【3】記憶喪失と診断されてしまった
「記憶喪失と思われます」
白衣に身を包んだ美魔女の女医さんがそう告げる。
「そんな……あっくん……」
「お兄ちゃん……」
医師に記憶喪失と言われてしまうと普通はショックだろうが、別の感情が沸く。
「もしかして転生したのでは?」
その理由はいくつかある。
まず、この体だ。
人間いきなり子供になる事は勿論無い。
そんなのはどこかの名探偵ぐらいだろう。
記憶もしっかりある。
ただこの体の桐島歩の記憶は残念ながら一切無い。
それと、病院に向かう途中、一目でアウトだろうというスピードで俺を乗せ走る車。
すぐにパトカーに止められるが、母親と名乗る綺麗なお姉さんが
「この子が大変なんです!すぐ病院に連れて行かなきゃ!」
そう言うと女性警察官は俺を一目見て、
「事情はわかりませんが、男性を病院に連れて行かなきゃいけない事態は緊急事態です」
そう言うとパトカーで大学病院まで先導し出したのだ。
そして、一番の違和感は、今日起きてから男を一人も見ていない。
病院に来る道中、病院内、これまで女性しか見ていない、
しかも全員が草食獣の様に俺を見てくるのだ。
「幸い生活していく知識は失っていないようですから、ひょんな事から思い出すこともあると思われます。無理せずゆっくり思い出す事を待ちましょう」
女医が治療方法を進めて来る。
「二,三日入院して様子を見ましょう」
そう言われて案内されたのはVIPルームだった。
「えっ?ここですか?」
「はい。何か不都合でも?」
「いえ、入院費が……」
「男性の方の医療費は国から100%補助金が出ますので」
北条と名乗る女医が主治医となった様だ。
「あっくん、大丈夫だよ。お母さんと香が付いているからね」
「お兄ちゃん、大丈夫だからね」
「ありがとう」
部屋に入ると、大学病院のVIPルームだけあって豪華だ。
凄過ぎて落ち着かない。
「凄いね~、ねえお母さん私達も今のマンションから引っ越してもっと良い所住もうよ~」
「そうだね、あっくんも来年から高校生だから、メス達から身を守らないとね」
「あっ、そうだ!お兄ちゃん入院中隙でしょ。何か買って来ようか?」
「じゃあ、今月の将棋世界買って来て貰えるかな?」
「「えっ将棋世界?」」
「お兄ちゃん、将棋するの??」
「あっくん知らなかったよ~、私があっくんの事で知らない事があったなんてショック……」
この世界では桐島歩は将棋をしていなかったようだ。