サンタは一人で充分です。
「真っ赤なお鼻の~、あ!? お兄ちゃんまた写ってるよ」
今日はクリスマス、朝からテンションが上がりっぱなしの妹の香がテレビに映る兄の歩の姿を、隣にいる兄に見るように催促する。
男性棋士の誕生とあり、一般ニュースでも流れるほどに将棋ブームが行っている。
「今日はちょっと出掛けて来るね」
「「えっ?」」
母と妹が驚いている。
そんなに驚く事だろうか?
「えっえっ?何で?彼女居ないって言ってたじゃん!」
「そうよ、今日はあっくんとクリスマスを過ごせると思ってドキがむねむねしていたんだから」
「仕事だよ。棋士会でクリスマスイベントをやるんだよ。前から言ってたの聞いて無かった?」
「「聞いて無いよ!」」
プロ初戦で頭が一杯でうっかりしていた。
記憶力が良いと言われるが、うっかりぐらいあるので許して欲しい。
将棋ファンとの交流イベントも棋士会を中心に意外と多く行われている。
桐島歩にとって初めてのファンとの交流イベントだ。
「おはようございます。流石クリスマスですね、サンタが町に溢れてましたよ、子供の数より多かったんじゃないですかね。ハハハ」
「多分それは全部桐島君のサンタさんよ」
「いやいやぃゃぃゃ、そんな訳ないですよね、ね!」
みんな目を反らす。
クリスマスイベントの詳細は卓上対局と指導対局、トークショーとツーショット撮影会だ。
極普通のイベント内容だか、倍率7000倍という超プラチナチケット可した。
一枚だけオークションに転売されたが価格がマンションを買える値段まで跳ね上がった。
勿論主催者の申し出によってその取引は破談になったが……
サンタのコスプレをした棋士達と、何故か一人だけトナカイのさせられている。
「「「「可愛い~!!!」」」」
老若女女の歓声が上がる。
「私は恐らく今日のために生まれてきた」
「「「「「同じく」」」」」」」
プラチナチケットを手にした女性ファン達は興奮していたが、暴走することは無かった。
その瞬間に幸せの時間が終わってしまうと理解していたからだ。
クリスマスイベントは順調に進み、大成功を納めた。
「つ、疲れた~」
「お疲れ様、凄かったね。指導対局やツーショット撮影は99%あゆむ君が目当てだったもんね」
「ははは」
力なく笑う。
あの長蛇の列は人気の証でもあるが……
「あゆむ君、疲れている所悪いんだけど、妹がファンなの、サインお願い出来る?」
「勿論です」
「あっ、じゃあ私も良い?」
「はい。ぜひぜひ」
「私も」
「私も」
「私も」
拝啓サンタさん、もう一人俺を下さい!




