないか。

 そもそも野球なんてただの殺し合いだ。

 我々スポーツ用品店がバックになれば、振れば敵を一刀両断できる真空剣や、かざすだけで落雷が落ちる破壊の杖、空飛ぶマントや敵の攻撃を跳ね返す盾を用意することができる。公式ルールでは反則とされている毒系や致死系の野球道具だってこのゴンザーク様は連盟の持つ裏口を使って持ち入ることができるのだぞ。それを使えば野球なんて知らなくとも勝てるではないか。

 まさにこの男はバカで無能。

 もっと分かりやすく教えてやらなければならないのか。

 はぁ、面倒な野郎だ。これでも野球界のトップなのか。

 まぁ、いいか。

 いずれ爆破させるのだから。


「総帥。仮面の女には圧倒的個性があり、そして我々の旗印、殺人野球を否定していない。金と権力をチラつかさせ、同胞に招き入れるのは得策と思います。その後、野球の強化合宿に参加させ能力をアップさせればよろしいと思います」


「それで大丈夫なのか?」


「お忘れですか? あの女はひのきのバットのみでギガスウォーリアの真空波をかき消したのですぞ」


「それはギガスウォーリアが手加減をしたからではないのか? 解説者も言っておったぞ」


 ……。


 ゴンザークは見破っていた。

 ゴンザークのわりと近い親戚にあたる男が持つタクティクス――営業妨害タクティスを更に強化した戦術を持つからだ。

 その名は真・営業妨害タクティクス。

 その破壊力は通常の営業妨害タクティクスの5000倍とも言われている。



 ――だが、総帥は凡夫。仮面の少女の実力を見破れるはずもない。

 

「まぁそうかもしれません。ですが、いらなければ捨てればいいだけではありませんか。何にしても在庫は多い方がいいとは思いませんか?」


「はぁ、酔ったから動くのがめんどくさいのよ。わしは」


「なるほど。そうでしたか? ではわたくしめが、ひそかに動いておきますが」


「い、いや。待て。おいらも行きたーい」



 ゴンザークは軽い嘆息を吐いた。

 だがその眼光は鋭い程尖っていた。



 ――ククク。

 あのひのきのバット。

 何者が授けたかは知らぬが、かなり面白い野球グッズだ。

 おそらく俺の新野球グッズに匹敵する要素を持っているだろう。

 だから芽は早いうちに――

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