王手
デビューからの連勝をぐんぐん伸ばしている桐島歩だが、
その他にもぐんぐん連勝を伸ばしている人物が居る。
姉弟子の【秋田一二美】だ。
現在三段リーグは13回戦まで消化されており、13連勝を飾っている。
「一二美さんも今季で昇段確実ですね」
「万が一って事もあるから気が抜けないよ」
現在のあゆむと一二美は師匠である桐島銀子宅で研究会の最中である。
なかなかプロになれない一二美であるが、棋力はプロで充分通用し、あゆむが唯一負けた相手でもある。
「もし万が一にも昇段年逃がしたら、もう破門さね~」
「えっ!」
「おばあちゃん、プレッシャーかけちゃ駄目だよ」
「あっくんさ、棋士である以上、一生プレッシャーと付き合っていかにゃいかんのよ。一二美はそこを乗り越えにゃならんのさ」
確かにプロである以上楽しく指すだけではいけない。
自己管理、自己プロデュースが必要だろう。
メンタルのケアは一生の課題だろう。
「最大の敵は天ちゃん所のひよっこじゃな~」
「はい……次節で当たります」
「勝ちんしゃいよ」
「がんばります」
【天王寺ひとみ】、祖母がタイトルホルダーのサラブレッドであゆむと通じる所がある。
本人の棋風は粘り強い受けが特徴である。
「一二美さんなら、絶対に勝てますよ。プロの世界で待ってますからね」
「ありがとう。すぐに追い付くわ」
「すぐには無理さ~。なんてったってあっくんは挑戦者決定三番勝負まで勝ち進んでいるさ~」
そう、あゆむは連勝を重ねて遂に竜玉戦の挑戦者決定戦まで勝ち進んだのだ。
既に世間では連日大騒ぎである。
【史上最速最年少タイトル獲得か?】
【師弟対決実現なるか!】
「あゆむ君と先生の対局とかどっち応援していいかわからないね」
「そこは可愛い弟弟子を応援して下さいよ」
「あっくんさ、1つ言っておくぞ。名人は強いぞ。神とさえ呼ばれる強さを持ってるさ」
そうだ。何を浮かれている。
相手は全て格上の存在なのだ。
「そうだ……ね。危なかった。ありがとう、ばあちゃん」
こうしてあゆむの初めての名人との対局がもうすぐ始まる。




