1、おはなしのはじまり
ヨロシクオネガシマス
パラレルワールド。
いま読み進めているライトノベルのテーマだ。
もしもの世界というのはいくつになっても心躍るテーマだと思う。
もしも学校の科目に「魔法」や「武術」の無い世界があったら。
もしも魔物や精霊が存在しない世界があったら。
寝ぼけた頭でそんな非現実的な妄想を膨らませる。
高校の学年も2年になって早2ヶ月。もう梅雨入りだ。
そんな憂鬱な天気と同じくらい学園に向うのも億劫だ。
だが学校をサボって大学に進めなくなりでもしたらコトだ。
ただでさえ過保護な親と妹がいるのだ。
養う覚悟を決められる前に自立出来るだけのステータスを十分に持っておきたい。
徹夜で読み終えたライトノベルを枕元に置き高校の制服に着替えて朝食を作る為にキッチンへ向う。
テレビをつけてみると今日も隣国では植物モンスターによる侵食が勢いを増し軍との攻防が激化しているらしい。
自室のある2階からキッチンのある1階へ降りるとリビングのテーブルにはメモが二枚置いてあった。
「ソウタへ。前に言ってた通りパパと研究所にしばらく泊まります。あとハルに手を出さない様に。母」
出すか。
因みにソウタとは俺、三郷宗太のこと。
魔法適性値も体力も学力も並以下。両親は魔法技術の研究者で家に居ない事が多い。
ハルとは春海。
妹で魔法適性値は高校1年ながら3学年でナンバーワン。
運動も学力も高校トップクラスの超人。
因みにかわいい。ファンクラブ有り。生徒会会計。
軽く脳内自己紹介も済んだところでもう一枚のメモだ。
「兄様へ。生徒会の雑務があるので今日は一緒に登校出来ません。ごめんなさい。車に注意して時間に余裕を持って出発してください。ハル」
お前は親か。
「追伸。ハルは兄様の寝顔を30分程眺めていたので今日も学園生活が頑張れそうです」
ハルはこんな俺でも慕ってくれる数少ない理解者だが少々度が過ぎているらしい。
同じ高校に入学してから生徒会にスカウトされるまで授業中以外は俺の隣にべったりだった。
ただファンクラブまで出来る美少女の妹に毎日懐かれていると周りの視線がどうなるかは想像に容易いと思う。
そんなハルが何故に生徒会に入ったのかと聞くと「兄様の学園生活をより良いものにする為」だそうだ。
なんだか俺ヒ○みたいじゃん。
既にこの無駄なやりとりで時刻は朝の8時を過ぎてる。
「仕方ない、朝飯はお預けだな」
しかし今日はやけに蒸し暑いな。
忘れもしない17年前。
そう、あの秋葉原での夏のような暑さだ。