商人護衛任務
騎士の訓練は順調にこなしていた。
とうとう、私にも任務が回って来た。商人の護衛だ。
この商人さん、騎士の護衛が付くほど偉い人?なんて思ってたら、訓練の一種だった様だ。
もう、訓練、訓練って騎士だから当然なのかもだけど。いざって時に使い物にならなきゃ意味ないものね。
ただ、実際に野盗どもに出くわす可能性もある。実践だ。緊張するけど、大丈夫だ。
バケモノの様に強い同期がいる。任せて安心だよね。
この護衛任務は行軍の訓練も兼ねているのか?辛い。行軍は相当辛いよ。武装して歩くのは体力がいるんだ。男性向けの鎧を着ていて、サイズが合っていないせいか?
バケモノみたいな同期はスキップしそうだぞ!
私も馬車に乗りたいなぁなんて良からぬ考えをしていたら、商人に呼ばれ馬車の中へ。良かった。助かったかもしれない。
「君はどうして騎士になったんだい?見たところ普通の女性に見えるが?それでも厳しい訓練に耐えている。何か訳でもあるのかね」
「正直に申しまして、私もこの厳しい訓練に挫折しそうなんです。きっかけは蛇の様な嫌なフィアンセから逃げる事でした。凄くムカつく男なんです。でも、騎士になって父上にやれば出来るって励まされ、期待を裏切る訳にいかなくなってしまったんです」
「君は面白い子だなぁ。私は君の父上に合ってみたいよ。君のような素直な娘さんを持って幸せだと思うよ」
「父は私に家宝である剣を持たせてくれたんです。期待に応えねばなりません。でも、少しずつですが、成長する自分も嬉しくはあります」
「そうか。君は貴族の子で家宝の剣を持っているのか見せてもらえないか?」
少しためらったが、プリフィンガーを渡した。商人はプリフィンガーを手に取ると、ちょっと眉を潜めてから返してきた。
「私は武器商人の端くれだが、この剣はわからない。呪いのような禍々しい感じも受けるが、勇気も出るような感じもする。ただの剣なのにな。剣自体は扱い易い部類だ。君でも鍛えれば、片手で楽々使えるだろう」
「ありがとうございます。精進します」
「それより、鎧があっていないな。それでは動き辛かろう。早めに身体に合ったものを用意するべきだ」
「オーダーメイドの鎧なんてとてもとても無理ですよ。まだ、騎士になりたての身分ですし。私も実は困っていたのですが、こればかりは耐えるしかないですね。私のワガママで父上に迷惑をかける訳にいきませんので」
(ん?外が騒がしい。出た!野盗だ!まさか、本当に襲撃に遭うなんて。ヤラセじゃないよね。実は訓練でした。ちゃんちゃんってのを期待しちゃうよ)
「すみません。失礼します」
「頑張ってください。騎士どの。武勇を期待しております」
「やるっきゃない。プリちゃん頼んだわよ!」
「おまえ、人任せじゃなく剣任せは良くないぞ!おまえが戦うんだからな!」
バケモノのケイト君。強い強い。ひとりで壊滅させちゃうかも!あっ油断したな。脚をやられた。ビリーがケイト君の盾になってる。
私も駆け寄る。
プリフィンガーが慌てて叫ぶ。
「彼奴の左を守れ横からの攻撃を防御しろ!」
「キン!」
本気で私達を殺しにきた。マジで?人殺しなんだ。この人たち!私はケガをしたケイト君の足にプリフィンガーを当てる。ケイト君は始め驚いたけど、傷が癒えたのか立ち上がり野盗を切り裂いた。容赦ないね。ケイト君が味方で良かったよ。
私なら一撃で御陀仏だよ。
「上段から来るぞ!横っ飛びだ」
私は慌てて横に跳ぶ。私がいた場所に剣が振り下ろされている。死んでたぞ!これ。なんて事してくれるんだ!私は振り下ろされた剣の持ち主を横一閃に斬った。
血が出た。わめきたい。吐きたい。泣きたい。泣いてたかも。必死に死の恐怖と戦うだけだった。プリフィンガーの言葉に従って防御に適した。なんとか生きている。結局、訳の分からないまま野盗は退散した。私が斬った死体は残されたままだ。それを見て私はついに吐いてしまった。
商人の従者に呼ばれ、またもや馬車の中へ。
「君は初めて戦ったんだね。良くやった。君の父上はさぞやお喜びだろう」
「お恥ずかしい姿をお見せしました」
涙が出て止まらない。
「君は頑張った。僕の中では君が一番の手柄だと思っている。あの猛者君を癒したね。あれで戦局が大きく変わったよ。不思議な力を持っている。君が私を救ってくれたんだ!自信を持ちなさい。」
「父上にも自信を持てって言われました。こんな未熟な騎士なのに!」
「君は頑張った。私の生命を救ったんだ。これからも人の生命を救ってくれ。君はもう立派な騎士だ。」
「ありがとうございます」
「君の父上が羨ましい。私の事も父と慕って欲しい。君のためにオーダーメイドの鎧を用意させてくれ。なんせ、君は命の恩人だ。これからも人に感謝される騎士になって欲しいんだ。期待している。自信を持ってください。騎士殿!」
「そんなもったいないお言葉。恐悦です」
「良い娘だな。君は!」
「剣にツバを吐きかける娘だぞ!誤解するな!」
「ん?なにか言ったか?」
「空耳でございましょう」
(この剣、いつか炉で溶かしてやるわ!)