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あべこべ世界で~プロ棋士として生きる~  作者: 田中悠平
第2章 あべこべ世界で~奨励会と高校生活~
26/61

姉弟子との対局

【三段リーグ】持ち時間90分で1日2局行われる。


「またあの地獄の日々が続くのか……」


前の世界で八回挑戦して八回とも跳ね返された高過ぎる壁だ。

あまり知られていないが史上最年少でプロ入り29連勝を記録した藤井聡も三段リーグでは13勝5敗とギリギリ通過したぐらいなのだ。


曇天の空の下、将棋会館に続く道を歩いて行く。


「あゆむ様頑張って下さい」

「今日も格好です」


道中ファンの女の子に声をかけられるが軽く会釈をするだけで目も合わせない。

考えているのは対局相手のデータだけだ。


初戦の相手は高知三段

番長と呼ばれる程の豪腕な棋風だ。


午前9時になり対局が始まる。

先手は高知三段

高知三段が選んだ戦形は矢倉。矢倉とは将棋の純文学とも呼ば()()()()()()矢倉を指せないと名人にはなれないとまで言われていた戦法だ。


そして後手の桐島歩が選んだ戦法は右四間飛車左美濃。

あれほど採用率の高かった矢倉の採用率が落ちた原因の一つである事は間違いないだろう。


右四間飛車左美濃の特徴はなんと言っても後手でありながら、圧倒的な攻撃力だろう。ユー、相手が矢倉に組む前に攻撃しちゃいなよ。テヘペロ的な感じだ。


相手のお株を奪う超攻撃的な将棋で桐島歩は拍子抜けするぐらいあっさりと初戦を物にした。


2戦目の相手は……


「あゆむ君、思っていたより早く当たってしまったね……」


昼休憩を挟み、第2局、盤を挟みそこに対峙していたのは姉弟子の秋田一二美(あきたひふみ)だった。


「ひふみさん、初戦勝ったみたいですね」

「あゆむ君も……」


それ以上の会話は無かった。

姉弟弟子同士だろうとどちらが勝ち、どちらかが負けるのだ。

そしてその1敗はとてつもなく重い1敗なのだ。


第2局目は桐島歩の先手で始まる。

数手が過ぎ、既に定跡を外れ力戦模様だ。


歩はふと顔を上げ一二美の方を見上げると、一二美もこちらを『どうだ!』と言わんばかりに見ている。


そう桐島歩の武器は自分だけが知っている定跡なので、力戦になるとアドバンテージを失う。勿論不利になった訳では無い。


姉弟子としての意地とあゆむへのリスペクトにより、一二美は最高の選択をしたのだった。


「負けました……」

「ありがとうございました」


三段リーグ初日に早くも最初の黒星が付いてしまった。



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