努力は必ず報われる
ミュージシャンやプロスポーツ選手が良く言っている
『努力は裏切らない』『努力は必ず報われる』
このような言葉は正しいと思う。
ただし、『全ての努力が報われると思っていると痛い目を見る』事も知っておくべきだ。
その事を知るのは大抵大人になってからだ。
夢を諦めた時、夢を手離した時、いつの間にか大人になって夢を追えなくなったときにその事を知る。
いつからだろう?
好きだった筈の事が苦しくなったのは?
逃げ出したくなったのは?
気付けばもう29歳だ。
学生時代の友達は結婚し子供が出来、仕事に責任が増えて大人になって行っていく。
私は10年、10年間一歩も前に進めないでいる。
昔は良かった努力すれば必ず前に進めた。
努力はしている。それでも前に進めない。
何故?努力が足りないの?
私は選ばれた人間では無いだろう。
女だし、タイトルホルダーの孫でも無い。
彼が悪い訳では無い。ただ彼には負けたくない。
彼も努力をしているだろう。
彼の努力も報われるだろう。
ただ私の努力の方が先に報われるべきだ。
ラストチャレンジにして絶好のチャンス。
開幕10連勝、残り8局。
10年間届かなかった壁の向こう側、四段。
上半期2名、下半期2名の年間四名しかなれない壁。
明日遂に彼と対局する。
三段リーグ
第11回戦
桐島歩 対 金城やまと
「宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
先手は私、いつの間にか棋風も変わった。
前は攻め将棋だったが、受け将棋に変わった。
負けない将棋を指す様になってきた。
年齢が上がり、プロへの時間が無くなるにつれて負けにくい将棋を指す様になった。
ただその分、踏み込めない。
わかっている。わかっているけど踏み込めない。
怖いのだ、負けるのが。
『まけて得る物がある』
確かにあるだろうが、そんな物より目先の一勝が欲しい。マケタクナイ、マケタクナイ、マケタクナイ。
形勢は互角。いや少し良いのか?
対局が進み、終盤恐らく一手差だろう。
私がリードしている。恐らく詰んでいる、間違わなければ勝ち。
私の玉にも詰めろがかかっている。
だが……読みきれない。詰ましに行くか?もし、詰まなかったら?
時間はもうない。
秒読みだ。
チェックロック式の時計が秒読みを始める
「50秒......」
踏み込めないせいで、ここ数年あと一歩で昇段を逃している。
「詰まさないと!でも詰まさないと負ける。負けるなら安全な一手を」
迷いが心を支配する。
「8.9.10 時間切れです」
無情な宣告がされる。




