12 崩れゆく不殺の誓い1
今回のお話は三人称神視点(第三者による語り口調)、やや姫菊よりです
「キャプテン、俺達も殺人野球を始めるべきです!」
姫菊を中心に円陣を組んでの作戦会議。
チームは揉めに揉めていた。
ここにきて、殺しをするべきと主張し出す者が現れたのだ。
「駄目よ! 牛尾君」
牛尾を呼ばれたまるで牛のような体躯をしたファーストの意見を皮切りに、姫菊の野球への批判が始まった。
傍にいた男も続いた。
「俺も牛尾が正しいと思う。敵は容赦ない反則プレーをしてきているのです。しかも審判はそれを容認。おそらく俺達は新野球連盟に睨まれているのだと思う」
そう言って頭部のヘッドギアをやや上げたのは、キャッチャーの城島。その表情はいつになく険しかった。
姫菊は真っ青になる。
ファーストの牛尾は熱血漢溢れる男気ある青年。
それと相対してキャッチャーの城島は、冷静沈着で常に一歩下がったところからチームを見渡しサポートするタイプ。言葉数は少ない。それだけに彼の言葉には重みがある。
そんなファーストとキャッチャー。
そのWポジションは、ピッチャーに続いてもっとも敵に狙われる重要なポジションだ。
特にキャッチャーなんて、もっとも危険地帯と言われている。
凶器を握るバッターの射程距離範囲内に常にさらされているのだから。
だからこの二人がチームの要といっても過言ではない。
「城島君まで何てことを言うの!」
「いや、姫菊はよく頑張っていると思う。俺は応援したい……。だが……」
数人も二人に続いて姫菊に意見する。
それ以外のメンバーは黙って下を向いている。
何か言いたそうだが、それを口にする者はいなかった。
その表情からはうかがえるのは、殺さずの姫菊に対して否定的な気持ちなのだろう。
姫菊は元気よく、「2アウト、1ストライクなんだよ。あと2球でこの回は終了するわ!」
――だけど次の回はどうするんですか!? その次は? チームメンバーに浮かんでいるゆがんだ表情は、まさにそう言っているかのようだった。
牛尾は静かに拳を鳴らした。
視線の先はバッターのギガスウォーリア。
真空剣を片手に、ガムを噛みながら挑発的な笑みをチラつかせている。
「あいつ、もしキャプテンにおかしげなマネをしたら、俺、黙っちゃいないですから」
「駄目よ! 私たちのプレーは絶対にフェアーでなくてはならないのよ!」
牛尾は、
「それは何度も聞きました。あなたは勇者ベーブルースを慕っていることをも知っています。でもその末路は……新野球連盟に……」
姫菊の目が鋭くとがった。
「失言でした。ですが……ベーブルースは既に故人。俺はあなたに死なれたくない。その為だったら何でってやりますから」
「ありがとう。私もよ。私も牛尾君に死んでほしくないわ。他のみんなもそうよ。だから私たちは殺さずの野球を広めていかなくてはならないの」
「……分かりました」
牛尾は静かに首を縦に振った。
だがその表情は険しかった。
作戦会議は終わり、ユニカルのメンバーたちはそれぞれのポジションに戻った。
実況アナウンサーがマイクを握り、場内を熱くする。
「試合は再開されました! ツーアウト、ワンナッシング。ゴブリンズは押されています」
「そうでしょうか? 私は姫菊投手の方が押されているように見えますがね」
「それは目の錯覚でしょう。どういう訳か、今日のゴブリンズはとてもフェアーな戦い方をしております。反則を取れたのは、殺さずとかいった時代遅れの野球をしているユニカルの方ですし。ですが、もしかしてそろそろ本日初の死者がでるかもしれませんねぇ、あのピッチャーあたりが脱がされて、ククク」
観客たちは盛り上がる。
姫菊は観客を見上げた。
酷い野次が飛んでくる。
「ギャハハ。てめぇによそ見をする権利なんてないんだよ。おらおら、早く投げろや!」
「おらおら、小娘! 早く脱がされて殺されちまえ!」
「おいら、カメラ持っているよ。あの子がひどい姿になるところをバッチリ撮るからね」
「おお、それ、売ってくれや!」
姫菊の目は熱くなった。
野球は神聖なるスポーツ。
いや、かつてはそうだった。
このような人の不幸を楽しむ輩の娯楽などでない。
勇者ベーブルースが成し遂げたかった想いを、この私が……
だけどチームの心までもが、バラバラになりつつある。
昨日までは順調に勝ち進んでいて、城島や牛尾はもちろん、新しく入ったメンバー――ショートのレオも「キャプテン、殺さずの野球って本当にすばらしいですね。俺も殺さずの野球を広めていきたいです」と言ってくれたのだ。
だけどレオはさっきは会議には参加せず、端っこでレフトの女の子に愚痴をこぼしていた。
「殺さずなんてバカバカしいなぁ。だって客も殺さずに期待していないしな。もしキャプテンが死ねば、殺しを再開してもいいのかな?」
「しぃ! 聞こえるわよ」
「キャプテンは話し合いに夢中だから大丈夫だって。それよかもう勝ち目ないだろ、この試合。なぁ、逃げるか?」
「……」
レオは聞こえないように言ったつもりだったが、それは姫菊の耳に届いていた。
姫菊は後方のショートに視線を配る。
レオはプイとそっぽを向く。
姫菊が正面を向くと、レオは冷ややかな目で姫菊を軽視した。
まるで小馬鹿にしたような飄々とした目で。
姫菊の目から一筋の滴が落ちた。
絶対に負けるもんですか。
先駆者のベーブルースはもっと辛い時代で戦ってきたのよ。
だから私だって――
そんな姫菊の耳に熱い声援が届いた。
ふと、視線を上げる。
客席の最後尾の立見席。
そこで一人の騎士が猛烈に応援してくれているのだ。
「姫菊ぅぅ! 俺は何があっても絶対に応援するからな!!」
姫菊は白い歯を見せて、熱い声援に応えた。




