赤点、赤点、赤点
一学期が終わるが……桐島歩は学校に来ていた。
「桐島君、将棋忙しいのはわかるけど赤点3つは酷いよ……」
「すみません」
将棋を指すと頭が良くなると思われているが、それは一部だと思う。
まず将棋の勉強に何時間も費やし、定跡を覚えるのに何百、何千の本を暗記している。上手く両立出来るかはその人次第だと思う。
「先生、男は入学の時、面接だけだったので追試とかは無いと思ってました」
「だよね」
数学や英語は良い。だがしかし……日本史や世界史がこれまでの常識と全く違う。歴史の流れは同じだが、全て女性になってしまっている。
ちなみに補習は一人だ。あゆむに格好いい姿を見せたいのか、このクラスの女子はみんな成績が良い。
それにしても運動部は凄いな。
そんな風に窓の外を見ていると、
「桐島君は運動は興味ない?」
「う~ん、観るのは好きですけどやるのは……」
前の世界でも小学生の頃から将棋一筋なので運動はしてこなかった。
「桐島君は将棋してなかったら将来何を目指してただろうね」
「……」
「何が言いたいかわかる?」
「はい」
「酷な事を言う様だけど、プロになれなくても人生は続くのよ。プロになる難しさは私より桐島君の方がわかるでしょ?」
今なら前よりも良くわかる。
「先生はいつから先生になろうと思ったのですか?」
「う~ん、いつだったかな。気が付いたら先生になっていた感じかな?」
「夢とかは無かったのですか?」
「魔法少女になりたかったかな」
「……」
「そんな顔しないでよ。冗談よ」
教室にエアコンの音が響く。
「先生はね、残念ながら桐島君みたいに熱中出来る物を見つけられなかったわ。でもね、後悔はしてないわ。確かに熱中出来る物を見つけられなかったけど努力はしてきたわ。これは嘘や見栄じゃないわよ」
先生は真面目な表情で問いかける。
「桐島君、結婚しよう」
「はぁ!?」
「間違えた。それは今じゃなくて三年後に言う予定だった」
何を言うこの人は……
「まぁ、つまり追試頑張ってね」
「はい」
前の世界では行かなかった大学に通う事を決めた夏だった。
追試は……何とか大丈夫だった。




