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16 謎の鉄仮面2

 プロ野球ドームの呼ばれるコロシアムには、チーム毎に控室が用意されている。男女混合でチームが編成できるということもあり、更衣室はそれぞれ6つある。



 ユニカルの更衣室では。

 姫菊は新たな野球スーツを装着しながら、仮面の少女に礼を述べていた。


「ありがとうございます。あなたは……」


「私か……。カ……いや、アスカだ」


「アスカさん。戦局は厳しいですが、宜しくお願い致します」


 そう言って姫菊はちょっぴり笑い握手を差し出すが、アスカと名乗った鉄仮面は握手をしようとしない。


「私は殺さずの野球には興味がない。野球とはすなわち殺すか殺されるかのデスゲームだ。そしてこの会場に来ているゲスな観客共はそれを望んでいる」


 姫菊はうつむく。


「……そうかもしれません。ですが、私は野球が大好きです。このゲームを心から愛しています」


「殺人ショーを、か?」


 姫菊は真っ赤になって立ち上がった。


「いえ、違います。殺人ゲームなんて大嫌いです。ご存じないでしょうか。かつて野球はみんなが興奮する楽しいゲームだったのです。元気な若者達が休みに日に集まって、誰でも楽しむことができる楽しいスポーツでした」


 確かにかつてそのような時代もあった。

 ちょっとした余暇、グローブとボールを持って、河原でキャッチボールを楽しむ親子もいた。学生達で競う甲子園というものも存在し、真夏になると多くの熱狂的なファン達が力の限り応援していた。また種族を超えてエルフや人間たちも、応援団をひさっげ健全に戦っていた。


 

 だがある日、気付いたのだ。



 野球で殺し合いをすれば、球界は儲かる、と。

 野球用品店は武器開発ができる。

 今まではバットやグローブ、シューズといった価格の安価なものしか販売できなかったが、野球に戦闘要素を組み込むことによりダブルトマホーク、ツインランサー、オリハルコンといった高額な商品も野球用品として販売できる。



 しかもだ。



 この業界に武器屋の介入を阻止すれば、野球用品店の独占市場となる。




 野球の人気が高まれば高まるほど、野球用品店が儲かる構図ができたのだ。



 姫菊はたった一人で、この恐ろしい球界に殴り込みをかけたのである。

 かつて行われていたレジェンドベースボールを取り戻すため。



 そんな姫菊の目の前には、殺さずに興味などないというアスカがいる。味方だと思っていたのに、そのようなことを言うなんて、自分はどうしたらいいのか分からない。

 たった一人で戦うことは困難である。

 せめてキャッチャーがいないと。


 同時に更衣室がノックされる。

 タイムの時間が終了したのだろうか。

 急いで野球スーツを着ると、顔だけ外へ向ける。


 そこにはさっき自分を応援してくれた兵士がいた。観客達に瓶を投げられてできた怪我が体中にある。


「あ、姫菊選手。あ……。お、俺はアーク」と言葉を詰まらせながら何言おうとしている。


 姫菊の表情はパッと明るくなる。


「熱烈な応援ありがとうございます。あなたの応援があったからここまで頑張れました」


 姫菊はそう言って頭を下げた。


「あ……あの。俺もメンバーに加えてもらえませんでしょうか? 俺も殺さずの野球がやってみたいんです」


 その台詞で姫菊は手で口に抑えた。嬉しかったのだ。


 アスカは仮面越しにアークを一瞥した。

 アークにはカノンを守るという使命がある。

 別に仮面の少女はカノンではないから関係ないが、アークに一言忠告する。


「お前、もしかして誰かのボディーガードではないのか? いいのか? こんな殺人ゲームに参加しても」


「……すいません。駄目です。ですが今、主はお手洗いに行かれております。だから少しの間なら……」


「やめておけ。このチームのリーダーは殺人野球を拒んでいる。死ぬかもしれないぞ」


「構いません。お、俺も」


「ふ、愚かな。それでは護衛失格だな。ひとつ宣言しておく。敵が牙を剥く限り、私は容赦なく殲滅させるつもりだ」


 姫菊は悩んだ。

 アークを加えれば、アスカがいなくともゲームは再開できる。

 願ってもない申し出ではある。

 それに通常なら登録者以外の参戦は許されないのだが、このアークというこの青年も他の観客達にとって目の敵になっている。アスカの前例で分かるように、血祭にあげるという大義名分を叶えるためにきっと参戦を許されるだろう。


 だったら……


 だがアスカは付け加える。

「そうか。私は不要か。だが二人だけならギガスウォーリアには勝てないだろう。いいのかな? アークは主の護衛という任務もあるのに、このゲームに参加すれば死ぬかもしれないのだぞ。姫菊のせいで」



 姫菊はうつむいた。確かにそのようなこと許されるわけない。でもそれでは八方ふさがり。どうしたらいいのか分からなくなっていた。



 アスカはニヤリと笑う。仮面をしているのでその表情は見えないのだが。


「だから提案する。こういうのはどうだろう? 私は如何なる事にも躊躇なく手をそめることができるから、おそらく生き残るだろう。姫菊とアークが死亡したらゲームを放棄する。その代わり、アークの主とやらは私が責任をもって守ろう」



 姫菊は顔をかしめはしたが、その提案を飲むしかなかった。

 


 この三人で新チームが結成された。

 殺さずを誓う二人と、虐殺を提唱する一人で。



 姫菊は、二人を見た。

 おそらく二人ともかなりの戦闘経験はあるようだが、野球は初めてと思う。

 だから簡単な野球ルールの説明をすることにした。


 野球の公式ルールで使用できる野球スーツには4種類ある。


 それはヘビーアーマー、ウィングソード、スパイラルアロー、ショットダガー


 それらスーツには特殊な効果が付加されており、以下の能力が補正できる。

 


 ◆ヘビーアーマー

 最高の守備力を誇る鉄壁の壁。

 だが総重量150キロ以上もあり、鍛えぬいた戦士でないと装備は難しい。

 弱点は移動速度の極端な低下。

 キャッチャーやファーストのような攻撃を最も受けやすい危険なポジションの者が通常は装備する。



 ◆ウィングソード

 最もバランスが取れた装備。

 攻撃力、守備力、投球力、回避能力、すばやさ、魔法力、魔法防御、器用さといった野球というスポーツに必要な能力が全体的に向上する。野球選手が最も好む使いやすくてオーソドックスな装備だ。勇者や戦士、魔法戦士などにおすすめである。



 ◆スパイラルアロー

 投球力と命中力に特化した野球スーツである。

 一撃必殺を必要とするピッチャーや、走者を狙い撃ちする外野、走者の暗殺を専門とするショートなどが有効的と言われている。だが独特の癖があり使用者の能力次第で、強力な武器とも足枷ともなる。狩人や魔導士などがいいだろう。




 ◆ショットダガー

 俊敏性のみが極度に上がる野球スーツである。だが守りは最ももろく、別名、紙装甲。走者の暗殺を専門とするショート、はたまた移動の多い外野陣、また出塁の機会が多い1番打者などが有効とされているが、なにぶん守りが弱い。これを装備するには相当の覚悟、または圧倒的な自信が必要だ。忍者やシーフといった者達ならこの力をいかんなく発揮できるだろう。



 大体の説明が終わり、二人は野球スーツを持って更衣室に入った。


 アークはウィングソードを選択。

 アスカはショットダガー。


 姫菊は驚いた。


 ショットダガーでキャッチャーなんて自殺行為以外考えられない。



「敵は全員雑魚。別に丸裸でも構わないが、折角だから野球を楽しもうと思ってな」と言って部屋をでた。



 アスカは目が見えないが、回りの様子がなんとなく分かる。

 それは――



 野球に参戦するために、一人トイレに向かった。

 奴を倒すために。

 そして3番目の自分を倒して吸収した。

 だから地味タクティクが使用できる。



 地味な子タクティクス――クラスや同僚の弱みを密かに握り続けたことにより、見えない場所にいる者達の所為まで手に取るように分かる驚異的な能力である。




 皆と別れ、アスカは壁に背を預け、ぐったりとした。

 装備が不要。その台詞は詭弁だった。本当は重量があり過ぎて装備するのが困難なのだ。

 彼女はレベル3しかない。

 アスカと名乗った謎の少女は、仮面越しからひのきの棒を眺めている。



 ――ああは言ったものの、果たしてギガスウォーリアに勝てるだろうか。

 だがこのひのきの棒に、打ち返せないものなどない……。姫菊にアーク、お前達は絶対に守ってやるよ。悪女の意地にかけて。



 そう呟いて更衣室でショットダガーを装着すると、球場せんじょうに向かった。


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