決着
『遠見の角』名前の通り、遠くから角が睨んでいる。
1八角、中盤にあゆむが指した手だ。
あゆむが王様を銀冠と呼ばれる囲いに対して、天王寺めぐみはオーソドックスに美濃囲いで戦っている。
「くっ!1八の角が……」
守備の要の7二の銀を睨んでいる。
いつでも角を切って行ける。
形勢はいつの間にかあゆむに傾いている。
いくら強い棋士といえど、プロ同士一度局面が傾くとひっくり返すのは難しいのだが……
「まだまだ気は抜けない、形勢が悪くなれば暴れてきて勝負手を放って来るだろう」
あゆむが思っていた通り、天王寺めぐみは攻撃の手を強める。
「絶対に攻めを繋げないと、簡単には負けないよ、あゆむ君」
天王寺めぐみは大駒の飛車を切り、位を生かして攻めを繋げようとする。
あゆむも丁寧に対応する。
そして、96手目に遂に攻めが途切れる。
「ありません」
負けを察した天王寺めぐみが敗北を口にする。
「ありがとうございました」
この瞬間、長い将棋界の歴史の中で30連勝という新記録が打ち立てられた。
「あゆむ君、おめでとう」
「ありがとうございます」
対局相手の天王寺めぐみが祝福の言葉をかける。
「あ~、悔しいな、この日の為に新しい戦法を考えてたんだけどな~、」
「ええ、びっくりしました」
「びっくりした割には、上手く対応されちゃったね、もしかしてこの戦法知ってた?」
「ええ、この戦法だと振り飛車側からも仕掛けられるので、そのうち流行ると警戒してました」
「知ってたんだ、あ~あ、これからは革命児の二つ名はあゆむ君の物だね」
「いや……王子と貴公子とかいっぱい呼ばれてお腹一杯です……」
「ははは、そうだね。この後のインタビューとか凄そうだね」
「頭が痛い……」
「それもプロの仕事だよ。頑張ってね」
「ガンバリマス」
30連勝を達成したこの日のインタビューは1時間以上続いたが何とかやり遂げた。




