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あべこべ世界で~プロ棋士として生きる~  作者: 田中悠平
第3章 あべこべ世界で~プロ棋士編~
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そして

【桐島歩四段、交通事故により重症】

【命に別状無し】

【竜玉戦は不参加】



桐島歩の交通事故はすぐに世間に伝えられる。

幸いにも肋骨や、腕を骨折する程度の怪我で済んだ。

脳等には異常が診られず様子見次第で退院出来る事となったが、

ショックが大きかったせいか、塞ぎ混む様に誰とも会話をしなかった。



「桐島先生、申し訳ございませんでした!私のせいで……」

「二人とも無事で良かったよ」

「でも、あゆむ君が……」

「退院はしたけど、部屋で塞ぎ混んでいるようだね」

「そうですか……」

「気にせんでも良い。そのうちひょっこりと出て来るさ」



【桐島歩四段、今期の対局の欠場を発表】

【思っていたよりも重症なのか?】


桐島歩の今期の対局の欠場を新聞が報じる。

実際は骨折程度だが、精神的なショックもあると判断され、休場が認められ、世間も歩の復帰を心待ちにした。



そして一年後、



将棋会館の前に報道陣が集まり、復帰戦の桐島四段を待つ。

休場の間は一切メディアには登場しなかった桐島歩を今か今かと待つ。

そして、スーツに身を包み傘を指す、一人の男が将棋会館に到着する。



「桐島四段、怪我はもう大丈夫ですか?」

「復帰戦ですが一言お願いします」

「ファンに向けて一言お願いします」


女性キャスター、女性カメラマンに囲まれ、蒼白い顔をし、震えている様にも見える桐島歩四段は、無言のまま足早に将棋会館の中に入っていく。



「緊張してるのかな?前と少し印象が変わった?」

「緊張しているに決まっているじゃないですか」

「だよね。それにしてもあゆむキュン今日勝ってくれないかな」

「何でですか?」

「そりゃー、勝った方が盛り上がるからよ、売上も全然変わってくるわ」

「でも負けて、落ち込んでいる姿も見たいですよ」

「それもそうだけど、事故の後なのよ、やっぱり笑顔が良いわよ」

「今日は長い一日になりそうですね」


そんな記者達の予想を裏切り、お昼を待たずに形勢は決まる。



「桐島四段?どうして?」


対局している隣の部屋に集まり、検討する棋士と記事を書く記者の誰かが発した言葉。

そして誰もが同じ事を思った言葉が静かな部屋に響く。


序盤の定跡はしっかりとしている、おかしいのは持ち時間の使い方だ。

プロの対局は長い、新人の棋士が時間の使い方が下手なのは仕方がない。しかし、速すぎる。

まるでネット将棋を指している様な指方だ。


本に載っている定跡までは互角を保った。

しかしそこまでだった。

少しひねった手を指さされた時には目を覆いたくなる様な悪手が繰り出される。

そして昼を待たずに形勢は決まってしまった。



「桐島君どうしたの?何でこんなに指し急いでるの?」

「わかりません。復帰戦で緊張してるのですかね?」

「緊張しててもこんな将棋指さないよ」

「どうしちゃったのよ。あゆむ君」



それからの桐島あゆむは、ひとつも勝てずにただただ負け続ける。

人が変わったかの様に。


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