【9】竜玉との手合
竜玉とは将棋界の名人と並ぶ二大タイトルの一つである。
優勝賞金4200万円のビッグタイトルだ。
「そっか~、お兄ちゃん、おばあちゃんに将棋教えて貰ってたんだね」
「何の事だい?」
「お兄ちゃんね、入院中ずっと将棋してたんだよ」
「へぇ~、あっくん将棋始めたのかい?」
「う、うん、まあ」
「えっ?おばあちゃんが教えたんじゃ無いの?」
「おばあちゃんじゃあ無いよ」
「そうなんだ」
「それよりあっくん一局指そう、あっくんと指せたらもうおばあちゃんこの世に思い残す事は無いよ」
「いや……おばあちゃんまだまだ若いじゃん」
「あっくん……そんな事家族以外に言っちゃ駄目だよ。絶対に」
「えっ?何で?」
「食べられちゃうからだよ」
「食べられちゃうって」
笑って返すがおばあちゃんと妹は超真剣だ。
「そ、それよりばあちゃん一局じゃ無かったの?」
「そうだった、じゃあこっちの部屋においで」
通された部屋はタイトル戦を行う様な『~の間』と呼んで良いほど立派な部屋だった。そこに置いている将棋盤も、うん百万もする立派な本榧で出来た足付きだった。
「あっくん、棋力はどんなもんだい?」
(向こうの世界では奨励会三段だったけど、こっちの世界の棋力はどうなってるんだ?同じなのかな?)
「おばあちゃんごめん、ちょっと棋力わかんないや」
「そうかい、じゃあおばあちゃんが図ってあげるよ。とりあえず二枚落ちでやってみようかね」
「わかった」
【二枚落ち】飛車と角が無い状態
大駒二枚が無く楽勝に思えるがプロ相手だと勝つのはかなりキツイ。勝つにはアマチュア三段ぐらいの棋力が必要
数分後
「負けました……」
この声はおばあちゃんだ。
「あっくん!強いね。いやかなり強いよ」
流石に殆どプロレベルだけあってハンデ戦では全く負ける気がしなかった。
「飛車落ち、いや香車落ちで……平手で指してみようかね」
ばあちゃんが興奮している。目に入れても痛くない男の子の孫が才能を見せたのだから仕方ない。
この日竜玉のばあちゃんと指して指しまくった。
【平手とは】ハンデなしの対局